飲み屋で騒ぐのは
ここは鉱山都市アルルッカのはずれ。
今は夜が更けっているのにまだ営業している飲み屋がある。
出されるものはそこらの酒場と変わらないのに店主が異国の地のものだそうだ。
3人をもって満席になる狭くて光が漏れて声が筒抜けなこの店は、秋にアルルッカ収穫祭で路上に並ぶ出店のようだ。
しかしながらこの店は夕刻から朝方まで居座る2名の珍妙な客がいるそうで。
噂によるとその2人は王都の歌姫様のような美貌を持った少女と、黒いコートを纏い白髪を後ろで括り白く整った顎髭をしているかなり年配な男性らしい。
まだまだ飲み屋から2名の喧騒が聞こえてくる。
でも近隣の住民だれ一人何を喋っているのか分からないのである。
なぜなら、そう、日本語だから。
「あははは、ひーちゃんかんぱーーい!」
「あははは、いっくんかんぱーーい!」
もう本日5回目の乾杯である。
「それでさひーちゃんこれからどうするの?」
ひーちゃんと呼ばれたジジイはこう答えた。
「いっくんを食べちゃってもいいんやで」
いちゃいちゃとは唐突に表れるものである。
「うるせーな!!!だれが手前に処女を上げるかよこの元美少女がぁ!!」
そして喧嘩も唐突に始まるものである。
「こっちだってあげてたまるか童貞を!!この元美男子が!」
「70代の見た目してるのにまだ童貞かよ」
元美男子の美少女がくすくすと笑う。
「まだこの体になってから1年しか経ってないからないから当たり前ですーー」
「まあ気を落とすなよお嬢様とやれなくて」
美少女が下品な憐れみをジジイに向ける。
この現ジジイは前にお屋敷で働いていた事がある。
それだけ。
「それにほらここに美少女がいるじゃろ?」
「お前なんかじゃお嬢様の代わりになんてならねーよバーカ!」
「まあな……」
「えっなんで落ち込むの?」
テンションがいつまでも続くと思うな。
「だってさ、この世界で美少女になったってそもそもレベル高いじゃん」
「分かる。それにコンドームもないとなったらヤりまくりとはいかないもんね」
「まっ、私は避妊道具いらないからな。でもちょっと行為中に変な気分になるんだよ」
「えっ、ヤッタノ女性行為」
「前戯で相手が気絶するんだよ」
「不感症なんじゃないの?」
「いやちゃんと感じるぞ」
「じゃあ私のマグナム受け入れてみるかい?」
「うるせ、店主とでも兜合わせしてろ」
少女に空のジョッキが飛んできてジョッキが砕け散る。
「それだっ!」
ジジイが身を乗り出して意見する。
「その体は人の体と感覚が違うんじゃないのか」
「おっちゃん、すまねーな。ジョッキ元に戻しておいたぞ」
「無視するな!!!」
この喧騒は今日も朝まで続く。
それと2人は互いに1つだけ嘘を付き合っている。
どちらとも性器の転換はしていない。
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