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西の魔女グレーテイル

 へーゼルたちは、西の岬へと向かいながら青い葉の生い茂る森の中を歩いていた。ふと、なにかの気配がする。正体は3匹の大型犬であった。それらはへーゼルの顔を見ると突然飛び掛ってきた。


 「じい、魔法で大人しくさせて!」

 

 彼女の呼びかけにこたえるように、じいが、「えい!」と人差し指を天に掲げた。すると、獰猛だった犬たちが何かに怯えるようにその場から走り去っていく。

 

 「おいおい、マジかよ……」


 「これなら魔女も怖くないわね。じい、やるじゃん!」


 「喧嘩はしたくないんじゃがのう」


 「喧嘩じゃなくて、文句を言いに行くの! もー。すぐ忘れるんだからー」


 へーゼルが腕を組んで呆れた様子でじいを見る。「そうじゃったそうじゃった」と頭に手をやりながら困ったように笑うじいに対して犬は、「なんか怪しいなぁ」とかんぐる様な目つきで彼を見た。


 「そうじゃ、お主名はなんという?」


 「オレか? オレは野良犬。名前なんてないね」


 ふと、へーゼルが首輪に目をやると、そこには白いマジックペンで「ナッツ」と書かれていた。それを見た彼女は、どこかモヤモヤした気持ちになった。どこかで聞いたようなフレーズ……。


 「ねぇわんこ。今日からナッツって呼ぶわね」


 「あぁん!? 勝手に決めてんじゃねぇぞ怪力女!」


 「まぁ、名前がないよりはマシじゃろう。ナッツ」


 「おーいーぼーれー!!」


 


 深い森を抜けた先に岬があった。そこには巻貝のような形をした暗黒の城がある。意外にも入り口は杉の木でできていた。襖のように扉をスライドさせて中に入ってみると、これまた予想外で、モデルルームのような清潔感溢れる空間が広がっている。高い天井に広い和室。その中央には囲炉裏の火がパチパチと音を立てていた。その一番奥に、頬のこけた神経質そうなばあさんが、座布団の上で正座をして、芳ばしい香りのする茶を飲んでいた。膝には一匹の黒猫が気持ちよさそうに眠っている。


 「……久しぶりじゃの。”アンデイルセン”」


 ばあさんがそう言うと、へーゼルはシャベルを落とした。


 「じい、私……思い出したわ。あなたの名前はアンデイルセン。私のおじいちゃんじゃない」


 「そうじゃ。そこにおるじいという”魔法使い”は私の元夫。10年前、犬とともにここまでやってきた家なき子へーゼル、お前は私を怒らせた」


 「よせ、それ以上は……」


 じい。いや、アンデイルセンは、ばあさんをウシガエルにした。黒猫は飛び起き、部屋の隅へ逃げていく。へーゼルは全てを思い出してしまったようだ。


 「そうよ。私、5歳のころに愛犬のナッツと一緒に散歩に出かけてノンキ村まで来ちゃって帰れなくなっちゃったの。そこでしばらく過ごして、好奇心で岬の方まで行ったらあなたの家を見つけて勝手に入っちゃったのよね。そこで、グレーテイル、アンデイルセン、あなたたちとであったの」


 グレーテイルは魔法を解き、元の神経質そうな姿へと戻った。そして、大きく頷き扉の陰でこそこそと隠れているナッツを見るや否や、「この小汚い犬め! 絶対に入って来るでないぞ!!」と凄い剣幕で食って掛かった。そしてグレーテイルは、一息ついた後事の真相を語り始めた。


 「私たちは動物が好きだった。だからへーゼル。突然家に来たお前たちのことも受け入れた……なのに、お前の愛犬ナッツは私の部屋を滅茶苦茶にして挙句の果てには私に突進してきた。転倒した私を舐めまわして顔をびしょびしょにするなどの悪行を働いた。だから出ていけと言ったらアンデイルセンがあの犬のことを気に入ったと言い出したので一緒に追い出したのじゃ! もう二度とくるなと言っていたのによくもまぁのこのこと……!」


 「まって、どうして私、ここに来るまで今までこのことが思い出せなかったの?」


 「それは、アンデイルセンが知っておろう」


 「……」


 彼は俯きながら重い口を開いた――

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