『キャンプ』
今度は、前回と違ってベッドの中に転送されているみたいだから、もう寒い思いをすることもないが、かと言って人肌ほどに暖かくもないはずなのだが
「ん~……あっ!おはよう、ご主人」
「えっ?」
そういえば、前回戻るときシャイナをベッドで寝かせたから、いきなりの添い寝シチュエーションもおかしくないけど
「おっおはよう」
「ご主人なんでそんな格好なの?」
「えっ?」
元の世界に戻るときにちゃんと服を着ていたはずなのに、全裸の意味が分からなかった
「なんでって、えっとごめん、すぐ、服着てくるから」
「別に慌てなくてもいいよ」
こっちへの移動は全裸が仕様なら、せめて一言伝えてほしかったし、だったら、転送位置もお風呂場にしてたし、あのクソ天使
「ごめんごめん、変な物見せちゃって」
「ううん、全然、大丈夫」
シャイナがおばあちゃんから教わった結果を見せたいと言って、朝ご飯を作ってくれるということなので、完成するまで、村の現状を確認するために掲示板を見に行くことにした
「すごいことになってんな」
村の中心には、硬くて重そうな甲冑に身を包んだ騎士たちが十五人くらいが、あわただしく、黒板を使って作戦会議みたいなことをしていた
「お~い!あんちゃん!」
「おはようございます」
「どうじゃ?びっくりしたじゃろ。村の一大事じゃ!」
「そうですね。思った以上の人が来てますね」
「あんまり、びっくりしてるようには見えんが」
「えっ?そうですか?びっくりしてますよ」
「そうかい?」
「でも、こんなに騎士が必要なんですか?」
「これでも、足りんくらいじゃ?」
「十五人くらいいますよね」
「何を言っとるんじゃ!もう三人もやられたんじゃよ!」
「やられたって、死んだってことですか?」
「行方不明ってことなっとるが、おそらく、死んどるじゃろうな」
「原因はもうわかってるんですか?」
「それが、騎士団が全力で捜索しとるんじゃが、まったくわからんし、ケガしてきた斥候はみんな黒い塊にやられたって言うとるし、よくわからんのじゃ」
「黒い塊?」
「そうなんじゃ!しかも、全員が瘴気毒にやられとるんじゃ!」
「あ~確かこの前、最初に作った薬のやつですよね」
「まぁ運がいいことに、あんちゃんのおかげで作った薬が、想像以上の効き目で、斥候たちもすぐに回復したんじゃ」
「でも、瘴気毒ってわかったからには、何か敵の予想はできるんじゃないですか?」
「そうなんじゃが」
「そうなんじゃが?」
「瘴気毒は自然に出るもんじゃなく、ネクロマンサーが扱う魔力の一種なんじゃ」
「じゃあ、ネクロマンサーがいるんじゃないですか?」
「でも、斥候が口をそろえて、黒い塊って言っとるんじゃよ。」
「黒い塊のネクロマンサーじゃないんですか?」
「あんちゃん、ネクロマンサーは人じゃよ」
「黒い塊ねぇ。まぁ森の異変は騎士団に任せましょうよ」
「そうじゃな。パラディンのソーギラスも来とるしな」
パラディンのソーギラス?蘭子さんが言っていた聖鎚衆の人かな
「ソーギラスって、もしかして、聖鎚衆の人ですか?」
「そうじゃよ!あそこにいるスキンヘッドの騎士じゃ」
ペルじいが指さす先を見てみると、ピカピカの甲冑を着て、右手に重そうなハンマーを持っているスキンヘッドの騎士がいた
「なんか……強そうではありますけど」
「強そう?実際強いぞ!ソーギラスは」
「俺、あんまり詳しくないんでそういうの」
「都市の城門くらいなら、一撃で破壊するって、噂らしいが」
「だったら、安心ですね」
「まぁ、ワシらが焦ってもしょうがないわい」
「そうですね」
バケモノ退治は騎士団のスキンヘッドさんに任せて、とりあえず、掲示板で仕事探しすることにした
「近くの森が封鎖じゃからなぁ。どうしたもんかのう」
「森以外にも、近くでできるヤツないですか?」
「良質な薬草が取れるのは、森くらいじゃからなぁ。近くで、仕事はなくはないけど、あんまり、ええ儲けにならんし、刺激的な仕事にもならんわい」
「じゃあ、森の封鎖はやっぱり村にとって、結構な打撃なんですね」
「遠出するしかないから、年寄りには堪えるわい……ワシ以外の年寄りにはな!」
「なんか、たくましいですね」
「だったら、決まりじゃ!泊まりヤツにするわい!」
何が決まったのかはよくわからないが、村は厳戒態勢なのに、このクソじじいは相変わらずだった
「ん~……これじゃな」
「えっと……海岸近くの丘に、マンドラゴラの群れが出没?」
「どうじゃ?」
「マンドラゴラって……村で栽培してなかったですか?」
「種類が違うんじゃよ」
「何種類もあるもんなんですか?」
「百種以上はあるな」
「でも、群れってどういうことですか?」
「知性マンドラゴラが出たんじゃろ」
「知性マンドラゴラ?」
「そう!知性マンドラゴラ!そいつはアリやハチのようにキングマンドラゴラ、戦闘マンドラゴラ、働きマンドラゴラなどで、それぞれ役割分担して群れを形成するんじゃ!」
急にテレビ向けの説明口調になったのは、気にしないことにした
「でも、それじゃあ、狩るの大変じゃないですか?」
「確かに大変じゃが、別に全滅させないといけないわけでもないから、あんちゃんの得意分野じゃよ」
「はぁ~……と、言いますと」
「確かに群れを形成しとって、群れのマンドラゴラ一つ一つが自立しとるように見えるが、本体はキングだけなんじゃ」
「ということは、キングをピンポイントでやっちゃえば、一網打尽ってことですか?」
「そうじゃ!」
「いいですね!」
討伐報酬五万エレクにプラスして、マンドラゴラ本体の売却値段が安くても三万エレクくらいになるから、バンシーマッシュルームほどではないが、結構好条件の依頼なので、引き受けることにした
「じゃあ、早速準備じゃ!」
ペルじいは一人でワクワクしていたが、シャイナがお家で待っててくれているので、朝食後、一緒に準備することにした
「どうじゃ?朝食、食べてくかい?」
「いえ!もう大丈夫です!シャイナが待ってるんで!」
「そうじゃったな、修業の成果が出るとええな」
ペルじいと一緒に帰ると、ペルじいの家は煙突から、俺の家は台所の小窓から煙がモクモクと上がっていた
「じゃあ、後でな」
「はい」
「ただいま」
「あっおかえり、ご主人。ご飯できてるよ」
食卓の上には、粉から練って、発酵まで自分で作ったというパンと、ビーフシチューが鍋ごと置かれていた
「今日は自信作だよ」
「見た目はおいしそうだね」
「見た目だけじゃないよ」
隣のおばあちゃんほどではないが、おいしく完食した
「完食だね」
「ごちそうさまです」
「ねぇ、感想とかは?」
「おいしかったです」
「それだけ?」
「ほっぺが落ちそうになりました」
「ん?なにそれ、ほっぺが落ちる?病気かなんか?」
こっちの世界では、通じない表現だった
「それでは朝食もいただいたということで、今日はマンドラゴラ狩りです」
「マンドラゴラ狩り?村に植えられてるヤツじゃ、ダメなの?」
「種類が違うみたい」
「久しぶりの弓で、腕落ちてないといいけど」
「じゃあ、ペルじいと準備しに行くか」
「うん」
シャイナと武器と荷物を持って外に出ると、ペルじいがデカめの馬を二匹用意していた
「今日は馬に乗っていくんですか?」
「乗る用のじゃないわい」
「じゃあ、なんで」
「キャンプじゃよ!」
「キャンプ?」
「場所が遠いからな。キャンプで一泊じゃ!」
「キャンプだって!」
なんだかシャイナが嬉しそうだ
「キャラバン時代の血が騒ぐわい!」
「盗賊時代の血が騒ぐね!」
「戦争に出てた時代の血が騒ぐか、な?」
「まぁ、荷物は多いが、別の村人が先に簡易ベースキャンプ組んどるから、追加の荷物を持っていくだけなんじゃが」
「人間は歩きなんですか?」
「そうじゃ、嫌かい?」
「嫌って程じゃないですけど、馬に乗れればよかったかなぁって感じです」
「戦争の時の血が騒いだんじゃないのか?」
「キャンプには騒ぎますけど……」
「そういうもんなのかい?」
「まぁ、キャンプには騒ぎますよ。キャンプには……はい」
「じゃあ、出発じゃ!」
「楽しみだね。ご主人」
「……うん」
覚悟はしていたが、片道二時間を馬連れて、金属製のクロスボウを肩にかけて、ひたすら歩き続けるのはさすがに堪えた
「あんちゃん死にそうだけど、もうそろそろじゃよ」
「ご主人大丈夫?クロスボウ、僕が持とうか?」
「はぁはぁ、いや、全然、大丈夫だから、ホントに大丈夫だから」
ペルじいとシャイナは息も上がってなければ、汗一つ、かいていなかった。こんなことなるんだったら、蘭子さんに言われたランニングとか、やっとけばよかった
「あったぞ!あれじゃ!」
ひたすら草原のようなところを歩いていたら、前方の木がポツポツ生えたような茂みから、焚火の煙が上がっていた
「やっと着いたのう」
簡易ベースキャンプと言っていたが、テントが三つに炊事場、ドラム缶風呂、作戦会議ができるくらいの机が用意されていて、過ごしやすそうなキャンプだった
「はい、これ飲んで」
「はぁはぁ、ありがとう」
俺の水筒が空になっていることに気づいたシャイナが、自分の水筒の水を飲ませてくれた
「少し休憩したら、作戦会議じゃ!」
「ありがとうございますぅ」
軽く休憩した後、お昼には少し早いがペルじいが持参した愛妻弁当を食べて、作戦会議が始まった
「腹ごしらえも終わったし、作戦会議といきましょう」
「まず、知性マンドラゴラなんじゃが、賢さで言ったら、人間と変わらんのじゃ」
「でも、実質、一体だけが知性を持ってるんですよね」
「確かに賢いのは一体だけだが、知性マンドラゴラは五十匹くらいで一つの群れを形成しとる上に、群れの全体が視覚と聴覚、嗅覚まで共有しとるんじゃ」
「一匹に見つかったら、総攻撃を喰らうってことですか?」
「そうじゃ、こっちが準備できてない状態で見つかったら、負け確定じゃ」
「確実にやられますか?」
「退却用の煙幕もあるが、無傷で逃げ切るのは難しいじゃろ」
「僕の魔法でも厳しそう?」
「お嬢ちゃんの魔法は確かに強いんじゃが、なんせは相手は大群じゃからな。でも退却するってなったら、遠慮なくかましてくれてもええぞ」
「わかった」
「じゃあ、本題じゃ。まず、荷物の中にはおとり用のダミーカカシ、目つぶし用のスモーク弾とそれを発射する迫撃砲の三つが入っとる」
「ダミーでザコをおびき寄せて、スモークで目がくらんでるうちに、ボスを狙撃ですか?」
「そうじゃ、そこで、あんちゃんにとどめを任せたいって話じゃ」
「全員で狙えばいいんじゃないですか?」
「ワシとお嬢ちゃんは、スモークが効かんかったやつの処理じゃ。なんせ大群じゃからな、効いてないヤツもおるんじゃ。ちなみに弱点は両目で、つぶして中から体液が出れば動けんようになって死亡じゃ」
「ちょっとプレッシャーですね」
「初めてクロスボウに触ってゴリラを打ち抜いたんじゃ、問題ないわい」
「ご主人、頑張って」
「しかも、依頼書によれば、今回は魔力を持つタイプじゃなくて、硬い表皮を持っとるだけのようじゃし、近接攻撃しかできんザコじゃ」
「魔法使えるヤツも出てくるんですね」
「魔法物質取り込んだら、そうなるらしいのう」
もうすでに、じんわり冷や汗をかいているが、とりあえず、依頼書を頼りにマンドラゴラの生息地を特定しに行くことになった
「ホントに俺で、大丈夫ですか?」
「今、そのクロスボウが一番殺傷力があるから、大丈夫じゃろ」
「僕がエンチャント魔法かけてあげるよ」
「どういうヤツ?」
「反動軽減とか、風刃つけたり」
「フンジン?なにそれ?」
「風の力で矢の切れ味が増すの」
「緊張軽減とか、汗腺封鎖とかはないの」
「えっ?ご主人、何言ってるの?」
「……ごめん」
通じなくない表現のはずなのだが
「もう、わけのわからない言ってないで、行くよ!」
「そうですね」
「なんか、ご主人、変だよ」
まぁ別の世界から来てるし、多少は変かもしれない
「……そう?」
「何しとるんじゃ、早く行くぞ」
ベースキャンプから歩いて十分くらいの結構近いところに、ペルじいがマンドラゴラの痕跡らしきものを見つけた
「これはマンドラゴラの糞じゃな」
「えっ?植物なのにうんこするんですか?」
こんな表現正しくないかもしれないが、アーモンドチョコの形したマンドラゴラのうんこが落ちていた
「半分動物みたいなもんじゃ。まだ湿っとるし、近くにおるじゃろ」
糞を見つけてから、マンドラゴラの本隊を見つけるのには、さほど時間はかからなかった
「簡単に見つかったな」
依頼書に書いてある通り、海岸近くの林の中で、小学一年生くらいの大きさのマンドラゴラどもが、餌でも探しているのか、鼻をクンクンさせたり、木に登ったり、穴を掘ったりしていた
「結構な数ですね」
「想定外じゃな」
五十匹ほど群れだと言っていたが、見た感じ、百匹いてもおかしくなかった
「これ全部倒したら、いいお金儲けになりそうだね」
「バンシーマッシュルームほどじゃないけどな」
「倒せればですけど」
「燃えるわい」
「それより、ボスが見えないですね」
「奥に座っとるぞ」
「なんだ、あの気持ち悪いの」
林の奥に巨大な岩があるのかと思っていたが、葉っぱがオールバックの髪型みたいになっていて、木の根っこでできた巨漢力士のようなブサイクなバケモノがいた
「ブサイクな力士みたいですね」
「リキシ?なんじゃそれ」
「今日、ご主人変なの」
「まぁいつものことじゃないか」
「カルチャーショックですよ」
「何だね?それ、魔法かい?」
こっちで通じない表現が多すぎる
「そんじゃ、ワシはおとりを仕掛けてくるわい」
「こっちは、狙撃しやすそうなところ探しときますね」
ペルじいがおとりを仕掛けている間、周りを見渡せる大木の上でペルじいが来るのを待つことにした。そして、今から狙撃される当人はふてぶてしい態度で貞一を動かずに座っていた
「今のうちに、エンチャント魔法かけとこうか?」
「持続時間は長い方なの?」
「僕の魔法は強力だからね、二時間くらい持つよ」
「じゃあ、さっき言ってた反動軽減と風刃付加をお願いしようかな」
「わかった」
エンチャント魔法ということで、派手なかけ方を予想していたが、クロスボウと矢に手をかざして、手のひらから光を出して終わりだった
「これで終わり?」
「そうだよ」
反動軽減と風刃付加をかけてもらったらしいが、特に変化みたいなものは感じられなかった
「何にも感じなけど、ホントにかかってる?」
「反動軽減は反動がないとわからないし、風刃も実際に攻撃しないとわからないし、焦ってもいいことないよ。急がば回れだよ。ご主人」
「……そうだな」
異世界の人に、急がば回れって言われるとは思わなかった
「でも、あんな気持ち悪い物が薬になるって、最初に思った人って誰だろうね」
「きっとデブ専だろうな……デブな人が好きな人のことだよ」
「デブセンって言うんだ」
「上品な言葉じゃないから、あんまり使っちゃだめだよ」
「使わないし、使っても周りがわかんないよ」
「そうだよな」
「でも、あのマンドラゴラ、昔の親分に似てるから、なんか嫌いじゃないかも」
「あれが親分に似てるの?どんなとこが?」
「う~ん……顔かな?」
「そうなんだ。じゃあ、倒すのためらったりしない?」
「ううん、それはそれ、これはこれ」
「……そう?」
元盗賊ということもあってか、シャイナはめちゃくちゃさっぱりした性格だった
「でも、おとり仕掛けるだけなのにペルじい遅いよな」
「そうだね……あっ!ご主人あれ見て!」
シャイナの指さす先を見ると、ペルじいがマンドラゴラの大群に囲まれていて、持っている斧で応戦していた
「僕、おじいちゃん助けてくるから、ボス狙って!」
「あ~ちょっとまっ!」
ペルじいの思いがけないピンチに、おとりも目くらましも無しで動き回るマンドラゴラを狙撃しなければいけない状態になった
「お~い!二人とも逃げろ!」
もう!おせぇよ!
「今行くから、待ってて!」
シャイナが両手に火の玉を作ってペルじいの周りにいるマンドラゴラを焼いているし、作戦は何一つ成功していないが、運がいいのか、悪いのか、俺に気付いているマンドラゴラは一匹もいなかった。かと言ってゆっくり狙撃もできないが
確か、両目だったな。弱点
「見とけよブサイク力士」
変動軽減のエンチャント魔法のおかげで、金属から、人間のこぶしで殴られるくらいに軽減された痛みとともに、二本の矢が発射され、右目をつぶしていた
「もういっちょいくぞ!ブサイク」
次の矢を装填し終わったころには、マンドラゴラたちの標的は、完全に俺に向いていた
「今更、俺見てもおせぇよ!ブサイクども!」
マンドラゴラたちが俺に近づく前に、追加の矢を放ってやった
「クソッ!」
確実に左目を射貫いたと思ったが、右手で矢をガードしやがった。知性マンドラゴラに人間くらいの賢さがあるのを完全に忘れていた。
キエ~~~~~~~ッ!
頭が割れそうな叫び声とともに目の前が真っ暗になった
完全に死んだ
「……っ主人!ねぇ起きて!」
「大丈夫じゃ!気絶してるだけじゃよ」
「ん~……シャイナにペルじい?無事だったんだ」
「良かった」
シャイナが涙目で、仰向けに寝ている俺にしがみついていた
「う~ん……完全に死んだかと」
「死んだかと思ったんか?」
「だって、矢がガードされましたよね」
「心配せんでも両目しっかりつぶしとるわい」
俺には、矢をガードされた記憶しかないが、ペルじいが言うには、俺が気絶前に放った矢が風刃付加のおかげで、マンドラゴラの手を貫通して、左目をつぶしていたみたいで、その直後、マンドラゴラが死に際の断末魔を俺に向かって叫んだらしい。で、断末魔をまともに喰らった俺は口から泡を吹いて気絶して、今に至る
「じゃあ、狩りは無事成功ってことですか?」
「無事とはいかんかったが、成功じゃな」
ペルじいの左腕に、血が滲んだ包帯が巻かれていた
「折れとるわい」
「すみません。俺がもうちょっと早く仕留めていれば」
「そう落ち込むな、命があるだけ、運がええわ。それにあんちゃんがおらんかったら、死んでたじゃろうな」
まだ、頭がズキズキ痛むが、マンドラゴラの死体の山を運ばないといけないので、休んでもいられなかった
「でも、こんなに大量のマンドラゴラ、運ぶだけでも時間掛かりますよね」
「ワシらだけで運ぶわけなかろう」
「カンクン鳥を呼ぶんだよ」
「カンクン鳥?」
「このマンドラゴラのボスより、五倍くらい大きい鳥じゃ」
「魔法陣はこれでいい?」
「そうじゃな」
「魔法陣で呼ぶんだ」
ペルじいが魔法陣に右の手のひらをかざして、数分後、どこともなく、小型飛行機くらいある、黒い羽根で巨大なハゲタカのような鳥が、両足に大きなかごぶら下げてやってきた。
カンクン鳥の翼が出す風の風圧が強いのか、ペルじいが痛そうに左手をかばっていた
「そんじゃ、入れていくか」
「ケガしてるんですから、俺たちでやりますよ」
「休んでて」
「そうかい?じゃ、お言葉に甘えるわい」
骨が折れているお年寄りを、働かせるわけにはいかず、俺とジャイナで、マンドラゴラの死体の山を、カンクン鳥のかごの中に積んでいった
「あとはこいつか」
俺とシャイナの目の前には左目と右手を貫かれたキングが倒れていた
「どうしようか」
「僕、強化魔法使えるから、ご主人は軽い脚の方持って」
腰が割れそうになりながら、二人で運んだ
「はぁはぁ、これで全部か」
「そうだね」
「二人ともご苦労じゃのう」
そういうと、ペルじいはカンクン鳥からかなり離れた
「そこまでいかなくても」
「痛いんじゃ」
再び、飛ばされそうな風圧を出しながら、カンクン鳥は村の方へ飛んで行った。
「ねぇ、ご主人、なんか落ちてるよ」
カンクン鳥が飛び去ったところに、こぶし大ほどのクルミのような木の実が落ちていた
「マンドラゴラの種じゃな」
「でかくないですか?この種」
「これも売れる?」
「売れるが、もっと面白い使い方があるわい」
「面白い使い方?」
「ペットじゃよ」
「ペットですか?……でも、親が大分ブッサイクですけど」
「マンドラゴラの場合は遺伝の要素じゃなくて環境の要因が大きいから、心配いらんよ」
「いいじゃん!ペット!きっとかわいくなるよ!」
あのブサイクな親を見た後、これだけ自信満々に、かわいくなるって言いきれる感覚が理解できないが、親分に似てるって言ってたし、育ててみるか
「かわいくなればいいけど」
「やった!」
「じゃあ、キャンプ戻るかい?」
キャンプに帰る途中、シャイナがマンドラゴラの種を両手で大事そうに持っていたところ、ぱかっと割れて、人型の人参みたいな生き物が出てきた
「ねぇ、ご主人、生まれたみたい」
「もう、生まれたの」
「ニー!」
「変な鳴き声じゃな」
「ニー!」
「お嬢ちゃんのこと、親と思っとるかもしれんな」
「かわいい」
「かわいい?これが?」
「うん、かわいい」
動く気持ち悪い人参にしか見えないが、シャイナにとってはかわいいみたい
「ホントに飼うの?」
「飼いたい……ご主人やだ?」
「嫌じゃないけど……」
「僕、ちゃんとお世話するから」
「まぁ、親として見られちゃったし、ここで捨てるのもかわいそうだしな」
「でも、名前どうしよ」
「キャンプでゆっくり考えようか」
「うん、わかった」
夕焼けを背に三人と一匹でキャンプに戻って、骨折したペルじいの傷の手当をした後、明日の行動について話した
「しかし、あんちゃんが作った痛み止めは効くのう」
「作ったのは俺じゃないですけどね」
「で、明日のことなんじゃが、朝に帰るってことでもええか?」
「そうですね、その腕じゃあ、どうにもならないですよね」
「本当は明日の昼まで、薬草取りでもどうかなと思うとったんじゃが、すまんのう」
「でも、マンドラゴラだけでもいい稼ぎですよね」
「そうじゃな」
「じゃあ、僕が晩ごはん作るよ」
「ニーー!」
晩ごはんができたと同時に別のところで、薬草取りをしていた村の人も帰ってきたので、一緒に晩ごはんを食べることにした
「ニーーーーー!」
「どうしたんだろ」
「食べたいんじゃないかい?」
「じゃあ、僕のを分けてあげるよ」
シャイナがちびマンドラゴラにパンを分けてあげると、一口で平らげた
「ねぇ、ご主人、この子、食いしん坊かもしれない」
「そのようだけど」
「この子にもっとごはん作ってもいい?」
「食べたそうにしてるし、いいよ」
「じゃ作る」
「でも、名前どうしよう」
「ご主人は何がいい?」
「決めていいよ」
「う~ん……マンドラゴラのドーラは?」
「いっ、いいんじゃない」
「じゃあ、待っててねドーラ」
ていうか、雄、雌、雄しべ、雌しべのどれだろう
「お嬢ちゃんなんか、嬉しそうでよかったな」
「ですね」
ドーラがあと三人前の飯を平らげてパンパンになった後、涼しいので外のハンモックで寝ることにした。そしてシャイナはパンパンのドーラを抱き枕にしていた。ちょっとドーラが羨ましい
「マンドラゴラって食欲すごいんですね」
「そりゃあ、今回の依頼が、『生態系が壊れるから知性マンドラゴラを狩ってください』じゃからな」
「にしてもですよ」
「ワシに言われてもなぁ」
「そうですけど」