『森の未亡人』
今度は、着衣の状態でソファーに転送されたみたいだ
「あら、お久しぶりね」
膝まで伸びたサラサラな緑色の髪。つやっぽい垂れ目な目元にぷっくり唇。民族衣装っぽいチューブトップワンピースからはみ出る殺人的な胸部。レースアップブーツの足元にスカートからのぞかせるセクシーな太もも。誰?このきれいなお姉さん
「どうしたの?キョトンとして」
「……えっと、どこかでお会いしましたっけ?」
「どこかでお会いしましたっけだって。ねぇママ」
ママ?
「ご主人は、記憶力が良くないから仕方ないよ」
シャイナがママ?
「もう、しょうがないな、パパは」
パパ?俺のこと?元の世界では一応、童貞はずなんだが
「シャイナの知り合い?こちらの方」
「もう、ご主人なに言ってんの」
「何って、初めてなんですけど、このきれいなお姉さん」
「ねぇ、ママ聞いた?きれいなお姉さんだって」
「もう、僕のことはほめてくれないのに、なんでドーラは簡単にほめるの?」
ドーラ?確かに蘭子さんが順調すぎる成長って言ってたけど
「これもしかして、ドーラ?」
「そうだよ」
ドーラは雌でも雌しべでもなく、女性になっていた
「親、あんなにブサイクだったのに?なんでこんな……アメリカのエロ本みたいなお姉さん」
「僕に聞かれても、ねぇドーラ」
「なんでこんな身体なのかは自分でもわからないわよ。あっもしかして、パパの好みと違った?」
「違くないけど、あの~好きですけど」
「じゃあ、ここままの姿でいるわね」
「ねぇ、ご主人」
「なに?」
なぜだろうシャイナが怒ってる
「大きけりゃいいの?」
「えっ?そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、なんでドーラにだけ、きれいだとか、好きだとか言うの!」
「いや~……その」
「もう朝ご飯作ってあげないから」
すねるシャイナを十分間説得して、三人で朝食を食べた。成長期が終わったのか、ドーラの食欲は大幅に減っていた
「ご飯も食べたし、掲示板見に行くか」
掲示板を見に行こうと玄関を出たら、家の正面に旅館の個室露天風呂みたいな桶から三メートルくらいの木が生えていた
「こんな木、生えてたっけ?」
「これ、私の本体だから、心配しなくてもいいよ」
「本体?」
「うん、今の私がやられても、この木から新しいのが出てくるの」
「じゃあ、この木がやられたら、ドーラが死んじゃうってこと?」
「また、新しいのを生やせるから心配いらないわよ」
「もしかして、不死身?」
「限りなく不死身になるわね」
「でも、親は目が弱点だったよね」
「私も両方いっぺんにやられたら死んじゃうよ。あと、弱点も目だし」
「そうなんだ」
ドーラの疑問が解決したところで、掲示板に行こうとしたけど、桶の後ろに隠れて、アーモンドチョコが山盛りに積まれていた
「あの~これもしかして」
「私の排泄物だけど」
やっぱり、ドーラのうんこだった
「なんで家の前に?」
「知性マンドラゴラの排泄物は最高級の肥料になるらしいから、村のみんなのためにここにためて、持っていきやすいようにしてる」
「家の前でうんこしてるってこと?」
「人通り少ないから、ここでしちゃってるね」
ドーラに今度から仕切りをするように言ってから、掲示板に向かった
「相変わらず、依頼がないな」
近くの森が封鎖なので、掲示板は閑散としていた
「ねぇご主人、これは」
シャイナがとった依頼書には『謎の飛行型モンスター退治』と書かれていた
「正体はわかっていませんが、飛行型のモンスターがキャラバンを壊滅させました。これ以上被害が増える前に調査と退治をお願いしますだって」
「怖くない?これ」
「でも、報酬結構高いよ」
「ん?成功報酬はモンスターの種類によって、上限百万まで用意しています?」
「ドラゴンかもしれないわよ」
「ドラゴン?強くない?」
「騎士団レベルの事件だね」
「じゃあ、騎士団に任せようぜ。俺らがでしゃばるとこじゃないよ」
「それじゃあ、他にマシな依頼ないよ」
「ほら、調査だけでも報酬出るみたいだし、いいんじゃないの」
金に目がくらんだメイドとペットに押し切られて、調査を引き受けることにした
「ところで、ドーラは何で戦うの?」
「肉弾戦と咆哮で戦うよ」
「咆哮って、やっぱり、人殺せるレベル?」
「調節できるから、今は最大で五人の人間の胴体に風穴開けれるレベルかな」
「えっ?そんなに威力あるの?」
「まぁね、あと、ママの近くで育ったせいで、魔法もぼちぼちできるかな」
「へぇ便利だなマンドラゴラって」
「じゃあ、弁当作っていこうか」
「そうだね、作ってくるよ」
ピクニック気分でキャラバンが襲われたという針葉樹の森に向かって出発した
「着いたね、針葉樹の森」
「さて、どうしようか」
ペルじいがいないから、全く策を考えてきていない
「キャラバンの跡地を探すのがいいんじゃないかしら」
「そうだな、そうしよう」
とりあえず、襲われたというキャラバンの残骸を探すことにした
「どうやって探そうか」
「私、狼並みに鼻効くからついてきて」
ドーラの嗅覚のおかげで、キャラバンを見つけるのは苦労しなかった
「これはまたむごいことになったな」
キャラバンが壊滅したと依頼書に書いてあったが、腐敗臭がする荷物にハエがたかり、死体が白骨化して、古い血であたりの地面が黒くなっていた
「屍喰らいが食べた後だね」
「燃やしてあげた方がいいのか?」
「そうだね」
「燃やせる?」
「うん、任せて」
「その前にモンスターのにおいは無さそう?」
「うん、死臭がすごすぎて、わからないね」
もしかしたら、モンスターをおびき寄せることができるかもしれないので、シャイナにキャラバンの残骸を燃やしてもらった
「飛行型って言ってたし、このあたりをちょっと調べてみるか」
「そうだね」
キャラバン回りを調べてみると、引っかき痕ある木を見つけた
「キャラバンを襲ったモンスターの爪に間違いなさそうだね」
そこの冴えない顔のお方
何かに呼ばれた気がした
こっちですよ。冴えない顔のお方
声がする方を向いてみると、巨大な傘のような木の根元に苔が生えている岩があった。と思ったが目がついている。そして、目を凝らしてよく見ると犬のようにお座りしているグリーンドラゴンだった
「でっ出たー!ドラゴンだ!二人とも逃げろー!」
俺がクロスボウを向けると同時にシャイナとドーラもドラゴンの方を見たが、きょとんとしていた
「どうしたの?」
「えっ?あれ!あれ!ドッドラゴン!ほらっ岩みたいだけど、ドラゴン!」
「何もないけど」
「何もないわよ」
やはり、見えているようですね。冴えない顔のお方
俺にしか見えていないようだ
まぁそんなに興奮なさらないでください。さぁ武器を下ろして、こちらに近づいてきてください
敵意は無さそうだったので、言われた通り近づいて、見てみると後頭部から生えた二本の角はいかつかったが、黒目が白濁していて、かなり高齢なドラゴンに見えた
では、幻覚を解きますね
やっと二人にもドラゴンが見えたようで、かなりびっくりしていた
「改めましてこんにちは、冴えない顔のお方と、かわいい赤毛のお嬢さんと、豊満マンドラゴラさん」
「こっこんにちは」
「先ほどは驚かせて、申し訳ありませんでしたね。私はこの森に住んでいる竜のメリジーナと申します」
「メッ、メリジーナさん?」
「普段は幻覚の結界を張って生活しているのですが、何か神聖な物のせいで冴えない顔の方には見えてしまっていたようですね。そして、冴えない顔の方そんなにおびえなくても、大丈夫ですよ。食べたりしませんから」
突如、森の中に現れた竜は、すごく上品な方だった
「ところで、冴えない顔のお方なんで」「あの、タツヤと申します」
「これはこれは失礼いたしました。マツヤさん」
牛丼屋になった
「あっ違います。タツヤです」
「すみません。ヤオヤさん」
「あのタツヤです」
「もう、ご主人しつこいよ」
俺が悪いの?
「そうよ、冴えない顔のお方でいいでしょ」
「では、冴えない顔のお方、今日はどういったご用件でこちらにいらしたんですか?」
「う~ん……キャラバンが襲われたので、モンスターの退治で来ました」
「モンスター退治ですか……この森は比較的平和な森なのですが、どんなモンスターなのですか?」
「まだ飛行型としかわかってないんですよ」
「飛行型ですか……そうなると、私が疑われるかもしれませんね」
「メリジーナさんはキャラバンを襲った記憶はないですか?」
「もう、ご主人失礼だよ」
「そうよ」
「いいのですよ。私を疑うのも仕方ありませんが、私はこう見えてもベジタリアンなので、人間を襲うことはありません。かつての恋人も人間の方でした」
「かつての恋人?」
「今もそちらにいますよ」
メリジーナの目線の先を見ると、傘のような木の幹に埋め込まれるように骸骨があった
「なんというか、細身で色白ですね」
「生きてた時は黒く焼けた肌が素敵な方でしたよ」
「……ハハッ」
「でも、本格的に王国が動き出したら、私もここに住みにくくなりますね」
「メリジーナさん無害じゃないんですか?」
「王国の人もお三方みたいに話を聞いてくれればいいんですが、そういうわけにはいかないので」
「大変ですね」
「仕方ないですよ。私は人間にとってバケモノの類なので」
「そんなことないですよ」
「では、少し時間がかかりますが、森のみんなに調査を手伝ってもらいましょうか」
「助かります」
森の動物たちが調査している間、メリジーナさんとお弁当を食べることにした
「メリジーナさんはなんで、この森に住んでるんですか?」
「遥か昔に故郷を追われてからですね」
「故郷を追われた?」
「私はグリーンドレイクと呼ばれる種類で、故郷のみんなはほかの動物や人間を食料としていましたが、私は人どころか、動物でさえも殺めることができなかったので、しびれを切らした族長に追放されてしまいました」
「ひどいですね。族長」
「生きるためなので、仕方ないですよ。人間を殺めなければ、こっちが狩られてしまいますからね」
話を聞いてみると、メリジーナさんは故郷を追放されて、静かなこの森に住むことなって、そして、この森で百年くらい前に隣にいる恋人と出会ったという
「どんな人だったの?その骨の恋人」
「出会ったときは、傷だらけでした。そのボロボロな姿を見かねて、私が食べ物を分けてあげたのが、最初の出会いです。そして、話を聞いてみると彼は何もかも捨てて、復讐を遂げた直後だったみたいで、顔に精力がなく、故郷に戻ることも許されず死ぬ準備をしていたみたいね」
「復讐?むなしいよね」
「そうですね。彼も後悔していたみたいで、帰る場所がないから、ここにいてもいいですよって言ってあげたら、快く、承諾しましたね」
「でも、竜と人間って、恋できます?その恋人さんはお肉も食べますよね」
シャイナとドーラが呆れた顔で俺を見ていた
「ホンットダメだね、ご主人は」
「えっ何が?」
「そうよ」
「恋に種族も年齢も関係ないんだよ。愛があればいいんだよ」
「そうね。だから、人間のパパがマンドラゴラの私に欲情しても、愛があれば関係ないってこと」
「ねぇ!ドーラったらそういことじゃないでしょ!もうご主人も鼻の下!」
「伸ばしてないよ」
「伸ばしてるって言ってないけど」
「えっ?」
「鼻水出てるよ」
「あっ、そっち?」
「そっち?ほかにどっちがあるの?」
「いやいやなんでも」
騒がしいお弁当タイムも終わり、動物たちがぞろぞろと集まりだした
「どうやら、巨大なガルーダが暴れているようです」
「ガルーダ?……怪鳥の奴ですか?」
「確かにそうですけど、森のみんなによると、とても、巨大で、狂暴みたいですね」
「強いんですか?そいつ」
「護衛付きのキャラバンを全滅させるほどですから、それなりに強いと思いますよ」
「じゃあ、調査はこれで終わりだな……ちなみに、メリジーナさんがそのガルーダをバシバシっとやっつけちゃうことって可能なんですか?」
「私もぜひ、ご協力したいのですが、魔法は使えるんですけど、あいにく、高齢なもので、戦う力が皆無なのです」
にわかには信じがたいが、メリジーナさんは成人男性に負けるほど戦闘力らしい
「じゃあ、調査報酬だけもらおうか」
「ダメだよ」
「少ないけどしょうがないじゃん」
「ご主人さぁ、話聞いてた?」
「聞いてたけど」
「このまま、ガルーダの調査報告をあげたら、どうなると思うの?」
「えっと……凄腕のハンターが来るか、騎士団を呼ばれる?」
「で、どうなるの?」
「ガルーダをズコバコに倒す?」
「だけじゃないでしょ」
「ん?」
「メリジーナさんが見つかったら、どうなるの?」
「ビビる?」
「退治されちゃうかもしれないでしょ」
「そうなるね」
「じゃあ、どうするの」
「今のうちに退治する?」
「だよね」
「はい」
というわけで、ガルーダ狩りが始まった
「でも、ガルーダの情報はないの?」
「森のみんなによると、ガルーダは動きが早い上に、鉄板くらいなら簡単に貫通する爪と嘴を持っていて、羽が特殊で、魔法が効かないみたいですね」
「今回もクロスボウだよりだね」
「そうみたいだな」
プレッシャーだな
「でも、動きが早いって言ってるし、どうにか、動きを止めないとな」
「それなら、私に任せてよパパ」ドーラが久しぶりに口を開いた
「肉弾戦は厳しくない?鉄板くらい貫通だし」
「一応私、限りなく不死身だし、おとりにもってこいだよ」
会議の結果、まず、ドーラがおとりになって、ガルーダの攻撃を引き付ける。そして、攻撃をしようとガルーダがドーラに近づいたら、ドーラの咆哮で撃ち落とす、そこに俺が急所の頭を狙い、シャイナが仕留めきれなかった場合、動きを止めるために翼を狙って風刃付加の矢をぶち込むという作戦になった
「では、リッキー隊長が案内してくれるみたいですよ」
森の自警団の隊長だという葉っぱの帽子をかぶったリスのリッキーが、ガルーダの近くまで案内してくれるらしい
「よろしくね。隊長」
「チュー!」
「大丈夫か?これ」
「チューーーー!」
「失礼な!お前こそガルーダを見て腰を抜かすなよ!だって」
「うるせぇよ!お前こそ俺の華麗な狙撃に腰抜かすなよ」
「チューーー!」
「黙れ!間抜け面!だって」
「うるせぇよ!小動物ごときが!人間にたてつくんじゃねぇよ!」
「チューーーーー!」
「ねぇ、もう行こうよ」
俺としたことが、小動物相手に大人げがなかった
「そうだな。行こうか」
「ガルーダ狩りが終わったら覚えてろよ!だって」
無視無視
「じゃあ、そろそろ案内いいですか?隊長さん」
「チュッ!」
「ついてこいよ。間抜け面の一同だって」
反論する気もないので、この生意気小動物には無表情攻撃をしてやった
無駄に胸を張った小動物についていくと、折れた木が点在する森の奥に入った
「チュー!」
「この近くらしいよ」
「じゃあ、私がおびき出すよ」
ドーラが開けた場所に出て、ガルーダをおびき出す間、ドーラから離れた狙撃しやすそうな場所を探して、待ち構えることにした
「じゃあ、エンチャント魔法かけとくね」
「うん」
シャイナがエンチャント魔法をかけ終わったと同時に、森の奥からバキバキと木が折れる音がして、一軒家くらいの大きさの茶羽の怪鳥が現れた。そして、目の前の障害物をなぎ倒しながら、一直線にドーラへと向かっていった。飛んでる前提の作戦が早速が出合い頭でくじかれた
「もうすぐだよ。ご主人」
「わかってる!」
ガルーダが短い脚でドーラに五メートルまで近づいたところで、ドーラが大きく息を吸い込んだ
ギャーーーーーーーーーーー!
咆哮は見事ガルーダに直撃し、動きを止めることに成功したが、咆哮の威力が広すぎて俺の動きも止まった
「ねぇご主人!しっかりして!」
ヤバイ!ドーラがやられる!
「ちょっと待って……今、狙う」
目の焦点が合ってない状況で放った矢は、もちろんガルーダにはかすりもしなかった
「ねぇ!ドーラが!」
震えた手で次の矢を装填している間にガルーダはドーラを嘴でつかんで飛び立とうとしていた
「クソー!待てよオラァ!」
追加で放った二本の矢は飛び立ったガルーダの翼に命中した。そして、勢いのまま木々をなぎ倒し墜落した
「見たか!コノヤロー!」
咆哮からも回復したので、さらに追加で放った二本の矢はガルーダの眉間を打ち抜いていた
「おーい!ドーラ!大丈夫か!」
「どうしたの?パパ、汗だくで」
ガルーダの嘴でボロボロにやられているって思っていたが、全くの無傷だった
「ドーラさっきガルーダに咥えられていたよな」
「うん」
「ケガとかは?」
「大丈夫だよ」
「大丈夫なの?」
「植物だし」
「そういうもんなの?」
「痛みも感じないし、致命傷以外なら一瞬で治るよ」
「そうなの?」
最大火力の咆哮を使った後はしばらく力が入らなくなるらしくて、それでガルーダに捕まっていたみたい
「じゃあ、羽ちぎって帰ろうか」
「帰る前にメリジーナさんのとこよってこうよ。リッキー隊長にもお世話になったし」
「う~ん、そうだな」
メリジーナさんのところに戻ると森の小動物たちが集まっていた
「あら、皆さんお帰りなさい。無事ガルーダ退治お疲れ様です」
「ねぇメリジーナさんちっこいのがいっぱい集まってるけど、何があった?」
「皆さん、ガルーダが退治されて喜んでいるんですよ」
「みんな喜んでるって」
「そうだな」
「今日はもうすぐ日が暮れそうなですが、どうですか?一晩泊まっていきませんか?」
「でも、森ですよね。泊まれます?」
「森の皆さんが枯草のベッドを用意してくれていますよ。ご飯は木の実と果物しかないですが、どうですか?」
「せっかくですけど、皆さんでッ」
「いいの!メリジーナさん!」
「はい、もちろんです。お三方には森の危機を救っていただいたんですから、遠慮しないでください」
「いや~でも……」
「ねぇご主人泊まってこうよ」
「そうね、ドラゴンと寝れることって中々ないわよ」
「どうですか?冴えない顔のお方」
「えっと……泊まります」
「やったー!」
そういうと、肌荒れしかしなさそうな枯草のベッドにアルプスの少女シャイナが飛び込んだ
しばらく、森の小動物たちとシャイナ、ドーラが戯れていると、完全に日が暮れていた
「皆さんそろそろご飯にしましょうか」
大きな葉っぱのお皿に木の実という絵本みたいな晩ごはんが始まった
「ねぇメリジーナさん、そこにいる恋人はどんな人だったの?」
「ヒゲが素敵なたくましい方でしたよ」
「どうやって出会ったの?」
「元々私がこの森に住んでたところに死に場所を探すように彼が現れたのが始まりですね」
「死に場所を探すように?」
「そうですね。ある詐欺師集団に奥さんと娘さんを殺されて、五年かけて、一人ずつ探し出し、全滅させた直後でこの森にたどり着いたのですよ」
「怖くなかった?」
「怖い?もう今にも死にそうな目をしていましたから、怖いって感じはなかったですね」
「でもさぁ、そんな物騒な人なんで一緒に暮らそうとしたの?」
「ドラゴンの私を怖がらなかったですかね。まぁ、彼は俺のことをかみ殺してくれないかって言っていましたけど、あいにく、私ベジタリアンなんで」
「そうだよね」
「で、その後に、お詫びになるかどうかわかりませんが、ここで一緒に暮らしてくれませんかって言ったら、しばらく悩んで、快諾してくれました」
「どれくらい一緒に住んでたの?」
「彼が亡くなるまで三十年ほどですね」
「今、寂しい?」
「濃密な三十年でしたので、寂しくはないですよ」
「そうなの?」
「人殺しだから来世はちゃんとしたものに生まれ変われないと思うけど、恋人じゃないくてもいいから、また、メリジーナに会いたいって言ってくれましたし、寂しくないですよ」
「素敵だね」
「できれば、何も考えなくていい木に生まれ変わりたいって言ってましたね」
「木?動けないからつまんないと思うけど」
「なってみないとわからないですよ」
「そうかもね」
向こうに帰ったら、神様にメリジーナさんの恋人が木に生まれ変われるようにお願いしてみようかな
「そろそろ寝ましょうか」
「そうだね」