プロローグ 『笑顔を夢見た少年』
真っ白な病室。少年はベッドに座りながらも、外のグラウンドで楽しそうに遊んでいた子供達を眺めていた。ついさっきまで読んでいた本を手にしながら、自分もいつかあんな風になれればいいなと願っていながら。
その時に右腕についている点滴の管を触る。
――俺もいつか、自由に外を……。
でも、そう願っても生まれつき弱いこの体じゃ何も出来ない。さらに持病を生まれた頃から抱えているこの体じゃ。どうやら呼吸器に問題があるらしくて、そのせいで満足に走れないのが現状だ。
咳も酷く時には起き上がれない程の症状が出たりする。
そんな持病をずっと抱えていた。
外にも出れず誰にも会えず、入院費を稼ぐ為に忙しい家族との対面さえも叶わない。出来るのは昼夜逆転した生活習慣の間に交わされた手紙だけ。
家族に迷惑をかけ、何年も同じ場所に留まり、出来るのは手紙で家族と会話し最後に謝罪を綴る事。
こんな現実から逃げる為に出来る事と言えば本を読む事だけだった。
――本の主人公みたいになれればいいのにな。
手に取っているのは自分が一番好きなラノベ。主人公は心の底から英雄に憧れていて、そんな憧れの英雄になる為に奔走する物語。時に血を流し、時に涙を流し、それでも運命に抗っては憧れた英雄になる為に全力で足掻き続ける。そんな誰かの為に体を張る主人公に自分は強く憧れた。
自分もいつかこうなりたいなって、絶対的に叶わない夢を抱きながら。
絶望の中でも輝ける希望となるのはどんな時でも笑える強さがある人。
その本の最後に書かれていた言葉だ。
もし本当にそんな人がいるならどれだけ楽だろう。自分だってひたすら自分自身を責め続ける絶望の中で作り笑いを何度もした。でも、そうしても自分の中の絶望が消える事は一切なくて。
……笑いたい。心の底から大声で笑ってみたい。何も気にしないくらい楽しく、今を生きていると実感しながら、ずっとこうしていたいと思えるくらい。
でも、その願いが叶う事はない。
既に余命宣告はされていたのだ。そして最期の時は刻一刻と近づいて来ていた。日々苦しむ中、病室から出る事もままならず、本を読む事さえ難しくなっていく。
だから生まれて初めて全てを捧げて祈った。主人公じゃなくてもいい。ひと時の幻でもいい。あの世界へ行って心の底から笑いたいと。
だからこそ、少年の想いは■■に届いたのかもしれない。
『君の願い、受け取ったよ』