五日目 朝
起きる時間が近づくと始まる知らない子供との会話も、毎日の日課となって楽しめるようになってきた。
「ととさま、もうちょっとでおきるじかんなの」
「いつも起こしに来てくれてありがとう」
「ととさまは、おねぼうさんなの」
白い小さな人型の靄が腰に手を当てている。
「ごめんね。僕、朝は弱いんだ」
「しってるの!」
「そっか知られちゃってたか。君はいつも早いね」
「ううん、リンちゃんのほうがはやいの」
この子はリンの事も知ってるいるみたいだ。
「リンの事はいつ知ったの?」
「なにいってるかわかんないの。ととさまといっつもいっしょにいるの」
確かに僕はこの世界に来たその日から、ずっとリンと一緒に居るけど。
「君は物知りなんだね」
「うん!あ、ととさまそろそろおきるの」
「もうそんな時間なのかい?」
「そうなの!」
「そっか、そろそろリンが起こしに来てくれるんだね?いつもありがとね」
僕を揺らすリンの顔を見ながら目を覚ます。いつも思うがこの夢だけは鮮明に覚えている。
「おはようリン」
「はい、おはよう。妖一そろそろ1人で起きられるようになりなさいよ」
「ごめんね。だけど朝が弱いおかげで毎日リンに起こして貰えるのは役得だよね」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと顔を洗いなさいよ、ご飯できてるわよ」
「いつもありがとう」
何時も通り、リンは着替えなどの支度準備を用意してくれている。
「シロも顔洗うんだからいくよ」
白と一緒に顔を洗いに行った後食卓につく。
「リン!何かのお肉が入ってるよ!今日は何か特別な日なの!」
「別に何もないわよ?朝早くからチュンチュンうるさいから捕まえただけよ」
「そんなに簡単に捕まえられるの?」
「飛ぶ前に捕ればいいのよ」
簡単そうに言っているけど、普通出来ないんじゃないかな?
「リンは凄いね。なんでも捕まえて」
「私にだって捕れないものもあるわ」
「え?そんなのあるの?」
「蝶々よ・・・あいつだけはどうやっても捕れないのよ・・・人を馬鹿にした様にひらひら飛んじゃって、ムカつくったりゃありゃしないわ」
「そうとう蝶々が嫌いなんだね」
「そんな事も無いわよ?小さい頃はよく蝶々を追いかけて遊んだわ」
小さいリンが蝶々を追いかけてる姿を想像した僕は微笑ましくなる。
「今でも捕まえられないの?」
「無理よ、いくら気配を殺して近づいてもあいつ等だけは捕れないわ」
どうやら、すねこすりの力を使っても捕まえる事は出来ない様だ。
「そんな事より折角捕ったんだから食べましょ」
「うん!」
「今日はやたらと元気ね」
「うん!僕は鶏肉や豚肉が好きなんだ!」
「そう、ならこれからは気が向いたら捕ってあげるわ」
「ありがとうリン、シロにもあげるから待ってね」
食事を始めて白に鶏肉を食べ易いよう身を取り分けてあげる。
「おいしいね」
「そうね」
「クーン」
「シロが鳴くなんて珍しいわね」
「きっと僕と一緒で鶏肉が嬉しいんだよ」
もう一度取り分けてあげると白が勢いよく食い付く。
「シロおいしいね」
「妖一、今日は狩りに出ましょ」
リンがこちらを見ながらニヤッと笑みをこぼす。
「リンなんだか悪い顔をしてるよ?」
「そんな事ないわよ?」
僕達は食べ終わった後リンがいつもの包丁を持ち山へ狩りに出かける。
「リン今日は何を狩るの?」
「妖一覚えておきなさい、狩りに出るって言っても獲物は見つけてみないと分からないの。つまりね、食べられるものなら全て狩るわ」
眼をギラギラさせ迫ってくるリンの気迫に少しビビる。
「了解です」
「妖一今日は運がいいわ、あの木の上にリスが居るわ」
リスが居るであろう木を指しながら言ってくるが、居場所はさっぱりわからない。
「リスって食べれるの?」
「身は少ないけど柔らかくておいしいわ」
「どうやって捕まえるの?」
「見てなさい」
地面には枝や落ち葉があるのに全く足音を立てぬまま、気配を消し木にたどり着くと手慣れた様子で登っていく。そして一気にリスの首を捻る。
「シロ、リンには言えないけど・・・なんて言うか凄いね。けどリスかぁ、どんな味なんだろね」
ご飯を食べてそんなに経っていないのにお腹が鳴る。と同時にリンが戻ってくる。
「妖一もうお腹すいたの?何なら向こうの方に湧水があるからそこで洗ってから焼いて食べる?」
「ううん、お昼まで我慢した方がおいしそうだもん」
「そうそう、これ入れておいて」
仕留め首がだらんと伸びたリスを差し出してくる。
「分かった」
リスを収納し探索を続け、食べられる木の実やキノコなどを集めて行く。
「妖一喜びなさい、本当に今日は運がいいわ。見て見なさい」
リンが指差す木の陰の方を見ると、そこには丸々太ったうり坊が一匹いる。
「うり坊だよリン」
「見たらわかるわよ、それよりも奥に親が居るわ。妖一あんたは子供を仕留めなさい、私は親の方を仕留めるわ。私が手を上げたら開始、わかった?」
良く見ると更に奥に体だけで1.5mは超えていそうな巨体な猪がいる。リンは眼をギラギラとさせながら舌舐めずりをする。僕はその野性的な表情を見てドキッとする。
「頑張るよ」
気配を消したリンがうり坊を無視して、そのまま親に近づき後少しの距離で合図が出されたのを確認した後、鉈と拳程の石を手に走り出す。
「ごめんね。でもおいしそうなんだから仕方ないよね」
うり坊は僕を見て逃げたが、距離が開く前に石をぶつけると当たり所が良かったのか倒れる。近づきそのまま布に収納しリンを見ると、大きな猪の上に乗って首に包丁をなんども刺しながら凄く良い笑顔をしている。
「シロ、狩りをしてる姿はとっても綺麗だね」
僕にはリンが狩りをしている姿が本来の姿の様に見える。気高く美しいそしてとても綺麗な光景に見える。
「やっぱりリンは凄いなー」
見惚れていたのも束の間だった、リンが呼んでいる。
「妖一!仕留めたのは良いんだけど!重くて仕方ないのよ!こっちに来てさっさと入れてくれる!」
「今行くよ!」
リンの元に急いで行ったけど布に収納しようとすると止められる。それにしても近くで見ると200キロをゆうに超えていそうだ。
「ちょっと待って。ねぇあんた、それを普通に担げる?」
「重くて無理じゃないかな?」
「無理ならそれでも良いから、ちょっと試してみて」
リンに言われるまま大きな猪を持ち上げようと近づいた後、取り合えず腕を猪の下に差し込む。すると腕だけで簡単に持ち上がった。
「あれ?この猪凄く軽いよ?」
「馬鹿じゃないの?重いって言ったでしょうが、多分あんた凄く力が強くなってるのよ。前から強いんじゃないかなって思ってたけど、これ程とは思わなかったわ」
これもきっと神様のサービスというやつだろうね。
「まぁいっか、力が強くて困ることは無いし」
「あんた、本当に色々ともう少し考えたらどうなの?」
「そんな事よりお腹すいちゃったよ」
猪を見てお腹が大きな音を立てる。
「そういえば、そろそろお昼の時間ね」
リンが上を向く。僕も釣られ空を見上げると真上には太陽がある。
「リンお昼は何を食べるの?」
「あんたが楽しみにしてたリスの焼いた物と木の実よ」
「それにしてもリスってどんな味がするんだろう?ねぇ、シロ」
「妖一、どうでも良いけどもう猪入れていいわよ?」
呆れた表情でリンが言ってくる。どうやら僕は喋ってる間ずっと猪を持っていた様だ。
「そうだったね」
猪を布に収納仕様とするが、大きく上手く入らない。
「布がもう少し大きければ入るのにな」
ボソっと口に出すと布が大きくなり収納出来た。
「その布なんでも有りね」
今度は頭の中で元に戻れと思うと、元の大きさまで戻る。
「どこまで自由に大きさを決めれるんだろ?まぁいっか」
「妖一そろそろ湧水に向かって行くわよ」
「分かったぁ」
僕達は湧水のある場所に向かい歩き始める。
次は8月9日に上げます。