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メルヒェン19 夢と希望のスターサファイア

 目を醒ますと、私はベッドの上に寝かされていた。


「まったく世話の焼ける」


 ふと隣を見ると、アヤメが呆れた顔で立っていた。


「え、えへへ……」

「まあいい。お前が熱中して寝落ちするのはいつものことだ。……いい加減、私も眠い。ここからは暫く自力で頼むぞ」

「ありがとう、本当にお疲れ様。ぐっすり眠ってね」

「ああ、おやすみ……」


 ふわりとアヤメは私の方に倒れこんで、透き通る体が重なって一体化すると、アヤメの体は完全に消えた。


「ふわぁ……ふっーんっ! よく寝たぁ……!」


 気持ちのいい朝日が窓から差し込んでて、いやぁ清清しい朝ですね。

 アリスちゃんや眠り子さんのおかげで頭もすっきりしてるし、体の疲れもすっかり取れてる。


 えっと、今日は何するんだっけ。


「確か、ルナちゃんに宝石をプレゼントしようと思って、ムーンストーンをブルーにするかレインボーにするか迷ってて」


 一番最初に思っていたのはレインボームーンストーン。

 狂想の赤、静寂の蒼、歓喜の金と、その瞳の色がクルクルキラキラ、万華鏡みたいに変わるのが綺麗だったから。


 でも、狂想はルナちゃんが好きで得たわけじゃない。

 現実がルナちゃんを追い詰めて、夢まで奪い取ろうとした結果だ。

 ルナちゃんが抱く夢、空想の本質は月夜の下で踊るロマンス。


 血で染まることもなければ、いたずらに豪華である必要も無い。

 静かな夜に、素敵な人と、綺麗な月を眺めて楽しむ。

 そんな愛おしい空想への憧れだったんだと思う。


 そんな彼女に一番相応しい宝石を選んだ結果、ロマンス・ブルームーンストーンになった。


「気に入ってくれたかな……」

「イリスっ! 起きた!?」

「っ!?」


 不意打ち気味に浴びせられた声に振り返ると、ルナちゃんが窓の外から逆様にこちらを覗いていた。

 なんでそんなところに……?


「お、おはようルナちゃん」

「おはよう! すごく綺麗な宝石くれてありがとう!」


 満面の笑みを浮かべるルナちゃんを見て、私はほっとした。

 あんなに喜んでくれたなら、私も贈った甲斐がある。


「ということで、私からお返し!」


 くるりと窓から入ってきたルナちゃん。身体能力を見せ付けられていく。

 すたっ、と着地して、こちらに向き直った少女の笑みは、本当に愛らしい。

 こんなに母性本能をくすぐってくるなんて……私だってまだ夢見る乙女なのにっ……!


「って、お返し?」

「うん、お返し。はい!」


 ルナちゃんが差し出したのは、深い、深い群青の宝石。

 夜の闇にも似た深海の青。そこに差し込むような星の光の模様。


「これは確か……スターサファイア。しかもかなり大粒……どこで見つけたの?」

「イリスに宝石を貰って、何かお返ししたいなって思ってたら、胸の辺りが光って出てきた」

「うぅ、ルナちゃん!」

「わっ」


 私は思わずルナちゃんを抱き締めていた。

 でもとめられない。この嬉しさ、この感動はさすがに抑え切れない。


 まさか私が宝石をもらえるなんて、私と交換してくれるなんて!

 あーもうルナちゃん可愛いなぁ!


「えへへ、くすぐったい!」

「ありがとうルナちゃん。大切にするねっ……!」


 こんなに素敵な贈り物を貰えるなんて、頑張って本当に良かった。

 うん、本当に。本当に……。


「そういえば、この宝石ってイリスが創ったの?」

「うん、ルナちゃんをイメージして、私の魔法で創ったんだよ。ブルームーンストーンっていうの。レインボーとすごく迷ったんだけど……」


 気が付くと、口がぺらぺらと動いて話が尽きなかった。


「イリスは本当に宝石が好きなんだね。綺麗だから私も嫌いじゃないけど」

「メル友になった相手には必ず一つ贈ることにしてるの。友情の証としてね」

「友達になると宝石が貰える人……大丈夫? 悪用されない?」

「そ、そういう人とは友達にならないから!」


 騙されたりとかはないはず。アヤメはそういうの敏感だし。


「でもルナちゃん、出来れば狂想の頃の自分も認めてあげて欲しい」

「大丈夫だよ。ここまで来れたのは、狂想だった私のおかげでもあるって、ちゃんと分かってるから」

「そっか……やっぱり、その宝石にして良かった」


 青の宝石で繋がった私たちなら、きっとメルヒェンに辿り着ける。そんな気がした。





「ところでイリス、これからどうするの?」

「あー、どうしよう。どうするんだっけ。アヤメ? あっ、寝てるんだった」

「どうするもこうするも、あなたはこれから私と一緒に来るのよ」


 ふと窓の外を見ると、そこには千早の姿があった。


「なんで皆して窓から来るのかな……」

「? よく分からないけどイリス、あなた呼び出しかかってるわよ。そこのルナ・ロマンシア?のことについて事情聴取するって」

「じ、事情聴取……」


 物々しい言いように、ちょっと身構えてしまう。

 もしかして、ルナちゃんを引き渡さないといけないのだろうか。

 でもルナちゃんはもう私の仲間だし、手放すつもりはまったくない。


「そんな警戒しなくても大丈夫よ。そいつももう仲間なんでしょ? 私と同じ」

「えっ? あっ、はい、そうですね」

「……今のはちょっと傷付いたわ」

「あー! そうです! ルナちゃんも千早さんと同じ大切な仲間で……」

「そっか、私、特別だと思ってたのに」

「あーっ!!」


 幸せだけど、なんだか涙が溢れてきそうだ。

 幸せだけど大変で、大変だけど幸せで、うーん……


「まあいっか……じゃあちょっと支度するから待っててもらっていい?」

「いいわよ。私まだ朝ごはん食べてないから急いでね」


 私は出来る限り急いで歯を磨いて顔を洗う。

 ふぅ、すっきり。

 千早と合流した後、ご飯を食べようかと思って、ちらりとルナちゃんの姿を見て立ち止まる。


「……ルナちゃん、他に服って持ってない?」

「ううん。これだけ」


 返り血は消せるらしいけど、ネグリジェみたいなワンピースだけではちょっと……。


「先に服屋さん寄ろうか?」

「えー、いいよ。私はこのままで」

「そ、そう?」


 まあ、こういうのは人それぞれだよね。


「あっ、デート? デートなら楽しめるかも!」

「じゃあ、後で服屋さんにいこうね」

「わーい」


 ルナちゃんとデートの約束をした。

 と思ったら、体がふわりと浮き上がった。


「そろそろいい? とりあえずさっさとご飯食べるわよ」

「あっ、私は自分で飛べるから大丈夫だよ」

「そう? じゃあ置いていかれないようにしっかりついてくることね!」

「えっ、ちょ、千早? あんまり速ぃやぁあっ!?」


 その後、ご飯が私の喉を通らなかったのは言うまでもない。






 まだ頭とお腹がぐるぐるする。気持ちが悪い。こんな状態で事情聴取を乗り切れるか、かなり不安だ。


「絶対に許さない、絶対に……」

「大丈夫? イリス」

「ご、ごめんってば。ほら、気付け薬あげるから」


 千早から抹茶みたいな匂いの薬を貰ってなんとか吐き気を凌いで、私はキャンプ地に降り立った。

 博士ドクのテントがあったところには何も残っていない。もうユートピアに帰っちゃったみたい。


「イリス! 無事だったのですね」

「おお! マジで生きてる!」


 駆け寄ってきたのは、エルフとアマゾネスだった。

 そういえば、私とルナちゃんを守ってきた人だ。


「えーっと……」

「あっれ、名乗ってなかったっけなそういえば。アタシはジャックス・ジャッカル。見ての通り屈強で可憐な一匹狼の狩人さ」

「レナ・クローバー。エルフです。一応は個人で薬屋さんをしていまして。薬を要り様でしたら私を頼ってくださいね」


 ジャックス・ジャッカル。そしてレナ・クローバー。

 ジャックスは狩人、レナは薬屋さんか。

 一口にアマゾネスやエルフといっても、色々あるんだなぁ。


「ってと、アルカディアの奴等がイリスに用事があるんだそうだ。そっちの少女の取調べもしたいらしい」

「取調べ……」

「ああ、心配しなくても手荒なことはしないってさ。アルカディアでの大まかなルールを教えるだけだって。ユートピアの博士からは大体の話はされてるらしいから」

「大丈夫だよイリス。いざとなったら私が守ってあげる!」


 えっ、私が守られるの? いや、嬉しいしありがたいけど。


「それにしても天狗、オマエいつの間に抜け駆けしてんだよ!」

「油断も隙も無いとはこのことですね」

「なによ。地べたを這うしか能の無い奴らより一手先んじてしまうのは仕方ないでしょ?」

「相変わらず容赦なく人を見下すよなぁ、お前は」


 噂に聞いたとおり、エルフとアマゾネスと天狗は仲が悪いみたいだ。

 もうちょっと仲良くしてくれれば、仲間にするとき抵抗も薄れるんだけど。


 なぜか三人とも私についてきて、その間ずっと言い争いをしていた。

 不意にルナちゃんが。


「うるさい」


 ドスの効いた声で三人を黙らせてしまった。


「ねー王子様ぁ、私、チキンサラダが食べたくなってきちゃったなぁ」

「あ、あはは……」

「それにまだ人肉? って食べたことなかったんだよね。一度でいいから食べてみたいなぁ」


 それからはしゅんと静かになった。このメンバーならバランスがいいのかもしれない。

 私にはちょっとそういうのは苦手だし、ルナちゃんは本当に頼りになるなぁ。


「ふふ、ありがとうルナちゃん」

「えへへ」

「なかなかおっかないヤツが仲間になったもんだな……」


 そうこうしているうちに、私たちはテントに辿り着く。

 もうほとんど撤収作業が終わってるみたいで、ルナちゃんの取調べだけのために一つだけ残されていたみたいだ。


「うう、やっぱり不安だ……」

「大丈夫だよ王子様。私がついてるんだから!」


 ルナちゃんはこんなにも心強い言葉をかけてくれるのに、どうしてこんなに不安が募るんだろう。

 わからないけど、地味に嫌な予感が拭えなかった。





 えっと、嫌な予感が当たってしまいました。

 アルカディアとしては、ついさっきまで敵だった理想人、しかも大量虐殺起こしかけた情緒不安定な少女を受け容れるわけにはいかないって。


「……えっと、ルナちゃん。あまり気を落さないで」

「……ぐす」


 だからまずはしばらくこの森で経過観察を入国の条件として突きつけられた。

 私はアルカディアに帰国して、ルナちゃんが一人でも大丈夫だと判断された時、晴れてアルカディアへの入国が許可される。


 そんなことをしたら皆殺しにしてやる、とルナちゃんが脅したら、アルカディアの役人さんはこう返した。


「アルカ王いわく、改善が見られない場合はイリスさんも追放するとのことで」

「わ、私もですか!?」

「保護者なのだから一蓮托生だと」

「ぐぬぬ……」


 アルカ王の言うことももっともだ。

 私がいなければここにいる理想人たちの何人が犠牲になったか分からない。

 あの千早やレナ、ジャックスだってこうして生きているかどうか。

 アルカディアには戦うのが不慣れな理想人もいる。王様が危惧するのも、無理も無いことだ。


「ルナちゃん……」

「……ふふ、そんなに心配しないでよ。私は大丈夫だよ?」

「えっ、さっきまであんなに深刻そうにしてたのに」


 コロっと表情を変えて、ルナちゃんは愛らしく微笑みかけてくれる。

 ちょっと目の端に涙が浮かんでいるけど。


「しょうがないよ。それに、これでもう永遠にお別れってわけじゃないし」

「でも……」

「私は大丈夫。だって、もう王子様はいるって分かってるから」


 ああ、そっか。もうルナちゃんは希望の光を見つけたんだ。

 あるかどうか分からない夢を、必死になって守り続ける必要はもう無い。

 宵闇に光る明星を、導をルナちゃんは見つけた。


前世まえの時みたいに、辛くて苦しい思いはしなくていいの。むしろ、次の再会を楽しみに想い続ける楽しみができたわ!」

「そう、だね……うん、分かった。でも何かあったらすぐに呼んでね? 宝石を使えばすぐに私と繋がれるから」

「イリスこそ、危なくなったらすぐに私を呼んでね? なにを犠牲にしても助けに行くわ!」


 ルナちゃんは本当に色々と犠牲にしそうで怖い。

 でも命あってのというし、本当に危険なときは頼らせてもらおう。


「うぅ……自分より年下の幼女に頼りきりなんて……」

「そんなこと気にしなくてもいいのに。それに、短い期間なら観光旅行って形で入国できるって言ってたし、そのときはエスコートしてね?」

「う、うん、頑張る」


 ルナちゃんとはここでお別れになってしまうけど、この世界に生きている限りは、絶対にまた会える。

 それは私たちにとって絶対に消えない希望の光だ。

 しかも、前世の時のように必死で信じるのではなく、待ち遠しく思うような夢見心地。

 だから、大丈夫。私たちにとってこんなのは、ちっとも障害じゃない。


「そうだ。思い出作りに、今日は観光しよっか」

「観光……デート? やった! 王子様とデート!」

「で、デートって……まあ、いっか」


 何度も言うけど、私にそういう趣味はないです。本当です。





 これからデートだから解散してください。私はそう言ったんだけど、上手く伝えられなかったみたいだ。


「観光スポットを探してるの? なら私が色々案内してあげるわよ?」

「そういえば二人とも女性だったな。女性用の娯楽ならアマゾネスのほうが充実してるぞ?」

「それほとんど男性用みたいなものじゃないですか。どう見てもイリスは流鏑馬やぶさめとか出来るタイプじゃないでしょう。私の家でハーブティーでもどうですか?」

「なに平然と営業してんだオマエ」


 私はルナちゃんと顔を見合わせる。


「ど、どうしよう」

「わ、私に聞かれても……ご、ごめんね。前みたいなテンションなら蹴散らせたんだけど、こうして冷静になったらなんか……」


 あ、この子も私と同じ感じかもしれない。なんか親近感湧くなぁ。

 好きなこととかで熱くなると完全に歯止め効かなくなってなんでも出来るようになるんだけど、冷静になると途端に行動力が激減するんだよね。

 アヤメに色々してもらわないと、引き篭もりっきりの寝たっきりになっちゃう。


「あのー、自分の足で色々回ってみたいんで……」

「正気? この森は私たち天狗のほかにもエルフやらアマゾネスやら魔女やら妖怪やらが群雄割拠するくらい広いのよ? 少なくとも徒歩なんて体力的に無理よ。それに滞在日数は? 所持金てもちは? その細くて綺麗で可愛い足をどれだけ酷使するつもり?」


 うぐっ、指摘が的確で容赦ない……。でもさり気なくベタ褒めされて悪い気がしない。


「そうね……じゃあこうしない? 私がイリスとルナを運ぶから、レナとジャックスはとっておきの場所を紹介すること。そうね……滞在の時間は三時間ずつってところでどう?」

「なるほど、観光名所勝負ってわけかい」

「そういうこと。私は一番最後でいいわ。移動の間は一番私がイリスと近いからね」

「……謙虚だな」


 ジャックスは怪訝な表情で千早を見ている。

 狩人の勘というやつかな。

 でもレナは対照的に、千早の言葉を完全に信じきっているみたいだ。


「天狗はプライドが高い種族ですから、嘘とかはあまりつかないんですよ。だから疑う必要が無いんです」

「へー」


 レナは自分から知ってる知識を話してくれるから楽だ。

 私は話をするのが下手だから、自分からペラペラ喋ってくれる人は好きだ。


「イリス、いちおう私とのデートだってこと……忘れないでね?」

「ふふっ、当たり前だよ」


 ああ、わざとらしく上目遣いで嫉妬するルナちゃん本当に可愛いなぁ。


「というわけでイリス、せっかくだから私たちとも友好を深めましょう?」


 どやっ、とした笑みを私に投げかける千早。おまけにウィンクまで。

 あっ、なるほど。そういう意図だったんだ。


 一応、千早やレナは私の仲間になってくれた。

 危ないところを助けてくれたわけだし、仲良くしない理由もない。

 ……出来るかどうかは別問題だけど。


「そういうことならゆっくりしてられねえな。アタシは先に行かせて貰うぜ! じゃあイリス、また後でなぁ!」


 そう言うと、ジャックスは口笛を吹いた後に凄い勢いで森の中へと走っていった。


「あいつはいつでも元気ね……じゃあ、私はレナを送るから、その間に人間用の観光地をしっかりと目に焼き付けておくといいわ」

「それではイリス、準備万端でお待ちしてますね」


 レナは千早に空へと連れて行かれてしまった。

 そしてようやく、私はルナと二人きり。


「えっと……とりあえず服屋さんに行こっか?」

「うん!」


 ルナちゃんの着てる服はもうさんざん使い古されているみたいで、ヨレヨレになった脇のところからチラチラと柔らかそうな膨らみが見え隠れしている。

 いい加減、私の理性もぷっつんしそうだったけど、これでようやくムラムラから解放される。

 ……そう思っていました。




 服屋さんに来た私達は思う存分試着する。


「ねえ! これどう? そそる?」

「んなぁっ!?」


 黒地に金色の筆記体で何か書かれているシャツと、赤地に黒チェック柄のスカート。

 シャツに浮かぶわずかな膨らみは扇情的で、金髪の髪越しに浮かべる小悪魔的な笑みとすごく合う。

 そして白い太腿を惜しげもなく披露するのだから、もう辛抱たまらない。


「だ、ダメ! 絶対ダメ!」

「えー、だめー?」

「そ、そんなのハレンチすぎるよ! いけないと思います!」


 危なかった。後もう少しでもってかれるところだった。

 私はふぅ、と一息ついて、なんとか理性を持ち直す。

 でも、まだドキドキが収まらない。あの白い肌と、膨らみと、笑みが忘れられない。


「そっかー……本当に?」

「うっ……」

一応・・、買っておいたほうがいいと思わない?」

「い、いちおう……」


 一応……そ、そうだね。一応ね。お金も無いわけじゃないし、服は何着持っててもいいし、洗濯ものが乾かない時だってあるかもしれないし。


「い、一応買っておこうかな? 本人が気に入ってるなら、うん」

「くすっ、むっつりだなぁ」

「ち、ちが、うぅ……」

「くすくす……」


 もうめちゃくちゃからかわれてるなぁ私……でも、うん、悪くないかな。


「そういえば、イリスの服も買わなきゃだよね。これなんかどう?」

「えっ」

「絶対似合うよ! ほら、着替えて着替えて!」


 強引にルナに試着室に押し込められる。

 手渡されたのはピンク色のドレス。


「こ、これは……」


 私だって女の子。ピンクでフリフリのドレスは憧れだ。

 でも私みたいな地味な少女にこれはちょっと……。


「どしたの? あっ、分かった。手伝って欲しいんでしょう?」

「じ、自分で着れるから!」


 抵抗感はあるけど、とりあえず着てみる。


「ど、どうかな?」

「わぁ……なーんだ! 全然イケるよ!」

「そう、かな?」


 自分ではよく分からない。

 茶色の髪にピンク色のドレスはそんなに噛み合わない気がするけど、ルナちゃんが褒めてくれるなら間違いない、気がする。


「まあ王子様感は全然ないけど」

「王子様……って、私は女の子だから!」


 せめて王女様がいい。

 別に白馬の王女様でも良いと思うんだけど。


「白馬の王女様ー?」

「そうそう。アマゾネスみたいに男勝り女性もいるし」

「えー、だったら男装の麗人のほうがいいなー」


 だ、男装? ただでさえ服のセンスなんてないのに、男装だなんて。


「とりあえず執事服辺りからチャレンジしてみる?」

「男装するの決定なの!?」

「ほらほら、その服も買って次の店にいこー!」


 やれやれ、ルナちゃんには敵わないなぁ。

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