肴がなくなったら
「おっちゃんまた夜なー」
俺はそう言いジジイを担ぐと朝日に向かって歩き出した。
ジジイは飲みすぎたのか、うー、ヴ―、うー、と魘されている。
これも何度目のことやら。
しかしこうしていると依然付き合っていた彼女を思い出す。
彼女もまた酒に強くないのに合わせて俺が運んでいた。
この世界に来て4年目だというのに記憶の欠片が追随する。
借家に戻りジジイをソファーの上に寝かす。
ヒールをかけてやると嗚咽も零さなくなり顔色も良くなった。
ジジイの顔を眺めるという趣味嗜好はないのだが、気になった事があり椅子を傍まで持ってきて座り思考に耽る。
(こいつは元の世界でどのように過ごしていたのだろうか。やっぱり普通に家族がいて友達と学校に通っていたのだろうか。そしてテンプレみたいに友人を交通事故から身を挺して守り、神様から称えられたのだろうか。というか何でジジイになりたいと思ったのだろうか。ジジイ(1歳)はただのヤバいやつ。こいつと元の世界で出会っていたらどんな人生を送ったのだろうか。ただ毎日元の世界の共通する話を肴にする日々はいつまで続くのだろうか)
思考が循環しそうだから俺は目を閉じた。
ここで目覚めるのも何回目だろうか。
ソファから起き上がると目の前に、椅子に座ったまま寝ている美少女がいた。
朝まで飲み明かしたというのに頭痛も吐き気もない。
きっと彼が回復魔法でもかけてくれたのであろう。
私は簡易キッチンで昼時の朝食を作った。
もちろん彼のも。
私の分は作りながら適度に摘まんでいたため存在はない。
彼の分の朝食をテーブルに置き、私は残っている椅子へと腰を掛ける。
椅子の上で体育座りをして眠っている彼は大変かわいらしい。
私は以前自負できるような美少女だったが、彼の方が断然かわいらしいし綺麗だ。
体育座りで寝るのは、足をたたんで寝ていたドラゴン時代の名残と本人は言っていた。
こうして眺めているとドラゴンには思えない。
というかドラゴンの姿を一度も見たことがない。
どんなドラゴンの姿をしているのだろう、少し気になる。
この人以前はイケメンだったらしいけれど、その時の姿のまま年老いたらもしかしてイケオジにになるんじゃないの?
以前のこの人を想像して興奮する私ただのヤバい人でしょ。
ああ、話のネタがなくなったら飲み交わす事がなくなるのかな。
悲しみよりも寂しさかなこの感情は。
雑貨屋でも見て回ろうかな。
起きるとジジイの姿はなかった、がサンドイッチがあった。
うま、と声が漏れるほどであった。
作られてからだいぶ時間が経っているはずなのに挟まれたレタスはみずみずしくシャキシャキで卵のペースト合い美味しい。
卵のペーストに胡椒が含まれているのか僅かな刺激と香りが美味しさを引き立てているのか。
ジジイやるな。
でもジジイどこに行ったんだ?
まあいいか。
誰もいない水脈に遊びに行こう。
おっちゃん「珍しいな、誰も来ない」