三日目 夜
ぞぞ村に着くと厚乃が出迎えてくれた。
「あら、あんたたちもう帰ってきたの?もっとゆっくりしてくればいいのに」
「そうもいかないわ。暗くなって来ると出るのにも苦労するのよ」
「ま、あの人達もそれが仕事だしね」
「それは分かるわ、暗くなる頃に出て行くなんて碌な奴居ないだろうしね」
「分かってるなら仕方ないでしょ」
「だから早めに出て来たのよ。それに私みたいに可愛いと余計にしつこく質問するのよ」
検問所の人達は14歳に声を掛けるほど出会いが少ないのかな?
「独身で適齢期が越えた方はちょっと怖いわよね」
あれ?厚乃は一つ下って言ってなかったけ?
「ちょっと妖一、さっきから失礼なこと考えてなかった?」
「リン達位の年齢の人に声を掛けても問題ないのかな?って思っただけだよ」
「あら、普通じゃないの?若いお嫁さんが欲しいのは男の人の当然の考えじゃないの?それにリンは一年もすれば成人よ?」
「そういえばそうだね。だけどアツノは後二年位あるんじゃないの?」
「妖一、あんたアツノの年齢聞いてなきゃ同じか上に見えるでしょ?」
「あ、そっか」
確かに言われて改めて厚乃を見ると恐ろしく整った顔と落ち着いた喋り方を始めてみると美しい17歳位に見える。こんな子に優し気に笑みを向けられたらきっと落ちない男はそうそう居ないだろう。
「妖一、なにじっと見つめてんのよ」
白が僕の服を噛んで引っ張ってる。僕は思っていた以上長時間厚乃を見ていた様だ。厚乃は少し頬を赤らめ困ったような照れたようなそんな表情をしていた。
「ごめん、よくよく見るととても綺麗だなって思って」
「妖一、それしか感じなかったの?」
「以外に何かあるの?」
リンと厚乃は今度は驚いている。
「僕何か変なこと言っちゃった?」
「まあ変と言えば変ね」
「そうですね、妖一さんは変ですね」
2人が僕を見て凄く嬉しそうに笑顔を向けてくれる。なぜ笑われているのか理由は分からないが、二人が笑ってくれるのが嬉しい。
「そんなに変かなシロ?」
あたしに聞かないでよ眠いのよ!と言って居るかのように自分の前足の間に顔を入れてしまう。
「妖一さんは私の昔の話を聞きましたか?」
突然真面目な顔をしてこちらに質問を投げかけてきた。
「はい。気になって聞いてしまいました。申し訳ありません」
「ああ、それは良いんですよ。私達が笑った理由を知って欲しいのです。あの話の続きみたいになりますが聞いてくれますか?」
「いいの?アツノあなたこの話をするのは余り好きじゃないでしょ?」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとうリン」
「そう話すって決めたのね」
2人の雰囲気が先程までとはがらりと変わった。
「それで妖一さん聞いてくれますか?」
どんなに重い話しでも、ここで断る選択肢なんてない事位僕でもわかってますよ。
「聞きますよ」
「私は小さい頃から妖力が多かったんです。それも小さな私では全く制御出来ないほどの力なんです。それこそ傍にいる人を殺してしまうかもしれない程に、家の近くで生き物が死んでるなんて事はよくありました。幸いぞぞ村の人は同じ妖怪だから死ぬ事は無かったのですが、私の妖力は年々強くなって行きとうとう両親が恐怖に耐えきれず私を捨てました。今もまだ妖力は強くなっていますが3年程前から制御が出来るようになってきたので、私が自分で制御を緩めたり怒りの余り制御を手放したり長時間私に意思を向けなければ私生活に影響が無くなりました。つまり私の顔をじっと見ているなんて事は普通は出来なんです」
「要はあんたが超鈍感って事よ」
なるほど、リンの一言が凄く分かり易い。
「だけどリンは普通にしてる様に見えるんだけど?」
「私も成長したって事よ」
何故か胸を張る。しかし悲しいかな、リンに張れる胸は余りない。
「妖一さん、リンは昔から男勝りと言うか剛毅と言うか負けん気が強いと言うか・・・まあ、そんなだったから怖いのを表に出さないで私に付き合ってくれたら知らない間に震えなくなってたの」
「いい妖一!私はあんたと違って野生を手放してないのよ!それでも長い時間を使えばある程度なれるのわ!」
また胸を張っている。
「ちょっと妖一、今胸を見て失礼な事を考えたわね」
「そんな事ないよ?」
「いいのよ、あんな物狩りに邪魔になるだけよ」
どうやらリンは本心から言っている様だ。
「リンそれはない者の強がりに聞こえるわよ?」
「その喧嘩買ってあげるわ!」
リンが厚乃の大きめの胸を乱暴に掴むと仕返しだとばかりにリンの胸を厚乃が摘まむ。
「ごめんなさい。掴んでやろうと思ったけど掴めなかったわ」
流石にリンも悲しかったのか、両手両膝をついて下を向いている。
「さてと、冗談もこの辺にしてこれお土産よ」
「今なの?あら、魚じゃないよく捕れたわね」
「掴み取ったのよ」
「魚まで手掴み出来るようになったの?ま、今晩のご飯は一品増えるから助かるわ」
「それじゃ何を手伝おうかしら?」
「なら薪を裏から取ってきてくれない?」
「分かったわ」
リンが出て行った後白にお手やおかわりなどをさせて遊んでいた僕に厚乃が話しかけてくる。
「妖一さん、またリンと一緒に来てくださいね」
「うん」
それだけ言うと台所に立ち直す。見計らっていた様にリンが入ってくる。
「これだけあればいいでしょ?」
「ええ、そこに置いていて」
「任せるなんて悪いわよ。そっちの野菜は任せなさい」
「それじゃお言葉に甘えるわね」
僕も手伝いたいが僕が手伝うと余計に遅くなりそうだしここは待つ事に徹する。
「ちょっと妖一皿に入れたから持って行って」
「はーい」
その後三人で食事を摂り、2人が片付けをして水浴びをし帰ってきた後、僕もリンに連れられ水浴び場に行く。
「妖一、あんた厚乃と一緒に居たいならここに置いてもらえる様に頼んであげるわ」
突然何でそんな事を聞くんだろう。
「リンが邪魔じゃなければリンに付いていきたんだけど」
「そう、分かったわ。余り遅くならないうちに帰ってきなさいよ」
「分かった」
リンが帰った後、僕は水浴びを急いで済ませて厚乃の家に帰って行く。その後3人で川の字で眠った。
つぎは7月30日に上げる予定です