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メルヒェン27 魔女の舞踏

 第四回戦は魔女同士の対戦。

 ここに来て、やっと普通の魔法使いが出てきた気がする。


「魔女っていってもスタイルが魔女ってだけだから、使う魔法も実は色々違ったりするんですよ」

「そうなんですか? 花園さんは知識が豊富ですごいですね!」


 物知りな花園さんは、えへへっ、と照れくさそうに笑っている。


「花屋さんには色々な人が来て、色々な話を聞くことがあるから、きちんと理解しているわけではないから……」

「あの、例えばどんなのがあるんですか? 魔女の扱う魔法って」

「そうですね、例えば悪魔と契約してる人とか、魔力の宿ったアイテムを使う人とか。人間だったり人間じゃなかったり」


 魔女に人間か人間じゃないかがあるのか……。

 魔女は人間だと思ってたけど、色々あるみたいだ。


「ウィザードタイプの魔女は、アイテムを使ったり、自分の魔力を消費したりしますけど、ソーサラータイプの魔女は無尽蔵の魔力を持ってたり、外の魔力を操ったりします。理想が違えば、あり方もまた異なるみたいですよ」

「な、なるほど……」

「そもそも、魔法に分類を設けて、区別をすることに大して意味なんてないですからね」

「あっ、分かりますそれ! 錬金術とか、うぃっちくらふと? とか、よく分からないですよね!」


 魔法は素敵で神秘的、大きな魅力に満ちている。

 それは未知だからこそ心を引き込む魅惑の瞬き。不思議だからこそ憧れてやまない素敵な輝き。

 解体されて、解明されて、改良されたり、改造されたりする魔法は、なんだか味気が無い気がする。


「第四回戦! 魔女と魔女、派閥と派閥が因縁の対決!」

「派閥?」

「魔女にはいくつか派閥がありまして、といっても有名で実力のある魔女のスタイルを真似るだけらしいですけど。一番有名なのは、今実況してる魔耶さんの一派」

「魔耶派……」

「魔女っぽい服装で、ウィッチクラフト、黒魔術、悪魔契約を使う、らしいです」


 片方の魔女は確かに魔女っぽい。

 黒いトンガリ帽子とマントみたいに羽織っている黒外套。 

 ショートの黒髪から覗く瞳は、夜空に浮かぶ金の月。


「因縁の対決……っていうのは、あまり好きじゃないんですよ。私は気ままに生きたいんで」

「じゃあなんで参加してるの」


 相対するのはまったく魔女らしくない魔女。

 フリルのついた白い服、黒地に白フリルのついた長いスカート。

 腰には文庫本くらいの大きさの革表紙。そしてタクトを銃のように腰に差す。


「そちらこそ。ちょっと前に活躍したマーガレットアンドオニキス様が、どうして今更?」

「あれは私の力で成し遂げたものじゃないもの。今回は今までのお零れを全部清算して、私が私自身の力で理想を目指すための、いわば新たな門出よ」

「へぇ、大変そう。私はほら、ウィッチーズの若手の中でたまたま最有力だったってだけで。まあこの辺りで恩を売っておくのも後々便利かなって」

「……つまり余興ってわけ。理想と理想がぶつかり合うこの場所で」


 マーガレットアンドオニキス……藤咲真樹が身を乗り出す。

 それを見た魔女はくすりと笑う。


「あれ? マギーさんも熱血の方がお好きなんすか? っちゃあ、気が合うと想ったんだけどなぁ」

「別に。私も堅苦しいことは好きじゃないし。ただね……」


 溜息交じりに、呆れた目を向ける。


「人が必死に理想を叶えようとする相手にまで、ふざけようとするのは感心しないな、と想っただけよ」

「あはは、ふざけてるつもりはないんすけどね。まあ、お手柔らかにお願いしますよ」

「努力の魔女、<永遠途上のマーガレットアンドオニキス>藤咲真樹ふじさきまき、天才の魔女、<悪魔崇拝デビルズテスタメント大間木悠魔おおまぎゆうま! いざ尋常に……試合開始!」






 試合開始のゴングが鳴ると、真っ先に動いたのは真樹。

 ガンマンのような手捌きで杖を抜き、構えて唱える。


「さて、どう来る……」

雷電ライボルトッ!」


 様子を窺った悠魔の目ですら追えない素早い動作、杖の先端から電光迸る。

 奔る閃光は弾丸の如く悠魔を撃ち抜く。


「使用済みの電気は未だ私の制御下、拘束電流ロックボルト


 散りかけた電気が再び集まって、悠魔の身体に流れ込んで筋肉を麻痺させる。

 加え、燃え盛る火炎が杖の先端から這いいでる。


舌禍フレイムタンッ!」


 それは鞭のようにしなり、蛇のようにうねりながら動けない悠魔に巻きつき、大きな炎で包み込む。

 会場はあっという間の出来事に騒然としている。

 傍目から見ればやりすぎと思う者も多い。


 そんな周囲の者たちを無視して、藤咲真樹は緊張を解いた息を零す。



「……ふぅ。とりあえず、一通りは終わった。あとは相手の動き次第だけど」


 雷で射抜き、火達磨にしてなお真樹は臨戦態勢を崩さなかった。

 そして、それは正しかった。


「いやぁ、なんというか。抜け目無いっすね。さすが二度もの戦争で活躍しただけのことはある」


 燃え盛る炎に包まれながら、電気の縛りに身体を軋ませながら、それでも表情からも声からも余裕を感じさせる。

 というか、まったく効いてない。


「まあでも、魔女に火炙りはナンセンスっすよ。確かに魔力は十分、一度放った電撃を拘束バインドに使う応用力は、もう努力の賜物っていうか」

「ぐぬぬ、人の努力を上から目線で偉そうに評価しおってからにッ……あんたは何様よ!?」

「余裕の無い人っすね。努力ごり押し勢はこれだから暑苦しいというか、堅苦しいというか」


 一方的に攻撃を受けているはずの湯魔からの言葉に、一方的にダメージを蓄積させられていく真樹。

 すると悠魔は一つ溜息を零す。


「それじゃあ、そろそろ天才って奴を見せてあげますかね」


 炎の中で穏やかに呼吸を整える。

 何かをすることは明白。それを見逃す真樹ではない。


魔力転換チェンジ陰陽反転リバース!」

「来たれリム……」


 炎は瞬時に、その形のまま凍結した。

 魔法マジカルながら手品マジックじみた手早い技巧に、観客は驚嘆の声を上げる。


 悠魔の口が紡ごうとしていた言葉は途切れ、身動き一つ出来ない。

 勝負あり。誰もがそう思った。


「別に、言葉を紡ぐ方法は口を動かすだけじゃないんすよねぇ」

「っ!?」


 会場全体に響く、エコーする声は紛れも無い悠魔のものだ。


「来たれリムリル。魔の契りに従いて、降魔の術をもって我が側にはべよ」


 瞬時に現れたのは、魔法陣。

 複雑怪奇な紋様は唐突に地面に現れ、歪み深淵の穴をもたらした。

 同時に、膨大な魔力がそこから溢れ出し、魔力はなにかの意思に従うように悠魔を包む氷結を蝕んでいく。


「いっ!?」


 全身を悪寒が走る。

 咄嗟に魔力を切り離して氷の制御を明け渡す。

 予感させたのは、祟りか呪いの様な何か。


 触れれば何かを伝染うつされる。良くない何かをおっかぶせられるという危機の予感。

 警戒と観察を続行しながら、次の魔法が放てるよう準備を整える。

 見る見るうちに氷は砕け、悠魔が自由を取り戻すのにさほど時間はかからなかった。


「あー寒かった。さてマギーさん、次はこっちの番なんすけど、せっかくなんで友人を紹介させてください」

「……はっ? 友人って、もしかしてその穴の奥に居るやつのこと?」

「そっす。リムリルって言うんすけど、これがまた変わった悪魔で。人間の友達が欲しいなんて……ほらリムリル。出てきていいっすよ」

「マジで!? オッケーすぐ行く!」


 穴から……穴に見えたのは黒い水溜りだったのか、墨汁のような液体の飛沫を撒き散らしながら、勢い良く何かが飛び出した。

 空中で身体をひねってくるりと回転、10点満点の着地を見せたのは、幼い少女。


「お初にお目にかかります、人間共」


 大仰な身振り、道化のようなお辞儀でショッキングピンクのショートヘアが顔を隠す。

 前髪の隙間から黄金の眼が覗いている。


「私はリムリル。しがない小悪魔です。今はそこの自称天才の魔女と愉快・痛快、あっ、爽快ってな風で楽しく使い魔をやっております。以後、お見知りおきを」


 顔を上げて、小首を傾げてニコリと笑う。

 それは愛らしい無垢な少女にも見える。


「ところで私の理想は人間と友好的に、楽しく宜しくすることです。今は敵同士ではありますが、良ければ後日は仲良くしていただけると幸いでございます」

「ず、随分とご丁寧な挨拶ね」


 さすがに真樹も調子を狂わされそうになる。

 何せ悪魔と言う名称からこの謙虚で清楚な挨拶をされ、敵だというのに邪険にする気も湧かない。

 これから戦おうという時にするやりとりではない。


「あー、リムリル。もう表向きの顔は十分なんで、とりあえず仕事してもらえます?」

「……んだよー、せっかくの人間界デビューだから気合入れて挨拶しただけだぜ? 挨拶は大事なんだぞ。人間でも悪魔でも」

「はいはい、わかったっす。分かったっすからそろそろ仕事に取り掛かってください」

「あとな、私を呼ぶときは相棒って呼べよな! 分かったか、相棒?」

「ほんっと変わった悪魔っすねぇ……じゃあ相棒、一緒に敵を倒すっすよ」

「うっし!」


 パチン、と拳と手の平を合わせて鳴らすリムリルと、杖も本もないまま魔力を操る悠魔。

 発する魔力は尋常ならない。まさに天才。

 努力を信条、心の頼りにする真樹は、とりあえず持参した魔本の防御魔法のページに指をかけることにした。





「じゃあ早速仕事をさせてもらうか」


 リムリルが片手を持ち上げる。

 手の平に渦巻く魔力は膨大な量だが、脅威なのはそれが手の平サイズに凝縮されていることそのものだ。


 紫の光放つ闇の球を、リムリルは大きく振り上げ、こちらに投げた。


「なっ、防護魔壁プロテクト!」


 弾丸のような魔力球を魔力の防壁で防ぐ……が、たった一撃で防壁は歪んで軋む。

 圧縮された魔力が解放されて、純粋な破壊の概念が光の姿で撒き散らされれば、地面は防壁に護られた場所以外を砕いて進む。


「くっ、デタラメな威力を……っ!?」

「おい、大丈夫かよ?」


 闇と光が交錯する中、リムリルはさも当然のことのように眼前に迫っていた。

 身体に不釣合いな大剣を片手で軽々と振り上げているリムリルへの対応に、真樹は迷うことはなかった。


憑依装着アセンブル、バタフライ!」


 大きく背後に跳び退ると、真樹の体はふわりと空中に浮いた。

 寸前まで居た場所は防壁と共に両断され、地面は砕けて石飛礫を撒き散らす。


「間一髪……とはいえ、状況がひどすぎる」


 リムリルは追ってこない。

 飛べないということは考えられない。あの実力でこちらを警戒するとも思えない。

 となれば考えられるのはひとつだけ……純粋に、楽しんでいる。


「いい反応速度だな! 型破りの魔女!」


 しかも陽気に話しかけてくる。


「偉大なる悪魔にお褒めいただけるなんて、光栄ね」

「ハハッ! それに魔法のアレンジもいい。詠唱をその小さい魔本で補ってるんだな?」

「……ご想像にお任せするわ」

「魔女の外套で身体を隠せば、手管を分からなくすることも出来るんだけどなぁ。フリースタイルは大変だ」


 真樹の装備品は杖と魔本のみ。相手が察してしまうのも無理は無い。

 とはいえこれらは努力と研鑽の結晶。仕組みを知られたところで優位に立たれない様に作りこんである。


「その労力が実るか否か、この悪魔の胸を借りてドーンとかますがいい。ドーンと!」

「……舐めてるわけ?」

「もちろん! 私は傲慢の悪魔リムリル。神の意思に唾を吐いて、傲慢なる男を引き摺り下ろす、傲慢なるアバズレの娘だぜ私は。人間如きにビビるかよ!」


 当然といえば当然である。

 本物オリジンなのか、理想が創り上げた別物オリジナルなのかは分からない。

 それでもこの場に立った魔法使いが呼び出した悪魔。その力は相応に違いない。


「お前も持ってるんだろ、理想。どんなのかは知らないけどさ、きっといい理想だって分かるさ。その魔法を見ればさ」

「で、何が言いたいわけ?」

「出し惜しんでもいいこと無いっての。こんなところで躓いてないで、さっさと次に進もうぜ!」


 心でも読めるのか、見通す力があるのか。

 しかし真樹にはどうでもよかった。それは確かにそうだから。


「敵に発破をかけるなんて、ひどい使い魔よあんた」

「そこはご主人から許可貰ってるから心配すんな。私は人間大好き悪魔のリムリルちゃんだからな!」

「なら、遠慮なく!」


 真樹はくるりと宙返りすると、煌く魔力の鱗粉りんぷんを散らす。


テンペスト


 真樹を中心に、強烈な突風が吹き荒れる。

 小柄なリムリルは吹き飛ばされ、悠魔の元まで押し退けられる。


「わっ、ととっ!」

「あーもう本当に好き勝手するんすから!」

「そういう契約なんだからいいだろ! それに、このほうが面白い!」

「もー! これで負けたらリムリルのせいっすからね!」

「相棒って呼べ! それに、天才ならもっと余裕と優雅さを持たなきゃなぁ!」


 溌剌とした笑みを受け、悠魔は苦笑する。


「しゃーないっすね。それじゃこっちも出し惜しまないっすよ!」

「上等!」


 召喚術は己の魔力を糧に異なる存在を現世に召喚び留める行為。

 篭める魔力が多ければ多いほど、より強力な存在をより本来の形に再現することができる。

 自称天才の悠魔が持つ魔力量は伊達ではなく、悪魔リムリルを高純度な形で抽出、投影、再現することが出来た。


 とはいえ召喚術は術者が倒されれば魔力供給が出来ず対象を失うため、力を割くのはむしろ護りの結界でなければならない。

 だがそれだと素早い詠唱と動きでリムリルの攻撃を凌ぎ続けられれば、有限である魔力は枯渇する。

 ならば一か八か、真樹を倒すための一瞬、護りの為の魔力さえリムリルに回す。


 対して、真樹もこのままではジリ貧であった。

 自作のマジックアイテム、喚起魔本を用いた魔法即行は隙が少なく攻撃も回避も容易。魔力も貯蔵できる。

 とはいえ無限というわけでもなく、リムリルを相手に単体や小手先のコンボ技術では決め手に欠ける。


 ならば、次は大掛かり。

 リムリルを相手取りながら、確実に術者を打つ。

 

「さて、これで締めよ。生意気な小悪魔リトル

「こっちのセリフだぜ魔術師マジシャン


 マジシャンは手品師を連想させるため現代魔術師への皮肉に使われている。

 だが真樹の魔法使いとしての精神力は並みのウィッチを遥かに凌駕していた。


魔鏡境界まきょうきょうかい……」

特別急行地獄行ヘルズブーストッ!」


 リムリルは魔力の爆発をもって砲弾ロケットと化した。

 供給された魔力を一気に爆発させ、我が身を省みない驚異的な瞬発力で迫り、一瞬で真樹の身体を撃ち抜く。


「ッ、違うっ! 逃げろ湯魔!」


 打ち抜かれたかと思われた真樹の身体は、光の鱗粉となって弾ける。


魔性吸引黒点ブラックオニキス転輪魔力炉心マナサークル


 舞台を満たすエメラルドグリーンの鱗粉が、突如現れた黒点を中心に回りだす。

 それは星空が高速で移ろうかのように。


「間に合うかッ!?」


 リムリルはもう一度魔力を爆発させて方向転換。だが、狙うべき対象が捉えられない。

 やむを得ず、この魔術を台無しにするため黒点に照準を定める。


魔力飽和確認フルスペック臨界点到達オーバーライン準備万端ゲットレディ?」


 中央に鎮座する闇、回転する光は、花びらの衣に飾る花のよう。

 そして決着の時は訪れる。


「光と魔力に呑まれて消えよ。魔力炉心メルトマナ憤怒嵐暴テンペスト


 黒の目、光の竜巻トルネドが舞台を余すところなく食いつぶした。逃げ場などあるはずもなかった。

 舞台を見下ろす真樹が悠々と浮遊する、コロシアムの遥か上空以外には。


「……くぅっ! 努力が実る瞬間って、やっぱ最高っ! アンタもそう思うでしょ、ブッキー?」


 真樹は小さな本に語りかける。

 するとブッキーと呼ばれた魔本は声を響かせて答えた。


「憤怒と努力の親和性は、当方の予測どおりであった、ということだ」






 光と闇の嵐が去った後、ぐでんと大の字に寝転ぶ天才の姿だけが残った。

 

「あー、負けた。天才なのに……」

「いや、ほんと悪かったって。でも楽しかったろ? スリリングで」


 自らのレベルを故意に落とし、あえて自分の能力を縛ることで緊張感のある戦闘を楽しむ。

 天才ゆえに飽いていた日常を楽しむための一種の麻薬。敗北すらも楽しめという悪魔の無茶振り。


「でも悔しいっすよ」

「そりゃな。でもそんな感情だって、こうしなきゃ得られなかった。隙の無い傲慢のままじゃ、完全な勝利と完璧な条理で飽き果てるばかりだ。悪魔だからそこらへんはよくわかんだよ」

「はぁ……ほんと、ひどい悪魔と契約したもんすね」

「とんでもない! そこらの悪魔なら呑気にお喋りする前に、その魂頂いちゃってるはずさ」


 悪魔は魂を欲する。

 不死にて不滅の存在たる悪魔が、魂を欲する理由は唯一つ。甘美で美味だからだ。

 それはさながら、肥え太らせたガチョウの脂肪肝フォアグラのように。

 まあ、そんなテンプレのような悪魔を理想に描くのはごく少数。


「相棒、その理想はマジなんすか?」

「もちろん。人間と楽しく愉快に。私の理想はそれだけさ」

「ほんと、変わった悪魔っすね……」


 悠魔は足を振り上げると、ぐんと振り下ろした反動で上体を起こした。


「なんすか。負け犬を笑いに来たんすか?」

「私がそんな悪趣味な魔女に見えるってわけ?」


 降下してきた真樹を睨む悠魔。

 そして真樹は溜息を零す。


「むしろ笑えないわよ。こっちは初戦で奥の手使わされてんのに」

「だって、真樹さん有名っすよ。マーガレットアンドオニキス。またの名を天才嘲笑う努力の天才って。天才負かすことが生き甲斐のヤベー奴」

「そ、そりゃあ……スカっとするでしょ。努力が実ったら。私の理想もそういうのだし」

「さあ? 天才なんでそういうのよくわかんないっすね。私の理想もそういうやつなんで」

「こいつ……まあいいわ。ほら、行くわよ」


 ふわりと舞い降りた真樹は、当然のように悠魔に手を伸ばす。


「……なんすか」

「別に私と敵対しようってんじゃないんでしょ? 一度の勝負でいがみ合ってどうすんの、同じ理想人なんだから」

「ああ、なるほど」


 納得した悠魔は真樹の手を取って立ち上がる。


「次は余裕綽々で圧倒するっすよ」

「そりゃ大変。私ももっと努力しないとね」

「さすが努力の魔女」

「ねえ、その努力の魔女って誰が言い出したの?」


 二人はお喋りしつつ、会場を後にした 

 さっきまで激闘を演じていたとは思えない軽さで即座に打ち解けあい、取るに足らない話に花が咲いた。


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