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メルヒェン13 夜想に浮かぶ金色の密会

 コンコンと、何かの音が、私の深い眠りを妨げた……。

 何者だ、我が眠りを妨げる者は。


 なんて気分で目を醒ましたけど、寝覚めはそんなに悪くなかった。

 明かりの消えた暗い部屋は、窓から差し込む青い月明かりだけが照らしている。


 アヤメの姿が無いのは当然として、じゃあさっきの音はどこから?


「こっちよ、こっち」

「こっちって……」


 ……はっ? ちょ、ちょっとまって。

 体が硬直して動かない。金縛りとか、麻痺で1ターンの間動けないとかそういうレベルの話じゃない。

 目の前にある圧倒的な恐怖が、私の全身を蛇に睨まれた蛙のように硬直させていた。


 というか、えっ。その展開はさすがにダメでしょ。

 なんで、と口にすることさえ出来ない。つまり、今の私は死ぬほど切羽詰っている状況だ。


「あっ、やっぱり怖がってる。ひどいなーもう。まだ何もしないってば。まだ、ね?」

「あぁ、あっ……」


 何もしない。そんな保障はどこにもないのに、それが餌だとしても食いつかざるを得ない。

 きっとこの少女はソレを望んでいる。少女の胃に反してはいけない。少女に逆らったら、私はとにかく酷い目にあう。

 あの下半身をなくしたエルフみたいに、両手両足を失ったアマゾネスみたいに、羽をもがれ目を潰された天狗みたいに。


「えっ、と、な、なんで、ここに……いるんですか」

「もー決まってるじゃない! あなたがいつまでたっても迎えに来てくれないから、私がこうして来たんでしょ! もう!」


 少女はなんだか怒っているみたいだ。

 それこそ金髪の髪を揺らし、頬をぷっくりと膨らませる愛嬌のある彼女。

 夜なのに分かる、ルビーみたいな赤い瞳も綺麗で、容姿は愛らしい少女そのものだった。資料に載ってた写真と同じだ。

 でも、白い服が返り血で染まっているのも、口元に血がべったりとついているのも写真の通りだ。


「あー、そっか。ごめんね」


 自分でもびっくりした。

 今の自分は切羽詰っているはずだった。

 あの怖ろしいほどに残酷なことをした少女を前にして、さっきまで硬直していた体は、もう完全にリラックスしていた。


「あれ? もう怖がってないね。どうして?」

「わ、私もよく分からないけど……うん、なんか大丈夫みたい。でもここに居たら危ないよ。っていうかなんであんなことしたの?」


 まあ、話すにしても相手を外に立たせたままっていうのもアレだし、中に入れてあげよう。

 窓の鍵を外して、金髪の少女を中に招き入れた。


「えっ、入れてくれるの?」

「お話しにきたんじゃないの? 話し相手を外に出したままなんてことはしないよ」


 ここは二階のはずだけど、まあそこまで気にするようなことじゃないか。

 天狗だって飛んでるし、アマゾネスだって身軽だから家くらい登ってきそうだ。

 少女がひょいっと窓を越えて中に入ると、にこっと私の方に微笑みかけてくれた。


「えへっ、ありがとう!」

「いいよ、私もあなたとお話したかったし。えっと……」

「あっ、そっか。約束だから私の名前を教えるね」


 そういえば夢の中でそんな約束したっけ。

 彼女はスカート状の裾を僅かに持ち上げて、可愛らしく一礼した。


「初めまして、王子様。私はルナ。ルナ・ロマンシア・ルナティック。」

「ルナ・ロマンシア……いい名前だね」

「うん、私もお気に入りなの」


 その次のルナティックがちょっと気にかかるけど、月とロマンって組み合わせは好みだ。

 こういう名前が好きってことは、きっと私と似たような理想を持っているんだろうなぁ。


「私はイリス。よろしくね。ルナちゃん」

「うん、よろしく! イリスお姉ちゃん!」

「はうっ!?」


 お、お姉ちゃん? お姉ちゃんって呼ばれた?

 こんな可愛い美少女にお姉ちゃんって呼んでもらえるなんて、不意打ち過ぎる。可愛すぎるっ!


 ルナちゃんは私より見た目が幼くて、アリスちゃんと同じくらいだ。

 アリスちゃんはおしとやか系の美少女だったけど、ルナちゃんは元気っ子系の美少女のような印象がある。

 返り血とかも茶色にすれば、泥遊びをした子供みたいに微笑ましくなるような気がする。


 お姉ちゃんインパクトによる胸のきゅんきゅんがまだ収まらないけど、そろそろ種明かしをしてほしい。


「じゃあお姉ちゃん、なんのお話する?」





 やっほー、ルナだよ! ここからは私視点ね。

 改めまして、私はルナ・ロマンシア・ルナティック。とっても可愛い美少女です!

 理想は、千夜月下で浪漫飛行の夢。

 どういう理想かというと、私を永遠に続く凄惨な夜から救い出して、どこか遠くの地の果てへ連れて行ってくれる王子様の迎えを待ってるの。


 この世界に来た時は、既に私は人間じゃなかったわ。

 そう、私は実は魔物だったのです! 可憐な少女の姿をした、金色の魔物。

 ユートピアのさる有名な博士が、この体を人工的な魔物として作ったんだって。

 その体に転生したのが私、ルナだったのです!


 ベースは確か吸血鬼だったかな? 自由に姿を変えられて、鬼神みたいな怪力と魔王みたいな魔力を持ってて、スライムみたいに変幻自在。可憐な少女からグラマラスなお姉さん体型まで、全てが私の思うがまま!

 もうこの世の男を全員イチコロにするために生まれてきたみたいだね。


 まあ私にそんなつもりは全然なくて、転生した後に待っていたのは、これまた痛くて辛い実験の日々だったのです。

 戦闘力のテストだ、って色んな魔物や異能者っていうのと戦って、強化栄養剤だ、って液体を注射器で注入されてものすごく苦しくなったし、本当に死にそうだったよ。

 でも私はいつかきっと、この地獄みたいな場所から連れ出してくれる、王子様が迎えに来てくれるって信じ続けたよ! えらい!


 でもとうとう王子様は来なかった。来ないまま私は実用テストをさせられることになった。

 場所はユートピアと戦争している森のところ。戦況が芳しくないから、いきなり投入して実験ついでに戦況をひっくり返そうって考えみたいだよ。まあどうでもいいけど。


 で、ここに送られる前に夢の中で、一人の少女に出会ったの。

 長い黒髪の少女は何か難しいことを言っていたけど、私には難しいことは分からないし、興味もなかったから夢から追い出した。

 そのことを話したら、なんだか知らないけど、夢の世界にも干渉できるようにしようって博士が言い出して、なんだか知らないけどできるようになって、ずっと夢の外側から観察してた。


 その時に見かけた別の少女が、イリスだった。

 一目で分かった。漆黒の騎士を側に控えさせるその少女は、私の王子様だって。

 ソレを確かめるために、イリスの夢とあの夢の世界を繋げたの。


 あとはイリスが体験したとおりだから私が説明する必要は無いよね?

 夢の世界と少女、それと理想の世界を救えたイリスなら、きっと私のことも救い出してくれる!

 私ははやる気持ちを抱き締めながら、この森へと送り込まれた。


 エルフや天狗を半殺しにしたのは、イリスがちゃんと救えるかどうか確かめたかったから。

 ちゃんと全員救ってくれたから、私はとっても満足だよ。


 でもそれからアルカディアの人たちは慎重になっちゃって、イリスも私を探しに来てくれないから、じゃあ私から会いに行こうと思って、こうやって忍び込んだの。


 以上! 説明おわり!




「もうなんか滅茶苦茶だね……」


 この子にも何かしらの過去があって、理想があって、ソレを叶えたい意志があるんだろう。

 にしても、ここまで好き勝手、ハチャメチャできるってすごい。子供だからかな。


「そりゃそうだよ。私は滅茶苦茶だもん。だから滅茶苦茶な私を救ってね! 王子様!」

「王子様って、私は女なんだけど……そういえばさっきから救う救うって、なんのこと?」

「そのままの意味だよ? 不幸な少女を白馬の王子様が迎えに来る。同じように、私をユートピアから攫ってくれれば良いの!」

「えっと、じゃあ、今から私に攫われる?」


 聞いたら、ルナはくすりと笑って首を横に振った。


「それはダメ。私はまだユートピア側だから。だから、ゲームをしましょう?」

「ゲーム?」

「私はこれからもエルフやアマゾネスを傷つけるわ。今度は確実に殺す。イリスは私を捕まえて、虐殺を止められたらあなたの勝ち。この森がユートピアのものになったら私の勝ち」


 えっ、なにそれは。

 それってこの森の命運が私にかかってるってこと?

 ちょっと荷が重過ぎるんだけど。


「心配しないで、イリスのことは殺さないから。私が殺すのは、森の民だけ。あっ、でもイリスが私を捕まえようとするときは抵抗するから、その時に殺しちゃったらごめんね?」

「軽い……」

「大丈夫、あなたなら出来るわ! だって私の王子様なんだもの!」


 なんだか知らないけど励まされてる。嬉しい。

 嬉しいけど、うっかりで殺されるのは嫌だなぁ。

 まあ、理想を強く抱けば死ぬことは無いらしいから、そうするしかない。


 というか、自分でも驚くくらいすんなり受け入れてるのはなぜだろう。


「明日の朝からゲームスタートね。……ふぅ、ちょっと喋りつかれちゃった。今日はもう帰るね」


 ルナはベッドからひょいっと降りて、窓を乗り越えると、空中にふわりと浮いてこちらに微笑みかけた。


「じゃあね、私の王子様!」

「うん、また明日」


 驚くほどすんなりと受け入れてしまっている。

 でも、きっとこれでいいんだ。どっちにしろ、理想のために逃げられないしね。


 夜空へと消えるルナを見送ったら、ふわっとした欠伸が出てきた。

 とりあえず、今日はもう寝よう。考えるのは朝の私に任せるよ。





 むにゃりむにゃりと、私の朝は清清しく……。


「イリス、どうやら寝過ごしたらしい。もう昼前だ」

「へぇっ!?」


 うっそでしょ!? こんな肝心な時にどうして!?


「昨日夜更かししたようだな。そのせいだろう」

「そんな、子供みたいな……」


 いや、逆に子供らしさが残っているのは喜ばしいことだったり?

 そう、私は子供心と乙女心を手放さなかった、永遠の13歳、みたいな感じで。


「とにかく急いだ方が良さそうではあるが、慌ててもろくなことがない。まずは顔を洗って歯を磨いて遅めの朝食だ」

「う、うん。そうだね」


 とりあえず、今日の朝食は何にしよう。

 すぐに昼食の時間だけど、私が起きてから最初の食事は問答無用で朝食です。


 そんなこんなで身支度を整えて宿屋から出た私は定食屋さんで白米と味噌汁、そしてバナナをささっと胃袋へ、水で流し込んだ。


 そうして、いよいよ私は大遅刻の末、森へと入っていく。


「さて、密会の内容は大体把握したが」

「これからどうすればいいんだろう……アヤメ?」

「戦う心の準備はしたほうがいい。とにかくお前はヤツに会って、戦って、侵略を阻止する。簡単だ」

「か、簡単?」

「簡単だ。お前がヤツに殺意を向けられればな」


 それは全然簡単じゃないような気がするけど。

 でも私のやるべきことは分かった。じゃあ、とりあえずどうしよう。


 私は少し考えて、ひとまずは拠点に行ってみることにした。





 途中から、凄い嫌な予感はしてたんだ。

 なんだかやたらと焦げ臭いし、妙な風も吹いていた。


 私が拠点へと一歩進む度、不安はどんどん募っていく。

 昨日診たエルフや天狗の姿が脳裏に蘇って、それをなんども振り払おうと、アヤメと絶えず会話を続けた。


 でも、それを目の当たりにして、私は言葉を失った。


「あっ、来た! もーっ、遅いよイリスちゃん。もうお昼ご飯の時間だよ」


 シャーリアさんが即座にこっちに気付いて駆け寄ってきた。

 その言葉に、私は地面に崩れ落ちた。


「やっぱりお昼ご飯作ってた……さっき食べたばっかりなのにっ!」


 白米と味噌汁は、未だに胃の中で仲良くしている。

 この芳醇な、コクとスパイスの効いた香りは間違いない。

 野外調理、キャンプの料理においてもはや定番、考える必要もない完全無欠のメニュー。


「あっ、もしかして呑気に食事してきちゃったの? せっかくやわらかお肉たっぷりのカレーを……」

「あぁーっ! 言わないでくださいお願いですーっ!」


 私の絶叫はきっと。この魔窟の森中に木霊したに違いない。





 ちょこっとだけカレーを食べさせてもらって、私は一息つく。


「今のところ負傷者は出ていないらしいが、どうする?」

「次は殺すって言ってたよね……」

「ああ、恐らくはお前の力でも救えまい。よく分からないが……」


 夢の中で無明さんが言ってた。理想の無い人はこの世に存在できないって。

 ということは、ルナが言う殺すっていうのは、相手の理想を挫くってこと、だと思う。

 理想が挫かれれば、よっぽど特殊な条件でないと復活は出来ない。


 それこそ無明さんみたいに、妹さんが理想の夢の世界のなかで復活させるとか、そういうのでないと。


「私の魔法は心までは救えないから……急がないと」

「なら打って出るか。でもアテがない。闇雲に歩いてても余計な敵と出くわすだけだ」

「うーん……」


 ダメだー、何も思いつかない。

 ルナは自分を迎えに来て欲しいって言ってた。救って欲しいとも言ってた。

 ユートピア側、博士という人に行われた実験テスト、救って欲しいという願望、メルヒェンを求める私に目をつける好み……。


「あっ、そっか。急がなくてもいいのか」

「なんだ急に……あぁ、そういうことか」


 さすがアヤメはすくに私の考えを理解してくれるなぁ。

 じゃあ面倒だけど、早速調べに行きます。


 アルカディアの派遣された人に、敵の領地がどこなのかを尋ねると、どうやら北方のほうに拠点があるらしい。

 あのとんでもない新兵器投入で、領地の上半分は焼け野原になったらしい。

 おかげでエルフは軽く難民状態らしい。エルフにとっては森が家みたいなものなので別にそこまで困ってないみたい。


「こうして見ると、随分私に気付いてもらえるようにアピールしてたんだ」

「派手すぎて逆に分かりにくいな。ああ、だから夜に会いに来たのか」


 渡された地図は焼け野原になっているのは、北部の端っこから半円を描くような範囲。

 エルフや天狗を赤子の手を捻るように倒せるのに、これだけしか戦果を出さないのはおかしい。

 しかももうルナのゲームがスタートして何時間も経っているのだから、これはつまり誘っている以外に考えられない。


「ここに行けば、ルナに会える」


 私はこっそりと拠点を抜け出して、森をひたすらに北上することにした。

 多少距離はあるけど、大丈夫。魔物や妖怪の類も昨日の騒動で散り散りに逃げていって、すぐには帰ってこないらしいし。


 そう、このあたりはもうユートピアの領土と言っても過言ではない。

 だからこそ、ここで敵に遭遇するとすれば、それはもうたった一人しか居ない。

 だから、頑張って歩かないと。


「はぁ、はぁ……」

「少し休むか?」


 うん、分かってた。こうなるのは当然だった。

 だってアルカディアにあるやたら急勾配の坂道を歩いただけで倒れてしまう虚弱な私だ。

 そりゃね、森の中を歩き続けるなんて。


「だ、だいじょ、ぶ……」

「バカ、その心許ない状態で私を死線に立たせるつもりか」


 アヤメがきょろきょろと見回したかと思うと、私の脇に首を突っ込ませて強引に運ばれる。

 大きな切り株の上に座らされて、自然と息が漏れてしまった。


「ふぅー……ありがとうアヤメ」

「やっぱり少し運動して体力をつけておいたほうがいいかもな。さて……良い頃合だろう」

「えっ?」


 アヤメは私を庇うように前に立って、ナイフを持つ腕を横に伸ばす。


「居るんだろう、ストーカー。いくら私のイリスが可愛いからと言って、変態に拝ませる気は無い」

「か、可愛い……じゃなくて、なに? 誰か居るの?」

「人間の割には随分鋭い勘をしていますね。女王様の言っていたとおり、人間は侮れませんか」


 アヤメが睨む先の大木の裏から、一人の美女が姿を現す。

 綺麗な金髪は彼女かと思ったけど、違った。

 緑色の衣服に茶色の革装備、背丈は高くて、端整な顔立ち。

 背負うのは弓矢、腰には剣。尖った大きな耳が特徴的な種族の美女。


「あなたは、私の最初の患者さん!」

「ええ、その節はどうも。可愛い女の子二人が護衛もつけずに森の中に入っていくものだから、心配で付いてきてしまったんです」

「なーにが心配で、だ。イリスが飯食ってる時からずっと目をつけてたじゃんか、ストーカー」


 また別の声が響いた。

 と思ったら、木の葉が真上から落ちてきて、背後で何かが降りてきたような音が。

 振り返ると、そこには褐色肌のワイルドなお姉さんの胸があった。


「えっ!?」

「おう、私が偶然通りかかってよかったなイリス。下手したらこわーいストーカーおばさんにイタズラされるところだったぞ?」

「むぐ、むぅー!?」


 がばっと開いた両腕に私の頭は捉えられて、大きな胸を押し付けられる。

 力強くて、でも柔らかな感触、ちょっと汗の匂いがせくしー……おおっと、いけないいけない。


「だ、誰がストーカーですか! 大体あなただってあとをつけてきたんでしょう!?」

「私は周辺警戒の仕事だ間抜けが。むしろ難民の分際でうろうろしてる不審者はお前のほうだ。さっさと拠点に戻って保護されてな」

「なんでもいいからイリスを離せ、殺されたいか」

「おお、こわいこわい」


 そろそろ窒息死しそうだった私を、アヤメはぎりぎりのところで解放してくれた。

 やっぱり胸なんて別になくてもいいよ。


「はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った……」

「それで、イリスはどうしてこんな所にいるんだ? 一緒にいた連れも来てないみたいだが、もしかしてトイレでも探して迷ったのか?」

「え、えっと」

「お前たちには関係ない。構うな」


 アヤメは私の手を強引に引いて、肩をしっかり抱いた後にナイフをアマゾネスに突き出した。

 相手をキッ、と睨みつけるアヤメの横顔が、本当にかっこいい。


「イリス、お前はもうちょっとだな……」

「この先は<金色>が出現するおそれがあります。早く戻るべきですよイリス」

「私たちはその金色に会いに行く。心配は不要だ」

「なっ、正気ですか!?」


 エルフが血相を変えるのも、それは無理も無い話だ。

 なにせ自分の下半身を消し飛ばした相手へ、見るからに戦闘能力の乏しい少女二人が向かうっていうんだから。


「何か勝算があるのか?」

「ある。イリスの回復魔法があればまず死なない。あとは私のナイフが殺す。簡単な話だ」

「ちょっと無鉄砲すぎないか? 私たちも脳筋って言われてるけどもう少し確実に作戦練るぞ」

「ならお前たちはその確実な方法とやらで挑めば良い。私たちは私たちでやる。イリス」

「う、うん。それじゃあ」


 エルフとアマゾネスにお辞儀をして、私は先に歩き始めたアヤメに走って追いつく。


「ちょ、ちょっと待ってください! 私たちは長いことこの世界に居ます。慢心で挑み、帰ってこなかった人は少なくありませんでしたよ。少し落ち着いて……」

「アイツはただの理想人じゃねえ。飛び切りの怪物ビースト……いや魔物デーモンだぜ。理想叶えるにしたって功を焦りすぎじゃあ……」

「ルナちゃんは怪物でも魔物でもないよ。たぶん」


 私は自分の行いに自分で驚いた。

 聞き捨てなら無いなんて、臆病な私が思うはずなんてないのに。

 振り向いて、普段出ないような声で、強くルナちゃんを擁護していた。


「ルナちゃんって……どういうことだ? お前、アイツの知り合いなのか?」

「イリス、放っておけ。ろくなことにならない」

「おい、ちょっと待てよ!」


 こちらに踏み出したアマゾネスが、途端に動きを止める。

 肉食動物みたいな険しい顔でこちらを睨みつけているだけだ。


「これ以上追ってくるなら、まずはお前たちから殺す。勿論、イリスに治療もさせない。警告はしたぞ」

「お前……」


 アマゾネスが何か言おうとしていたけど、私たちはそれを待たなかった。

 背後から感じるのは殺意ではなかったけど、ただただ視線が痛かった。

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