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メルヒェン11 命を救う理想の魔法

「やっぱり、あなたは他の人とは違うのね」


 この真白な部屋には見覚えがあった。

 そう、私が始めて初めて夢の世界を見たときの、無明眠り子の空間。


 でも、目の前にいたのは無明さんじゃなかった。


「ここは……あなたは?」

「はやく私のところまで来て、一緒に遊びましょう? きっと楽しいよ」


 真白な部屋のなかで、唯一色を持つ彼女の服の返り血のような赤と、夕陽のような黄金の髪。

 目元は前髪で隠れていて、口元は笑っていた。

 楽しそうに笑う少女の笑みは、どこか不気味で、身の危険さえ感じさせた。


 この夢は危険だ。早く覚めないといけない。

 なんとなく、そう感じさせる何かを目の当たりにしている気がする。


「やっぱりこわい? 私のこと、こわい?」

「え、えと……そ、そんなことはないです」

「嘘。私の前に来る人、みんなそういう顔をするもの。でも大丈夫だよ。貴方もすぐに仲間に加えてあげるから」


 少女が四つん這いのままこちらに一歩迫る。

 気が付くと、私も後ずさっていた。


 確かにこの子は怖い。なんだか得体が知れなくて、飢えた猛獣の折の中に放り込まれたみたいだ。

 早く目覚めたいのに、一向に覚める気配が無いんだけど。


 アヤメ、アリスちゃん、無明さん!

 誰でも良いから私を起こしてください!


「ふふ、やっぱり貴方は最高に可愛いわ。もっとよく見せて?」


 猫みたいに向かってきて、もう二、三歩くらいで接触してしまいそうだ。

 だ、誰か、誰か助け……。


「ひ、ひぃっ!」

「んー、良い匂い」

「ふぁっ!? え、なっ?」


 なんかものすごく怖い事をされるのかと思っていたのに。

 さっきまで獅子か人食い虎のように感じていた少女は、私の足に猫のように顔をこすり付けていた。

 脛、膝、太腿と、何かを確かめるように、あっ、ちょっとそこはやめてくださいお嫁にいけなくなります。


「はわわ……」

「ふふ、可愛いなぁ。やっぱり貴方がいいかも」

「な、なんのことですか~!」


 お腹から上に、胸に顔を埋める。


「んー! ふかふかー。黒い子よりはあるね」

「黒い子って、アヤメのこと? アヤメを知ってるの? あっ、ちょ、あんまり強くされると……」


 よく見ればかなり可愛い女の子だ。

 でもこれ以上すりすりされるとイケナイ何かに目覚めてしまいそうなんだけど、強引に離したら何されるか分かったものじゃないし、どうすれば……。


「夢の世界は、楽しかった?」

「っ!?」


 胸に顔を埋めた少女は、不意に私の顔を見上げてきた。


「やっぱり、あなたが何か関わってるの?」

「まあね。でも、まだ全部は話せないかな」

「そんなぁ」

「ふふっ、貴方が私をちゃんと迎えに来てくれたら教えてあげる。だから……死なないでね」


 少女は急に私の体から離れる。


「じゃあね!」

「あっ、ちょっと待って! 名前とか……」

「それもまた今度!」


 気が付くと、真白だった部屋はどこにもなかった。

 そこは冷たい石で出来た寒い部屋。鉄の枷と、所々に飛び散った血の跡がある石牢のような場所。


「きっと、迎えに来てね」


 その微笑はなんだか、すごく儚げで。

 どうせ叶わないと半ば諦めかけているような、それでも最期、もう一度だけ信じようとしているような。



 きっと迎えに行く。私が彼女の言葉に答えようと思ったときには、もう私は目覚めていた。

 

「金色の髪と血の赤がついた服の少女……」

「起きたかイリス、お前にしては早起き、ってどうかしたのか?」

「えっ?」


 なぜか涙が止まらない。まるで涙腺が壊れてしまったみたいに。

 普段から無愛想だったアヤメがやたらと心配してくれるのが面白くて笑ってしまっているのに、それでもしばらく涙は流れ続けた。






 私は椿さんと一緒にアルカ王のところに行くと、四人組を紹介してもらった。

 勇士、魔法使い、銃士、戦士のチーム。


 アルカ王の計らいによって、私はまず現状もっとも戦況が有利な場所、魔窟の森で研修することになった。


「今日からガンダーラの方へ向かってもらうと思ったのだが、さすがに昨日まで非戦闘員だった人間を激戦地に投げ入れるのはどうかと言われてしまってな」


 アルカ王の計らいじゃなかった。誰が気をつかってくれたんだろう、椿さんかな。


「というわけでイリス、まずはその四人と共に魔窟の森へと向かい、そこで戦場に慣れろ。その後にガンダーラへ向かってくれ。あとはお前の好きなようにすればいい」

「わ、わかりました」


 これから大変そうだなぁ。


 そんなこんなで、私たちは馬車に乗って東へと進んでいます。

 さっき知り合ったばかりの人と同じ空間にいるのは、なかなか居心地が悪い。

 赤の他人なら関わることも無いし、普通にしていればいいんだけど。


「じゃあ改めて自己紹介だ。俺の名は紘輝。紘輝・ヒロイック・ジャスティライザー。勇士をやってる」

「勇士……?」

「ああ、君はこっちに来たばかりだったな。勇士というのは最近出来た職業で、まあ勇者志望の戦士や騎士のことだ。勇者は成し遂げた者。勇士は成し遂げようとする者だ」


 黒髪の青年、紘輝さんは勇士。理想はこの世界に勇者として名を連ねること。

 勇者になりたいという憧れの理想を持ってる人はやっぱり多いみたい。


「私はシャトーブリアン。魔法少女です。理想はお肉をいっぱい食べることー」

「そういう理想もあるんですね」


 滑らかでとろけるような、飴玉のような甘く幼い声。

 確かに、お肉をたくさん食べるというのも理想と呼べなくもない?

 桃色の髪の少女は可愛らしげに微笑んでいる。食べちゃいたいくらいキュート。

 桜の妖精みたいなピンクの服、手に持っているのは木でできた杖だ。


「俺はジムだ。一応は雇われ兵士だが、趣味程度のもんだから期待はしないでくれ。まあ趣味を堪能するのも理想のうちってことで、よろしくなお嬢ちゃん」

「は、はい。よろしくお願いします」


 金髪の白人さんだ。外国人って初めて見た。

 でも言語は同じ日本語みたい。なんでだろう。

 体中に備わっている銃器の数々が、本当に戦争をしている人なのだと私に教えてくれる。


「我が名は無尽鎧 羽刃斗。我が斧は新しき道を切り拓き、此の名は語り継がれるなり」

「えっと……斧戦士さんで、斧で伝説を作りたい、って感じですか?」

「いかにも。汝には素養が見える。いずれ良き理想人となろう」

「ど、どうもです」

「すごーい、羽刃斗の喋り方にこんな短時間で適応できる人はじめて見たー」


 理想人って、こんなに個性的な人ばっかりなのかな。


「この世界に来たばっかりってことは、魔窟の森のこともよく知らないよな?」

「あっ、はい。戦争の舞台になっているとしか」

「じゃあ教えてやるよ。先輩理想人のありがたいお言葉を、耳をかっぽじってよく聞けよ?」


 ジムさんは得意げに魔窟の森のことを話し始めた。

 こういうタイプは一緒にいるとかなり疲れるので苦手だけど、しょうがない。ちゃんと聞こう。


「魔窟の森ってのは、元々エルフの住処だ」

「エルフ!」


 興奮のあまり、思わず声を張り上げてしまった。

 でもエルフと聞いて興奮するなと言うほうが無理だよ。

 なにせエルフといえば森の守護者で、背が高くて、美人で、とても高度な魔法を使える、私の憧れた形の一つだったから。


「エルフについてはたぶん今お前が思い浮かべてるものそのままだと思って良いぞ。で、そのほかにも半人半魔のアマゾネス、人型妖怪の天狗が主な勢力として存在していてな、日頃から森の領土を奪い合ってる」

「アマゾネス、天狗……もうすごいですね」


 幻想夢想のオンパレードって感じだ。

 でも、どうして勢力争いなんてしてるんだろう。


「エルフは森の守護者で、管理者だ。その調和がアマゾネスの乱獲で乱され、そこに動物や妖怪側の天狗のプライドに触れて、なんやかんや三つ巴の戦いになっちゃったらしいんだが」

「な、仲良くとか出来ないんですかね?」

「無理だろう。ここは仲良しこよしするための世界じゃなく、自分の理想を貫いて叶える場所だからな。仲良しこよしが理想っていうパターンもあるし、そのおかげでアルカディアは色んな種族が交流する場所になったけどな」


 それに関しては私でもちょっと知ってる。

 安全無欠の勇者、クロードという人のおかげだ。

 ユートピア側から逃れてきた魔物の類と友好を築くために、色々頑張ったらしい。その流れで、この世界では魔物向けの食用人間の養殖とかしてるんだよね。


「異種族を受け入れるってことは、人間じゃない奴らの倫理観にも対応できないといけないからな。っと、話がずれたな。それでも魔窟の森ってのは理想とプライドをかけてぶつかりあってるわけだ」

「そんな激戦区にユートピアまで参加したら……」

「仲違いしてる奴等が勝てるわけない、って思うだろ? ところがどっこいそうじゃないんだな」


 私の予想は簡単にひっくり返された。

 その反応をジムは楽しんでいるように見える。


「アルカディアとユートピアは昔戦争したことがある。そのときにエルフとアマゾネスは共闘した経験がある。敵がユートピアと知るや、すぐさま団結して対抗したんだな」

「うわぁ」


 いがみ合っていた違う種族同士が、共通の敵を倒すために団結する。

 そこに芽生える友情、あと恋慕。その想いが奇跡を起こす……


 これはメルヒェンチックな匂いがします!


「まあ魔窟の三種族は文句なしに強いし、アルカディアも最初のうちは戦力を派遣してたんだけどな、今ではユートピアと戦っているのをいいことに観光地にしたり魔女の集落が出来たり妖怪が蔓延ったり大変なんだ。それでアルカディアから森に派遣される人員は、そっちの対処に回される。ついでにユートピアと遭遇したらなんとかする」

「なるほど……」

「森の奴等が強いだけで、ユートピアの奴等が弱いわけじゃないから、そこは油断しないで気を引き締めろよ?」

「はい!」


 エルフ、アマゾネス、天狗、おとぎ話に出てくる種族と生で会えるなんて。

 考えただけでわくわくしてきた!


 早く森につかないかな。きっとキラキラした妖精さんとか、すごい魔法やかっこいいアマゾネスなんかが戦ってるんだ。そして私もその中の一員として少しずつ輝いてくんだろうなぁ。


 なんていう幻想は容易く打ち砕かれてしまうことを、この時の私は知るよしもなかったのです。





 魔窟の森の少し手前にある町は、最近出来たばかりの宿場町。

 私たちを出迎えてくれたのは、妖精さんでもなく、アマゾネスのお姉さんでも、ましてや一枚下駄を履く幻想的な天狗でもありませんでした。


「あんたが回復魔法が得意な新人か!? すぐに来てくれ!」

「えっ、えっ? えぇっ!?」


 緑色の迷彩服に身を包んだ兵隊でした。


「おいおいどうした。何をそんなに慌ててるんだ?」

「どうしたもこうしたもない。戦況が完全にひっくり返されちまったんだよ!」

「いやいやいや、ありえないだろ」


 足早に歩く兵隊にほとんど駆け足のような状態で歩かされて、私たちは森の中に入っていく。

 あの、聞いていた話と全然違うんですけど?

 もっと余裕があって、勝ち確って感じで臨めるって聞いてたんですけど……なんか帰りたくなってきた。


 私を気の毒に思ってか、ジムさんはずっと私のすぐ背後から兵隊さんに説明を要求してる。


「そりゃ向こうがちょっと強い奴を送り込んで来たからって、新人の女の子を強引に引き回すほどの事態なんて、それこそ俺たちの手には負えないんじゃないか? エルフ辺りに足止めしてもらって、俺たちはすぐさま報告したほうが」

「そりゃ死傷者が一人や二人出たくらいならそれくらい呑気でいられるわな。本当ならグレイ辺りに来て貰いたかったが……ジム、お前はメンバーと一緒に指揮官から指示貰いに行け」

「いや、つってもなぁ」


 ジムさんはどうやら私のことを心配してくれているみたいだ。

 でも、それはきっと必要ない。


「ジムさん、私は大丈夫ですから」

「あっ、そう? じゃあまた後で」


 あっれー……そんな軽く、もっとこう、健気な少女に対してなにかないんですか!?


「自分で健気とか言うか」

「あ、アヤメ。なんで出てこなかったの?」

「別にいらないだろ。殺意を向ける相手もいないんだから」

「でも一人は不安……」

「おい、そっちのいきなり出てきた黒いのは連れか? なんでもいいからさっさと来てくれ」


 兵隊の案内に連れられて森の中に入っていく。

 このまま誰にも見られないところまで連れて行かれて襲われちゃったりするかも、なんてことはなく。

 辿り着いたのは集落のような場所だった。


「俺たちが戦争に参加するという理由でエルフに申請して、居住することを唯一許された、森の一角だ。すぐに負傷者を治療してやってくれ」

「ま、任せてください。私の回復力なら何人だっ、て……」


 自分ならできると、鼓舞した心が一気にぱたりと倒れてしまった……


「な、なにこれ……」

「ジムもこれを見たらお前と同じ反応をするだろうよ。奥の方から頼む」


 まず一人目、耳が長くて服が緑、肌は透き通るような白さ。

 間違いない、エルフだ。

 他者と関わることを好まず、人間より優れた力と知恵を持つ森の賢者の種族。妖精と触れ合う木々の住民、あるいは精霊。


 なのに緑色の服は破けて赤く染まっている。

 当然だ。だってこのエルフさん、下半身がないもん。


「完全に致命傷だ……っていうかこれまだ生きてるの?」

「エルフは森の加護を受けているので、致命傷を受けてもすぐには死なない。治してやってくれ」

「じ、じゃあ、いきます」


 木々の呼吸、草花の色、地の上に満ちる生命の息吹、その奇跡を束ねて、今、大いなる魔法をここにもたらす。


「オーバード・ヒーリング」

「……っ」


 溢れ出る光を手に、私はエルフの失われている腰のあたりから、下に向かって撫でるように動かす。

 光はエルフの下半身の形を形成して、光が徐々に散る。

 光が完全に散った後に、綺麗なすらっとした足が露になる。

 エルフの肉体は下半身を取り戻していた。


「今の僅かな間で完全に両足を復元しているだと……」

「た、たぶんこれで大丈夫だと思います」


 兵隊が驚いていると、エルフの体が微かに動いた。


「うっ、ん……ここ、は?」

「っ! おい、大丈夫か。足の感覚はどうだ?」

「足……別に、なんともないですけど。っていうか貴方人間っ!? へ、変態! 足を触らないでください変態!」


 さっきまで致命傷を負っていたエルフは、すでにこの通り完全回復、疲労すら吹き飛んでいた。

 私の回復魔法って、本当に強力なんだなぁ。


「こいつっ……まあいい! イリスだったか? その調子でよろしく頼むぞ! 俺は患者をこっちにも回してもらうよう手配するから!」

「は、はい!」

「えっ、なにこれ。ていうか貴方は誰? 貴方も人間?」


 エルフがこっちに照準を定めてきた。

 ど、どうしよう。お話したいけど、お話している余裕は無いみたいなんだけど……。


「イリス、治癒後の誘導は私が引き受ける。お前は治療に専念しろ」

「あ、アヤメ!」

「貴方は、人間……どこか妙な気がしますが」

「私たちはただの救護班だ。元死に損ないはさっさと現死に損ないが死なないよう手伝え」


 アヤメの性格だと大体の人の怒りを買いそうだけど、仕方ない。

 私は次の人の治療に集中することにした。次の患者さんはアマゾネスだ。





 エルフ、エルフ、アマゾネス、天狗、エルフ、天狗、天狗、アマゾネス、エルフ、天狗……

 もう数え切れないほどに負傷者を治療している。

 一人治療するのに2、3分もかからないけれど、さすがにちょっと疲れてきた。というかそろそろお昼ご飯が食べたい。


 そう思っていると、シャトーブリアンさんが交代しに来てくれた。


「おつかれー。交代だよー」

「あ、シャトーブリアンさん!」

「すごい頑張ったみたいだねー、死傷者0人なのはイリスちゃんのところだけだよー。すごい噂になってたよー」

「そ、そうなんですか……あの、もうお腹ぺこぺこなんです」


 私のお腹がぐるぐると鳴り響いて、シャトーブリアンさんはくすくすと笑う。


「そだね。一旦町のほうに戻れば美味しい肉料理が食べれると思うよ。でも今日のところはとりあえずここの炊き出しで済ませたほうが良いかもしれないよー」

「?」


 シャトーブリアンさんに後を任せて、私はオススメされた炊き出しでご飯をもらうことにした。

 ……だけど、どうしてこんなに居づらいのだろう。


「き、今日はカレーかぁ。おいしそうだなぁ……」

「そうだな」


 木で作られたテーブルと椅子が並ぶ、開けた空間。

 迷彩柄の兵隊や、勇士や魔法使い。さっきまで傷を負っていたのだろうエルフやアマゾネスたち。

 色々な種族が同じ空間で食事をしている。


 これはアルカディアの日常風景で、別に何も珍しくは無い。

 ただ、すごい視線を感じる。あとなんかヒソヒソ声。


「アヤメ、私なんか変かな。場違いかな……」

「ん? 何か気になるのか? ちゃんと人参は食べろよ」

「いやそうじゃなくて……なんか見られてる気がする」

「気のせいだろ。少なくとも殺意は感じない」


 アヤメは殺意以外には割と鈍感だ。でもやっぱり見られてる気がする。

 変に絡まれないうちにさっさと食べて、ここから出よう。


「あの」

「っ……!?」


 私に声をかけてきたのは、エルフだった。


「ご一緒しても構いませんか?」

「ど、どど、どうぞ……」


 しまった、逃げ遅れちゃった……。

 どうしよう、きっと私なんかに治してもらったのが屈辱で、私に執拗な嫌がらせや嫌味を浴びせてくるんだ……。

 ああっ! 嫌だ! 前世の頃の、地味に嫌な思い出がぁーっ!!


「初めまして、新人さん。私は……」


 うわぁ、三人がかりだ。きっと私の正面に座ってる子がリーダーなんだ。

 さすがに殺意を向けるほどではないけど、やっぱり苦手なものは苦手だなぁ。


「あの、聞いてます? あなたのお名前を聞いても?」

「あっ、はひ、い、イリスです。お手柔らかに……」

「それにしても、あなたのところは致命傷の患者をほとんど請け負って、死者が0人だなんて……あなた、只者ではないですね」


 なんだろう。なんか、思ってたのと違う?


「ぜひ、あなたの理想を聞かせてください。一人も使者を出さなかったあなたの強い想い。あなたをそこまでさせる理想がなんなのか……気になります!」


 なんだかすごくフレンドリーだ。

 魔法使いの女性は私より年上のようだけど、その瞳を子供のように輝かせている。


「えっと、私の理想は……」


 私が理想を語ると、彼女たちは私を褒め称えてくれた。

 彼女たちは私の理想を馬鹿にしたりしなかったし、私の夢を虚仮にしたりしなかった。


 むしろ、負けじと自分たちの理想を語って聞かせてくれた。

 魔女界隈のトップに立ちたいとか、悪魔と友達になりたいとか、サバトを開いて淫蕩の楽園を築きたいとか。

 同じ魔法使いでも、抱いている理想は色々だった。

 私も一応は魔法使いだ。回復専門だけど。


「じゃあ魔法使い仲間ですね。お互いに理想を叶えられるよう頑張りましょう」

「そう、ですね。はい!」


 何の関係も無いはずの他人と、想わぬところで繋がって、理想を応援してもらえた。

 なんだか優しくて、温かな気持ちになった。

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