四日目 朝
またあの声が聞こえてくる。
「ととさま」
「やっぱり僕の事なのかな?」
「うちのととさまはととさまなの」
どうやらやはり僕がととさまらしい。いったいいつ作っちゃったんだろ。
「ととさまもうすぐあさなの」
「そうなのかい?ありがとう」
「はいなの」
その時リンが僕を揺すって起こそうとする。
「妖一そろそろ自分で起きれるようにしなさい」
「おはようリン」
「はい、おはよう」
「おはようございます。妖一さん」
「おはようアツノ」
顔を舐めて存在を主張してくる白い毛玉が僕の上に居る。
「おはようシロ。お願いだから退いてくれるかな?このまま起きると落ちちゃうよ」
白はしゃぁねぇなぁと言っているのかゆっくり降りてくれる。
「ほら顔洗ってシロの顔も洗ってあげなさいよ」
「分かってるよ」
自分の顔を洗い終えた後白の顔も洗ってあげる。
「妖一ちょっといいかしら」
リンは顎を動かし付いて来いと合図する。
「いいよ」
白を抱き上げ付いていくと家をでて少し行った所で立ち止まる。
「妖一、あんたの秘密アツノに教えてあげてくれない?」
「いきなりどうしたの?僕に秘密にしろって言ったのはリンじゃないか」
厚乃に教えるのは別にいいが、リンが理由もなく教えろと言ってる事は無いだろう。
「それはそうなんだけど、アツノに教えてあげてほしいの」
「まあリンが言うならいいけど、どうしたの?」
「多分次に会った時にはあの子も私達も一緒に旅に出る事になるわ」
「村はいいの?リンは確か村長にお世話になっていたんじゃなかったけ?」
「村長にはずっと前から話してるわ」
「アツノは?」
「アツノはこの村にいい思い出なんて無いわ」
それだけ分かれば十分だろう。リンの友達に悪い人は居ないだろうしそれに僕自身も厚乃は良い人だと思う。
「そっか、じゃあ教えようか」
「そんな簡単に決めていいの?」
「そうかな?厚乃良い人だしそれに一緒に旅に出る仲間になるんでしょ?そんな人にこれ以上隠してたら後々しこりが残るかもしれないじゃないか」
リンが信じられない者を見たかの様な顔をしている。
「驚いた・・・妖一あんた考える事も出来るのね」
失礼な!これでも多分この世界より進んだ世界の住人ですよ?
「そんな風にみられてたんだね・・・」
「ごめんなさい、けどそう見てたわ」
良くも悪くもリンは正直だ。
「そうだ!アツノに収納した魚を目の前で出して見せてあげたら直ぐに納得してくれるんじゃないかな?」
「そうね・・・良いかもしれないわね。そういえば私も見た事ないわね」
「そういえばそうだね。それじゃアツノの家に行って見せよっか」
「ええ行きましょ」
僕達は家に行くとリンが厚乃を呼ぶ。
「アツノちょっと来てくれる?」
「なに?」
「アツノ一緒に旅に出る様になるんでしょ?」
「妖一さんもう聞いたんですね」
「うん。それでアツノに秘密にしてた事があるからそれを知って欲しいんだ」
取り合えず布の事を言った方が整理しやすいかな?
「秘密?」
「じゃあ早速だけどこれを見てくれる?」
僕は白を下ろし布を広げて見せる。
「これがどうしたの?」
「驚いても大声を出さないでね」
前置きをした後僕は布から一匹の魚を出すと床に生きた魚が落ち跳ねているのをシロが前足で突っついている。
「え?魚?」
「凄いわね」
厚乃が困惑している横でリンが関心している。
「あれ?生きてる?昨日捕まえたのに・・・ま、いっか」
「妖一さんこの魚どこに隠してたんですか?」
「実はね、この布は僕しか使えないけど何でも収納する事が出来るんだ」
「なんでもですか?」
「うん。見てて」
駄目押しに砂糖、塩、油、水を出すと新たな発見がある。すべて思った量に合わせて容器が付いている。
「凄いですね・・・」
どうやらいきなりの事でついてこれてない様だ。刃物も入っているが混乱するといけないのでやめておこう。
「凄いでしょ!」
そしてなぜかリンが自慢気に胸を張っている。
「後は刃物も入ってるけど危ないから出さないでおくね」
「はい」
「次は収納してみるね」
出した物をすべて収納していく。
「あの魚がいけるという事は人も大丈夫なのでしょうか?」
緊張した面持ちで質問を投げ掛けてくる。
「多分大丈夫なんじゃないかな?試す気にはなれないけど」
「それはそうですよね」
「ちょっとやってみたいわ」
リンが好奇心旺盛にこちらを見てくる。
「駄目だよ!いろんなものを収納してみて大丈夫か試した後で大丈夫そうなら悪い人を入れて実験してみないと入れないからね!」
「ちょっと言ってみただけよ。っと言うよりあんた意外とえげつない事考えてたのね」
「妖一さんの考えてる事は当然じゃない?だって人でも大丈夫なら使い道が増えると思うわよ?」
「それにしたって悪い人で実験よ?なかなかえげつないと思うけど」
「それはちょっと思ったけど・・・」
どうやら僕の評価は下がったようだ。ゲーム風に言うと好感度が下がったかな?
「ま、次の秘密に行こうと思うんだけどいいかな?」
「妖一さんの持ってる刃物が何なのか見たいです。旅に出る時に何を持って行くか考える為にも」
「それもそうだね」
僕は特に何も考えずに大小の刃物を出すと日本刀が二本出て来た。
「これは?」
「妖一鉈じゃなかったの?」
「日本刀だね・・・は?」
なんで日本刀?鉈は?
「ねえ妖一思ったんだけど一度収納して次は包丁を思い浮かべて出してみて」
「わかったよ」
リンの言う通りしてみると大きめな包丁と小さな包丁が出てきた。
「ちょっとまってね」
色々試してみると大きい刃物も小さい刃物も思い浮かべた物になる上に際限がない。例えば大きい刃物だと元の世界の漫画などで見た馬鹿でかい物でも再現でき小さい刃物の場合刃の部分が小さい物なら何でも出来る様で槍などにもなった。そして何よりも僕が驚いたのはこんなもの持てるわけないだろと突っ込みを入れていた武器もすごく軽く感じた事だ。
「リン刃物なら何でもできるみたい」
「あんた本当に何でもありね・・・と言うよりなんでそんなに武器ばっかり出すのよ」
「リンそれは妖一さんが悪いんじゃなくて刃物って言ったら大体武器になるわよ」
「そうだったわ」
危ないので収納しておく。
「ちょっとびっくりしたけど、まあそれは置いておいて」
「あんた軽いわね・・・まあ考えたって仕方ないわね。便利だと単純に思っておきましょ」
「そうですね」
少し落ち着いて来た様だし次の説明に進もう。
「さて、アツノ次が本命の秘密なんだけどいいかな?」
「え?あれが前座的な扱いなんですか?」
「言わないで私もまだ突っ込み足りないんだから」
「じゃ話すよ」
僕はこれまでの事を思い出しながら昨日と同じ様に最初から説明をする。
「これが僕の秘密だよ」
「つまり妖一さんはこの世界の人じゃなくて人族で色々と軽く考える方だと?」
あれ?何で軽い奴みたいになってるの?
「リン僕軽い男なのかな?」
「多分あんたが考えてる軽いじゃないわよ」
「そうなの?」
「死んだ時とかの対応って事でしょ」
「僕だって色々考えたんだよ?」
「はあ、まあいいわ」
え、なんでため息なの?
「妖一さん。色々と納得できました。次にお会いする時には皆で旅に出ましょう」
「そっか、お互いに頑張ろうね」
リンが僕を見ながら何故かまたため息を吐いている
「はい」
厚乃がとてもいい笑顔をしている。
「さてと、そろそろ行くわよ妖一」
「もう行くの?アツノと話さなくてもいいの?」
残念な者を見る目で僕を見てくる。
「あんた本当に馬鹿なんじゃないの?来た時の事を思い出しなさいよ。どう?まだ余裕ありそう?」
リンが扉を開け太陽を指さす、見るとすでに日が高い。
「リン、暗くなるまでに間に合うの!?」
「馬鹿ね。間に合うわけないでしょ?」
落ち着いた様子でそんな事を言ってくる。
「今日も泊まらせてもらう?」
厚乃が嬉しそうにニコニコと笑う
「馬鹿ね。それが出来るなら最初から帰るなんて言わないわ」
何故か凄く良い笑顔をこちらに向けてくる。
「なんでそんなに余裕そうなの?」
「本当にどうしようもない位馬鹿ね。これは余裕じゃないのよ?いい?諦めっていうのよ」
最後にッフっと聞こえる。
「アツノお邪魔しました!急ごうリン!」
「ええ。精々頑張りましょ」
僕達はすねこすり村に向かい走り出す。
次は8月3日朝にあげる予定です。