『神のヒゲ』
「おはよう」
「おはようございます」
相変わらず、教壇の上から見下されていた
「じゃあ、リザルトね」
「はい」
「若干プラス、若干マイナスってとこ」
「マイナスなんかありました?」
「自覚ないの?」
「う~ん……ないですね」
「まず、一つ目、純真無垢の少女に全裸を見せつけ夜這い未遂、そして、二つ目、純真無垢の幼女のパンツをガン見するド変態痴漢」
「いやっそうですけど……って夜這いなわけないでしょ!」
「お前、今度やったら死刑だからな!」
「でも、前回、帰ってくるとき服着てましたよ。全裸が仕様なら一言言ってくださいよ。不親切ですよ」
「あ~そのことについてなんだけど、シンプルに私のミスだ」
えっ?ミス?
「設定間違えたっていうか、そんな感じだ」
シンプルにムカついた。俺に夜這いさせやがって
「じゃあ、次からは服着たまま転送されるんですね」
「そうだ」
「でも、転送場所はソファーに変えてください」
「全裸じゃないけどいいの?」
「ソファーでお願いします」
「まぁマイナスになったのは申し訳ないから、これあげるよ」
教壇から降りてきて、俺の目の前に差し出された蘭子さんの手のひらには、アメとムチのアメの意味だろうか、飴があった
「次から気を付けてくれたらいいんで、いらないです」
「まぁいいから」
こんな飴玉くらいで、夜這い未遂を許す気はなかったが、まぁ、断るのもなんだし、もらってやった
「まぁ、もったいないんで食べてあげますよ」
「なんだよ。その態度」
仕方なく食べてやったが、この世の物とは思えないほど、おいしい飴だった
「間抜け面がさらに間抜けになってるぞ」
「これ……すっごい、おいしいです」
「天界の食材で作られた天界キャンディだ」
「もう一個ないですか?」
「ないよ」
「どうしたら、もらえますか?」
「私の気分だ……言っとくけど、夜這い未遂は私のミスだけど、幼女パンツのマイナスは変わりないからな!調子に乗るなよ!」
「すみません」
「まぁ説教はこれくらいにして、朗報があるから」
「朗報?」
「そう、今、カーダ村は近くの森が封鎖されて、経済的に大ダメージ受けてるじゃん」
「まぁ、そうですね。それが朗報なんですか?」
「バカかお前!違うわ!」
「じゃあ、何が朗報なんですか?」
「話すから黙ってろ!」
「すみません」
「今、上質な薬草が取れなくて、経済的にダメージ受けてるけど、お前が昔に転送された人の薬草調合書を翻訳しただろ?」
「確かに、日本語で書かれたヤツを翻訳しましたけど」
「その翻訳でできた薬が森調査で被害を受けた騎士団で使われてる上に、王国に戻った騎士のクチコミで品切れになるほど売れてるから、村全体の売り上げは森封鎖前より上がってんだよね」
「そうなんですか?」
「だから、大分プラスなってるよ」
「それでなんか恩恵はないですか?」
「これから神様と相談するから三日後に来てよ、それまでに確定しとくから」
「楽しみにしてます」
天界の食べ物だったらいいなぁ
「今回はこんな感じで大丈夫そう?」
「あの、少し質問いいですか?」
「なに?」
「なんで俺が、この天罰に選ばれたんですか?」
「なんでって、まぁ、神様の気まぐれだね」
「気まぐれ?」
「お前は最初に神様から、天罰だって言われて、大変な思いをして異世界で善行をしているつもりなのかもしれないけど、これはお前を助けてあげてるの」
「助けてくれてんすか?」
「そう、お前は自分のしたことの大きさを実感するかもしれないけど、他の人は、間違った正義を建前に自分が人殺しだということ忘れて、また、日本の社会に馴染んで、自分のしたこと大きさも知らずに日常に戻るだろ?」
「いいんじゃないですか?別に」
「それがだめなんだよ。武力行使で維持された仮初めの平和は長続きしないからね」
「まぁ、そうですけど」
「じゃあ、もし、シャイナちゃんが戦争に巻き込まれて、敵の将軍に殺されたとします。お前ならどうする?」
「俺の命にかけて、殺したやつを殺します」
「で、殺せたとしてどう思う?」
「……何もないですね」
「何もないんだよ。結局、両方被害を受けて、新しいトラブルの火種が増えるだけだから」
「でも、どうしたら」
「その答えを探すきっかけを与えてあげることが天罰ってこと」
「答え?」
「そう答え。しかも、今、お前は神様の管理下だから、こっちの世界で命が危険にさらされることがあれば、忠告くらいはあるよ」
「助けてはくれないんですか?」
「天罰だし。まぁ、今すぐじゃないけど、数年後にはまた世界情勢が危うくなるから、それまでは安心してていいよ」
「だったら、俺以外のヤツらも天罰与えた方が、これからの世界もよくなるんじゃないですか?」
「神様はめんどくさがりだから、気まぐれでお前を救ったけど、他の奴は、まとめて天罰だね。だから、これからどんな天罰が起こるか楽しみにしててよ」
不謹慎じゃないのかな。天罰を楽しみにするの
「神様は気まぐれってことは、今、俺に痛いまなざしを向けながら、お祈りしている人たちはなんか恩恵あるんですか?」
「この人は悪いことをしてないから、残念ながらって表現が正しいかはわからないけど、恩恵はないよ」
「なんか、かわいそうですね」
「まぁ、お祈りすることで悪いことをする抑止力になっているなら、それはそれでいい恩恵になってるんじゃない?」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんだよ。見返りがないからって、お祈りをしない理由にはならないよ」
「そりゃそうですけど」
「じゃあ三日後待ってるよ」
「わかりました」
それから、三日間、朝からランニング、腕立て、腹筋、夕方からネットリサーチという日常を過ごし、恩恵をもらうため再び教会に行った
俺はいつも通り教会のベンチに座って、教会の教壇にはいつも通りの蘭子さんと、珍しく神様がいた
「よっ、お久しぶり、えっと……」
「タツヤです」
「そうだった、カツヤちゃんね」
「タツヤです」
「まぁ、今日来てもらったのは、ご存じの通り、ご褒美をお渡しします」
「首を長くして待ってました」
「そう言ってもらえると俺も抜かれがいがあるってもんだよ」
えっ?抜かれがい?抜くって下ネタじゃないよな
「な~に変なこと考えてんの」
蘭子さんが眉間にしわを寄せながらこちらを見ている
「まぁ、いいからこっち来いよ」
「変なことしないですよね」
「これ以上神様に失礼なこと言うと殺すぞ!」
「すみません」
身の危険を感じながら神様に近づいた
「じゃあ、一本抜いていいよ」
「えっ?」
「髭だよ」
「……じゃ、失礼します」
言われた通りに、神様の髭を一本抜いた。根元からキレイに抜けたが、痛かったのか、神様は少し涙目になっていた
「じゃあ、これご褒美」
「これが?」
「うん、俺のヒゲ」
天界中華のフルコースを期待していたが、結果、白い縮れ毛だった
「神様のヒゲ?」
「神様のヒゲがもらえて良かったな」
「じゃあ、俺は天罰で忙しいから、もう行くわ。後の説明はよろしくね」
「わかりました。お任せください」
やっぱり神様はUFOにさらわれていった
「あの~これ何の役に立つんですか?」
「それ、神様の一部だったものだから、この世でも、あの世でも、最強の魔除けになるんだよ」
「魔除けですか」
「持っておくだけで、お前に災いは降りかからないってこと」
「お守りみたいなもんですか?」
「まぁ、そうなるね。しかも、向こうの世界では持ってるだけで瘴気毒が効かなくなるから」
「これ、向こうに持っていけるんですか?でもどうやって、身に着ければいいですか?パッと見、長めの陰毛ですよ」
「お前、ほんっと失礼だな」
「すみません」
「手首でミサンガみたいに結んどけよ」
ほかに身に着ける方法が思い浮かばなかったので、手首に結んだ
「似合ってるよ」
「ありがとうございます」
ホワイト陰毛ミサンガという前衛的ファッションがこの世に生まれた。向こうの世界でも受け入れられればいいけど
「あの~気になったんですけど、俺、神様と初対面の時、お久しぶりって言われて、今回も顔も覚えられてないのにお久しぶりって言われたんですけど、神様、年取りすぎて、ぼけたんですか?」
「あっそれ?時間の概念が違うから、ただの口癖だよ」
「蘭子さんに会う時もお久しぶりなんですか?」
「そうだね、お前は年取ったら時間が止まるけど神様の時間は限りなく永遠だから、いちいち気にしないんだよ」
「限りなくってことは、いつかは」
「わかんないね」
「わかんないですよね」
「お前も暇そうだし、向こうの現状も教えとこうか?」
「そうですね。お願いします。暇じゃないですけど」
「まず、森の異変なんだけど、聖道士の力を借りて黒い塊の動きを止めたみたいだから、これ以上の被害は出無さそうだね、しかも、確定ではないけど正体も分かったみたい」
「まだ、退治されてないんですね」
「瘴気毒を使うヤツは手ごわいからね、騎士団の被害も甚大だから、慎重になってるんだよ」
「で、何が正体だったんですか?」
「ブラックハンズと呼ばれるネクロマンサー集団の残党かもしれないって」
「残党?」
「十年前に王国挙げての掃討作戦で消滅したみたいだけど、生き残りが暴走してるみたいだね」
「国を挙げてって、結構、大ごとですね」
「お前は知らないと思うけど、王国を恐怖の渦に巻き込んだ集団だよ」
「ブラックハンズって、なんかかっこいいですけど」
「あんまり、いいもんじゃないよ」
「手が黒かったから、ブラックハンズですか?」
「そうだけど、手が黒くなった理由がヤバいんだよ」
「タトゥーとかじゃないんですか?」
「違うわ!人肉食べて黒くなったんだよ」
「人肉?」
「そう、最初に王国で、魔術の才能がある人の失踪が増えて、調査してみると、カルト集団のブラックハンズが出てきて、さらに調査すると、魔力を増幅させるために魔力持ってる人を食べてたらしい」
「世界が違うとすごいですね」
「しかも、このカルト集団の流儀として、素手でなければ食事をすることは許されないっていうのがあって、手に血が付いたまま、死霊術をしていたから、血と術が反応して、団員の全員の手が真っ黒だったらしい」
「すごい化学反応があるもんですね」
「まぁ、どんな敵か、わかったから、退治されるまで、もう少しだと思うよ」
「だといいんですが」
「で、隣のおじいちゃんなんだけど、年寄りの骨折だから、治るまでかなり時間がかかりそうね」
「ちゃんとおとなしくしてます?」
「してないね」
「ですよね」
「まぁ、大きい報告はこんな感じかな」
「シャイナとドーラは元気にしてますか?」
「問題ないよ。ドーラについては順調すぎるくらいに成長してるよ」
「あの食欲ですからね」
「家計が大変になりそうね」
「拾ったからには責任持ちますよ」
「それと、お前の翻訳した薬がなかったら、騎士団は早々にやられて、今頃、村が襲われて、大変のなことになっていたから、ちょっとだけプラスになってるね」
「それはよかったです」
「後、私の経験から言うけど、大体、順調な時に大変なことが起こるから、まぁ、慎重にね」
忠告していただいたが、自分でも順調すぎて、なんとなく嫌な予感がする
「わかりました。じゃあ土曜の朝に」
それから、運動とネットリサーチの二日を過ごして、またまた土曜の朝になった
「おはよう」
「おはようございます」
「今週も無事にいくといいけど」
「変なこと言わないでくださいよ」
「今週も無事にいくことを祈ってるよ。の方が良かった?」
「どっちもいらなかったです」
若干の不安を抱えながら、またまた、光に吸い込まれた