10月3日(水)
「意味わかんねぇ」
今日も足場の女の子に会いに行こうと思っていたが、最悪なことに赤点課題を解消している。日頃から勉強しないのが悪いのだが、タイミングが悪すぎる。このペースじゃ女の子は帰ってしまう、そう思って僕は優秀なクラスの男を頼ることにした。彼はいつも勉強ばかりをしていて、今もよく分からない本を一人で読んでいる。
「何を読んでいるんだ?」
「これ?デバッガによるx86プログラム解析入門【x64対応版】だよ」
「なんだそれ、楽しいのか?」
「今やってるゲームが中々クリア出来ないから、メモリを改ざんしようと思ってね」
チーターじゃないか、ゲームをやる意味はあるのだろうか。まぁ、人のことをとやかく言ってもしょうがない、今は課題を教えてもらうのが先だ。
「ちょっと教えてほしい事があるんだけど、いいかな?」
「赤点課題か、科目はなんだい?」
彼は課題を見た後、さも常識かのようにサラサラと解いていった。今の時間ならまだ女の子はいるだろうか、もし帰ってたら最悪だ。
「終わったよ」
「助かった、ありがとう」
彼は僕の数倍も早く課題を解いてくれた。サイ○リアのミ○ノ風ドリアを奢る約束をして、僕は教室を出た。
***
まだ残っててくれ、そう願いながら必死で外壁を登る。登る途中で見えた夕日が、昨日よりも悲しげに見える。時間は既に昨日女の子が帰った時間を過ぎている。
最上階に辿り着くと、女の子はいつものようにそこに居た。夕日に照らされ、足場から両足を投げ出して、地平線の彼方を見つめている。
「もしかして待っててくれたの?」
「……うん」
「遅れてごめん、赤点課題をやっていたんだ」
ひどく罪悪感を感じた。自分が勉強を出来ないばかりに、女の子を待たせてしまうなんて。空を見上げて自己嫌悪に陥っていると、女の子が口を開いた。
「勉強ができないの?」
心に刺さることを言われた、以外とズバズバ言うタイプなのかもしれない。
「やれば出来る、やらないだけだよ」
「勉強ができない人がよく言うセリフね」
「うるせぇよ」
やはりズバズバ言うタイプだった、もしかしたら怒ってるのかもしれない。
「遅くなってごめん」
「気にしてない」
「本当に?」
「……もう来ないのかと思った」
「そんなことは無いよ、これから毎日会いに行く」
しまった、これだと告白してるみたいじゃないか。急いでごまかせる言葉を探す。
「ここから見える夕焼けが好きなんだ」
「そうね、私も好き」
自分に対してじゃない好きという言葉に、なぜか心臓が高鳴った。僕は普段女子とは話せるタイプだが、この女の子といると上手く言葉が出ない。しばらくの間、お互いに口を閉じていたが、女の子が思い出したように声を出した。
「夕日が沈む瞬間も美しいものね」
そう言いながら空を眺める彼女を見て、僕はこの女の子に恋をしたことに気がついた。




