10月6日(土)
「土曜日もここに来るんだね」
「私はいつもここにいるわ」
「何時から居るんだ?」
「……」
女の子は黙ってしまった、言いたくないなら無理に聞くことでもない。僕達はいつものように、ただ黙って夕焼けを眺めた。今日の空はいつもよりも多くの雲が夕日に照らされていて、幻想的だ。夕日による空のグラデーションを見て、思わず涙が出そうになる。泣いてるなんて思われたらダサい、そう思って誤魔化すように話題を振った。
「夕焼けのどんなところが好き?」
「ぜんぶ」
話が終わった。僕も女の子も会話が下手すぎる。
「あなたは、この空のどんなところが好きなの?」
「僕?そうだなぁ、心が締め付けられるような気分になるところかな」
「どんなふうに?」
「涙が出そうになる」
しまった、自分から打ち明けてしまった。まぁ自然な流れだったし、女の子も特に気に留めてないだろう。
「男の子でも景色を見て涙を流すのね」
「ほっといてくれ」
「どうして?」
「ダサいから」
……僕は考えていることがポロポロ出てしまうようだ。自分からダサさをアピールしてしまうなんて、駄目すぎる。ふと女の子の方に目を向けると、女の子は小さく笑っていた。
「なんで笑うんだよ」
「だって、理由がくだらないから」
そう言うと、女の子の笑いはどんどんハッキリとした物になっていく。自分のことで笑われて僕は少し頬が赤くなった。だが、女の子がこんなに笑ってるのを見るのは初めてだったので、特に気にならなくなってしまった。女の子の笑顔は思っていたよりも可愛く、僕の顔はどんどん熱くなっていった。
「ごめんなさい、なんだか可笑しくて」
美しい夕焼けを背景に楽しそうに笑う女の子を見ていると、僕もなんだか可笑しくなってきた。二人で目一杯笑って、疲れてしまったので、僕たちは再び夕焼けの方に目をやった。すでに夕日は沈んでしまったが、うっすらと見える光に照らされた空はまだハッキリと見えた。
「今日はもう帰るよ」
「明日も、ここに来てくれる?」
「もちろん、毎日会いに行くって言っただろ?」
「わかった、待ってる。」
女の子はまだ空を見上げていたが、僕は女の子に背を向けて、外壁を降りていった。




