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メルヒェン48 因幡印の万屋さん

 ぴょんぴょこ跳ねてどこまでも。

 もっと遠くへ、遥か向こうへ。

 果てしない野原の向こうで、ぐるぐる巡るその先に、目くるめくような出会いの為に。


 飛び跳ねて、跳ね回って、のた打ち回ってでも進もう。

 そしたら、きっと辿り着けると思うんだ。




 青い空をふと見上げる。今日も虹は見れ無さそうだ。

 白い扉の向こうに足を踏み入れれば、橙色の照明が照らす、薄暗い酒場。

 肺を焼くような煙草の匂いが立ち込める場所で、僕みたいな人間は普通なら即座に追い出される。


 でも、僕はむしろこの店の常連だ。なにせ僕は……。


「おお! クロウサギ! クロウサギじゃないか!」

「なにぃ!? クロウサギだぁ!? ってことは!」


 荒くれ者たちは一斉に僕へと目を向ける。

 自分より遥かに大きいリュックを下ろして、入り口の横でせっせと準備を始める。

 地べたにシートを敷いて、リュックの中身を手際よく並べていれば、終える頃には彼らが蜜に群がる虫のように集ってくる。


「さぁ皆さん! これから始まる戦争に備え、天剣絶刀テンケンゼットウ火器弾薬かきだんやくが喉から手が出るほどご入用でございましょう! この流離いのアイテム屋、ヴァニーズラピッドラピッツが本日も最高品質のアイテムを皆様にお届けに参りましたよ!」


 湧き上がる歓声は、アスファルトを打つ豪雨みたく。

 この世界に生まれ変わって、ここまでの信頼を勝ち取った自分の逞しさには感極まって泣いちゃいそうだ。


「それではまずは今回の新商品のご紹介! ユートピアの最新銃火器は光線シリーズ第3弾、特殊グレネードシリーズ第4弾、コイルエレクトリック社から新型コイルガン! ガンマンズ・ロマンス社からマグナムが二種類登場です! サンプルはこちらぁ!」


 こうして群がる人々を見ると、やっぱアイテムってすごいなぁってつくづく思う。


 アイテム……それは時に旅の相棒。

 アイテム……それは時に窮地を助ける友。


 アイテム、それは僕の生き甲斐だ。


 いつまでも辿り着けない理想の暇つぶしとして、無くてはならないものになっている。

 武具でも防具でも、マジックアイテムでも。


 新しく生まれた物をいち早く知り、それを求める者に報せ、広めることで数多の人々に影響を与え、世が動いて変われば、また新たなアイテムが生まれる。

 僕は新作アイテムをこうして広めることで、新たなアイテムが生まれるキッカケを生み出し、生まれたてのアイテムをまた広めるべく東奔西走に明け暮れる。


 さて、新製品の宣伝も終わった。

 サンプルも戻してもらったし、後は受注だ。


「はい、それじゃあ注文用紙に名前と品名品番をご記入頂いたら順番に並んでください」


 荒くれ者の傭兵や野良戦士といえど、信頼を勝ち取り定番の座を確立すれば、きちんとマナーは守ってもらえる。

 当然だ。守らない人はお断り。そうなって困るのはその人なのだ。

 そうなれば弾薬不足に見舞われて、旧式の装備に命を預けて尋常ならざる戦場を踏破しないといけなくなる。

 賢明な人はそんなことは絶対に避けるし、そうでない人はとっくに戦場でくたばってるから安心!


「あとはいつも通り、情報と他所様のところの受注です。新作グルメのお客様、ご利用ありがとうございました!」


 僕のヴァニーズ社はアイテム図鑑の製作こそを至上の目標としている。

 つまりは武器の流通や商売も、図鑑を製作するための過程に過ぎない。

 日々新しいアイテムが生まれるこの世界で、全てをコレクションするのは無理だから、せめて記録として保存したい。ただし理想による個人的な武器は除く。


 アイテムとは、誰でも使えるもので無ければならないのだ。


「はい次の方ー」

「よう、今日も可愛いなクロウサギ? どうだ。お前がよければ……」

「ホモじゃないんで。後ろが詰まってるんでさっさとお願いします、骸骨野郎♪」

「相変わらずたっまんねーなぁ! じゃあこれ、サムズアップ社のアサルトセットを250ダース。これチップな」

「ありがとうございます!」


 ところで、こちらに武器を流してくれない慎重な企業もある。ので、受注も扱わなければならない。

 このあたりはまったく取り分が無いから旨味が無い。チップくれる人もいるけど。

 とはいえ貴重な装備を高値で買ってくれる兵隊さんのおかげで、この経営は成り立っている。


 企業が武器を売り、傭兵は戦力を売り、僕たちはその間に立つ。

 有用な傭兵の情報を企業に売り、新作の兵器を兵士に売る。

 異国間、企業間、経営と競争の社会の中で、目的を果たしながら利益を掠め取る。

 そして僕は旅をしながら旅の資金を生み出せる。


「ヘイ、ホワイトラビッツ! 今日もキュートだな!」

「お世辞じゃ値段は下がりませんよ黒ごま野郎。さっさと注文票を寄越してください?」

「ハッハッ! さすが世辞で売値を下げる馬鹿ならこんなに愛されてねえからな! じゃあ今回はこれだ。よろしく頼むぜ」

「毎度でーす!」


 さて、一通りの用事は済んだ。今日も盛況、戦争さまさまだ。


「それでは皆様、本日もありがとうございました! また次の機会でもご愛顧ください!」

「おっ、なんだよ呑まないのか? たまには奢らせてくれよシロちゃん」

「残念ですけど、野獣の園に長居するほど、白兎シロウは馬鹿ではないんですよ。それでは」


 手早く荷物を片付け、大きなリュックに詰めて背負う。


「それに、ここばっかりでサービス営業してたらアレですからね」

「そいつは残念だなぁ……仕方ねえ、またよろしく頼むぜ」


 荒くれ者に見送られながら、私は外に出た。

 青い空と海、白い雲のような街並み。そして潮風に乗ってきた新鮮な空気。


「ふぅ……やっぱりあーいうところは息が詰まりますね」

「でしょうね。あなたはそういうタイプではないんでしょうから」


 店を出る前から感じていた気配の主だ。

 振り向けば、壁に背を預けて腕組みしている銀髪の少女が一人。


「あなたが今回の依頼主ですか」

「そうです……が、驚きました。まさかあの有名なユートピアの死神の唯一の弟子が、あなたのような子供だったなんて」


 僕もこの外見であちこち回って、見かけが幼い商人は舐められるだのなんだのと言われてきた。

 そんな僕から言わせて見れば、こんなナリの少女が傭兵は百パーセントなめられるだろう。


「同じセリフをそのまま返しますけど。依頼内容は護衛ということでよろしいんでしたね」

「はい。これから戦争も激化していくと見て、護衛の何人かも雇っておいたほうが良いと思いましてね」

「賢明ですね。私のような実力派を選ぶというのも賢明です。ですが……」


 鋭い目つきだ。さすが傭兵ってところか。

 品定めをするように、僕のあちらこちらへと視線を動かしてる。


「一つ、テストをしましょう」

「えっ」


 雇う方がするならともかく、雇われる側がこっちをテストするのか。斬新な……。


「こっちがどれだけ有能でも、あなたが愚鈍ではこっちの身まで危ない。なのでテストをします」


 えっ、なんで銃をこちらに向けてらっしゃるのかなこの子は。


「1分で構いません。私から五体満足で逃げ切ってみてください」

「なっ……なぁ!? ちょ、ちょっとそれは!?」

「では、テスト開始」


 ヤバイ、この子本気だ。

 そう思った瞬間、体は既に動き出していた。

 重たいリュックを振り子のようにして方向転換。

 靴のエッジがよく効いて、脚から地面へと力を伝達させて、そうすれば。

 次の瞬間には、僕の体は遠く宙を舞っている。


「なんてね! 鬼ごっこなら得意なんだよ、兎はね!」

Jaヤァ!  Dertestbegannテストのはじまりだ!」

 

 背後から発砲音が鳴り響く。

 でも残念、この大きなリュックはこれ自体が防弾チョッキ並の耐久力がある。

 背後からの攻撃ならまず問題ない。


「なるほど、随分速い」


 ひとまずは屋根の上に避難する。

 そこからは傭兵の視界から逃れるように、複雑なルートで身を隠していく。

 とりあえず路地裏に身を潜めてみよう。


「残り40秒……これなら余裕そうですかね」

「それはどうでしょうね?」

「はっ……」


 振り返れば、怖いほど真顔で銃口をこちらに向けていた。


「ひっ!?」


 やっべぇ! 即座に方向転換、急加速で逃げる。

 にしてもどうしてこんなにすぐ見つかったんだ?


 リュックが弾丸を受け止める音の恐ろしいこと。

 って、ちょっと待った!


「ぬぉおお!!?」


 両足で踏ん張ってブレーキをかける。

 アイテムの目利きで鍛えた僕の眼力は、路地裏の出口に張られているワイヤートラップを見逃さなかった。

 

「あっぶなぁ……殺す気かなあの子は」

「今夜は兎鍋がいいかもしれない」


 それは困る。逃げ場が前後左右に無いとなると……あとは上か。

 くんと膝を曲げて、ぐんっと飛び跳ねた。

 向かい合わせの壁をジグザクに蹴りながら上に登る。


 壁を削ぐ弾丸の射撃に追いつかれないよう素早く登りきった。

 焦って躓いて屋上に転がってしまったが、とりあえず一息はつけるはず……。


「ふぅ……偶然じゃないな」


 もしかしたら、どこかで発信機でも取り付けられたのかもしれない。

 恐らくは一番最初に僕が背を向けた時。

 この大荷物を降ろして取り付けられた発信機を探すっていうのは現実的じゃないし、あと20秒走り切るしかない。


 と、ぺたりと屋上の縁に手が伸びた。


「追い、つい、た」

「えぇっ!?」


 登ってきたのかぁ!

 急いで僕は屋上から飛び降りて広い通りに出た。

 そのまま広い通りに出て、人ごみに紛れよう。

 さすがのあの子も関係ない人間を巻き込めはしないはず!


「うぉおおお!!」


 あと10秒! このまま行けば……!


 人ごみをすり抜け、時に跳び越えて、交差点に辿り着く……。






「と、いうわけでして……」

「それで、イリスと衝突したと。迷惑な話だな」


 私は恋愛物語の序盤みたいに曲がり角でぶつかった男の子と、謎の傭兵少女を連れて宿屋に戻っていた。


 私にぶつかって来た人は、綺麗な顔立ちをしている黒髪の男の子。外見は私と同じくらい。

 すごく綺麗で、女の子みたいな可愛い顔立ちの美少年……そう、私でもちょっと見惚れちゃった顔で男子。

 もうこっちが自信を無くしそうな位だ。


 もう一人の子もすごい。

 ヒルデさんみたいな綺麗な、セミショートの銀色の髪なのに、何の手入れもされていないのが分かるほどボサボサだ。

 出会ってからここに来るまでずっと無表情で、緋色の瞳は不思議とアヤメに似ている気がする。



「まあまあアヤメ、私は大丈夫だったから……えっと、白兎しろうさんはアイテム屋さんなんですよね。それにしてもすごい荷物ですね」

「おかげで足腰が鍛えられてね。それで逃げ回ってたんだ。本当にごめんね」

「いえいえそんな。えっと……」

「そうですね、そろそろ改めて自己紹介しときますね」


 手に持っていた紅茶を置いて、懐から名刺を取り出したかと思うと、こっちに差し出した。


「初めまして。僕はアイテム屋ヴァニーズ・ラピッドラビッツの主。因幡いなば白兎しろうと申します。ご愛顧のほど、どうぞよろしく。理想は、素敵な場所へと辿り着くこと」

「あっ、ご、ご丁寧にどうも……私はイリスです。理想はメルヒェンの世界を創ること」

「イリス……って、まさかオーバードヒーリストの?」


 オーバードヒーリストってなんだ。

 いや、たぶん大体合ってる。


「ということは、そこの黒いお方は瞬殺のシャドウエッジさん?」

「アヤメだ」

「しゅ、瞬殺……ぷふっ」


 だ、ダメだ。あまりにかっこよすぎて笑いが込み上げてくる。


「イリス……まあいい。それで、そっちの怖ろしいほどに殺気を放ってる少女は?」


 アヤメは出会ってからずっと彼女の方に意識を向けていた。

 一瞬でも気を抜いたら殺されてしまう……というくらいの危機感だ。


「私はアイス・バイエルン。ただの傭兵です。今の雇い主はそこのクロウサギです」

「あっ、一応あれで合格なんですね」

「ギリギリの及第点ですけどね。あそこで一般人を巻き込んで盾にしなければどうなっていたか分かりません」


 私は二人の試験に巻き込まれてしまったらしい。

 でもまあ、本当に私はなんともなかったし、備えておいた常時発動方の魔法で対応できたし。

 実質試験運用が成功したので、こっちからありがとうが言いたいくらいだ


「ありがとうございますイリスさん! あなたは命の恩人です!」

「お、大袈裟じゃないですか?」

「いえいえ、本当に命の恩人なんですよ。将来的な意味ですけど……何かお礼をさせてください」


 お礼かぁ、お礼と言われても……。

 今は別に、そんな困っていることは特にはないよね。


 すると、白兎さんはドキっとするような愛らしいはにかみ顔を浮かべた。


「あはは、まだお互い何も知らない状態ですからね。迷うのも無理はありません。手始めに、ディナーをおごらせてください」


 そして、私たちは白兎さんに夕飯をおごってもらうことになった。

 私たちもかなりのお金持ちになったみたいなものだけど、それでも躊躇せざるをえない高級感溢れるお店に連れてこられた。


 灯台のようなデザインの白い建物。

 その上層にある空間には暖かな橙色の照明が照らし、真白なテーブルクロスが標準装備の座席が並ぶ。

 壁はほとんどが窓、夜の海と船や灯台の光が照らす景色が見れる。


「こ、高給すぎる……」

「そんなに気後れしなくても大丈夫ですよ。料理のマナーというのは美味しい料理を美味しく頂く、これに尽きます」


 この人すごい良いこと言ってくれる!

 そういうことなら、遠慮なくいただきます!

 

 とまあ、蕩けるようなローストビーフを頬張りながら、甘いソースと肉汁に舌鼓をドンドコする。


「じゃあ、もう少し詳しく自己紹介しましょうか。料理の味が損なわれない程度に」

「もっくもっく……んぐ。あ、はい」


 いけない。あまりの美味しさに反応が遅れた。

 くすくすと笑う彼に釣られて照れ笑いで誤魔化して、事なきを得た。


「お渡しした名刺のとおり、僕はアイテム屋さんなんですよ」

「それであんなに大きなリュックなんですね……足腰すごい強そう」

「ええ、それはもう兎だけに。傭兵の弾丸から逃れる程度には速いです」

「兎、どうして兎なんですか?」


 この人は黒髪なのに白兎しろうって名前ですごいギャグっぽい。


「兎は月で薬草入りの餅を作るらしいんですよ。回復アイテムっぽいでしょ?」

「なるほどー」


 確かに薬草が入ってるなら体力とか魔力も回復しそうなイメージがあるね。


「確かに、兎鍋って美味しいらしいものね!」

「兎鍋か、いいな。高給フレンチは最高だが、私はそういう方が好みだ」

「う、兎鍋かぁ……」


 兎みたいな可愛い動物を食べるのは、気が進まない。

 牛さんや豚さんと同じ命なのは分かってはいるのだけれど……それもどうにかできるメルヒェンが見つかるといいなぁ。


「これから戦争ですからね、アイテム屋としては絶好の稼ぎ時ですよ」

「それで各地を練り歩いていると」

「ところで、イリスさんはアトランティスへ?」

「えっと……無何有の郷に行こうかと」

「無何有の郷……この戦時に? どうして?」

「あー、いや、そのー」


 は、話していいのかな? それとも、誤魔化した方がいいのかな……?

 白兎さんの目が肉食のそれになってるし、口元にすごい期待が篭もってる。


 ダメだ。ここでいちいちアヤメを頼ろうとするから、私はいつまで経っても進歩しないんだ。

 とりあえず、いちいち心配するのはやめよう。

 心配性の不安症、これを克服しない限り、私は自立が出来ない。


 とりあえず、ここは正直に打ち明けよう。


「その、出来れば内緒にしてくれると……」

「もちろんです! 本来なら金額によって売り物にしたいところですが、義理は大事です。今回はオフレコということにしておきましょう」

「情報も売ってらっしゃるんですね……」

「それで、どうしてあんな未だに開拓どころか調査もされてない理想郷なんかに?」


 調査もされてないって、そこまで謎の多い場所なの……。


「ファンタちゃんの……この子の友達がそこで困ってるみたいなんです。助けに行きたくて」


 何もない空間にとつぜん光が灯れば、そこには夜の色の髪をしたピクシーが一匹。


「わぁ、可愛い妖精さん。あなたがイリスさんの依頼主ってわけですね」

「ソウダヨ……イリス、私親しくない相手とはカタコトでしか喋れないの」


 それで大会のときはカタコトだったんだね。


「なるほどなるほど……イリスさん」


 白兎さんは少し考えたあと、両手をテーブルの上で組んで話し出した。

 交渉を始めようとする頭の良い人みたいだ。


「どうでしょう、無何有の郷へ行くのに私も同行させていただけませんか?」

「えっ? 白兎さんが一緒に?」


 どうしていきなりそんな話になったんだろう……別に一緒に来られるとまずいというわけではないと思うけど、急に言われるとちょっと不気味だ。


「さっきも言ったとおり、無何有の郷はいまだに謎が多い未開拓地。得られた情報は一級品の値がつけられるんですよ。もちろん得られた利益はきちんと分配します」

「うーん……でも」

「無何有の郷は余所者にもあまり優しくありません。野宿用のテントとかも必要になるでしょう。荷物持ちはどなたが?」

「それは……」


 さすが商人、鋭い洞察力だ。

 確かに荷物が多くなりそうで不安な現状、荷物を持ってくれる人がいてくれると本当に助かる。


 でも、さすがに今日出会ったばかりの人に自分の荷物を預けるのは不安だ。


「あの、荷物持ちを引き受けていただけるのは、大変ありがたいんですけれどもー」

「それに、僕の理想にも関わってきます。未開拓の土地とか、絶対ワクワクするじゃないですか」


 あ、それは分かる。

 予定と計画で行われる旅行とは違う、冒険のワクワク感と秘密を暴くようなドキドキ感はとても素敵だ。


「とはいえ冒険には危険が付き物です。僕自信はアイテム使うか逃げるくらいしか出来ませんし、傭兵一人だけでは弾薬費がかさむばかり……」

「おい」

「ですが、噂によればイリスさんは回復魔法がお得意だそうで。蘇生まで出来るとか」

「えっと、はい。まあ一応」

「蘇生アイテムは非常に貴重で……だから貴女のような超ド級の回復役ヒーラーは本当に欲しいんです! 絶対に損はさせません! どうか僕を連れて行ってください!」


 どんどん熱意が込められてきている。

 でもまあ、そこまで言われて断る理由も無い。


 いい人そうだし、荷物持ちをしてくれるのは本当にありがたい。

 私はついて来てもらってもいいと思う。


「みんなはどう?」

「私は構わない」

「王子様の言うとおりが私の信条よ! ……もっきゅもっきゅ」

「ファンタちゃんは、どうかな」


 順調かと思いきや、ファンタちゃんはすぐには返事をしてくれなかった。

 何か、訝しげに白兎を見ている。

 やっぱり妖精は軽々しく人を信用したりしないってことなのかな。


 不意に、ファンタちゃんが問いかけた。


「素敵な場所に辿り着いた貴方は、その後どうするの?」

「ああ、僕の理想のことですか。それはですね……」


 白兎さんは笑った。

 それはどこかくたびれていて、でもその瞳にはまだ終わりたくないという意思があるような気がして。


「そこが僕の望んでいたとおりの場所なら、退職して、そこで隠居生活でもしていたいなとは思っていますね」

「なるほど、ね。なら貴方に一応の忠告はしておく。郷に入りては郷に従え、よ」


 そう言ってファンタちゃんは一瞬目に刺さるような光を放ってから、姿を消してしまった。

 とりあえず、大丈夫ってことでいいのかな。


「いやー、手厳しいですね、やっぱり」

「えっと……?」

「ああ、すみません。ちょっと妖精さんに色々見透かされてしまって。イリスさんにはご迷惑はかけませんから、お気になさらず」

「あ、はい」


 なんだかよく分からないけど、まあとりあえずはオールオッケーってことで。


「何はともあれ、これからどうぞよろしくご愛顧ください」

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