第三章26 『攻略再会』
「おし、準備はいいな」
「おーけー!」
「おーけー……?」
さり気なく行ったOKという言葉にみんなは困惑しつつも足元にある穴を見つめた。どこまで続くかも分からない縦穴を。
そこから届いて来る冷たい風を体に受けて固唾を呑んだ。この先に待っているのが第二層で現れた上級の魔物で、それ以上の――――。
「ここから先は地獄だ。気合い入れて行けよ」
「分かってる。――曲げない負けない諦めない。それが俺の三拍子だ」
「それ今考えたよな」
「ああ」
きっと恐怖で軽い錯乱状態にでも陥ってるのだろう。自分でも何言ってるか分からない。それ程なまでにこの先を本能で警戒しているんだ。
そうしていると戦闘に立っていたジルスが話しかける。いつもの服よりも一層戦闘服へ着替えたジルスが。
「おし、最終確認だ。俺達はこれから第三層の攻略を始める。だがその先には上級の魔物がわんさかいる上にアリスとノエルの嬢ちゃん目掛けて襲って来るはず。故に俺達は走って第三層を突破する。いいな」
「「おー!」」
目掛けて襲って来るだけならどれだけマシだっただろう。この洞窟は攻略者の強さに応じて難易度が変化するのだから当然の判断だろう。第一層から第二層までは比較的簡単だったけど第三層からは一気に難しくなる。……いや、第二層の所から随分と苦戦していた訳だけど。
それでも上級の魔物なのだからあれ以上の奴らがあれ以上の数で来る訳だ。正直怖くて仕方ない。
ジルスは足元に続く縦穴を見ると腰に掛けてある紐に手を掛けて握り締める。そして背後にいた案内役の人を見た。
「二人ずつでいいんだよな?」
「はい。降りてすぐは結界石が置かれているので安全です」
「なら一応俺達が先に降りるか。俺とナナ、クリフとフィゼリア、クロードとウルクス、アリスとノエル、アリシアとアル、後はライゼだけでいいな」
「俺だけ一人!?」
さり気なくライゼだけ一人取り残されつつも降下が始まる。降りる方法は紐にぶら下げられながらも案内役の人が二人を下してくれるって方法らしい。ちなみに戻ってくるときの方法は色々とあるようだ。
そんな風にして順に降下は始まった。
「異常ないか~?」
「大丈夫だ問題ねぇ! 少し寒いだけだ!」
ジルスが降下した後にクリフが問いかけるとそう返って来る。やっぱり暗いからこそ少しばかり寒いんだ。
やがてクリフ、クロードの順で降りるとついにアルとアリシアの順番が来る。のだけど、ライゼが肩をガッシリ掴むと言う。
「俺に先に行かせてくれ」
「えっ?」
「だって怖いんだもん! あれくらいの奴らがいる所に最後に一人で降りるのが! だから先に降りさせてお願いっ!!」
「…………」
特に抵抗もないから頷く。するとライゼは泣いて喜んでは自分の分の縄を降りる為の縄に括り付ける。きっと彼にとってはそれくらい嬉しい事だったのだろう。っていうかアルも同じ立場だったら同じことをするだろう。
そうして順番が入れ違うと彼はグッドサインをしながらも凄い嬉しそうな表情で降下していった。最後にアル達が下りる事になるのだけど、金具を紐に固定している時にアリシアは呟いて。
「アル、アル」
「ん。どうした?」
「無茶をするのは命が危険になった時ですからね」
「……分かってる」
ほんの一秒だけでも黒魔術を使えば十分危険な状態になる。それを理解しているからこそアリシアは本気でアルを心配していて、アルは真剣な表情で頷く。
それにあまり心配させ過ぎる訳にはいかない。だって、本物の英雄は誰にも心配されないくらい強いのだから。
――それに、死ぬ訳にはいかないからな。
脳裏でそう呟きつつも拳を握りしめる。
アリシアと一緒にいるという事は――――助けるという事は、それだけでも背負っていた罪に片足を突っ込むという事になる。アリシアの作り上げた地獄と《屍の道》にも。
だからこそ死ねないと脳裏で呟きつつも第三層へと降りて行った。
何と言うか、冷たい風が下から来るせいで同時に背筋もキンキンに冷やされていく。だからこそこの先は危険なんだって本能が拒絶しようとしていた。
そんな中でアリシアが手を握ってくれる。それと同時に心強い微笑みまで向けてくれて、いくらか心に余裕を持ちながら第三層に臨む事が出来た。
やがて地面に足を付けるとジルスは念入りに確認を始める。
「よし、全員揃ったな。それじゃあ行こうかって訳なんだが……アリシアの嬢ちゃん、周囲がどうなってるか分かるか?」
「察しの通り既に囲まれてます。結界石の範囲外から出ればすぐに襲われるでしょう」
「ひぇっ」
そうしてアリシアが嘘偽りなく言うとライゼが軽く反応する。
やっぱりそれ程なまでにアリスとノエルとアリシアの強さに反応するんだ。更に奴らは知能なんてないから威嚇も聞かないはず。となればやっぱり駆け抜けるしかないのだろう。
「道順は大丈夫だな」
「問題ない。昨日の内に全部暗記してる。俺の他にもアリスやフィゼリア、ウルクス、ついでにナナも全て把握してるよ」
「地味にナナまで把握してるんか……」
「ぶいっ!」
するとナナが自慢げな表情をしてvサインをして見せた。こんなに小さな女の子を死地に連れ込むだけじゃ飽き足らず道順まで覚えさせるのはどうかと思うけど、それでもこれは彼女が自分から望んだことだ。それをフィゼリアがみんなに伝える。
「ナナちゃん、自分も何か役に立ちたい~って自ら進んで名乗り出たんですよ。物覚えもいいし、優しいですし」
「そうなのか。じゃあ、頼らせて貰おうかな」
ジルスがそう言って頭を撫でると嬉しそうにはにかんだ。まぁひたすらに突っ走る訳だからナナにとっては道順を言っている余裕なんてなさそうだけど。
やがて確認を終えて準備も完全に整うとそれぞれで軽い準備運動みたいなのを始める。本当はこんな事をしなくてもいいのにアル達はパーティの構成上こうしなきゃいけないなんて、どれだけイレギュラーな攻略をしようとしているのか……。
「みんな、行くぞ」
「いいぜ」
「準備万端だ」
「それじゃ……三、二、一、ゴー!!」
その掛け声を元に全員で走り出した。そして結界石の範囲から抜けた瞬間から全方向に渡って巨大な魔物が出現してくる。これが第二層の洞窟並に狭かったらそれぞれが押し合って通路が詰まるはずなのに、通路はかなり広く長かった故に全ての魔物が同時に出現しては追いかけて来た。
「来た来た来た! これからもっと来るぞ!!」
流石のクリフでもこの数を相手にしようとは思わなかったのだろう。第二層なら槍を握っては戦いたそうに振っていたのに対し、今は全力で走って一目散に逃げて行った。
どれだけ逃げればいいのだろう。そんな考えが胸を突く。いやまぁ道順は把握してる訳だから走る時間とかも計算済みなのだけど、逃げる事で精一杯だから混乱してしまいそうになっていた。
普通なら追いかけて来るだけで済むのだけど、今回は上級の魔物ばかり。だからこそ奴らは体の一部を伸ばしたりして獲物を捕らえようとして来る。
その度に間一髪で避けたり浮きながら付いて来るアリシアとアリスが斬り落としてくれるのだけど、そんなのは気にしないと言う様に再生してはもう一度伸ばし始めた。
「こんのッ!!!」
アリスが背後に向かって巨大な炎を撃ち撒けたって結果は変わらない。そもそも前にいる魔物が倒れても新しい魔物が前に出て来るし、その間後ろに回った魔物は再生してまた前に出て来るからそこまで効果はない様子。
その事に舌打ちしては愚痴を漏らす。
「くそっ。燃えたのが後ろに行って新しいのが盾になってるから効果がないんだ。全く厄介なんだから!!」
「それでも足止めになるならいい方だけどね!」
ノエルも参戦して同時に炎を撒き散らし続けた。そしてアリシアが二人の体を掴んで移動するから二人は攻撃ばかりに専念する。
実際に少しでも奴らの足は遅くなっている訳だし、足止めという点においては十分役に立っているから問題はないはずだ。まぁそれでも数は増えていくばかりだからいつか抑えが利かない時が来るはずだけど。
「次を右に! そこから真っ直ぐ言って三つ目の十字を左!!」
「りょーかい!」
やる事は二層とそんなに変わらない。ただ変わっているのは敵の数と難易度だけ。しかしそれだけでも十分に緊迫する様な空気が作られていた。
時には前からも現れるからその度にクリフ達が斬り飛ばしては消滅させる。
「なぁ、あとどれくらいまで進めばいいんだ?」
「あと十二回くらい曲がり角を曲がれば第四層に付くはずだ。そこまでずっと走れ!」
すると長い道のりである事を悟ってクリフはうんざりした様な表情をして見せる。それ程なまでに第三層は広いのだ。仕方ない。
どれだけ進んでも一向に出口が見えなくて希望がそがれるけど、それでも覚えた道順を頼りに進み続けた。
しかし、第三層で苦戦しないなんて事は当然ない。だってここは普通の攻略者であっても死ぬのが当たり前の階層。そして普通よりも格段に難易度が上がっている今、アル達に災難が訪れない訳がなくて。
「しまっ!?」
「危ない!!」
魔物から伸びて来た攻撃がアリスとノエルの隙間を抜ける。そしてアリシアさえも反応出来ずに抜けてしまい、その攻撃は丁度曲がり角を曲がろうとしていたライゼ達に向けられた。
だからこそアルが咄嗟に神器を振って切り払う。でも、これだけじゃ終わらない。
その直後に地鳴りが起っては全員の足をふらつかせた。
「地震!? こんな時に……!」
「全員バランスを取れ! 急いで走るぞ!!」
けれどこれがただの地震でも、例の巨大な何かが起こした自身でもない事をアリシアはすぐに察する。全員がその理由を察した頃には既に変化は起きていた。
だって、壁の一部が伸びてはライゼ達を押しつぶそうとするのだから。
――壁が伸びて!? って事はコレ、誰かが魔法で!?
そう認識した時には伸びて来た壁に押し出されていて、同時に開いた壁の中に投げ込まれていた。誰が押し込まれたかも分からない。そんな中で坂道を転がりながらも全身を打っていた。
やがてアリシアの声が聞こえる中で起き上がる。そして目の前を見るとこれまた異様な光景が広がっていて。
「……なんだ、これ」
ここが洞窟の中なのは分かっている。でも、そこには明らかに人の手が施されたとしか思えない通路があった。
そんな中にアルは押し込まれたのだ。




