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リバーシブルな日々  作者: 古岡達規
第一章 ー 平凡な春の日
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第一章(4) ー 平凡な春の日

 ぴかぴかのクリーム色をした廊下を歩き、一年二組の引き戸を開ける。するといくつかの視線が集まるのを感じた。

 周囲に目をやると、ちょうど入り口付近に数人の集団が歓談しているのが見える。

 すれ違ったときに聞こえてきたのは、某は何組だとか誰と誰はどこの高校に行っただとかといった内容の話だ。どうやら同じ中学出身の人間が喋っているらしい。

 この教室に着くまでの間にも、似たような集団はいくつか目についていたので別にこの教室だけに限った話ではなく、むしろ入学式も始まる前から見ず知らずの連中に絡むよりよっぽど自然な流れと言える。

「さて、俺の席は……っと」

 真っ新で傷一つ見当たらない黒板には六列からなる机の配置が描かれていた。そこに各生徒の名前が男子は白で、女子は黄色でと出席番号と共に記載されているようだ。

 芥川は窓際一列目の前から二番目、迫原は三列目の前から二番目の位置に名前が書いてある。どちらも教壇に近く、好物件とは言い難い。名字が“あ行”の芥川は基本的に出席番号は若い数字になりがちなのでいつものことである。


「げぇ……」


 更に迫原は、自分の後ろの席にある名前を見てげんなりとした顔をする。

 そんな迫原の様子を見た芥川も黒板の迫原の名前がある場所に目をやる。そして迫原の表情の意味を理解して納得の表情を浮かべた。

 座席表の『迫原』の後ろには『神条』という名前が赤のチョークで書かれていた。


「お前らってホンマに仲ええんやな」


 この“神条(しんじょう)”とは迫原の隣の家に住む幼馴染であるところの『神条ゆかな』のことである。で、その神条ゆかなと迫原智也なのだが、どうも奇妙な縁で結ばれているらしいのだ。


 しかも割と尋常ではない深さで。


 まず互いの両親同士が同級生で仲が良いこともあり、物心つく前から、というより生まれる前から一緒にいる機会が非常に多かった。なんなら二人が母親のお腹の中にいるときから近くにいた。

 保育園での“ふじぐみ”、幼稚園の“さくらぐみ”これらは共に同じ組に所属。義務教育に入ってからはそれが更に顕著になっていく。小学校六年間及び中学校三年間はすべて同じクラス。

 それだけに留まらず、小学生では常に男女同士で同じ出席番号、中学校でも出席番号で迫原の後ろは必ず神条であった。席替えのくじ引きをしたとしても、迫原の前後左右のどこかには必ず神条が座るのである。

 もはや何かの呪いでも働いているのではないか、と疑うレベルの縁なのだ。

佐々木(ささき)とか佐藤(さとう)とか篠原(しのはら)とか、『さこはら』と『しんじょう』の間にいくらでも他の名字の奴らが入ってもおかしくないのにな」

 実のところ、迫原は中学時代にそのことで幾人かの男子生徒から恨まれていたことがある。サッカー部で全国大会に出場した佐薙とか、テニス部で県大会優勝した下川とか、野球部のエースで四番だった椎名とか。


『お前のせいで俺たちは神条ゆかなと同じクラスに絶対になれない』


とは彼らの弁。


ちなみに彼らは全員神条ゆかなに告白して玉砕しているという共通点がある。片思いなので完全な逆恨みだ。


「……トイレ行ってくる」


 後ろの席の幼馴染はまだ来ていないようだが、嫌なことを掘り起こされる前に、迫原はカバンを机に置いて逃げるように教室を出た。


 トイレでたまたま出会った同じ中学出身の連中と出会ったので、軽く雑談をしてから教室に戻る。

 どうやら徐々に人数が増えてきたようで、迫原の後ろの席にも見慣れた女子生徒が座って隣の席の女子生徒と談笑していた。


「………」


 ちらっと一瞬目が合ったような気がしたが無視して黒板左側の空きスペースへ芥川と二人で移動する。


「黒板。神条の隣の席にある名前見てみ?」

「うん?」


 芥川に促されて黒板に目をやると、そこにあるのは白文字で『竹中』とある。


「この学校を増改築した、例の会社のお坊ちゃんらしいで」

「……あの話ってマジだったのか」


 一応、生徒たちはこの神川東高校が『かぐやグループ』の手によって建て替えられたということは知っていたが、その理由が親バカによるものだということも噂程度には聞こえていた。

 どうやらまだ登校してきていないようで、神条の隣の席はまだ空席のまま。どういう人間なのかはわからない。

 生徒たちは自分が何組なのかは事前に郵送されてきた書類によって知っているが、プライバシー保護のためか他のクラスメイトがどんな名前の誰なのかということは一切知らされていない。


「……そういやさっきトイレでマイケルと会ったぞ」

「え、あいつスポーツ推薦で私立行ったんちゃうかったん?」

「あー、本人が言うにはーー」


 思考を切り替え、芥川と雑談に興じる迫原。


 大企業の御曹司、一体どんな人間なのだろうか。

閲覧ありがとうございます


今回は少々今までより短いです

回想はあと二回分程で終わると思います

そっからようやく本編が動き出す形になるかと


それでは


H31.3.27 加筆修正しました

R1.6.10 微修正

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