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五日目 昼

湧水を源流とした小川の近くに来るとリンが小声で僕に注意を促す。

「妖一、ここの湧水は栄養価が高いおかげか苔がよく育ってるから魚が沢山いるの、だから少し下の方から前みたいに魚を追い込みましょ」

「ここの魚はどんな味なんだろ」

「私は食べた事ないけどかなり美味しいらしいわよ、特に卵を抱えた奴なんて最高らしいわ、けど今の時期じゃまだ卵は無いわね、その代わり今が旬よ」

僕のお腹が鳴ると同時に白のお腹も鳴る。

「・・・あんた達どんだけ食いしん坊なのよ」

「リス、魚、木の実どれも楽しみだなぁ」

「まぁいいわ、川の水は冷たいから気合を入れて捕まえるわよ!」

僕達は布の端を足の先に括り付けもう一方の端を手でつかみ追い込んで行く。

「足元気を付けないよ?苔で思ったより滑るわ」

リンが言う通りちょっと気を抜くと転んでしまいそうだ。それにしてもこの魚見覚えがある。

「ねぇリンちょっと聞きたいのだけど、この魚ってなんて言う名前なの?」

「今聞かなきゃ駄目なの?滑りそうだから集中してるのに予想外の返事が来て転ぶところだったじゃない」

「ごめん。気になっちゃって」

「まあいいわ、確かあゆとか言ったと思うけど?」

見た事があるとは思ったけど名前まで一緒なんだね・・・。

「やっぱり鮎って言うんだね」

「知ってるなら聞かないでよ」

「前の世界でもいた魚だから名前も一緒なのかなって思って」

「あら、そんな事もあるのね」

「そうだね」

「そんな事よりも今は捕まえる事を考えなさい、今さっき一匹布に触れたのに入らなかったわよ」

いつの間にか鮎が昇って行けない程浅い場所まで来ていた。

「ごめんね」

「さっさと追い込んで捕っちゃうわよ」

「分かった」

そのまま追い込んで前にいた鮎を10匹程を収納する。

「早速焼きましょ、2匹出して」

「鮎は塩焼きがいいと思うよ」

鮎と塩をリンに渡す。

「妖一、私は内臓も一緒に食べようと思うけどあんたどうする?嫌なら掃除するけど」

「内臓って苦いから嫌いなんだよね」

「あれがいいんじゃない。まあいいわちょっと待ってなさい」

リンの分の鮎は生きたまま串に刺し塩を塗すだけと言う漢らしい食べ方に比べ僕用に鱗と内臓を取り頭まで落としてくれる。

「わざわざごめんね」

「たいした手間じゃ無いから気にしなくていいわよ」

串に刺した魚を火の傍で焼き、その間にリスを捌き肉を綺麗に取ると鍋で焼いていく。

「リンは何でも出来るんだね」

「そんな事ないわ。出来る事だけよ?それにこの位出来なきゃ1人暮らしなんてできないわ」

「そう言えばその木の実はどうやって食べるの?」

「焼いても良いけど、焼いた物ばかりだと飽きるし汁物にしましょうか」

リスの肉が焼けた後少し残し皿に移す。鍋に先程落とした鮎の頭と木の実を入れ少し炒めた後水を入れ煮る。

「鮎の頭も入れるんだね」

「何言ってんのよ。食べられるんだから食べないと魚に悪いでしょ」

「それもそうだね」

「そうよ、だからこの頭はあんたのよ」

「シロ、鮎の頭あげるね」

白を撫でながら言うとリンに突っ込まれる。

「あんた、それはあげるって言うんじゃないわ」

「おいしく食べられる人が食べた方が鮎も喜ぶと思うんだ」

「もっともらしく言ってるけど食べたくないだけでしょ」

「・・・うん」

「まあいいけどね、そろそろいい頃ね」

見ると鮎から脂が落ち美味しそうな匂いを辺りに漂わせている。リンは木の実とリス肉と鮎の頭の入った汁を僕に取り分けてくれる。

「いただきます」

「はいはい」

気になっていたリスを食べると甘く美味しいが後味がちょっとえぐみがある。

「リスの後味って少しえぐいね」

「そうかしら、私は好きよ?」

リンは尻尾を嬉しそうに左右に振りながら鮎を食べている。

「初めて食べたけど美味しいわね」

僕も鮎を食べる。

「前の世界で食べた事があったけど、比べ物にならないぐらい美味しいよ」

白に鮎の頭と焼いた身を上げるといい音を立てながら頭をかみ砕く。

「子持ちはもっと美味しいらしいから今度はそれを食べたいわ」

「子持ちはいつ捕れるの?」

白が食べ終わったようなのでリスの肉も少し分けてあげる。

「後2か月位かしら」

確か子持ちの鮎は9月頃だったから今は7月位って事かな。

「次は2月後に捕りに来る?」

「その頃には旅に出てるから旅先で捕りましょ」

「そういえば旅にでるのはいつ?」

リンは少し考えると僕の顔を見た後で返事をしてくれる。

「長くとも1週間以内早ければ2日後かしら」

「意外とすぐに出るんだね」

「アツノを待たせてるからね」

食事が終わるとそろそろ山を下り始めようという事になった。

「帰りでも獲物を見つけたら狩るからそのつもりでね」

「分かった」

火の後片づけをした後歩き出す。

「リン。あそこに何か居る」

「どれよ」

「ほらあそこ」

高い木の上を指さすとそれを見たリンが教えてくれる。

「鷹っぽいわね」

昔鷹師に憧れたんだよね。

「鷹飼ってみたかったんだよね」

「私は嫌よ?」

速攻で却下された。

「かっこいいと思うけどなぁ」

「何でもかんでも盗む上に家畜も襲うし絶対嫌よ」

「じゃいいや」

「食べたいなら捕ってあげるけど」

凄く高い木の上に居るのに捕れるらしい。

「危ないからいいよ」

「そう、なら行くわよ」

村まであと少しという所でリンが立ち止まる。

「ちょっと相談があるんだけど」

「いいよ」

「まだ何も言ってないわよ!」

怒られてしまった。

「なにかな?」

「村にはこれまでお世話になったから猪を皆に分けてあげたいのよ」

「大きい方を皆にあげよっか」

「いいの?」

目をパチパチとしている。

「リンが今までお世話になってたんだから当然じゃないか」

「食い意地が張ってるからもっと渋ると思ってたわ」

リンそれは誤解だよ・・・。

「そんなに食い意地張ってないよ」

「そうかしら?まあいいわ。猪を出して手で運んでくれる?」

「そっか、皆にバレたら行けないもんね」

「もうちょっとしっかりしなさいよ・・・言っても無駄ね・・・」

僕だって学習してると思うんだけど。猪を担ぎ村に向かい歩き出す。


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