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メルヒェン4 出会いは夢の中

 上下左右が真白な部屋。

 一人の少女が微笑みかける。


「やっぱりあなただったのね。私の吉夢きつむ


 夢だ。これはきっと夢。

 だって思い出せるすぐ前の記憶では、私はベッドの上だった。確かに。


「あの……その、私に何か御用でしょうか?」


 恐る恐る、私は目の前の少女に尋ねる。

 真白な部屋に敷かれた、白い布団の上にちょこんと座り、抱き枕を抱える少女。

 その瞳は眠たげにとろんとしたまま、しかしはっきりとした口調で答えた。


「言ったでしょう。あなたに私を救って欲しいの」

「な、なんで私なんでしょうか。私はつい先日この世界に来たばかりの新人で……」


 白い大きな抱き枕を抱えたその少女ひとは、黒髪が長すぎて漆黒のドレスを纏っているかのようで。

 なんというか、引き篭もりって感じがした。


「もしかして、引き篭もりの方ですか? 椿さんのところで仕事を探したいとか」

「なっ……失礼ですね。求職者ではありません」


 違ったみたい。

 でもきっと引き篭もりなのは間違いないと思う。

 だってあの髪の長さは身長よりあるし、歩くと絶対引きずっちゃう。


「なんだかとても失礼なことを考えていませんか……私はとある獣を封じ込めているの。でも、このままでは私はその獣に力負けして、理想を食べられてしまう」

「は、はぁ。大変ですね?」


 なんだかいきなり語りだされてしまったので、とりあえず最後まで聞いてみよう。

 私の頭で理解できるかどうか不安だけど、そこはしょうがない。頑張る。


「そう、大変なの。出来れば早急に協力してほしいのだけど、私の理想は少し特別で、こうして話しかけられるのは極限られた選ばれし人だけなの。あなたみたいな、ね」


 わ、私が特別?

 本当に? 私が? ただのごく普通、を遥かに下回る私が特別?


「え、えへへ。そんなぁ、私が特別だなんて、それほどでも……あります!」

「……それで、協力していただけるなら嬉しいのだけれど」

「もちろんです! 私で良ければいくらでも力になります!」

「まぁ……嬉しいわ。ところでね、これはさっき言ったように、限られた人間にしか対応できないことなの。つまり他の理想人には手が出せない」


 彼女と私、特別な存在でしか手が出せない問題。

 なんだかメルヘンな香り、きっと空想的メルヘンチックなことに出会えるに違いない!


「だからね、安易に言いふらしてしまうと無用なパニックを起こしてしまう可能性があるの。だからこれは、私とあなただけの秘密、ここだけの話として欲しいのだけれど、守れるかしら?」

「はい、はい! 守れます、守ります! 二人だけの秘密の約束、決して破るようなことはしません!」

「ふふ、ありがとう」


 妖艶な笑みを浮かべる少女。眠そうな半目から覗く瞳は猫のような金色を見せる。


「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はアリス」

「アリスさん……」

「アリスでいいわ。私の頼みを聞いてくれたあなたは、もう私のお友達だもの」


 ああ、なんてことだろう。

 妄想の友人、現実の友人に続いて、夢の中にまで友人を作ってしまうなんて。

 もしかして私は友達を作る天才で、前世で友達ができなかったのは、とことん相性が悪かっただけなのでは?

 つまり、私はコミュ障ではない!


「素敵な名前ですね、アリス!」


 アリス、不思議の国とか鏡の国とか行きそうな名前だよね。

 出会いも名前も申し分ないほどにメルヘンチック。

 もしかしたら、この人になら……。


「私はイリスと言います。これからよろしくです、アリスちゃん!」

「ええ、仲良くしましょうね……あっ、そろそろ時間みたい」

「えっ? 時間って……」

「起床の時間よ、あなたの。ほら、聞こえない? あなたを呼ぶ声が」





 新たな力に目覚めてから数日、新しい朝は、新しい私にとって最高の朝になる。


「ならさっさと起きないか!」


 ことはなかった。


「もう、少し、寝かせて……」


 そう簡単に変われるわけもなく、私は朝に弱いままだった。

 窓から差し込む朝の光はキラキラと、まどろむ目には刺激が強い。


「うぅ……なんで朝に弱いのは変わってないの……」

「変わるも何も、私が出てきただけだろ。まあお前の生活改善に一役買うことは出来る」

「んあー! 起こさないでー」


 アヤメに強引にたたき起こされ、なんとか身支度を整えた私は朝日を浴びることが出来たのであった。

 このアパートには一階に庭があって、本来は一階に住む人が使える場所。

 でも住人は私と椿さんだけだから実質フリースペースになってるみたい。


「いやぁ、朝日を浴びるのは気持ち良いなぁ」

「お前な……」


 深い青空に浮かぶ白い雲と眩い太陽。

 穏やかな朝日の光が体をじんわりと温める。


「じゃあ明日からは自分ひとりで起きられるか?」

「でもお布団の中はもっと気持ちいいの」

「駄目人間だな」


 駄目人間でもなんでもいい。

 起きてみる夢もいいけれど、眠って見る夢にも価値はある。

 だって、そのおかげで新しい友達が出来たんだから。


 確信に浸っていると、既に出かける準備を整えた椿さんが現れた。


「おはようございますイリスさん、アヤメさん」


 声の方を見ると、アパートの入り口に立っていた。

 黒いスーツに身を包む姿からは出来る女の風格が漂っている。

 ただ、男性にモテそうかと言われればそうでもない。

 むしろ女性にモテそう。


「おはようござます!」

「おはよう、椿さんは仕事か?」

「いえ、これからお見合いです」


 お、お見合い? お見合いにガッチリスーツ?


「そうか、理想の相手と理想の結婚をするのが貴女の理想だったな」

「ええ、私の理想が叶うかどうかの重要な日ですので、身だしなみはしっかりしないと」


 あ、違うな。これはあれだ。お仕事で何か重要な会合か何かがあるんだ。きっとそうに違いない。

 いやでも仕事じゃないってさっき言ったばっかり……。


「それではお二人とも、理想の一日を」

「あっ!? は、はい! 理想の、一日を……」


 椿さんは行ってしまった。ビジネススーツで身を固め、自らの理想を叶えるために、自らの戦場へと……。


「あんな装備で大丈夫なのかな」

「さぁな。だが服装ということならイリス、お前も人のことは言えないぞ」

「えっ?」


 アヤメに言われ、自分の服装を改めて見直す。

 アルカディアから支給された白いシャツに、なんか茶色のズボン。

 理想郷に降り立った時に来ていた美しいドレスは一着しかなく、洗濯したらこれしか服装の選択肢は無い。

 理想の力でぱぱっと服を作ろうにも、まだそこまで器用に力を使いこなせるわけじゃないし、同じデザインではお洒落の欠片もない。


 そして私はお洒落と無縁な少女。メルヘンチックなドレスくらいしかボキャブラリーがない。

 ピンク色のフリル付きワンピース。

 フリフリ過剰のゴスロリ黒ドレス。

 青色のメイド服。緑色の妖精コスチューム……

 

「少なくとも最近の若者らしくはないな。メルヘンチックではあるかもだが」

「最近の若い人のファッションが分からない……」


 今の私は<灰被り姫>よりも乙女らしさが足りない。

 深刻な乙女チック不足です。


「メルヘンの欠片もない年寄りくさいことを言うな」


 メルヘンチック、私が何より心がけるべきはそこだ。

 自分が目指すべきことさえ忘れなければ、必ず理想に辿り着ける。

 来たばかりの頃に、必死になって周囲の人に聞いて、そう応えてくれた人が居た。


 ここに居る人は自己顕示欲が高くて、色んな人が色んな理想を見せてくれた。

 強くあること、正しくあること、優しくあること、かっこよくあること。色々な在り方、色々な叶え方。貫き方。

 あの人と、あの人たちの……


「ううん、ファッションなんてどうでもいい。私のスタイルは、こう!」


 私の在るべき姿。私の在りたい姿。私の在るがままの姿。

 沸き立つ心をありのまま、キラリと彩る魔法のドレス。

 なるほど、こういう感じでいいんだ。


設定オプション選択セット、イメージカラーは紫、子供らしくフリフリ、ちょっぴり大人っぽく肌色、髪は……とりあえずこのまま」


 魔性に浮かぶ色香の艶笑、底なし夢の深淵へ、遥か彼方のきらめく魔法、空想メルヒェンに至る虹をたどり、かけ橋一条、ひとかけら。

 イリス・パープルエディション!


「おお、これは驚いた」

「ふっふっふ……そうでしょう。これが私らしさ、私の理想ですよ!」


 セッティングどおり、ゴスロリを齧った紫色のドレス、硝子の靴ならぬアメジストの靴。

 首から肩までを露出させる。まだ育ち盛りだから谷間も出来てないけど、むしろ逆に需要があるはず!


「何が……」

「んっ、アヤメどうかした?」

「何が育ち盛りだ」

「ひっ!?」


 ぐいっと迫るアヤメの顔……綺麗だなぁ。

 怒った顔もまた素敵だよ、アヤメ。

 なんて台詞はさすがに臭すぎるかな。


「イリス、お前には悪いがこれだけは納得いかない」

「な、何がお気に召されませんでしたか?」

「なんで私の胸は平坦なんだっ!?」


 いやだって、私は魔法でアヤメは接近戦……って設定だったから。

 素早く動くのに胸があるのは邪魔だと思って。あとそっちの方がカッコイイと思ったから。


「そ、その代わりお尻がきゅっと締まっててセクシーだよ!」

「むぅ……」


 アヤメは各部位をコンパクトにしたほうが様になるんだよね。

 健康的なアマゾネスというよりは根暗な暗殺者ってイメージなので、飾り気のないスリムでスマートな人切り包丁、そんなシンプルさが欲しかった。

 ちなみに今後アヤメの胸を増量する予定はございません。


「くそっ……呪うぞっ……!」

「アヤメこわひ」


 まあそれはそれとして、私はこれから何をすればいいんだろう。

 理想郷在住の理想人たちが言うには、何もしなくてもするべき事が降りかかってくるらしいけど。


「とくに何もないよね」

「……だな。だが油断するな。ここは理想世界。誰もが己の理想を叶える為、いかなる相手であれあらゆる手段で蹴落とそうとする難敵ばかりだろう……イリス?」

「……んあ、ごめんアヤメ、なんかすごく、眠くて……」


 アヤメの呆れた溜息が遠くで聞こえる。

 油断したら、すぐに堕ちてしまそうなほどの睡魔が瞼を強引に閉じようとしている。


「なんだ、まだ目が覚めてないのか。天気もいいから運動でも……イリス?」


 なんだろう、本当に凄く眠い。

 瞼が、勝手に、落ち……。 


「待って、これなんか、おかし、い……」

「なっ、アヤメ!? おい!」


 遠くから聞こえるアヤメの声も、すぐに聞こえなくなった。

 まるでザルの網目から水が滑り落ちていくように、力がするすると抜け落ちていく。

 ぽかぽか陽気の気持ちよさと、瞳と脳の痺れが私を深い眠りに誘っていった。





「おはよう、イリス」

「あれ? ここは……」


 気が付けば今朝に見たばかりの空間。

 中央に横たわる漆黒の長髪。それを纏う美少女。

 少女の抱き枕は、変わらず真っ白だった。


「早速、あなたには協力してもらうわ」

「えっと……」


 協力と言われても、具体的に何をすればいいのか聞いてないし。

 というか心の準備とか色々……あっ、ていうかアヤメが一緒じゃない!?

 アヤメは私の妄想なのに、どうして一緒じゃないんだろう。


「綺麗なドレスね」

「あ、あの、私は何をすれば?」

「協力を頼んでおいて言い難いのだけれど、やっぱり貴方の力では、戦力としては心許ないかも」


 この人、言うことに結構遠慮が無い。

 まあ自分でも分かっていたけど、こうも面と向かっていわれると。

 私の心は傷付きやすく割れやすいクリスタルハートなので……。


「だから、ちょっと試させて貰いますね?」

「試すって……ほあっ!?」


 抱き枕を離したアリスちゃんは、布一枚すら纏わない姿だった。

 漆黒の長髪がサラサラと流れ、自分と同じくらいの姿で、胸だけがよく目立つ。


 なんて綺麗な特大プリン。

 色艶形、全てが完璧。

 あんなクッションを見てしまったら、あれを抱いて眠りたいと思うのは男は当然、私だってそうしたい。ぜひとも。



「あら、ごめんなさい。私は寝るときは裸にならないと眠れないの」

「い、いえ! 全然、大丈夫です!」


 それは女子である私が見ても惚れ惚れするような果実だった。

 アリスなんて可愛い名前と肢体に対して犯罪的な印象さえ受けるそれに、私は強烈な敗北感を味わうこととなった。


「……どうかした?」


 アリスちゃんの抱き枕が液体のように変化して、一枚の布となったそれを羽織る。

 白布は一瞬で形状かたちを変えて、魅惑の肉体からだを白いワンピースで飾る。


「いえ、その……美人で羨ましいなぁって」

「ふふ、ありがと。あなたも素敵よ」


 私はアリスちゃんのマイペースさに苦笑するしかなかった。

 これから大変そうだ。


「それでは、ちょっと見てみましょうか。あなたの力を」


 




 色々頑張った結果、私が得られたのは少女の悲嘆の吐息だった。


「これは予想以上に難儀しそうね」

「えと、その……」

「責めているわけではないわ。そのある意味突出したオーバースペックさには自信を持っていいと思うの私。でも、現状を見ると、やっぱり決定打に欠けるのよね」


 アリスちゃんの溜息が胸に刺さって辛い。

 私は自分が出来ることを全部披露した。

 かなり頑張ったつもりだったんだけど……


「魔法の発動は遅々の極みで、それ以外はほぼ無力。そして使える魔法も能力上昇、状態異常、治癒、善回復固定だけ。攻撃魔法は全部駄目と」

「ご、ごめんなさい……」


 私の妄想の世界、つまりメルヒェンの物語では、私の役割はアヤメちゃんの補助。

 アヤメちゃんが敵を殺傷し、私がその手助けをする二人で一つの戦法だ。

 つまり、私単体に戦う力はまったくないのです。


「か、回復力は自信あるんだけど……」

「そうね、過剰なくらいね。魔力は妙にあるみたいだからいいけど、掠り傷に状態異常無差別解除とかセットになった超回復されても……もしかして蘇生もくっついてる?」


 夢と希望に満ちあふれる私のメルヒェン世界で死人なんて簡単に出したくないという一心。

 私の回復魔法は過剰なものだった。


 でもアヤメは心強いと言ってくれていた。

 前に出て戦うってことは、私よりも危険な場所にいるわけだから。


「だ、大丈夫よ。回復が強みってことは、まず死ぬ心配はないってことだから」


 理想を手放さない限り決して死ぬことはないっていうのがこの世界の決まりらしいから、あんまり意味はないのかもしれない。

 それはきっとアリスちゃんも知っていること。


「す、すいません……」


 先行き不安だけど、頑張ろう。

 きっと私なら出来るはず……諦めなければ、きっと!


「それじゃあ、私たちの敵がどういうものなのか、改めて説明するから、よく聞いてね」




 巨木と同じ大きさと、ピラニアみたいな凶悪顔こわいかお

 頭に長い触覚つのが伸び、口には髭に似た触手つるが生えている。

 蝙蝠こうもり大翼はねは悪魔のようで、恐竜じみた怪力の尾と、手足には大剣が並べたみたいな爪がある。


「とまあ、こんな感じのドラゴンよ」

「ど、ドラゴンですか」


 ドラゴン。それは地上最強の生物。または最高の幻獣。たまに怪物、時々悪魔、極稀に神。


「燃え盛るような緋色の獣、あれの封印が解かれれば、この世界の人が夢見る全ての理想を喰らい尽くしてしまうの、危険でしょう?」

「な、なるほど、そういうことだったんですね。確かにそう簡単に言いふらせませんね」



 私でもドラゴンがどういう存在なのかは、ある程度知識がある。

 あるから、流石にちょっと私には荷が重過ぎるんじゃないかな。


「あの、ちなみに勝算はどのくらいですか……?」

「攻撃は私が、あなたは回復に専念してくれれば、7割くらいかしら」

「7割ですか……」


 また微妙な。

 二人がかりで7割だなんて、ちょっと気が引ける。


「あの、私の他にも誰か、夢の中に入れる人を探した方がいいんじゃ」

「夢の世界に入れる者は、確かに貴方以外にも何人か知ってる。でも全員ちょっと問題があってね……」

「と言いますと?」

「意思疎通が出来ない可哀想な子だったり、自分以外の事にまったく興味ない人だったり、妄信的で好戦的だったり……とにかく、協力してくれそうな人はいなかった」


 なんだか聞くだけで一癖も二癖もありそうな人達ばかりだ。

 でも面白くて魅力のある人って割とそういう人たちなんだよね。


「今のところ、あなただけが頼りなの」

「あの、それなら私のアヤメはどうしてここに来てないんですか?」

「アヤメ? ああ、あの黒い子ね。寝てないからよ」

「あー」


 ずっと気になっていたことをあっさりと答えられて、私は間抜けな声を漏らしてしまった。


「アヤメとかいう子は貴方の妄想から生まれたみたいだけど、もう完全に独立してるみたいね。貴方を部屋に寝かせて、留守番してるみたいよ」

「あっ、分かるんですかそういうの」

「まあ、多少はね?」


 そういえば、この人もこの世界の住人なんだから、きっと叶えるべき理想があるに違いない。

 確か椿さんが言っていた、この世界は自己紹介として理想を語り合う習慣がある。


 それは理想が各々の力に関連するからでもあり、理想に誇りがあるからこそ騙し討ちのようなことはしないという誠実さの証明でもあると。


「あの、出来ればアヤメが寝るまで待ったほうがいいと思うんです。私は回復しか出来ないけど、アヤメちゃんなら攻撃も出来ます」

「そうね、貴方が話してくれるなら、彼女も承諾するかもしれないわね。そうしましょう」

「それで、時間もあるんで、その、アリスさんの理想とか聞いてもいいですか?」


 駄目って言われたらどうしよう……いや、さすがに心配しすぎ?

 一応は協力者だし、これをキッカケに仲良くなれればいいなと思っていた。


「私の、理想……」

「あ、あの、大丈夫です! はい、すいません、馴れ馴れしかったですよね……」

「いえ、むしろ私は謝らなければいけないわね。仮にも共に戦ってくれると言ってくれた人に対して、私は何も明かしていないんだもの。これまでの非礼を赦してください」

「えっ? あ、いえ、お気になさらず……」


 なんだろう、なんか、変だ。

 違和感というか、キャラがあってないというか。

 さっきまであんなにも眠たげにしていた少女が、いきなりとんでもなく堅苦しい口調で礼儀正しくなった。

 ますます気になる。この人の理想。

 この人はどんな人間で、どんな経緯で、どんな理想を抱いたんだろう。

 沸々と好奇心が沸いてくる。


「では語りましょう。私の理想は……」


 人が理想を語るとき、それはこの世界の住人が、決死の思いで生きた証だ。

 ならきっと、それを語る時は楽しげに、もしくは誇らしげに、とにかく良い顔をするのだと思っていた。

 でも、アリスの表情はどこか暗くて、それは痛々しい程に切実な、願いを告白しているように見えた。

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