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四日目 夜

すねこすり村に着いた僕はリンの家に向かう。

「それにしてもなかなか乾かないね」

リンが家の前で包丁を砥ぎ直しているのが見えホッとしながら近付いて行くとこちらを向く。

「妖一遅かったわね。もう少ししても帰ってこなかったら迎えに行こうと思ってたのよ」

「ごめんね遅くなっちゃって。あ、これお土産」

布の中から財布を全て取り出し手渡す。

「これどうしたのよ?と言うか何でそんなにビショビショなのよ」

「リンの治療費にもらって来たんだ。濡れてるのはその時汚れちゃたからシミになると嫌だから洗ったんだよ」

「あいつらの仲間はどうしたのよ」

リンが悲しそうな顔でこちらを見てくる、きっと僕が山賊を殺した事に勘付いているのだろう。

「朝言ってた実験に付き合ってもらったんだ。それと通行の邪魔になると行けないから捨てておいたよ」

「そう・・・まあいいわ。風邪を引くといけないから家に入りなさい」

リンはそれ以上聞いてこなかったが小さな声で「おつかれさま」とだけ言ってくれた。

家の中に入った途端に安堵と共に人を殺したと言うのに何も感じない自分に疑問を抱く。

「ねえシロ、僕は初めて人を殺したのに特に何も感じないんだ、これって人として何か大切な物を失くしてしまったのかな?」

白は僕の顔をじっと見つめてくるだけだった。

「シロにも分んないよねごめんね変な事聞いちゃって」

シロを撫でると白がいつも以上に体を擦り付けてくる。

「慰めてくれるのかい?ありがとう」

シロを少し乱暴に撫で服を脱ぎ始めるとリンが家に入ってくる。

「まだ脱いでなかったの?まあいいわ、これあげるからこれを着てなさい」

リンが渡してきたのは肌着と大きめの作務衣で僕は着た事が無かったが着てみると凄く楽だ、何で僕は日本に生まれてたのに前の世界で着なかったんだろ。

「ありがとう。初めて着たけど凄く楽で気に入ったよ」

「まあ作務する時に着る服みたいなものだしね。私は楽だからそればっかり着てるけどね」

「リンは可愛いんだからもっと拘ろうよ。そういえば、この服リンには大きいと思うんだけどどうしたの?」

僕の身長は150位でリンが145位だ。僕に丁度良い位の服をリンが元々持っていたとは考えにくい。

「薬屋のおばちゃんの息子のお下がりを貰っておいたのよ」

どうやら着替えが無い僕を気遣ってくれていたみたいだ。

「ありがとうリン」

「別にお礼なんていいわ。それにしてもあんた大丈夫?」

どうしたんだろう心配そうな顔をしている。

「なにが?」

「あんた気づいてないの?」

目元を拭われる。

「え?」

リンの指先を見ると濡れている。どうやら僕は泣いているらしい。

「あんた人を殺したのこれが初めてでしょ?」

「うん」

「私も初めて殺した時は一晩中手を洗ったり泣いたりしたわ」

リンが床に座り隣を叩くのでそこに座る。

「最初に言っておくけど相手は私達を殺そうと大人数で襲って来たんだから、妖一はなにも悪くないわ」

「リンは人を殺した後でも余り変わらないね」

リンは悲しそうに眉をひそめ優し気に僕を見る。

「そう見えるなら私が強がってるからよ」

「ごめん」

「いいのよ。意識してそうしてるんだから、妖一は初めて人を殺したのよ?私までへこんでちゃ妖一はもっとへこんじゃうでしょ?ねえ妖一我慢してないで泣きなさい」

「我慢してる気は無いんだけど」

白に言った通り人を殺した事は何も感じないのだ。

「なら、妖一は何で泣いてるの?」

本当に何でだろう?

「わからないの妖一?人を殺した事に何か感じないの?」

「リンが怪我をして腹が立って殺したんだけど、自分でも不思議なほど達成感も無いし罪悪感も無いんだ。と言うか殺しちゃったのは仕方ないよねって感じかな?」

「それならきっと何も感じない自分が悲しいんじゃないの?」

「そうなのかな?」

「うん多分当たりね」

リンが僕の顔を指さす、それにつられ目元を拭うと涙の勢いが増している。

「そっか。だから僕は泣いてたんだね」

「そうみたいね」

リンが僕の頭を抱きしめてくれ、そこで初めて声を出して泣き始める。

「ぼくは・・・ひととして、なにかをなくしてしまったのかもしれないよ・・・」

リンの胸を借り30分程泣いた所で僕の涙がやっと治まって冷静さが戻ってくる。

「妖一すっきりした?」

泣いた事で凄くスッキリした。

「うん、ありがとう。余り悩むのも好きじゃないしね」

「そう、ご飯にしましょ」

「そうだね」

リンは台所に立つと僕に向かってこちらに来いと手招きする。

「どうしたの?」

「魚3匹と塩を貰える?」

「分かったよ」

布から魚と塩を出す。

「塩はこれぐらいでいい?」

多めに出しておいた塩見せる。

「少し多いわ。まあいいわ、明日の朝使うわね」

「邪魔なら入れておこうか?」

「そんな事したらあんたが起きるまで食事の用意が出来ないじゃない」

「それもそうだね」

「あっちで座ってなさい」

僕は白と一緒に寝床のそばで座る。

「シロ、これからも僕と一緒にずっと居てね」

その後、僕達は食事を済ませ軽く体を手拭いで拭う。

「ねぇリン、ずっと聞きたかったんだけど、リンの犬種は柴犬?」

「は?犬種?私はすねこすりよ?犬型だけど犬じゃないのよ?まああえて言うなら親2人も小さかったらしいから豆柴って所じゃないの?」

「なんかごめんね」

「いいわよ別に、それはそうとそろそろ寝るわよ?」

「うん」

僕達は並んで眠る。


次は8月7日の朝に上げる予定です。

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