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メルヒェン34 花の都の理想の園

 その少女は、花が好きだった。

 物心付いたときから、目を惹かれるのは色とりどり、個性豊かな花々にだった。


 土から己の力だけで、ピンと立って咲き誇る花。

 大きな木に飾り付けるように、たくさんの咲き誇る花。

 血を吸ったかのように赤く、茨に棘を持つ花。鼻腔をくすぐれば、心に安息をもたらす花。

 散るときに首がぽとりと落ちる花。誘われてきた虫を食べてしまう花。

 根元に死体が埋められているから綺麗に咲くのだと言い伝えられる花。

 三千年に一度しか咲かないとされる花……。


 自然の中にでこんなにも色とりどりな生き物はいない。

 赤だったり青だったり、紫だったり黄色だったり、大きさも種類によって違う。


 それがあまりにも不思議で、とても愛らしく思った。

 何よりも花が好きな少女。それが花園彩花はなぞのさいかだった。


 物言わねども、色鮮やかな彩色の花を愛でる少女の夢は、お花屋さん。

 お花屋さんになるために、たくさんのことを学んだ。


 花には毒や薬になるものもあること。

 香りでさえ人を癒す力があること。

 花に想いが込められた花言葉があること。

 それには神話の物語も関係してくること。


 花にまつわる物語を知ると、以前よりももっと花に魅力を感じるようになった。

 個性豊かで愛らしかった花に、神秘と魔法に縁があるなら……。


 花を愛すると共に、彩花の中に少しずつ、空想への憧れが芽生え始めた。

 それは御伽噺に憧れたとか、白馬の王子様を信じるというほど大それたものではなく。


 せっかく花屋さんをするなら、神秘的な世界で、魔法のように花を扱えたなら、きっと素敵だろう。

 そんな、ちょっとした夢見がちな妄想。自分でも笑ってしまいそうなほど、ささやかな夢想的な憧れ。

 本当にささやかな、ちょっとした妄想にすぎない……はずだった。


 それは湧き出る泉の水のように、止め処なく溢れ出す妄想。そして求めずにはいられない理想の形。

 百花咲き乱れる園、桜花立ち並ぶ桃色の都。


 空が青く晴れ渡る日の花々。

 暖かい日にはらりと舞い散る桜、朱に染まる梅。

 雨が滴る日に空の色を写した紫陽花、灼熱の日射を浴びる向日葵。

 山が紅に染まり、冷たい雨と青空がコスモスを育む。

 舞い降りる白い寒気の中で、クリスマスローズが勇気をくれる。


 暑い日も寒い日も、楽しい日も辛い日も、花は景色と人の心を彩ってくれる。

 争いの絶えないコンクリートだらけの世界で、彩花は最期までそんな夢を見ていた。


 大きく膨れ上がり続けた妄想は、綿密に組み立てられた理想となって、彩花をこの世界へと運んだ。


 自分でそれを理想だと想ったことは無い。

 きっと叶う事はないだろうと、思考の中で想像力で遊んでいただけなのに。





 彩花には何かしら秀でた能力があるわけではなかった。

 理想も人よりあやふやで、はっきりとした想像ビジョンがあるわけではないので力もなかった。


 とはいえ、この世界で第二の生を得てしまった以上、とりあえずはこの世界で食べていかないといけない。

 そういうことで、前世と同じくお花屋さんをすることになった。


 彩花は最初戸惑いと驚きの連続だった。

 前世の時にはなかった花の種類。不思議な力を持つ霊草。来る客は人間だけではなく、おとぎ話に出てくるようなエルフ、アマゾネス、ゴブリンにオーク、リザードマン、妖精や精霊、幽霊まで訪れる。


 人間以外の種族が、平然と人間と同じ空間にいて、当然のように過ごしている。

 前世では考えられなかったような、夢みたいな光景が繰り広げられる。


 そして誰もが叶えたい理想を持っていて、そのために日々を過ごしている。

 なら、私のこの夢みたいな理想も、いつか叶う時か来るのだろうか。


 花に彩られた平和な都、人々が争うことなく、悲しさを抱えて死んでしまうこともない。

 花鳥風月を楽しめる、素敵な花の園に辿り着けるのだろうか。


 花園彩花の理想は、そういうものだった。






 私の瞳に流れ込む、花園さんの人生。

 それは特に過酷というわけでもなく、むしろ今まで目にしたアリスちゃんやルナちゃんの過去と比べれば、とても平穏で幸福だと思う。

 というか花が好きで、それを活かして花屋さんになって、幸せな日々を送る……最高の人生だった。


 何もない私より、よっぽど見応えのある人生、生き甲斐のある生活。正直少し羨ましかった。

 でもそれは、私が求める形じゃない。私の夢見た在り方ではない。


 罅割れたプローディアの結界。花園さんを囲う花は外側が枯れて、内側も元気が無い。


「ああ……これが、理想なのですね。私とあなたの」


 花園さんは息をするのも辛そうなくらいに衰弱していた。

 折れそうな膝、上下する肩、閉じてしまいそうな瞼。

 でも口元には、嬉しそうな笑み。


「花園さん、あなたの理想はきっと叶います」

「すごいですね、イリスさんの理想は。まるで夢見る乙女のようでいて、実は酷く恐ろしい。人生を夢見る乙女に費やすことの恐ろしさ。それに比べて私は……」

「そんな、違うんです。私はただ、諦め切れなかっただけで……」


 そんな立派なわけじゃないって言いかける。


 防御魔法の壁は、少しずつ崩れていく。

 もう魔法を維持できないんだ。


「私は幸せでした。ただ叶ったらいいなという夢を抱いていただけで、この場所へこれたことも、きっと奇跡。十分幸せなはずなのに……どうしてでしょう。とても悔しい」


 口元の笑みに反して、心中の苦味は言葉に現される。

 それはきっと、私がこの挑戦で抱いたのと同じ。


「争いなんて無いほうがいい。花を愛でるだけでいい。そう思っていたのに、競い合うことがこんなにも楽しいことだったなんて、知らなかったです」

「私も、同じことを思いました。負けたくない、譲りたくないと思いながら戦うことが、意外と楽しいって」

「ええ、はじめて味わう感覚でした……イリス、私の理想は、いつかきっと叶うでしょうか」

「叶います! 絶対に、諦めなければ。必ず……!」

「諦めなければ……」

「というか、私が諦めさせません! 花園さんの理想、花の都はとってもメルヒェンでしたから!」

「める、ひえん?」


 花の都。そこは争いの無い世界。

 愛らしい、色とりどりの花々を愛で、穏やかな日々を過ごす場所。

 きっとそこには素敵な妖精さんや、植物の魔物さんたちが仲睦まじく過ごせる場所。

 理想に励む人たちに、ひと時の安息を与えてくれる色彩と芳香の花園。


「推して目指すはハッピーエンド! 越えて挫いてバッドエンド! 繋いで輝けメルヒェンワールド! 大切な、お友達への贈り物は、色とりどりの花のように」


 贈り物は、その人のことを想っているというメッセージ。

 無限の色彩で飾る花には、無限に彩光煌く石を。


 両手を胸に、祈りを込めれば光が漏れる。

 両手を開けば、手の平サイズの綺麗な石。


「私からの、お近づきの印。そして、共に理想を叶えるための絆の証です」

「これは……」


 赤、青、緑、黄、黒、紫、白……さまざまな色が詰め込まれた不思議な宝石。


「ミスティックトパーズ……天然ではなく、人工で造られた宝石です」

「人の手で、こんなにも綺麗な宝石が?」

「お花も、人の手で品種改良されたものがありますよね。確かに純粋な自然ではないけれど、自然と同じくらいに綺麗です。人の手でも素敵な輝きを生み出せる、みたいなイメージで創りました」


 それは、人が見れば偽者で、上辺だけの美しさを言われるかもしれない。

 でも、奥底にある水晶の綺麗さは本物で、だからこそこんなにも綺麗に彩ることが出来る。


 いわばこれは、人間と自然の共同制作で出来たもの。人間と自然の絆の形だと、私は想う。


「えと、受け取って、くれますか?」

「もちろんです。ありがとうございます。イリスさん」


 花園さんは私の手の平からミスティックトパーズを拾い上げてくれた。

 熱心に魅入ってくれているのは嬉しいけど、ちょっと気恥ずかしい。


「本当に綺麗ですね。花とはちょっと違う。華やかさではなく、煌びやかさ?」

「石言葉……というか石の効果は、未来を明るく照らす。事故や災難から護ってくれる。この七色の輝きは、きっと私たちの未来を明るく照らしてくれます」


 ミスティック。その意味は神秘的な、あるいは秘法、秘伝。

 理想と魔法を競い合うこの場所で出会った私たちにはピッタリだ。


 と思っていたら、急に全身の力が抜けて……。

 花園さんの手に受け止められた。


「おっと、危ないですよ」

「うぅ、眠い」

「せっかく勝ったんですから、私より早く膝をついたら台無しです、よ……」


 今度は花園さんが、がくんと落ちた。

 地面に尻餅をついた彼女は、おもむろに空を見上げた。


「ああ……今日は、いい日ですね。花の、良い香りがします」

「勝負あり! 第一回バトルフェスティバル・イン・サバト。優勝者はイリスでーす!!」


 久々に響くスウィーツさんの声が宣言すると、一瞬で歓声が湧き起こった。


 私と言えば、あまりに眠すぎるので、瞼と体と意識が落ちるのを抑え切れなかった。






 目覚めたときには馬車の中。

 出迎えてくれたのは、相変わらず服のセンスが黒くてシンプルなアヤメと、


「んぅ……んがっ!?」

「起きたかイリス」


 膝の上に乗っている重たいトロフィーは、ちょっと邪魔臭いけど、手放したくない幸せの重さだ。


「んあぁ……やっぱり気絶しちゃったんだ。私」

「まあ仕方ない。今回、お前は私抜きで本当に良くがんばった。偉いぞ」

「えへへ」


 珍しいアヤメのべた褒めに、私は素直に照れるしかない。


「勝利の証を手に入れ、賞金も入った。そして何より理想が進み、新たな力を得られた。これは紛れもない成長と進歩だ」


 そっか、私は成長したんだ。

 石魔法という新しい力。つまり私は一人でも攻撃が出来るようになった。

 そう、一人でも……。


「破られることのない鉄壁の守り。それを武器にした攻撃方法も出来た。これはいよいよ私もお役ごめんといったところか」

「アヤメ、今度そういうこといったらそのなけなしの胸、無くすからね」

「へっ!? いや、それはちょ……わ、悪かった。失言だったな」

「まったくもう」


 冗談でも、そんなこと言わせたくない。

 私にとってアヤメは、居ないといけない存在なんだから。


「今回は確かにアヤメなしで勝てたけど、魔法に対して耐性があったり、特効力のある相手だったら危なかったよ。本当なら戦う予定だったあの人とか……」

「神無月とかいう奴だな。確かにそれもそうだ」

「アヤメが居ないと、私はただの的だよ。だからこれからも私を護ってね、アヤメ?」

「ふふっ、やれやれだな」


 馬車に揺られていると、さっき起きたばかりなのにまた眠くなってきた。

 うとうとしていると、アヤメがまた笑った。


「まだ寝てていいぞ。これからまた疲れるだろうからな」

「ううん……大丈夫……」

「目を閉じながら言っても説得力が無い。ほら、私の膝を貸すから」

「んー、ごめんね……」


 そこまでしてくれるっていうなら、断るのも野暮だ。

 それにアヤメの膝を枕に出来るなんて絶好の機会、逃すわけには行かないよね。


「それじゃあ遠慮なく……」


 私はすべすべの太腿を枕にして、心置きなく眠ることにした。


「んふふ、すべすべもちもち……」

「あっ…! ちょ、おいこら! そういうのは場所を弁えてだな」

「ごめんごめん、おやすみー」





 そして、私は自分の家に戻ってきた。


「んー! よく寝たぁ……アヤメ、夕飯は何にしようか?」

「その心配はしなくてよさそうだぞ」

「どういうこと?」

「入ってみれば分かる」


 私は不思議に思いながら、アパートの玄関を開ける。

 すると、なぜか中は真っ暗……と思った瞬間、けたたましい破裂音が私の心臓を叩いた。


「「「イリス、優勝おめでとう!」」」

「っ…………」

「あ、あれ? イリス?」

「び、びっくりした……」


 明かりがついて、クラッカーを鳴らされたのだとわかった。

 椿さんはもちろん、真樹さんや悠魔さん、なぜかルナちゃんまでクラッカーを手に持っていた。


 分かったんだけど、ちょっと驚きすぎて体が動かない。これがスタンなんだね。


「びっくりしたぁ……」

「い、イリス!?」


 膝がずるずると折れて、腰が抜けてしまった。冷たい床にお尻が落ちる。


「うわー!? ごめんねイリス! サプライズのつもりだったの!」


 ルナちゃんが慌てて近づいて慰めてくれた。慌てるルナちゃんはちょっと可愛かった。


 日もすっかり落ちた、星がよく瞬く夜。

 まあ話を聞くまでもないけど、私の優勝を祝ってパーティを開いてくれるらしい。


 アパートの広間にテーブルと椅子を並べて、たくさんの料理が並んでいる。

 一階の空き部屋でネコカフェの店主が料理を提供しに出張してくれていて、しかも食べ放題らしい。


「嬉しいけど、どうしてここまでしてくれるんだろう?」

「ネコカフェの店主は、昔ここに住んでいたので、何かとこっちに来たがるんですよ。まあ、他にも色々と思うところはあるみたいなんですけど、気にしないで堪能してあげてください」

「うーん……そういうことなら遠慮なく!」


 バイキング方式で並んだ大皿から、とりあえずフライドポテトと鳥の唐揚げを山盛りにしていく。


「太るぞイリス」

「大丈夫、今日は魔法でいっぱいカロリー使ったよ。あとであそこのアイスも食べよう」


 揚げたてポテトのサクサクカリカリの食感が、疲れた身体にジャンクな快感を染み渡らせてくれる。

 これはもう完全にジャンクにジャンキー状態。


「太るよ王子様」

「だ、大丈夫……ってルナちゃん!」


 フライドチキンをワイルドに噛み千切るルナちゃんが居た。

 本当に美味しそうに頬張っている表情を見ると、なかなか癒される。


現実リアルでは久しぶりだね、ルナちゃん」

「うん、久しぶり。ここの料理って随分美味しいのね。舌がとろけちゃいそう」


 本当に、ルナちゃんが私に側に居る。

 そう思うとなんだか、なんとも言えない感覚が込み上げてくる。

 全身がむず痒くて、居ても立ってもいられない。

 すぐに抱き締めて、歓迎してあげたい。


 それなのにルナちゃんは、ここにいるのがしごく当然といった風だから、なんとなく喜びを表現するのを躊躇ってしまう。


「そして私が王子様と会っても大丈夫になった記念の日でもあるわ!」

「そういえば、当たり前みたいに観客席に居たからびっくりしたよ。何時からあそこにいたの?」

「この国に来たのは昨日の夜。イリスを驚かせてあげようと思ってたんだけど、ピンチだったからつい……もう、王子様がもっと余裕で勝たないせいですからね!」

「あはは、ごめんね。でも花園さんは強かったよ。きっとこれからも強くなるんだと思う」


 戦闘中に垣間見た、花園さんの過去と理想を振り返る。

 それは幸せな人生だった。


 世界は平和、とはいかないけれど。自分の周りはそこそこ平和で、やりたいことは存分にやれたし、夢だった花屋さんにもなれた。

 大好きな花のことをたくさん知って、実際に出会って、そして愛でることが出来た。


 世の中には酷いことや汚いことがたくさんあったかもしれないけれど、自分は物騒なことの犠牲者になるようなことはなかった。

 すごく幸運で、すごく幸福だった。


 それでも、抱いた妄想はいつまでも胸の中で燻っていた。


「花の都……いつか私も行ってみたいな」

「にしても、遅いわね。何やってんのかしら」


 フランクフルトを豪快に齧っている真樹さんが、そうぼやき始めた。

 まだ誰か来るのかな?


「あっ、真樹さん。お祝いしてくれてありがとうございます」

「理想人が理想に一歩近づいた。それはとても尊くて喜ばしいことよ。岩って当然。でも、この喜びはちゃんと噛み締めて、覚えておきなさいよ。それがいつかあなたを助けてくれるかもしれないからね?」

「は、はい! あの、まだ誰かお祝いしに来てくれるんですか?」

「誰かって、まだ肝心なのが居ないでしょ。あなたと理想をぶつけ合った二人が」


 そのとき、アパートの玄関がノックされた。


「おっ、来た来た!」


 椿さんが反応すると同時に、真樹さんが即座に向かって扉を勝手に開けた。

 そして招きいれたのは、二人の理想人。


 緑色のパーカーを来て、フードを深くかぶっているピーターさん。

 そして、さっきまで全力で理想を削りあっていた花園さんだ。


「こんばんは。藤咲さんからイリスさんのお祝いをすると伺った物ですから」

「やーっと来たわね。さっ、食べて飲んで、今日までの遺恨は全部水に流して、同じ理想人として繋がった縁を大事になさいよ」


 花園さんは真っ先に私のところに来た。


「イリスさん、優勝おめでとう御座います」

「あ、はい、どうも……」


 お互い、全力で戦ったんだ。

 悔いなんて無いし、恨みなんてないのも分かってる。

 でも、やっぱり気まずい。


 そんな私の心中を察したのか、花園さんは柔らかい笑みを見せてくれた。


「そんなに気にしないでください。私の理想はまだ費えてはいませんから。むしろ、あなたに出会えてよかった」

「そう、ですか?」

「花の都……スケールが大きすぎて、どうにも踏み出す勇気がなかったというか、何をすればいいのか分からなかったんです。でもあなたはメルヒェンワールドを創るという大きな理想を成し遂げようとしています」

「いやぁ、それほどでも」

「勝てなかったのは、ちょっとだけ悔しいですけど。私の理想にとってはイリスさんと出会うことが前進だったのだと思います」


 そうか、そういう考え方もあるのか。

 なるほど確かに、地上最強とか、天下無双とかそういう理想ではないから、絶対にバトルに勝つ必要はないのか。

 出会い一つで理想に近づくこともある……色々試したほうがいいみたい。


「何はともあれ、私たちは理想を競い合った友達です。困ったことがあったらいつでも相談してくださいね。あと、出来れば彩花と呼んで下さい」

「こちらこそ! えと、彩花さんに贈ったミスティックトパーズは友情の証。私なんかでよければ、仲良くしてください」


 夢の国、空想演劇、そして花の都。これで三つの理想と繋がった。

 この先どんな理想が待っているのかも気になるけど、これまで出会った理想人も進歩して、理想は進展する。

 それを傍で見届けたり、力を貸して一緒に成し遂げる時も来るかもしれない。

 そう思うと楽しみで、自然と笑みが零れてしまう。


「今日は、王子様が、イリスが頑張って優勝した日だから遠慮しておこうと思ったけど……ごめん。もう無理」

「えっ、ルナちゃ、ちょ!?」


 強引にルナちゃんの方を向かせられて、むっとしたルナちゃんの愛らしい顔が迫って……。


「そこまでだロリビッチ」

「ぐっ、ぐえっ……」


 ルナちゃんの口付け強行は、アヤメがバックチョークで阻止した。


「び、ビッチじゃな……あ、愛、愛ゆえにー……」

「愛があろうと強引に唇を奪うなど許されるか」

「でもイリスって百合じゃん!」

「ゆ、百合ジャナイヨっ!? 本当ダヨっ!」


 確かに花園さんのお淑やかさとワガママオッパイのギャップには目を奪われるけど、そういうんじゃないよ。嘘じゃないよ。


 その後、真樹さんがマーガレットの花言葉とオニキスの石言葉を聞きに来たり、悠魔さんが危ない媚薬を勧めてきたり、それを椿さんが取り締まったり、どんちゃん騒ぎは夜遅くまで続いた。

 この日のことを、きっと私は忘れないだろう。


 はじめて自分の力で手にした、この報われた努力の経験を。

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