『自然魔法』
「どうじゃ?変わろうかい?」
「はぁはぁ……いやいや!はぁはぁ……全然ですよ!はぁはぁ……まだまだ!はぁはぁ……若いのを舐めないでくださいよ!」
「威勢がいいのはええことじゃが、あんま無理せん方がええぞ!」
「はぁはぁ……何が無理ですか?はぁはぁ……こう見えても戦争経験してるんですよ!」
戦地に行ってないけど、ウソじゃないからな!
「それはそれはすごいことじゃ!」
ペルじいに何から何までお世話になっているので、マッシュルームを一人で村まで背負って帰っているところだが、たぶん藁で作られた肩掛けが両肩に食い込んで痛いし、思っていた以上の重量に腰当たりの筋肉が悲鳴を上げている
「本当にいいのかい?」
「はぁ……まったく問題ないです」
「問題しかない顔しとるようじゃけどいいのかい?」
「お任せください!はぁはぁ……」
「もうすぐじゃから……村まで」
「余裕ですよ!」
「まぁワシは助かるからええんじゃが……茶でも飲んで一呼吸おいてから行くとするかい?」
「助かります」
俺とペルじいは街道のそばに荷物を降ろして、荷物から水筒を出して一服した
「しかし、あんちゃんがおらんかったらワシも今頃マングローブゴリラの腹の中じゃ。助かったわい」
「いえいえ!俺もペルじいがいなかったら知らない森に一人で生きてなかったかもしれないですし、住むところから仕事から、ごはんまで何もかも用意していただいて助かってます。本当に命の恩人ですよ」
「ええんじゃよ。もうこの年だし、年寄りの村だし、若いのが増えてくれるだけ村が活性化するってもんじゃよ」
「まだ役に立てるかどうか」
「このクロスボウであれだけの命中率を出せるだけで十分じゃ」
「このクロスボウであれだけの命中率って……扱いづらい物だったりするんですか?」
「あんちゃんには言ってなかったんじゃが、それはワシがキャラバンで隊長をしていてモンスターどもを狩りまくっていた時に使っていたクロスボウでワシも最初は使いこなすのに苦労したんじゃ」
「キャラバン?商売とかしてたんですか?」
「そうじゃよ!あの時は商会やら地主やら貴族からの依頼もあったから大儲けじゃったな。でも、膝に受けたケガとばあさんとの結婚を機に引退したんじゃ。で、そのクロスボウもそれ以来触ってもないわい。あっちなみにケガの看病してくれたのがばあさんじゃよ」
「へぇ~そうなんですね……で、大儲けした時のクロスボウってことはひょっとして結構お値段張るやつですか?」
「そりゃはそうじゃい!名匠に特注して威力に特化したクロスボウにしてもらったんじゃ、しかも弓床にレッドミスリルを使っておるから三十年たっても現役で使えるんじゃ」
「そんなに高価な物でしたら引退の時に売ってもよかったんじゃないですか?やっぱり思い出とかが詰まってるからですか?」
「いやいや、売ろうとしたけど特注だし、扱いづらいから大した値段にならんかった」
売ろうとしたんだ
「じゃ行こうかい」
「そうですね」
休憩してから十五分くらいマッシュルームを背負いながら歩いてやっと村が見えてきた
「そろそろ変わろうかい?」
「……すみません」
ペルじいにマッシュルームを運ぶのを代わってもらったが、とても腰が曲がった老人とは思えないほど竹籠が体にフィットしており安定感抜群に背負っていた
「先に村長にハーピーのこと報告せんとな。換金所はあとじゃい」
「そうですね」
少し早歩きで急ぎながら、村に着くと、カエの館の前でミニバンぐらいの大きさの白狼がいて、かなり近くで見ないとわからないが、白髪と白狼の毛が同化している村長が中に埋もれていた
「お~い!村長!待ってくれい!」
「なんじゃ!カスペル!もう出発するんじゃ!」
「ちょいと話を聞いてくれい!」
「だから早く言わんかい!」
「さっきまでマングローブゴリラの狩りをしとったんじゃが、狩りの途中でハーピーに出くわしたんじゃ」
「ハーピーじゃと?このあたりにはおらんじゃろ」
「だから急いで戻ってきて知らせたんじゃ!」
「わかったわい!……じゃあ騎士団と調査団も派遣してもらわんといかんな」
「あっ!ちょっと待ってくれい!」
「なんじゃ!まだなんかあるんか!」
「マングローブゴリラのことなんじゃけど、通常のやつよりかなり巨大化しとったんじゃ!何か悪い前触れじゃなきゃいいんじゃが」
悪い前触れ?フラグみたいなこと言うな
「わかった!それも伝えるわい!」
「頼むよ!村長!」
「じゃ行ってくるわい!」
そういうと村長はフワフワで柔らかそうな毛の中に埋もれた。と同時に風も吹いてないのにダイアウルフの毛が風に吹かれているかのように波打ち、村長が街に向かって出発した
「あの~今日、風吹いてましたっけ?」
「風?なんのことじゃ?……あ~!風よけ魔法のことかい?」
「風よけ魔法?」
「なんじゃ、自然魔法のことも忘れとるんか?」
「自然魔法?」
「そうじゃよ!誰でも使える簡単な魔法のことじゃよ……もしかして使えないのかい?」
「使えないですね」
「まぁ後で教えてやるわい……ちなみに風よけは風の影響を受けなくなる魔法で、長距離移動するときは不可欠な魔法じゃよ」
「へぇ~」
狩りの方法が結構シンプルなやり方だったので、魔法については半信半疑だったが、やっぱり存在はしているみたいだ
「じゃあ換金所へ行くとするかい?」
ペルじいについていくと、村の市場みたいなところの奥に天秤ばかりが数個天井から吊るされている屋台みたいな建物があった
「ここが換金所ですか?」
「そうじゃ!さっそく見てもらうとするか」
「おう!ペルじい!今日はどんな獲物なんだ!」
白髪交じりの角刈りでガタイのいい男性が、竹籠から今日取ってきたマッシュルームを取り出して、巨大な秤に乗せて重さをはかり始めた
「こりゃあまたでかいバンシーマッシュルームじゃな!」
「そうじゃろ!このあんちゃんが仕留めたんじゃ!」
「あんちゃん若いのにすごいね!」
「いえいえ、二人で仕留めました」
「う~ん、さすがペルじいじゃな!ガス抜きが完璧じゃ!」
「そうじゃろ!やっぱり長年の積み重ねに狂いはなかったわい」
そういうと角刈りおじさんはマッシュルームのにおいを嗅いだ。高級食材にもなるというバンシーマッシュルームだからこその査定なのか
「う~ん、ちょっと待ってくれよ。今値段出すからな」
「いい値段になりそうじゃな」
「だといいですけどね」
「う~ん……70万エレクといったところかな」
「ひょ~!こりゃたまげたわい!」
この世界のお金の相場がわからないもので最初はあまり驚いてなかったが、ペルじいいわく、9週間くらい働かずに暮らせるらしいから結構な儲けになったみたい
「大儲けじゃな」
「やりましたね」
「う~ん……じゃ、あんちゃんには40万エレクじゃ」
「えっ?取り半で大丈夫ですよ」
「遠慮せんでもよいわ、あんな巨大なマングローブゴリラワシ一人で仕留めれるわけがなかったんじゃ、これくらいさせてくれい」
「なんか……申し訳ないです」
「ええんじゃ気にすることないわい」
「ほんといいんですか?」
「ええんじゃ!後、そのクロスボウも新しい相棒を見つけたようじゃな」
「いやいや!こんな思い出が詰まったものもらえないですよ」
「ええんじゃ!思い出は詰まっとるがもうそいつを扱う体力もないからのう。そいつもタンスの肥やしになるより使ってもらった方が幸せじゃろ、」
「すみません、こんなに豪華な物」
「気にせんでええわい」
運よく、しばらく暮らせるお金と赤黒く光るクロスボウ手に入れたことだし、このまま、自然魔法とやらもちょちょいっと身に着ければ結構楽勝に生活できるかもしれない
「あの~後で魔法も少し教えてもらえないですか?」
「そうじゃな、館に指導書とかが置いてあるから、ご飯の後に行くとするかい?」
「わかりました」
「ばあさんが待っとるから帰るとするかい?」
「そうですね。急いで帰りましょう」
ペルじいと一緒に帰ると、ペルじいの家の煙突からモクモクと煙が上がっていて、香辛料が強めのおいしそうな香りがあたりに漂っていた
「帰ったぞ!ばあさん」
「おかえりなさい。お二人さん」
「聞いてくれや、ばあさん、あんちゃんが初めてワシのクロスボウを扱ったのに巨大マングローブゴリラを仕留めたんじゃ」
「それそれは大変でしたね、しかもじいさんのクロスボウで」
しばらくペルじいの狩りについてのマシンガントークが続いて、やっと食卓のテーブルについて夕食が始まった
「今日はサソリ芋かい?」
「そうじゃよ。珍しくサソリ芋と山鳥の肉が安かったから、芋は蒸かして、山鳥はスパイス煮込みにしたんじゃ」
食卓にはカレーに似た山鳥のスパイス煮込みとおそらくサソリのしっぽに似ているからサソリ芋と名付けられた蒸かし芋が並んでいた
「さすがばあさんじゃい、何を作らせてもうまそうじゃい!」
「さぁ、じいさんがしゃべりだす前に食べておくれ」
「じゃ、あいただきます」
蒸かしたサソリ芋を山鳥のスパイス煮込みにつけて食べてみた
「うぉ~相性抜群ですね」
甘味がなく、食欲をそそる香ばしい香りがするサソリ芋はそのままではあまり味がなくおいしくなさそうだが、主食としてスパイス煮込みの味を抜群に引き出していて絶品の組み合わせでカレーとナンの組み合わせに近い感じだった。
「じゃ風呂に入ったら館に行くかね」
「そうですね」
「もう夜なのに館に何しにいくんだい?」
「あんちゃんに自然魔法を教えるんじゃ」
「わざわざ夜にやらんでもいいんじゃないかい?」
「早く覚えれば狩りにも役立つし、早い方がいいじゃろ」
「そうなのかい?」
「じゃ、後で呼びに行くわい」
「わかりました」
家に帰ってお風呂に入ろうと思ったが、当然といえば当然だが、蛇口をひねればお湯など出てくるわけなく、バスタブに水をためて火打石で薪に火をおこしてお湯を沸かさないといけなかった。めんどくせぇ
「お~い、元気にやってる?」
「はい!一応元気です」
「さっきの狩り見たけど、うまくやっていけそうじゃん」
「そうですね、運よくいい人に会えたみたいなんで」
「まぁそんだけ順調ならしばらく心配いらないかもね」
心配ねぇ、してくれてたんだ
「あの~これからお風呂入るんですけど……」
「入るんですけどって?入れば」
「だから今から脱ぐんで……なんか見られてる気がして」
「あっ私のことは気にしなくていいよ」
気にしなくてって、こっちが気になるんだけど
「ていうか心配しなくてもお前ごときの身体で何にも思わねえから、とっとと風呂入れよ」
「すみません」
結局、蘭子さんとの通信は途切れて、心おきなく風呂には入れたが、そういえば着替えもないから同じ服を着ることになるのか、早く買わないとなあ
「お~い、準備はええかね?」
「は~い、今行きます」
ペルじいと二人で館の中で初心者用自然魔法の教本を探していたところ、こっちの世界の文字ではない身に覚えがある文字で書かれた本を見つけた
「あ~あったあった、これじゃ、さあやるぞ……どうしたんじゃ?」
「あの~この本ほかの本と文字が違いますよね」
「そうじゃな、今でも何の文字かわかっとらんよ」
俺が手に取った本には日本語で『薬用植物調合大全』と毛筆のような文字で書かれていた
「あの~これ読めるかもしれません」
「そうなのかい?セイシュウ大師が薬草の調合について残した書物らしいんじゃが」
「そうですね、合ってると思います」
「じゃっ、あとで呼んでもらうとして、早速、自然魔法やってみるかい?」
「そうですね、お願いします」
「じゃあ、まずは発火魔法じゃ、指先から火をを発生させる魔法じゃ、これで火打石もいらんようになる」
「便利ですね」
「やり方は全身の熱を指先に集めるようにイメージするんじゃ、で、熱が集まったと思ったら火おこしの時と同じように空気を送ってあげると火が出るんじゃ、行くぞ、フーーッ!」
ペルじいが指先に息を吹きかけるとこぶし大の火の玉が出てきた
「お~すごいですね」
「あんちゃんもやってみ」
ペルじいに言われた通り、体中の熱を指先に集めるイメージをして、思いっきり息を吹いた
「……まぁ最初はそんなもんじゃ」
巨大な火の玉が出る予想だったが、ろうそくの先っちょくらいの火の玉が出ただけでものすごくショボかった
「何かに火を点けるくらいだったら問題ないじゃろ」
そのあとも続いて空気中から水分取り出す水生成魔法と指先から光を出す発行魔法を教えてもらったが、何せ初心者なので、おちょこ一杯分の水と電池が切れかけの豆電球くらいの光しか出せなくてやっぱりすごくショボかった
「最初はだれでもこんなもんじゃい、気にすることないわい」
「鍛えれるもんなんですか?」
「自然魔法は魔力はほとんど使わずに、身体エネルギーと自然エネルギーを素にして発動されるんじゃが、あんちゃんはまだ体が自然魔法を使うエネルギーの流れに慣れておらんから使っていくうちによくなるんじゃないかのう」
「身体エネルギーと自然エネルギーを素に魔力は使わないってことは……使い放題ってことですか?」
「慣れるまで多用は禁物じゃ、身体エネルギーは体の栄養と同じじゃから、頭痛になったり、急な眠気に襲われたりするから今のところは一日、八発までじゃ……あと体を鍛えると身体エネルギーも強くなるから試してみてもいいんじゃないかい?」
魔法に期待とかしてなかったけど、ゲームや漫画みたいに呪文を唱えて火がブワァーとか、雷がズババババァーーンとか、水をバッシャーンとかあるのかと思ったけど、魔法の才能がある人とか特別な種族じゃなかったらそんなことはできないらしい
「そんじゃ、自然魔法も覚えたところで帰って寝るかのう」
「あっちょっと待ってください、帰る前にさっきの本読んでみてもいいですか?」
「謎文字の本かね?」
謎文字ってもうちょっとネーミングセンスなかったかな
「で、何が書いてあるんじゃ?」
「薬草の名前はこっちの言葉ですけど、調合法と量などが向こうの言葉ですね」
「向こうの言葉?どっちの言葉じゃ?」
「……どこの言葉かわからないですけど薬の調合法が書かれていますね」
「あんちゃんすごいね、村に伝わる話では、セイシュウ大師がいなくなった後、エルフの言葉かもしれんということでエルフを村に呼んだり、古代文字や亜人種を研究してる人に解読してもらおうといろいろやったみたいなんじゃが、どれもまったくわからんかったようじゃ」
「……これなら調合法を再現できるかもしれないですね」
「明日にでも協力してくれそうな暇な村人を集めて調合してみるかいのう」
「そうですね」
「でもせっかく一儲けしたんじゃから街の方でも行ってみんか?調合はそのあとでもええじゃろ」
「そうですね、生活に必要な物とかも買いたいですし」
「それで決まりじゃな」
「街がどうな感じなのかも気になりますね」
「街は大木からのう。歩いて一周するだけで半日かかるわい」
「じゃあ、必要な物だけ買って帰ります」
「早速、明日の馬車を準備するわい」
「えっ?ダイアウルフじゃないんですか?」
「あれは緊急用じゃからな」
ペルじいと館を後にして、家で数回発火魔法の練習をしたのだが、立ってられないくらいの眠気襲われたので、固めのベッドで寝心地最悪だったがすぐに眠りについた