『盗賊メイド』
別の世界での生活で疲れていたこともあり、硬いベッドで寝心地最悪だったが、結構熟睡できた。
疲れは全然とれてる気もなければ、腰も痛いままだが
「お~い!あんちゃん!起きたかい?」
「は~い!」
ペルじいに呼ばれてパンツ一丁で外に出てみたら、まだ朝日が顔を出したくらいの時間でド早朝だった
「パンツ一丁で何しとるんじゃ!早く支度して街行くぞ」
「あの~……早くないですか?」
「こんなもんじゃないのか?年寄りは」
「……わかりました」
俺は眠い目をこすりながら、急いで支度をして昨日稼いだお金ともらったクロスボウを持って、ペルじいと村の入口近くにある馬車乗り場へと向かった
「なんでクロスボウも持っていくんですか?街で狩りでもするんですか?」
「せんわい!そいつは長年使っとらんから、磨きなおしてもらうんじゃよ。後、メンテナンスも」
「そうなんですね」
村から街へと向かう馬車は乗り合いで、片道一時間くらいで着くらしいが、クッション性が全くない木の座席で十五分ぐらいで、お尻と背中の感覚なくなるほど座り心地は最悪だった。
ちなみにダイアウルフだと十分で街に着く上にフカフカの毛皮に包まれるため、比較にならない移動手段らしい
「着いたみたいじゃのう」
「お~!大きいですね」
「帝国都市ローデンじゃ」
巨大な門が出迎えてくれた街はローデンと呼ばれ、昔、この町で活躍した大商人の名前がそのまま街の名前になったらしい。
帝国都市の名にふさわしく、石畳の街並みに、たくさんの馬車や謎の毛むくじゃらの獣が引く荷車があり、路面店もたくさんあるが、屋台やバザールもそこら中にあり、とてもにぎわっていた
「そんじゃ、降りるとするか」
「まず何します?」
「まずはクロスボウを鍛冶屋に預けに行くか、帰りに取りに行けば重い荷物も減るじゃろ」
クロスボウの磨き上げとメンテナンスをお願いするため、まずは鍛冶屋に向かった
「しかし、すごいですねこの人の量」
「そうじゃろ、すごいじゃろ」
「おっと、あぶなっ!」
ペルじいと雑談しながら、鍛冶屋に向かっていたところ、檻でできた荷馬車の列に行く手を遮られて引かれそうになった
「おいおい、大丈夫かね」
「危ないですね」
檻の荷馬車をよく見ると、中には木製の手かせをはめられた身なりが汚れている人たちがいて、ただの荷馬車ではなさそうだった
「あの~……これなんですか?」
「奴隷商人の馬車じゃな」
「奴隷商人!?いいんですか?そんなこと」
「本当はダメなんじゃが、罪人とかは例外で取引されることがあるんじゃ」
「じゃあ、この荷馬車に乗っている人たちは全員罪人ということになるんですか?」
「恐らくそうじゃな……罪人とはいえ人を商品にするんはおかしいと思うんじゃがな」
「そうですよね」
「罪人を収容したり、刑にかけたりすると色々費用が出るからのう、租税を節約すためなんじゃ」
「にしても」
「税金の節約になるから、反対する人も全くおらんのじゃ」
「ねぇ買って」
「えっ?」
目の前を通り過ぎてゆく、奴隷商人の荷馬車から少年か、少女かわからないくらいの声で何かささやかれた
「なんじゃ、興味あるんか?」
「……いやっ……あの~」
荷馬車から、腰まで伸びた汚い赤毛の男の子がこっちを見ているような気がして、目は髪の毛に隠れて見えなかったが目が合っているような気もした
「どうしたんじゃ?後で見に行くかい?」
「……そうですね」
「まぁとりあえず鍛冶屋行くか」
奴隷商人のことかなり気になったが、とりあえず、鍛冶屋に行くことにした
「ここじゃ」
ペルじいが指さす先を見てみると、金床とハンマーをモチーフにした看板があり、カーン、カーンと金属が打ち合う音がする建物があって、一目で誰でも鍛冶屋とわかるような鍛冶屋だった
「へい!らっしゃい!」
「どうも、お久ぶりじゃな」
「おぅ!カスペルさんじゃないですか!これはこれはお久しぶりですね!」
どうやらペルじいがひいきにしている店っぽい
「どうしたんですかい?クロスボウに不具合でも?」
「いやいや、昔の相棒をちょっと磨いて欲しいんじゃ」
「昔の相棒?ということは……串刺しのカスペルの復活ですかい?」
「串刺しのカスペル?」
「まぁまぁ昔の通り名じゃ」
鍛冶屋に詳しく聞いてみたところ、キャラバンを率いていたころのペルじいは相棒の威力特化のクロスボウとともに数々の盗賊、モンスターなどの弱点を百発百中で射貫き、しかも、クロスボウの高い威力のせいでほとんど貫通していたため、串刺しのカスペルと呼ばれてキャラバン界隈を通り越して有名だったみたい
「もうワシの話はええから、早くしてくれ」
「あっそうだったな、で、どれを磨けばええんですか?」
「あの~これをお願いします」
「レッドミスリルなんて久しぶりに触るな」
「後、ワシのクロスボウもメンテナンスも頼むわい」
「しかし、こんな暴れ馬みたいな設計のやつ、兄ちゃんが使ったのか?」
「そうじゃよ!すごいじゃろ!」
「大したもんだ!」
「しかも初めて触ったのにじゃよ!」
「おぅ!信じられような話だな」
「で、おいくらかな?」
「そうだな、カスペルさんの奴は五百エレクといったところだが、兄ちゃんのやつは一回解体せんといかんし、なんせレッドミスリルだしな……一万エレクくらいかな」
「おいおい高すぎるわい」
「でもこんな年季の入ったレッドミスリル製のやつ磨くのに結構手間がかかるしな」
「それにしても高いわい」
「でもな……」
しばらく、ペルじいが得意のマシンガントークを鍛冶屋さんに浴びせ続けて、1万エレクのところが半額の五千エレクにまで下がったが、うれしい気持ちが半分で、鍛冶屋さんに申し訳ない気持ちが半分で、なんだかとても複雑な気分で店を後にした
「まったく頭の固いやつじゃったな」
「……そうですね」
「武器も預けたし、朝ご飯でも食いに行くかい」
「朝から何にも食べてないですもんね」
「ええとこがあるんじゃ」
鍛冶屋から離れて、しばらく歩くと市場のようなところでペルじいが店を探し始めた
「どこじゃったかのう」
ペルじいについて歩いていると、野菜やお肉を売っている屋台があって、見たこともないような奇妙な形をした野菜や、緑色に発光している肉が売られていた
「あったわい!ここじゃ!」
屋台が立ち並ぶ奥に、湯気立ち上っている大衆食堂のようなお店があった
「ここの席にするかのう」
店の中で食べるタイプではなく、店の軒先で何かスープのような物を煮込んでおり、そこで注文して店の前に並べられた机で食べるアジアによくありそうなお店だった
「じゃあ、注文しに行こうかい」
ペルじいと一緒に具たくさんのスープとモーと呼ばれる発酵していない硬いパンを注文して席に戻った
「どうじゃ、うまそうじゃろ。パンをちぎってスープに入れて食べるとうまいんじゃ」
ペルじいに言われた通り、パンをちぎってスープに浮かべて食べてみた
「スープが染みておいしいですね」
一口サイズにちぎったパンがスープを吸い込んですいとんのようになっているパンと、あっさりスープとマッチしていて、朝食にピッタリだった
「おなか一杯じゃな」
「ですね」
「さっどうする?」
「う~ん……奴隷商人のところですか?」
「気になるかい?」
「そうですね」
「わしはあんまり行きたくないんじゃが、まぁええわい」
「すみません」
奴隷は特許商会と呼ばれる特別な許可をもらっている商会が販売しているらしく、市場の中を少し歩いただけでタイロー会館という名前の甲冑の騎士が店番をしてる店に着いた。
市民の台所でもある市場の中に、人間が商品として取引される店があるのは、日本の現代社会では考えられなかった。ペルじいが嫌がっているのもよくわかる
「奴隷でも買うつもりなのかい?」
「いや~……俺の住んでいた世界……街にはなかったと思うので、ちょっと見てみたくて」
「じゃ入るかい?」
両開きの門を開けて、中に入ってみると汚い恰好の人が入った檻が並んでいて、一つ一つに値段が張られており、まるでペットショップのようで気分が悪かった
「どうじゃ?あまり、ええもんじゃないじゃろ」
「そうですね……えっ?」
奴隷は罪人や盗賊などの罪を犯した人が売られると言われていたから、あまり高価な物ではないと思っていたが、しかし安すぎる
「一万エレクで人が売られているんですか」
「そうじゃな、犯罪を犯してきた人じゃから、できることが少ないんじゃ、重労働の労働力やら、娼婦やらにされるんじゃ」
「にしても安すぎないですか?」
「ワシに言われてもなぁ」
しばらく、さっき声をかけられた赤毛の男の子を探したが、見つからなかった
「さっきから何を探しとるんじゃ?」
「あの~赤い髪の男の子を」
「奥のもっと安いとこかもしれんな」
ペルじいと一緒に店の奥にある千エレクくらいの奴隷の売り場に行くと、木製の手かせをはめられたさっきの男の子がいた
「この子かい?」
「ですね……あの~すみません」
「何だよ!」
「さっき声掛けました?」
「知らねえよ!俺に話しかけるな!」
「威勢がええ子じゃな」
「買ってって言ってなかった?」
「言ったらどうするんだよ!」
「言ったんだ」
「言ったよ!だったらなんだよ!」
「じゃあ、この子買います」
「あんちゃん本気かい?」
「すみませーん、この子買います」
自分でもよくわからないが、後先も考えず、奴隷を買ってしまった
「じゃあ千エレクね。毎度ありー!で、これが手かせのカギね」
店員から少しさびたカギを渡された
「ありがとうございます」
赤毛の男の子が檻の奥から連れられて出てきたのでとりあえず、細い手に木の手かせが血が出る程食い込んで痛そうだったから外すことにした
「あっ!ちょっとお客さん何してるんですか?」
「何って、手、血が出ちゃってるから」
「そりゃ奴隷ですからね、しかも、輸送中に一番手こずった盗賊だったんですよ、何するかわかりませんよ!」
「何するかわかりませんよって、何ができるんですか?こんな状態で」
「何もしねえよ!……もう」
手かせを外すために男の子の近くに寄って顔を見てみたら、泣くのを我慢していたのか、乾燥しているわけでもないのに下唇に血が滲んでカサブタだらけだった。
「どうじゃ?公衆浴場でも」
「そうですね」
体から納豆とお父さんの脇のようなにおいを放っていたので、街のはずれにある公衆浴場に連れていくことにした
「名前は?」
「シャイナ」
「俺はタツヤ」
「うん」
「こっちはペルじい」
「うん」
「手首、痛くない?」
「大丈夫」
「唇、痛くない?」
「大丈夫」
「裸足だけど痛くない?」
「大丈夫、俺、裸足慣れてるから」
体中傷だらけで、足の裏の皮もはがれていて、痛くないわけがなかった。ということで
「浴場までおんぶするよ」
「今汚いからいらない」
「いいから」
「……じゃあ、わかった」
シャイナをおんぶして立ち上がった時
ボトッ……
「うん?なんか落ちたよ」
「うん……大丈夫、いらない」
「でも、ずっと持ってたんじゃ」
シャイナのズボンから落ちたものを見てみると、先端が鋭くとがったガラス片だった
「これ……」
「逃げるために作ってた」
「逃げるため?」
「うん、油断してる人ならそれで 簡単に殺せる」
「そうなんだ」
どうやら、輸送される途中で拾ったガラス片をじっくり時間をかけて、磨いて、首を掻っ切れるようにしていたらしい
「使わなくてよかったね」
「うん、手とか心配してくれたから」
「そうか……ところでなんで捕まったの?」
話を聞いてみるとシャイナは各地で戦場跡を専門に略奪行為をする旅の盗賊団の一員だったみたいで、とある合戦の跡地で戦死者から略奪をしていたところ、合戦で勝利した軍が戻ってきて、盗賊団全員が包囲された挙句、シャイナ以外は全滅したらしい。で、シャイナもその軍の戦利品として奴隷商人売られたということらしい
「着いたぞ」
「じゃあ入っておいで」
「うん、ありがとう」
道中で適当に買った服を渡して、公衆浴場でお風呂に入ってもらうことにした
「ありゃ~勘違いしとったようじゃな」
「失礼なことしましたね」
ずっと男の子だと思って接していたが、シャイナは女湯に入っていった。そういえばシャイナってなんとなく女の子の名前っぽいし
ペルじいと三十分ほど雑談をしていると
「出てきたようじゃな」
さっきまで髪の毛ボサボサの汚い恰好した男の子だったが、きれいな赤髪をポニーテールで束ねた碧眼の美少女が公衆浴場から出てきた
「お待たせ」
体はキレイなったが、相変わらず、顔を前髪で隠して、こっちにあまり目を合わせてはくれないようだ
「別人のようじゃな」
「スッキリしたね」
「うん、ありがとう」
唇と手首はまだ痛そうだったので、ペルじいが持っていた傷薬を渡して、塗り終わると、シャイナは下を向いて、肩をヒクヒクさせていた
「傷薬塗ったから、唇噛んじゃだめだよ」
「うん、大丈夫」
「心配しなくても泣いていいよ」
「ううん、大丈夫」
「だったらいいけど……ところでおなかとか空いてない?」
「大丈夫、ご飯はちゃんと食べさせてくれてたから」
「そりゃそうか、一応商品だもんな。じゃあ、日用品で買いに行くかい?」
「そうですね」
「荷物多くなりそうだし、モーグでも借りて行こうかい」
「モーグ?」
「荷物持ちじゃよ」
ペルしいに連れられて、モーグ屋に行くと、そこには、カバと豚を足して二で割ったようなブサイクな動物がいた
「荷物持ち用のモーグを一匹借りたいんじゃが」
「五十エレクですね」
「じゃ、行こうかい」
三人で色々店を回って服やら、日用品やら、生活必需品を全部買ったところでちょうどお昼くらいになっていた
「必要なもん、買ったし、ちょっと早いけどお昼にするかい?」
「そうですね、なんか食べたいものある?」
「なんでも」
「やることがまだあるから早く食べれるやつにするとするか」
「そうですね」
まだ買うものがあるので、お昼はペルじいがサンドイッチのようなものを買ってきてくれた
「じゃ食べながら行くかのう」
サンドイッチを食べ終わったころに、甲冑やブーツが飾られた防具屋に着いた
「クロスボウの腕は確かじゃが、万が一に備えて防具も買っとくとええぞ」
「肩当てとか胸当てみたいな、軽装がいいですね」
「そうじゃな、で、お嬢ちゃんは盗賊の時は何を使っとたんじゃ?」
「俺は、ダガーと弓でやってた、後、魔法も」
「いかにも盗賊らしい装備じゃな」
「やっぱり対人戦を意識してる?」
「ううん、戦場跡荒らし専門だったから、屍喰らいとか、ネクロマンサーとかと戦うためで、人は殺したことないよ」
「だったらお嬢ちゃん用の装備もそろえた方が良さそうじゃのう」
ペルじいにアドバイスを受けて二人とも、肩当てと胸当てに加えて、動きやすい革と金属製のブーツで軽装の装備にした
「二人ともどうじゃ?」
「大丈夫そうです」
「うん、問題ない」
「武器はクロスボウを受け取りに行くときについでに買うとするかい?」
「そうですね」
二人とも軽装だからか、合計三万エレクで比較的安く防具がそろった
「日用品も買ったし、防具もそろったし、後はクロスボウを受け取って帰るだけですね」
「う~ん……そうじゃな」
クロスボウの受け取りとシャイナに武器を買ってあげるため、武器屋に向かう道中、シャイナが仕立屋の前で立ち止まった
「どうした?」
「見てみてもいい?」
シャイナの視線の先には、ロングスカートのメイド服がショーケースに飾られていた
「うん別にいいけど」
「じゃあ、見てくる」
そういうとシャイナは嬉しそうに仕立屋の中に小走りで走っていった
「どうしたんじゃ?」
「なんか物欲しそうにこのメイド服を見てました」
「女の子っぽい服装に憧れがあったんじゃないかい?男どもと死体を漁る生活じゃったから、こういうの珍しんじゃろ」
「言葉遣い悪くても女の子ですね」
「じゃな……あっ!ええこと思いついたわい!」
「何ですか?」
「あの子のこと何も考えず買ったじゃろ」
「はい」
「メイドとして買ったってことで、お嬢ちゃんと生活すればええんじゃい」
「メイド?悪くないですね」
「悪くないじゃろ。家にメイドがいればあんちゃんが別の世界に飛ばされても家のことは心配いらんし」
「そうですね」
シャイナにメイドのことについて話すと、喜んで承諾してくれた。
「どれにするか決まった?」
「これとこれで」
シャイナが選んだのは黒のロングスカートのメイド服とひざ丈の同じようなメイド服だった
「なんか似てるやつだけど、ほんとにこれで大丈夫?」
「うん、長い方が家用で短い方が戦闘用」
「スカートで戦闘しない方が良くない?」
「大丈夫、家も戦闘もかわいくいきたい」
「ほぅ~」
少し寄り道したが、三人で鍛冶屋に着いた
「お~カスペルさんと兄ちゃんと……お嬢ちゃん?」
「出来かのう」
「もちろんできてるぜ」
「お~きれいですね」
「そうだろ、長年の錆やら、隙間のごみやら磨くの大変だったんだぜ」
帰ってきたクロスボウは周りの風景が映るくらいピカピカに輝いていた
「ついでにお嬢ちゃんのダガーと弓も見てみてくれんか」
「おうよ!こっちに来な!」
シャイナが武器を見ている間に、俺はクロスボウ試し打ちさせてもらった
「あのカカシみたいなやつを狙えばいいですか?」
「おうよ!頭は丸太でできてるからよく狙えよ!」
十メートル先には、細い棒をT字に組んで藁をかぶせた体に、丸太を横にして的の部分が書かれている標的用のカカシが立っていた
「じゃいきます」
メンテナンスする前よりも強い肩の痛みとともに、カカシについていた丸太の頭は薪割りみたいに真っ二つに割れて、矢は奥の木の柵に深々と刺さっていた
「お~すごいな!」
「そうじゃろ!わしが見込んだだけのことはあるわい!」
「肩の痛みは相変わらずですけど、なんか大分使いやすくなりました」
「次の矢も装填してみてくれ!」
職人さんの言われた通り、矢を装填してみた
「スムーズですね」
「そうだろ!連射ももっと速くできるぞ!」
「あっちも良さそうじゃのう」
クロスボウの試し打ちを終えて、工房の方に振り向くとメイド服にダガーと弓を装備したシャイナが立っていて、完全にキャラが渋滞していた
「そのメイド服本当に戦闘用なんだ」
「もちろん」
近くで見てみると、弓をショルダーバッグのように肩にかけており、胸の形がはっきりわかるようになっていて、胸に詳しくはないが、BかCくらいではなかろうか
「弓はその持ち方がいいの?」
「うん」
「じゃあしょうがないか」
「これでもろもろ揃ったようじゃな!」
「そうですね」
「着替えて帰るとするか」
鍛冶屋を後にして、モーグに積んであった荷物を馬車に積みなおして三人横並びで村に帰る馬車に乗った
「なんか色々あって疲れたのう」
「そうですね」
「で、残金はどれくらいあるんじゃ?」
「三十万エレクあります」
「全然残っとるのう」
「なんか買ったんですか?」
「ばあさんと飲む用の酒じゃ」
ペルじいとの無駄話に花が咲いたが、シャイナはメイド服の袋を抱えて黙っていた
「それ気に入った?」
「うん」
あまり聞かない方がいいと思いつつも、シャイナの出生のことやら、これまでのことを聞いてみた
「あのさ、ちょっと聞きづらいけど、いくつの時から盗賊することにしたの?」
「物心ついてからずっと」
「両親が盗賊だったってこと?」
「ううん、拾われたの盗賊に」
シャイナの生まれた村はシャイナがまだ赤ちゃんだった時に、戦争に巻き込まれて村ごと焼かれたという、そこに戦利品を漁りに来た盗賊団が魔法陣に守られた赤ちゃんを見つけて、それ以来盗賊として育てられたらしい
「じゃあ親の顔も知らないのか」
「うん、育ててくれた親分も死んじゃった」
「そう、だよな」
「でも変な人に買われなくてよかった」
「あぁありがとう……でもなんで男の子っぽくしてたの?」
「周りが男ばっかだったし、女の奴隷は変なところに売られるって聞いていたから、男の振りしてた」
「そうか」
娼婦とかにはなりたくなかったってことかな?
「戦場跡とかで略奪していたって言ってたけど、やっぱり危ない?」
「うん、屍喰らいが死体食べに来てたり、ネクロマンサーが死霊術をしてたり、巻き込まれたら死んじゃうから、危ないよ」
「そうなんだ……で、略奪した後は?」
「金目の物を漁ったら、屍喰らいやネクロマンサーにやられないように魔法で燃やしてあげるの」
「燃やしてあげる?」
「うん、戦争の後は、戦死者とか、巻き込まれた人が大体そのまま放置されるから、周りの地域に病気が蔓延したり、増えすぎた屍喰らいがほかの人を襲うからちゃんとみんなで燃やしてあげてた」
「そうなんだね」
村に着くまでシャイナと世間話でもして、距離を縮めようとしたが、想像以上にハードな話の内容に村まで三十分くらい黙ったままだった