表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/98

メルヒェン44 妖幻の使途

 ヴァルハラが山に隠れて、名残を惜しむ私の体を揺らす爆発みたいな衝撃。

 魔力に似て、でもどこか違う奇妙な感触が続いている。


「えっ、えっ!? なんか爆発した?」

「イリス、警戒しろ。妙な害意を感じる」

「あれ、ルナちゃんどこ? ルナちゃーん!」


 船内へ続く扉が勢いよく開かれると、たくさんの金毛に身を包むものがあふれ出した。


「あれって、もしかして狐?」


 ちょろちょろと機敏に動いては、扉を護るようにして並ぶ。

 そして、驚くべきことに人語を喋った。


「この船は我々がジャックしました。痛い目を見たくなければ大人しくしていることです」

「わぁ……かわいいなぁ」

「イリス! だからダメだと……」

「えー、でももふもふ……」


 あんなもっふもふを見逃して、少女としてどうなのだろう。

 小さい身体、柔らかな毛並み、愛らしい瞳と仕草。

 あれをもふもふしないで乙女と言えるか? いや、言えない。


「わぁ、かわいい! イリス、これなんて言うの?」


 アヤメを押し退けようと思った時には、ルナちゃんはもうその小動物に歩み寄っていた。

 ちょこんとしゃがんで、目線を近づける。


「それは、たぶん狐だよ。見たこと無いの?」

「狐ぇ? ああ、これがきつねうどんのきつねかぁ」

「きつねうどんは知ってるんだ……」

「かわいいなぁ。ほーらおいでー」


 ルナちゃんは手を伸ばす。でも狐はむしろ牙をむいた。


「身を弁えてください人間。我ら妖狐は人間に媚びたりなどしません」

「っ……」


 ルナちゃんは驚いた様子で手を止めた。


「にん、げん……」

「る、ルナちゃん? 動物はほら、懐くのに時間がかかるっていうか……」


 というか、妖狐ようこかぁ。


「人間! 人間って言ってくれたのね? なんて素敵なことかしら!」

「な、なな、なんですか人間! 大人しくしなさい!」

「私を人間と呼んでくれるなんて。どうして妖怪っていうのも素敵なものね?」


 ああ、そういえばルナちゃんは死なない上に残忍だから、化物と呼ばれることの方が多かったんだ。

 あのうんざいするほど狂っているユートピアの博士ドクが、人間を人間と呼びえない者にしてしまった。


 私はルナちゃんが人間か化物かなんて些細なことだと思っていた。

 だって、ルナちゃんはルナちゃんだから。


 だからルナちゃんを<人間>として見るのは、たぶんこの狐が初めてなのかもしれない。


「イリス! この狐さんたちはきっといい人よ!」

「いや、人じゃないと思うけど……」

「人ではありません!」


 ついに狐は唸り声を上げはじめたけど、ルナちゃんは嬉しそうだ。


「狐さんたちは何をしようとしているの? こんな船を乗っ取って、何が出来るの?」

「……我等は、この世を塗り替える。人間を」

「こらこら、あまり余計なことを言うでない。その不意が、どこの誰に突かれるのかわかったものではないのじゃからな」


 扉から新しい人が姿を現した瞬間、この不思議な感触があの人のものだということが分かった。

 魔力に似て魔力でない力の香り、甘く蕩けるようでいて、しつこくこびり付く油汚れのような芳しさ。


「この世界は自らの理想が自らの命を長引かせる世界。ならば、妾たちが行動に他者を勘定にいれる必要は無いのであるからな」

「も、申し訳ありません……」

「否、謝ることはない。愚かではあろうが、それは誤りではないのだから……とはいえ、どうやら見過ごしてはおけぬ理想人がおるようじゃ」


 金色の瞳がこっちを見た。

 白玉のような肌に、瞳と同じ金色の長い髪。

 平安時代の女性が来てそうな紫色に金の刺繍の入った着物。

 うっすらと輝いてるようにさえ見える、とても美人な大人の女性。




 なんだろう、あれ。身に纏っているというよりは、放っているように見える光。

 魔力に似た何かは、あれから感じる。

 目に見える魔力というのはあるけれど、あんなに自己主張の激しいものは見たこと無いし、やっぱり少し違う気もする。


「どうするイリス。少なくとも友好的な相手には見えない。今のうちに殺しておくか?」

「悪い人って決まったわけじゃないのに、殺意なんて湧かないよ」

「確かにな。それに、あまり遊びのある相手ではないように思える」

「あの、船を乗っ取ってる時点でもう悪者の可能性が高いと思うんですが……?」


 彩花さんの指摘はもっともだけど、決め付けるのはよくない。

 あのルナちゃんだって、前はアレだけど今はこうして仲良くなれた。

 もしかしたら戦う必要だって無いかもしれない。


 なんにせよ、まずは話し合いからだ。

 アヤメが私を庇うように前に立ちながら、少しずつ近づいてくる。

 彩花さんはその場から動かず、ルナちゃんは狐とコミュニケーションをとろうと狐の真似をし始めた。

 そしてあの金色の美人さんはこちらから目を離さない。

 

「あの、初めまして。私はイリスっていいます。こちらは親友のアヤメです」

「どうも」

「お前達に興味は無い。こちらの邪魔さえしなければ別に何をしても構わんので、好きにする通い」

「何をなさろうとしているんですか?」

「話す必要はない」

「何をしようとしているのか分からないのでは、何がそちらのお邪魔になるか分からないんですが……」


 すると彼女は少し沈黙して、船の行く先に目を向けた。


「アルカディアの城に向かっている」

「えっ、それなら乗っ取る必要はないんじゃ……?」

「必要はある。この船を城にぶつけなければならないからな」

「あー、それで船のスピードがなんか速いんですね」

「そういうことじゃ」


 なるほどなぁ。アルカディア城にこの船をぶつける……ぶつける?


「ど、どうしてそんなことを?」

「何をしようとしているかは伝えた。理由まで伝える必要はないじゃろ」

「あの、それをすると私達はどうなるでしょうか」

「そら死ぬじゃろ。力があれば脱出するか、無ければ己の不運を呪うか、まあ好きにすればよい」


 えぇ……どうしてそんな酷いことを。

 というか、あまりにも突飛過ぎてついていけない。

 私ならこの船が壊れないように、搭乗者が全員傷付かないように魔法で何とかできるだろうか。

 でもお城はどうなるんだろう。あの城が壊れれば王様も兵士さんも、その周りに住んでいる人たちも危ないだろう。

 つまりこれは……。


「もしかして、悪い人なのでは?」

「人ではないが、お前達から見れば悪いんじゃろな」

「イリス、もういい。こいつはもう紛れもない黒だ」

「黒はお前じゃろ」


 アヤメは気が付けば既に飛び出していて、オニキスナイフは獣の牙が如く金色の彼女の喉笛を切り裂いたはずだった。


「無礼な。妾に牙を剥くか、ならば容赦はせんぞ」


 不思議な感覚が、一気に膨れ上がるのを感じた。

 それは、絶望的なほど不意に、圧倒的なほど膨大に。


「イリス!」

「い、命の源、湧き……え?」


 それはあっという間だった。





 うそ、でしょ? どうして、なんで?

 アヤメ、アヤメが、私の魔法で、護ろうとしたのに、アヤメが、アヤメ?


「あ、あぁっ!? ああ、アヤメっ、アヤメぇっ!」

「がっ、ごっ……!?」

「ほう、動きが速く、判断も早い。人間や木っ端な怪物相手ならばさぞ無双したことじゃろうな。まあ、妖怪相手にはちと足りなさ過ぎる」


 アヤメは、お腹から背中までを突き破られていた。

 爪? でもどこか尻尾のようにも見える。でも、どうでもいい。

 早く、早く魔法で治さないと。


「すまんの、イリスとやら。じゃが警告はした。これは自衛なので許せ。といっても……」


 そう言って、尻尾のような何かはアヤメを投げ捨てて、私の足元に転がした。


「どちらにせよ、力関係は決まってしまったようじゃがの」

「アヤメっ! 待ってて、今治すから!」

「ん? 待て待て。治す? もう死に掛けじゃぞ? いかな魔法といえどそれはさすがに無茶……」


 私は渾身の力をこめて言葉を紡ぐ。心を昂ぶらせる必要はなく、渾身の力でアヤメの傷を治癒させた。


「ごほっ、ごほ……がはっ!」

「だ、大丈夫!?」

「あ、ああ、なんとか……」

「ほう……ほうっ! これはこれは、なるほどそうか、人間とはいえ、この世界にて理想を抱く者というわけか」


 よかった、アヤメは大丈夫みたいだ。

 それにしても、どうしてアヤメの刃が通らなかったんだろう。


 アヤメの踏み込み、相手の不意を突いた殺意は完璧に見えた。

 いや、私が魔法を付与する前に飛び出したのは迂闊すぎとしかいいようが無いけど、相手の隙を突くためには私が魔法を使う前に単身で攻撃に出るしかなかった。


「蘇生に匹敵する回復力、なるほど、この異様な気配はお前か」

「わ、私ですか……」

「妾に触れた偉業とその驚異的な回復魔法で妾を楽しませた褒美に、この名を教えよう。妾は金毛九尾なる狐金こがね灼夜しゃくや妖幻想美に連なる魔性が一柱よ」


 こんもうきゅうび? どこかで聞いたことのあるフレーズのような気がする。

 確かそう、狐の妖怪のやつだ。ということは、ファンタズマと近い存在なのかな。

 でも、ふさふさ尻尾ももふもふ尻尾もない……。


 残念に思っている私とは対照的に、女狐さんは私を興味深そうに見ている。


「ふむ……お前、妾たちに与する気はないか?」

「えっ」

「その魔法と魔力の質、魔女と呼ぶに申し分ない代物じゃ。妾の手下となるならば、特別待遇で迎えよう」

「特別待遇って、あーいや、ちょっと展開が速すぎてついていけないというか……」

「早い話が、お前のことが気に入ったというわけじゃ。素朴で清純そうなところも中々に愛で甲斐があってよい。何よりその回復力は大いに妾たちの役に立ちそうじゃからな」


 急に名乗りだして、急に仲間にならないかと勧誘を受けた。

 そもそも、この人たち? が何をしようとしているのかも分からないのに、仲間になる理由が無い。

 いや、確かに狐金さんは美人で目を奪われるけど。


「仲間と言われても……」

「いや、手下っていったんじゃが」

「イリスの回復力が欲しいと言うわけか。お前達は何をしようとしている。どうせろくでもないことだろうが」

「ふふっ、確かにのう。じゃが勘違いをするでない。妾たちがしていることと、妾がお前を手下にしたいことは別の問題じゃ。まあまったくではないが……そうじゃな、ではこうしよう。妾の手下となるならば、妾たちの目的を教えよう」


 ルナちゃんとはまた違ったやらしい笑みを浮かべて、狐金さんは私を見つめていた。


「え、えぇ……」


 これは、またとんでもないことになってしまった気がする。

 なんとなくだけど、この人とは戦わない方がいいような気がする。

 このままにしておくわけにはいかないし、でも目的が分かるなら美人の女狐の手下になるのもやぶさかでは……。


「ど、どうしようか、アヤメ」

「そうだな、一番手っ取り早いのは……」

「その女狐をブッ倒して、強引に目的を吐かせればいいのよ!」


 という過激派のルナちゃんの一言で、狐金さんの目が据わってしまった。


「ほう、妾を倒すと! クックック、これは勇ましいこと……良かろう! アルカディアまで間もないが、精々妾を楽しませてみせよ?」


 ああ、もう完全に戦う流れだ……。


 分かった、もう観念した。やってやろうじゃないですか!

 私だって割と修羅場を潜ってきたんだから、いまさら妖怪だろうと狐だろうと怖くなんか、なくはないけど、なんとかなる!


 そう、心の中で意気込みながら、私はアヤメに魔法をかける。






「霧斬り舞々、刃は流れ星! 煌煌明々(キラキラメイメイ)、輝く黒点! 破邪黒点のオニキス!」


 今度は即席の常用ではなく、本気の魔法で本物のオニキスナイフをアヤメの手元に創りだす。

 アヤメはしっかりとそれを受け取って、私を護るように前に立つ。


「魔法使いの準備を悠長に待っているわけがないじゃろ……眷属よ」


 狐金さんの一言で、ルナちゃんと戯れていた狐たちが一斉に暴れだした。


「それは逆に私がさせないでしょ?」


 と思えば、ルナちゃんは狐の群れに向かって突撃して暴れまわり始めた。

 あんなに可愛がっていたのに、敵となると容赦がなさ過ぎる。

 アヤメならともかく、私に小動物をああも痛めつけるのは、ちょっと難しい。


「アハハハッ! 久々に暴れまくるぞーっ!」

「えっ、なんじゃあやつ……」


 あまりの豹変振りに驚いたのか、狐金が背後を振り返った。

 私でも分かる明らかであからさまな隙。でも、今のアヤメのナイフなら……。


「違うイリス、本当に怖いのはそっちじゃない」

「ほう、賢い賢い。さすがに二度目は釣られんかった」


 カラカラと笑う狐金から目を離さずに、でもアヤメは私に向けて語りかける。


「お前の感じている不思議な力、そして私の感じている不気味な気、甘く見られる相手じゃないらしい。今回ばかりはお前の慎重さにあわせる」

「ほ、本当に?」


 驚いた。あの隙あらば即行瞬殺を心がけるアヤメから慎重なんて言葉が出てくるなんて……。

 でも、私の慎重さはバフ積み込むことにしか活かされてないと思う。


 さて、どうしようか。

 たぶん、最も警戒しないといけないのは、狐金の纏う何かより、アヤメに追いつく素早さのほうだ。

 でも、何かおかしい。妙な違和感がある。魔力じゃなくて、何か見落としているような……。


「どうした? 確かに釣られないのは偉かったが、このままでは何も進展しないままじゃぞ? いや、妾はそれでもいいんじゃった」

「ううん……」


 いざとなったら、アヤメは私を抱えて船から飛び降りるだろう。魔法があればそれも十分できる。

 そうなる前に決着をつけないといけない。けど迂闊には動けない。

 じゃあ、どうする?


「じゃあ私が頂いちゃうよ?」


 鈴の音みたいに、ルナちゃんの言葉が響いた。

 勢いよく背後から飛び掛って、獣のような手つきで襲い掛かる。


「意気がよいの。じゃがな」

「っりゃあ!」


 狐金の纏っているオーラのような何かが、ルナちゃんの大振りの五指とぶつかって、激しい破裂音が船上に響いた。


「ぐえっ、え?」

「る、ルナちゃんッ!」


 気が付いたときには、ルナちゃんの体は三つも傷つけられていた。

 右の腹、左の肩、そして右足の甲。


「い、ったいなぁッ!!」


 獣が叫ぶみたいに怒鳴りながら、ルナちゃんは傷口に手を当てた。


「お、おおっ?」


 予想外の反応だったのか、狐金が困惑したような声を上げた。

 って、なんだあれ。ルナちゃん、なんか浮いてるような?


 いや、浮いてるとか飛んでいるというよりは、何かにしがみついているように見える。

 と思ったら、ルナちゃんの体は大きく揺さぶられ始めた。


「こ、この、離さんか……! なんじゃ、体に穴が開いておるのにまったく同様せんのじゃなこいつ……!?」

「生憎こんなの慣れっこなのよ、痛くも痒くもないわ!」

「さ、さすがルナちゃんだなぁ」

「感心してる場合かイリス、仕掛けが見えたぞ」


 分かってる。アリスちゃんの蛮勇を無駄にしないために、私は魔法を創る。


「岩をも砕く万力、地をも裂く強力ごうりき釈迦力しゃかりきに至れ。金剛夜叉こんごうやしゃ!」

「お、おお! なんかピカピカしてきた!」


 ルナちゃんの体は金色の光を纏う。

 そしてルナちゃんは魔力の翼を羽ばたかせ、必死に見えない何かに振り回されないように力をこめて、拮抗する。


「そしてすごい力が漲ってくる!」

「イリス、魔法使いとして、あれをどう見る?」


 ルナちゃんが何かを掴んでいるのは確かだ。

 そして、それはおそらく狐金の体の一部かもしれない。

 でも、それがなんであるかは分からないし、見えるようにしないと近づくのも危ない。


 目の前にある秘密があるなら……暴けばいい!


「彩花さん! 出来る限り色々な方法で無効化系の魔法を試してもらっていいですか!」

「ちょうど選別が終わったところです。お待たせしてすみません。やっぱりこれでしょうかね」


 狐金の足元から、メキメキと枝が伸びてきた。

 葉は刺々しくて、小さな白い花も見える。


よこしまを破りて、魔を取り除きて、物の怪を退け散らすは、柊」


 柊、どこかで聞いたような……あっ、アニメで見た神社の巫女さんの名前が確か柊だったっけ。


「柊は節分で魔除けとして使われている植物だったはず」

「そうそう、それそれ」


 柊が狐金の体に素早く纏わりついた。

 そして、それは私たちには見えなかった本当の姿を露にした。


「ぬぅうあああ!! ヒリヒリするんじゃけど!? すっごいひひらぐんじゃがこれぇ!」


 和風の着物のなかにも柊は容赦なく入り込んではだけさせる。

 すると、狐金の玉のような肌も露になってしまった。


 ちなみに玉は羊脂玉っていう最高級の白い玉のことらしいよ。


「お、おおっ……」

「くっ、妾の力を削ぎ落とされるような不快な感触、煩わし……んっ!」


 はだけた胸元から零れ出そうなほど立派なお胸は柔らかそうに形を変えている。

 柊の枝は履き物すら突き破って引き裂くと、みずみずしく艶かしいふとももまでむき出しになって、もうなんかこっちが辱めているみたいになってる。


 でも、そんな魅惑のサービスシーンを目の前にしても、実体を現しつつある姿は無視できない。

 柊の枝葉が虚空を削って、金色の尾をむき出しにする。

 ルナちゃんがしがみついていたのも、その九本のうちの二本だった。


 触手のように蠢く九本の尾は、本体である狐金と比べて大きすぎる気がする。


「妖力ですね。違和感があったのも当然です」

「そりゃ九尾って妖怪だもんね。妖力に決まってるでしょうね」

「妖怪……」


 もっふもふな九本の尾、ピクピクと反応している狐耳。

 たわわなおっぱいにむちむちな太股。

 抵抗している間に赤みの差す頬……そして、大きく歪んだ口元と、見下すように細まる目。


「見事じゃ。まさかこんなところで妾が暴かれるなど、思いもよらなんだ」


 敵の姿を暴いて、追い詰めているのはこっちのはずなのに。


「魔除け、厄除け。確かに九尾である妾には悪くない選択じゃが……ぶっちゃけ、植物ごときで妾を留められると思うてか?」


 メキメキと、枝のへし折れる音が聞こえる。

 狐金の姿も、また変わりつつあった。

 というか、せっかくの美女の姿が歪んで、ねじれて、毛が生えて……。


「な、なな、なっ……」

「驚くこともないじゃろ。妾は九尾の狐。この人型も仮初にきまっとる。さて……それでは仕切りなおしじゃな」


 狐金は傾国の美女から、人よりも大きい猛獣になった。

 ギラギラと光る金色の瞳、チラチラと見える鋭い牙。

 そして、魔力とは違う、妖力が肌を舐める感触は、あまりにも気持ち悪くて、おぞましかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ