『二日ぶりの日常』
「おはよう」
「う~ん……あっおはようございます!」
昨日の夜、蘭子さんに言われた通り、日本のとある教会のベンチの上に勝手に戻っていて、教壇の上から、蘭子さんがこっちを見ていた
「どうだった?初めて別の世界に行った感じ」
「大変でしたね」
「それだけ?」
「そうですね、そんなもんですかね」
「ホントに趣きがねぇヤツだな」
「……すみません」
「まぁいいや、じゃあ、今回のリザルト的なことやっとく?」
リザルトとかあるんだ
「そうですね、お願いします」
「あっ、その前にこっちの世界と向こうの世界のルールを少し説明するわ」
「ルールとかあるんですか?」
「まぁね、まず、お前があっちの世界に行けるのは、神様がお前の魂を向こうの世界にリンクさせてるってこと」
「魂のリンク?といいますと」
「まぁ、お前は馬鹿だから簡単に説明すると、同じ向きに、同じ時間の速さが流れている世界が二つあって、でも二つの世界は物理的に干渉できないから、物理を無視できる神様がお前の物理じゃない部分、つまり魂を向こうに飛ばすってこと」
「……でも、なんで俺の身体が向こうにもあるんですか?」
「いい質問だ!」
「ありがとうございます!」
「なんでかっていうと、矛盾が生じているから」
「矛盾?」
「そう、魂は肉体がないと存在できない、でも神様は魂だけ飛ばした、で、どうなると思う?」
なぜ、ここでクイズを出してきたか、いささか謎ではあるが、答えないと機嫌が悪くなりそうなので、とりあえず答えることにした
「向こうに、俺の存在が作られたので、肉体もできた?」
「惜しい、正解は肉体も含めて魂が正解でした」
「すみません、理解ができないんですけど」
「まぁ、簡単に説明すると、健全なる身体に健全なる魂が宿るって聞いたことあるでしょ」
「まぁ、はい」
「あれ、間違いで、魂と肉体は一つなんだよ」
「ニコイチってことですか?」
「違う!お前の魂と肉体でニコイチってことじゃないの!お前という人間が存在するってことだけ!」
「なんかわかるような、わからないような」
「だから!高橋タツヤという存在を神様が飛ばしたことで、向こうにもお前が形成されたってこと!で、向こうでお前の行動によってはじめて物理が生じるので物理的なリンクはないってこと」
「わかりました!魂と体が切り離されて考えているからおかしいことになっているだけで、俺自身が存在しているから、向こうにも俺がいるだけのことですか?」
「そう!やっとわかった?」
「そして、僕が形成されてから、行動しているので両方の世界に物理的干渉はないってことで」
「そういうこと」
「はい!」
「もう一つ、向こうから帰ってくるときは、身体的疲労は神様の力で少し回復してるから」
「それはありがたいですね」
「でも、軽いケガならすぐに回復するけど、骨折や重症ならちゃんと回復させないとこっちでも同じことになるから気を付けて」
「どれくらい回復したらいいですか?骨折とかすぐには治らないですし」
「骨折は固定、出血は止血、そんな感じで、死にそうになったらこっちからもアドバイスもするし」
「わかりました!」
「まぁ別にこっちの世界の医者にもらいたかったら、それでもいいんだけど」
「それはいいんですね」
「そうだね、まぁ任せるよ」
「じゃあ、説明は終わったから、本題に入ろうか」
いまいち、理解できない世界のルール説明が長くて忘れていたが、リザルトをやる予定だった
「毎回やるわけじゃないけど、今回は初回だから、まぁ仕方なしで」
「はい」
「まず、結果から言うと、問題なしって感じ」
「問題なし?」
「特にマイナスがないことくらいかな」
「プラスもないですか?」
「ううん、ポイントは少ないけど、年寄りの村にお前が暮らすことになってことで、村が少し活性化することと、奴隷の少女を救って、メイドにしたことがプラスかな」
「善い行いはポイント制なんですか?」
「明確にこれをすれば何ポイントみたいにはないけど、まぁポイント制としてとらえてくれればいいよ」
「もしかしてマイナスも明確にないですか?」
「そうだね、まぁ相当なことがなかったらマイナスにはならないよ!」
「じゃあ、ポイントが貯まったら、景品と交換みたいなこともあるんですか?」
「まぁお前の働きによるけど、なくはないよ、こっちの世界でいいことが起きたり、向こうの世界にこんなもの持っていきたいとか、神様が様子を見ながらって感じかな」
「ということは、恩恵を受けられるのは、もう少し、やってからってことですね」
「そうだね」
今までの説明で、あらかた、わかったような、わからなかったような感じなのだが、これからの生活どうしよう、今、無職だし
「で、説明やらが終わったけど、これから、どうすんの?」
「どうすんの?ってどういうことですか?まず、家に帰りますけど」
「これからの生活のことだよ!お前、今、無職じゃんか!しばらくの貯金はあるかもしれないけど、ずっとは続けられないでしょ!」
「そうですね、どうしましょう」
「どうしましょう?じゃねぇだろ!仕事見つけろよ!」
「でも、土日何もできないじゃないですか、どうしろっていうんですか」
「そこは自分で考えろよ!一応大学出てんだろ!」
「考えろって言っても、ちょっとくらいは協力してくれてもいいじゃないですか?俺は別の世界で頑張ってるというのに」
「お前に協力してもいい決まりだけど、私が協力したくない」
いかにもヤンキー天使っぽい返事が返ってきた
「わかりましたよ!じゃあ、とりあえず家に帰るんで、もういいですか?」
「なんで、お前の方がいやいやなんだよ!」
「すみませんでした、また、土曜日の朝にお会いしましょう」
「あっ、ちょっと待って」
そういうと、携帯を出すように言われた
「デートお誘いでもしてくれるんですか?」
「ちげーよ!ゴミムシ!」
「じゃあ、何ですか?」
「こっちの世界にいるとき、向こうのこと気にならない?」
「そういえば……気になりますね」
「緊急のことがあったら、電話するから」
「じゃあ、番号出しますね」
電話番号を出そうとしたところ、止められた
「いらない」
そういうと、蘭子さんは携帯電話に手をかざして、手のひらから青色の光を出した
「これだけで大丈夫だから」
「何したんですか?」
「天使の超能力、天界赤外線」
ドヤ顔で、言われたが、別にすごいとは思わなかった
「でも、緊急時以外は向こうの様子はわからないんですか?」
「その場合は、お前がここに来い、そしたら教えてやる」
「それは電話ではダメですか?」
「うん、お前が来い、ちなみに、その携帯では私にかけられないようになってるから」
「わかりました」
とりあえず、今の話で、説明は全部終わりのようだった
「もう、帰っていいですよね」
「おう!ちゃっちゃと帰れよ」
月曜日の朝ということもあり、通勤、通学している人たちを横目に、その人たちとは逆向きで家に帰ることになった
今、住んでいるマンションまで十五分くらい歩いて、部屋までの階段を上り、テレビとゲームとパソコン以外特に物がない殺風景な我が家に戻った
「……何もない」
少し、腹が減っていたが、冷蔵庫に氷結しか入っていなかったので、近所スーパーに出かけることにした
「お会計、二千円にになります」
「すみません、Tカード持ってます」
善いことポイントもTポイントが使えれば、楽になるのにみたいなことを考えつつ、家に帰り、コロッケをつまみに朝から氷結を飲んでやった
少しほろ酔いになったところで、パソコンで適当な仕事を探すことにした
「……ネットニュースライター?」
ネットで起こっている炎上やテレビで有名人の騒がれそうな発言を拾って簡単に記事にまとめるだけのお仕事、まぁ、在宅でできるし、締め切りに追われることもなさそうだし、とりあえず、当分はこの仕事を生業にしようか
その日は、夜まで、ネットサーフィンしたり、テレビを見ながら氷結をのんだりしていたが、どうしてもシャイナのことが気になって次の日、通勤、通学に混じって教会に行くことにした
「もう来たんだ」
「すみません、どうしても気になって」
平日だが、二百人ほど収容できる広大な講堂に十人くらいの参拝者みたいな人が、ちらほら座っていた
「で、何が知りたい?」
「あの~その前に俺が、こうしてしゃべっているのは、周りから見たら変人じゃないですよね?」
「私のことは周りに見えてないから、変人に決まってんじゃん」
教壇から降りて、近くで話してもらえれば、その好奇な目線も少し減るんじゃないですか?って言いたかったが、99、99%断られるので、我慢することにした
「えっと、シャイナは向こうで順調にやってますか?」
「そうだね、おばあちゃんから着実に、家事と料理を学んでるよ」
「迷惑そうじゃないですか?」
「特にはないね、二人とも楽しそうにやってるよ」
「それは良かったです」
「あと、変わったことでいうと……騎士団の斥候が調査に出たんだけど、四人がケガで、一人行方不明になってるってことくらいかな」
「それって結構まずいことになってますよね」
「まずいことになってるね」
「村に被害はないですか?」
「それはとりあえず、大丈夫、でも、近くの森は封鎖されることなったから」
「でも封鎖されると、村の経済には打撃になりますよね」
「そうだけど、誰かが、命を落とすよりはマシでしょ」
「そうですけど」
「でも、心配はしなくても、騎士団の本隊も到着して、さらに援軍も要請してるから、厳戒態勢だけど、最悪のことにはならないと思うよ」
「だったら安心ですけど」
蘭子さんによると、騎士団の本隊は、聖鎚衆と呼ばれる精鋭の集まりから、有名なハンマー使いが派遣されているみたいなので相当なことがなければ、やられはしないという
「その、セイツイシュウってのは、すごいんですか?」
「まぁ帝国騎士団のパラディンの中から選ばれるからね」
「じゃあ、すごいんですね」
帝国騎士とか、パラディンとかよくわからなかったが、字面からしてなんとなく強そうではあった
「ほかにも部隊あるけど」
「帝国ってすごいんですね」
蘭子さんも一日中教会にいて、暇なのか、騎士団について説明してくれた
「まず、騎士団でパラディンは手練れの騎士しかなれないもので、さらにその中から特に強い騎士を武器ごとに集めた部隊もあって、今回はハンマー使いの聖鎚衆と呼ばれる部隊から一人派遣されてきたところ」
「ほかにはどんな部隊があるんですか?」
「対人戦が得意なソード使いの闘剣隊、救助作戦が得意な槍使いの練槍組合、暗殺任務と情報収集が得意な遠隔武器の狙撃団とか色々あるみたい、ちなみに聖鎚衆はモンスター相手が得意だから」
「強そうですね」
「まぁ、帝国ははあっちの世界で最大勢力だからね、こっちでいうアメリカみたいなもんだね」
「ほかの大きい勢力はどんなのがありますか?」
「まずは、メルシス帝国が一番大きくて、何個かの公国が属してる状況で、お隣にフリール連合王国があって、この二つは条約を結んでる」
「へぇ~」
「で、最大の部族のホンシャン族とも国境を接してるんだけど、最近まで戦争してて、今は停戦中……まぁ大きい勢力はこんなもんだよ。細かのは話し出したらきりがないから、出会ってから聞けば?」
「そうですね」
村の方は、無事みたいなので、ひとまず、次行くまでは安心できそうだった
「すみません、一つ質問いいですか?」
「なに?」
「蘭子さんはずっと教会にいるじゃないですか」
「うん」
「暇じゃないんですか?」
「天界にいる天使仲間のみんなと遊ぶことあれば、千里眼的な力もあるから、割と退屈しないね」
「そうなんですね」
暇そうだと思っていたが、暇じゃないみたい
「内容は言えないけど、ちゃんと仕事あるし」
「……仕事あるんですね」
「お前じゃねぇんだから、ちゃんと仕事するわ!」
「ですよね」
一応、フリーターということにしてくれないかな
「そういえば、体鍛えたりしないの?」
「何でですか?」
「お前、向こうでカスみたいな魔法使ってるじゃん!」
そういえば、そんなことも言われてたな
「ランニングくらいしたらどうなんだよ」
「もうちょっと生活が安定してからにします」
「派手に魔法を使うのも爽快だろ」
「でも、向こうのことも、大ごとにはならなそうだし、今日はもう帰ります」
「そう?」
「仕事ありますので」
「ねぇだろ!」
シャイナの生活のこと、森の異変のこと、騎士団のことなど、もろもろ大丈夫そうなので、次の土曜日の朝までは、とりあえず、この殺風景な部屋でネット記事が書けるように安心して練習することができる
そして金曜日の昼頃に書いた芸能人についてのネット記事が初めて千円の報酬を得る仕事となった
「そろそろ行くか」
刺激的な向こうの世界に比べると特に何もない無駄に長い五日が過ぎて、またまた教会に行く日になった。
土曜日で雨が降っていることもあり、通勤、通学の人たちはほとんどいない
「おはよう」
「おはようございます」
「じゃあもう行く?」
「あっちょっと待ってください」
「何?」
「あの~昨日、アメリカのとある自動車大手のCEOが不祥事で逮捕されて、今、少し経済が傾いているのはもしかして……」
「鋭いね、神様の仕業だよ」
「やっぱり」
「でも、まだまだこんなもんじゃないから」
「まだまだってことは、俺にも影響があったりするもんなんですか?」
「そりゃ、お前次第だよ」
「ですよね」
「じゃあ、今度から来るとき、天罰だと思うこと当てクイズでもする?」
「天罰だと思うこと当てクイズ?」
「そう、ニュースで見た出来事で、これが天罰じゃないですか?ってものを言う」
すごく不謹慎なクイズだと思ったが、蘭子さんからの話のネタだと思えば、かわいいもんで、断るのもなんだし、仕方なしに付き合うことにした
「いいですよ、じゃあ、ちゃんとニュース見ときます」
「じゃあもう行く?」
「そうですね、お願いします」
先週と同じようにUFOみたいな光に吸い込まれて、やっぱり体が浮いてるような、暖かいような天にも昇るような気分だった