メルヒェン42 水も滴るお姫様
いわゆる水着回
突然ですが、大変まずいことになりました。
「いくら王子様といえど、さすがに私も我慢の限界よ?」
「はい……」
アヤメとのお風呂のあと、脱衣所から出る時にちょうど、ばったりと出会ってしまったのです。彼女と。
「あなたは私の王子様なの。だから楽しそうな貴女の理想と交わったし、あなたの喜ぶ顔が見れるなら多少のことは我慢できる。でもね、いくらなんでもそれは酷いと思うの」
「仰るとおりです……」
ルナちゃんはもうカンカンだった。
お腹は夏場に鍋パーティを開いたみたいにグツグツ煮えくり返っているし、頭からは火をかけっぱなしのヤカンみたくけたたましく湯気を噴出していてもおかしくないくらいだ。
胸は……アヤメよりも幼いのに発達した途上のふくらみは魅力的だけど、その裏側ではムカつき虫が威嚇しているのに違いない。
「それで、私にどんな埋め合わせをしてくれるんだっけ?」
「今日一日は、ルナちゃんと二人きりのデートをしたいと想います……」
「もちろん、あの黒いのも抜きだからね!」
「はい、アヤメにも口出しとかはさせません……」
心の中で謝る私に、アヤメは苦笑で応えてくれた。
一方、ルナちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。
「そうとなったら時間がもったいないわ! さっさと行きましょう!」
「え、いきなり!? ていうかどこ行くかとか……」
「王子様じゃ優柔不断すぎて何も決められないでしょ。しょうがないから今日は私に付き合ってもらうからね。異論は?」
「ありませんです、はい」
「よろしい! それじゃ最初の目的地へれっつ★ごー!」
ルナちゃんと私だけの一日が始まった。
まず最初に向かったのは、服屋さんだった。
石造りの綺麗な店につれてこられて、私は困惑した。
普通の服屋さんはもう十分に行きつくした。いまさら服屋さんで買う物はないと思うんだけど。
「ふふん、ここはただの服屋さんではないわ。なんと……水着を売っているのよ!」
「水着? どうして水着?」
「それはもちろん、水遊びをするからに決まってるでしょ?」
水遊び……確かに、今の季節は夏。山に行くんだから川で遊ぶとかそういうのがあってもおかしくないと思っていたけど、まだお風呂しか入ってなかった。
というか考えてみれば水着の一着も持っていなかった……。
店の中に入ると、そこは色々な水着がずらりと並んでいた。
そう、本当に色々な……。
「王子様の好みはどれかなー? あっ、まだ言わないでね。私が当ててみせるから」
楽しそうにルナちゃんは駆け出したかと思うと、ふと立ち止まってくるりと振り返る。
「あっ、イリスは自分の水着を選んでて!」
そう言うとルナちゃんはうきうきした表情で物色を始めた。
「あ、あはは……」
「大変だな」
ルナちゃんにはああ言ったけど、心の中で私と会話するくらいは許してくれるよね。
「いや、私も今日はあまり干渉しないし、一緒に考えたりもしない」
「えっ」
「今日は私もフリーで歩き回ってみようと思う。お前はルナとよろしくするといい」
「ちょっと、ちょっとまって!? ……アヤメ? アヤメぇ!?」
なんてこと、頼れる相棒にとんずらされた。
アヤメは私の妄想だけど、もう一個の独立した存在だ。私の妄想無しで活動するのも今では余裕だ。
身軽なアヤメなら忍者のように屋根から屋根へ飛び移ったり、影に紛れたりと、割と自由に活動できるはずだ。
さて、それはともかく、私も水着を買わないといけないだし良さそうなのを見つけよう。
適当に店内を歩き回って、並んでいる水着を眺める。
あんまり派手なのは目立つから嫌だ。でもせっかく買うならとにかくこだわりたい。
とりあえず、適当に手に取ってみてみる。
一つ目。
布面積が極小にまで抑えられたマイクロビキニ。
「……」
論外だ、言うまでもない。
これはもう絶対に泳いだりするためのものではない気がする。
それこそなんというか……コスプレ的な?
そういえばアマゾネスとか女性の戦士ってたまにこういう形の装備だけど、あれはなんなんだろう。機会があったらジャックスさんに聞いてみよう。
二つ目。
紺色の、さっきのと正反対の布地面積の多い水着。
「ま、マニアックな……」
露出が首から上と手足しかないこの水着は、いわゆるスクール水着と呼ばれるものだ。
幸い名前を書く所はない。オプションでスパッツ型のパンツもつくらしい。
露出が少ないのはありがたいので、これは候補に入れておこう。
「あとは、ワンピース型、紐しかないやつ、貝殻ビキニ……ちょっと派手なのが多すぎる」
ど、どうしようか。このラインナップは、正直私の身に余る。
やっぱり無難に可愛い柄の水着で……。
「王子様ー!」
「あ、ルナちゃ、んっ!?」
「どうどう? グッときた? キュンときた?」
妖艶な笑みをたたえながら、ルナちゃんはあられもない姿のまま駆け寄ってきた。
その姿は、黒地に黄色いラインの入ったスーツ。いわゆるダイビングスーツだった。
「こ、これはまた個性的な……」
「ふっふっふ……どうやらこのチョイスの神威が見抜けていないみたいね。ほら、もっとよく見て?」
よく見てといわれても、スクール水着よりも露出度が少ない、むしろ私が着てもいいくらいの……いや、違う。違うよこれ!
「これ、て……」
「どうやら気付いてしまったみたいね……」
「水着なのに、裸みたいに見える」
そう、露出がほとんどないからこそ、それがまるでそういう身体なのだという、いわば亜人の肌というだけのような。
だから黒地に包まれた小ぶりな胸も、愛らしい小尻も素肌のように感じられて。
つまり、これも素敵なエロチッ……メルヘンチックの一つということで。
「ルナちゃん……色々すごいね」
「ふふん、私の魅力にメロメロといったところかしらね!」
本当にメロメロにされそうだ。イタズラっぽい蠱惑な笑みに、小悪魔みたいな魅惑の肢体。
そして誘惑の手練手管。これが恋する乙女の底力なのかもしれない。
「さて、イリスはお好みの水着見つけた?」
「あー、それがまだ……」
「むぅ、やっぱり優柔不断が顔を出しちゃったみたいね……じゃあとっておきのを選んであげる」
「あんまり派手なのは嫌だよ?」
するとルナちゃんが私の手を取って試着室に引き込んだ。
「とりあえずスタイルをちゃんと見ないとね。サイズとかもあるし」
「は、はあ。とりあえず脱げばいい?」
途惑いながら促されるままに服を脱ぐ。
「むぅ……大きい」
「そうでもないと思うけどなぁ」
「鷲掴みできるような立派なものぶら下げて、何言ってるの?」
「ひゃっ!?……ちょ、ちょっと、急に触られると」
不意に右側を掴んで持ち上げられて、変な声が出てしまった。
「この肌触り、柔らかくも張りがあり、形も良い……見事に美乳って感じね。もうちょっと大きいと完璧だけど、このサイズのほうが扱いやすいかな」
「あっ、あの、ちょ、こねくり回すのは……水着! 水着のほうを見ていただけませんか!? ルナちゃん!」
「王子様は可愛いなぁ」
あなたもね、と心の中で呟いた。
このセクハラ少女は本当にもう困ったものだ。アヤメがいたら勝手に止めてくれるけど、これでは自制心がいつ崩れてしまうか分かったものじゃない。
とりあえずひとしきり弄られたあと、ようやくルナちゃんは水着を何着か持ってきた。
「これなんかどう? 青地に黄色の星柄、パンツは紅白の縞々。パっとしてて良くない?」
「なんか見たことあるような……」
「ほら、もっと胸を収納して、こうして、こう!」
「ちょ、ちょっとこれ心許ないんだけど、宙ぶらりんというか、零れそうというか……」
「そこがいいんじゃない! ポロリしないか意識したほうが恥じらいがあっていいと思うよ」
「この水着がもう恥じらい通り越して痴女のそれだよ。他には?」
次はさっきよりは布面積が多い黄色の水着。
「ほら、もっと胸を寄せて」
「おおっ、なんか、谷間の主張がすごいことになってる! 主張が!」
「あー、これツンツンしたい。ツンツンしていい?」
「試着室はイチャイチャする場所じゃないんで……」
次、目ざといルナちゃんが見つけたスクール水着。
「むしろこれはルナちゃん向けじゃないかな」
「えー、逆に普通すぎない? ところでサイズが小さめのを選んだから脇からはみ出すよ。エロいね!」
「これは辱めを受けているような気分なんだけど……」
「とんでもない! 恥らうイリスを可愛がっているだけだよ。紙一重違うよ」
物は言い様って感じだ。
次は……包帯?
白い布で胸をぐるぐるに巻いて、下はお相撲さんのマワシ? 褌の方が近いかな。
「サラシっていうらしいよ。水着というよりはただ布を巻いてあるだけだね」
「これは……確かに露出度もマシだしシンプルだけど、水着として奇抜すぎない?」
「まあイリスにはちょっと似合わないね。お尻がくっきり出るのはいいんだけど」
なんとなく、アヤメに似合いそうだ。
今日はルナちゃんに付きっ切りだから、明日にでもアヤメと一緒に買いにこよう。
「んー、これはイリス向きじゃないし、こっちはデザインが地味すぎるし、うーん……これは、色が派手すぎるよねー」
「ん、ちょっとまって。それ見せて」
「えっ、これ? はい」
ルナちゃんから受け取ったそれは、ワンピース型の水着。
腰にフリルがついているけど、そこは二の次だ。
私の目を奪ったのは、柄だ。
斜めに描かれた虹色のグラデーションは、派手だけど宝石みたいに綺麗で可愛らしい。
露出も少ないし、虹色なら水辺との相性もいいはず。プリズムだし。
「決めた、私これにする!」
「えっ、マジ?」
「うん!」
こうして私はカラフルで素敵なワンピースの水着を手に入れた。装備するのが今から楽しみだ。
そして私はルナちゃんのエスコートに導かれ、目的の場所に辿り着いた。
「ここが、私のイチオシデートスポットよ!」
「ここは……巨大プール施設!?」
そう、そこはプール施設だった。
いや、プールなのは察しがついなのだけど、驚いたのはその規模だ。
とにかく広い。広すぎる。
プールの種類は流れるものから波の出るもの、温水のものまである。もちろんスライダーも。
ご飯を食べるところもあり、日光のように明かりが室内を照らして、オイルを体に塗って寝そべっている人も少なくない。
それだけなら大きなプールの施設だすごいで済むけれど、実は隣は温泉施設になっている。
プールで疲れたらそっちでくつろぐという、一粒で二度美味しい施設だった。
ちなみに一階から上はショッピングモールになっている。何でもありすぎるよここ。
「ここは人気なのに観光客にはあまり知られていない穴場なの。一人で散策しまくって見つけたのよ!」
「これは素直にびっくりした。ルナちゃんすごい!」
「ふふん! 王子様との蜜月のためなら、これくらい朝飯前なんだから! でももっと褒めて!」
私は擦り寄ってくるルナちゃんを受け容れて頭を撫でてあげる。
擦り寄ってくる姿はさながら甘えん坊の犬みたいだ。ちょっと発情期みたいに体を擦り付けてくるけど。
「さあ、どれから遊ぶ?」
浮き輪もレンタルしたし、準備は万端。怖いものは何もない、はずだ。
私たちは流れるプールにて流されることになった。
浮き輪に嵌まったまま、私はどんぶらこと流される。
喧騒の中、流されるままに。冷たい飛沫を浴びて、熱い日差しに照らされる。
こんなに穏やかさを実感できるひと時は、何時ぶりだろう。
たぶん、魔窟の森でハイエルフのレナさんの家にお邪魔したとき以来かもしれない。
やっぱりこういう時間も大事だよね。安息の時間。
全身の緊張をこれでもかってくらいにほぐして、弛緩。
「ああ、穏やか……」
「やっほー王子様! 冷たくて気持ち良いよ!」
何週目かのルナちゃんが水を手で浴びせてきた。
ただし、ルナちゃんの勢いは普通のそれではない。量が多くて息がしづらい。
「あ、あう、ちょ、攻撃が激しい!」
そう、私の穏やかな時間は、今日に限りルナちゃんに占有権があるのだ。世知辛い……。
「もう、イリスももっと遊ぼうよ! ほらほら!」
「あー、ちょ、ダメです! ダメですよルナちゃん!? そんなに暴れたら浮き輪が引っくり返って……」
「えーい! 転覆だー!」
「うぇえええええ!?」
ルナちゃんという怪獣に襲われた結果、私の視界は引っくり返った。
「っぷは! あぶ、ぶなちゃ……ルナちゃ! ぶくぶ……!」
「あはは! イリスったら大げさなんだから! ……イリス?」
「はぶ、ぐぶ……」
「イリス!?」
完全に落ちる前に、察したルナちゃんが幼い体に似合わない力強さでプールから引き上げてくれた。
ビーチチェアーに寝かされた私は、隣でルナちゃんの呆れのこもった溜息を否応なく聞かされた。
「もー、泳げないなら泳げないって言ってよね!」
「はい、ごめんなさいでした……ルナちゃんが楽しそうにしてたから言い出しづらかったの……」
「まったくもー、それなら私が泳ぎを手取り足取り教えてあげたのに」
そうですよ、私は女の子一人楽しませることの出来ない喪女ですよ。うぅ……アヤメたすけて。
「もう、そんなに落ち込まないでよ。私は王子様と一緒にいられるだけで幸せなんだからね? デートはちょっとしたアクセントとサプライズ的なお楽しみなんだから」
「ルナちゃん……」
「気を取り直してご飯を食べよう? お腹いっぱい元気になったら、私が泳ぎを教えてあげる!」
「ルナちゃん……!」
ああ、ルナちゃんはなんていい子なんだ。私とは大違いだ。
でもいつまでも落ち込んでなんかいられない。
ルナちゃんの言うとおり、美味しいものでも食べて、元気の素を補給しよう。
そしたら私はルナ・ロマンシア・スイミングスクール一日体験講座を経て、マーメイドみたいに泳げるようになろう。
意外と肉のたっぷりあるやきそばと、タコの大きいたこやきを食べて元気を回復させて、波の出るプールで泳ぎを教えてもらうことになった。
しっかりゴーグルをつけて、これで怖いものはない。
「それで、どの程度なの? 水の中で目をあけられないくらい?」
「さすがそれくらいは大丈夫。ゴーグルあるし。泳ぐってしたことないからどう動けばいいのか……」
「簡単よ。水を掴んだり、撫でたりすればいいのよ」
「すごい感覚的な説明だね……」
「とりあえず足で進む練習するよ。自転車と同じで止まらなければ沈みにくいからね」
私はルナちゃんの手を握って足を動かす。
「足をばたばたさせるのは水面から下。顔が水面に出せる方向に意識して」
「う、うん」
「ばたばた……うん、いい感じ。王子様ならこれくらいは楽勝ね。じゃあ今度は手で水を引っ掻く」
「水を引っ掻く?」
「手首のスナップをきかせて、上半身が沈まないようにするんだよ。片手ずつやってみて?」
「えっ、離すの? どっちか、らぁああ!!?」
いきなり右手を離されて、パニックになりかけながら必死に水をひっかく。
「あ、なんかこれいいかも……」
「はっ、へっ、なに、が?」
「この手を離したらイリスは私に必死にしがみつくしかないでしょ? ……ゾクゾクするよね」
「なんて、物騒な……あ、コツが掴めて来たかも」
「じゃあこっちも離して大丈夫だよね?」
「えっ、片方ずつって話、じゃ、ああああ!?!」
う、おおお!? し、沈む! 死んじゃう沈んじゃう!?
「ふぅうううう!!」
「おお、すごいすごい! さすが王子様ね!」
「ちょ、いつまでこれしてればいいの!?」
「焦りすぎだよイリス。そんなに必死にならなくても沈まないよ。とりあえず浅いところまで自力で行ってみよー!」
優しい教え方と思いきや、やらせることがちょっとスパルタすぎませんか。
でもなんとか浅いところまで辿り着けそう……いや、無理そう。
「た、体力が……」
「最初に焦りすぎて疲れちゃったのね……しょーがないなー。ちょっと手伝ってあげる」
「ルナちゃ、ほわっ!?」
横に寄り添ったルナちゃんが何をするのかと思えば、私の胸をぐわしっと掴んできた。
「ちょ、ちょっと、ちょぉ!!」
「ほら、手を休めたら沈んじゃうよ。後もう少しだから頑張ろうね!」
「言いながら揉まないで! んーっ……!」
もう触り方が完全にその気だ。
本当に沈みそうなときはちゃんと支えてくれるけど、余裕が出てくると優しく撫でたり指を這わせたり、敏感なところを弾いたりしてくる。
「くぅっ……も、もう」
「すごい柔らか……じゃなくて、頑張ってるね」
「もう、だめ……っ!」
「あ、もう足つくよ」
この、ルナちゃんは本当にもう!
この仕返しはいつか必ずする。絶対にだ。さすがの私も我慢の限界です。
何が限界って、こんなに可愛い子に好き勝手に弄ばれるなんて興奮……じゃなかった。屈辱的過ぎる。
「ごめんごめん! 休憩ついでに甘いもの奢ってあげるから、機嫌なおして。ね?」
「しょ、しょうがないなぁ」
我ながらチョロすぎるぞ私……。
少し休憩して、ついでにアイスを食べてから、もう一度プールに入る。
今度は潜水しながら泳ぐ練習だ。
「そうそう、水に手をかけるの。水は足場で、掴む物。あと、息は吐き終わるまでは吸わなくていいから余裕があるよ。それじゃあいくよ? せーの……」
「うわぁそんないきなり……はっぷ!」
ルナちゃんに手を引かれて、波のプールの深いところまで潜っていく。
教えられたとおりに、少しずつ空気を吐き出していく。
鮮やかな青い世界で、ルナちゃんに引っ張られながら魚のように進んでいく。
緊張と運動で火照り続ける体を、冷まし続ける水が気持ちいい。
静かだ。音はするけど、まるで遥か遠くで響いているような。
何もかも遠くに感じさせる静寂が、水中にはあった。
ルナちゃんが少しずつ握る手を緩めるから、私はその手を離して、言われたとおりに水を掴んだ。
ジャンプするように水を蹴って、爪で引っ掻くように手を動かすと、体はすいすい前へと進む。
水の中ってこんなに自由に動けるものなんだ……。
肺の中の空気が減ってきたあたりで、ルナちゃんが浮上したので後を追う。
ちょっと焦ったけど、無事に水面から顔を出せた。
「ふぅ、すぅ……はぁ。出来た」
「じょーずじょーず! これで泳ぎは完璧だね!」
「うん、ありがとうルナちゃん」
友達から泳ぎを教えてもらうなんて、前世じゃありえない話だった。
というか、運動を進んでやろうとすること自体がなかった。
外で遊ぶなんて疲れるだけだし、怪我をするかもしれない。身体能力の違いでいじめられたりするかもしれない。
そんな不安要素だらけの外に出ることは自殺行為とさえ考えていたのに、私も成長したなぁ。
「ふう、がっつり練習して水泳も身に付いたことだし、温泉で疲れを癒しましょ?」
「あっ、そっか。隣は温泉施設だっけ。便利だなぁ」