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9話:その♀、ゲスでキチクな二人組み。


 誰もいない屋上で三條さんと向き合うのは、不良っぽい二人組だった。


 他校のものだろうか。見慣れない制服をだらしなく着崩し、金色に染めた髪は癖が強い。

 あと、やけにチャラチャラしていて……うん、あれがいわゆる"ギャル"というものなんだろう。


 ところで、そのギャルさんと三條さん。

 彼女らの間に、いったいどんな関係性があるんだろうか。


「んじゃさっそく~、そだね~、肩でも揉んでもらおうかな~、みたいな~」


 フーセンガムを膨らませながら金髪がしゃべる。


「あっひゃひゃ~! てかアンタ、肩凝るようなことしてなくね~? なくね~っ?」


 ジャイアントカプ○コを齧りながらもう一方の金髪が……って、あの二人ほんとにソックリだなっ!? 遠目から見るとまるで双子じゃないか!


 ……いや、それよりもだ。


 屋上の給水塔、その陰から様子を伺う。

 と、三條さんが二人に向かって何かを差し出していた。


「の、飲み物は買ってきました……」


「お~、気が利くようになってきたじゃ~ん?」


「ほんとほんと~、でもこれ、アタシの好きなヤツじゃないんだよね~、みたいな~」


「え……!」


「ま~、今日はこれでいいけど~、次はちゃんとしてね~、みたいな~」


「うぅ……」


「あっれぇ~? 返事聞こえないんですけどぉ~?」


「は、はぃ……」


(う、うーん)


 どうやら、悪い予想は当たっているのかもしれない。

 二人組の外見もそうだが、彼女らの言葉、そして三條さんのどこか怯えた様子からも、そうだとわかる。


(三條さん……)


 明らかに、三條さんは嫌々金髪たちの相手をしているように見えた。

 そしてそれを知ってか、はたまた知らないのか……二人組はゲラゲラと下品な笑い声をあげながら、フェンスにもたれかかってふんぞり返っている。


 正直、遠目からでも胸糞悪い光景だ。

 三條さん……あいつらに良いように使われてるのか?

 一体どうして……。


「……、あの……!」


 と、とつぜん三條さんが声をあげていた。


 心なしか、さっきまでのオドオドしい様子とは違う気もする。


「ん~、どしたん三條ちゃん~?」


 金髪たちも一瞬不意をつかれたように三條さんを見る。

 二人が顔を上げたタイミングで、三條さんは何やら話し始めた。


「あの……今回のようなこと……もうこれで、終わりにしたい、んです」


「ん~?」


「どゆこと~?」


「もう、ここに来るのも、あなたたちの言うこと聞くのも……今日でやめにしたいんです……」


 閑散とした屋上に三條さんの声が響く。


 今見ていただけでもわかってたけど、やっぱり三條さんは無理やり金髪たちに使われていたんだ……。


 ただ、今の三條さんの言葉。

 それは、そのことへの……彼女の目の前にいる二人組みに対しての決別宣言だった。


「……ふ~ん」


 それを聞いて、金髪たちはフェンスから背中を離し、そのままジリジリと三條さんの方へ向かっていく。


「そ~なんだ~。じゃあ、アンタの秘密、バラしてもいいんだね~?」


「アンタの秘密を知ったらクラスで笑いものになっちゃうよ~? それでもいいってワケぇ~?」


 ヘラヘラ笑いながら三條さんに近づく金髪たち。


 そうか……。

 三條さんは、あいつらに何か弱みを握られていたのか。それで、あんなパシリのようなことを。

 それほど誰かに知られたくないことなのだろう。


 ……でも、


「か……かまいません!」


 今、三條さんは叫んでいる。自分の中で覚悟を決めたような、そんな声音で。


「わ、私はもともと……このコンプレックスを克服できたらと思って、この学園に来たんです……! 少し足を止めてしまったけれど……もう逃げたくないんです……!」


 三條さんのなかでどんな変化があったのかは、ぼくには到底わからない。

 でも、初めて見る三條さんの様子からは十二分に本気が伝わってきた。


 ただ、どんなに三條さんが本気でも関係のない相手もいるわけで……。


「ふ~ん……。じゃ、覚悟はできてんだろね~、三條ちゃん~?」


「ほんほほんほ~、まひはへんはっへほ~」


 しばらく黙っていた金髪たちは明らかに苛ついたご様子。一人なんてフーセンガムが弾けて口元がエラいことになっている。せめてガム捨てるか口に戻すかしてからしゃべろうよ……。


「アタシたちを裏切るってんなら~、それなりの罰は受けてもらわないとね~」


「タダで抜けられるって思うなってのぉ~」


 そうして、三條さんの胸ぐらを掴もうと手が伸び……って、おいおい。

 この状況って、かなりヤバいんじゃないかっ?


「んじゃ~、一発痛い目見せてやんよ~!」


「ひっ……!」


 金髪の一人が三條さんに向かって、拳を振り上げる。

 だ、ダメだ……!



 ――ゴッ。



「ごべっ!?」


「――へ?」


 ……そう思った時には、なぜか目の前に拳が迫っていて、ぼくは地べたに這いつくばっていた。


「か……茅野くんっ?」


 そして顔面に広がる鈍い痛み。


 なんでだろう。

 思わず飛び出してしまった。


「あれ~? なんなのコイツ~? いきなり出てきたんですけどぉ~」


「さぁ~? でも……アッヒャッヒャ! こいつ、男のくせに一発でのされてやんの~!」


 頭上から降る金髪どもの笑い声が耳障りだが、悔しいことに実際起き上がることもできないでいた。


 そりゃそうだ。

 ぼくは今まで超がつくほどの温室で育ってきた。体を鍛えるなんてこともないし、ましてやこんな暴力沙汰なんて経験したこともない。

 おそらくずっとワルをやってたコイツらに勝てる見込みなんて、微塵もないんだ。

 なのに、なんで……。


「茅野くん……!」


 見事に滲んだ視界のなか、三條さんが覗きこむのがわかる。


 ……ああ、でも。

 三條さんに怪我がなくて、よかった。


「ま、ちょっと邪魔入っちゃったけど~。続きやろっか~」


 金髪の言葉に、ひとときの安堵が消え去る。

 あ、これって、まだピンチなんだ。


「ぐっ……」


 体を無理に起こそうとするも、うまく力が入らない。これは本格的にヤバイ。


「三條さん、逃げて……。ここは、ぼくだけでなんとかなるから」


「でで、でも……!」


「あっひゃっひゃ~! そんな状態でよく言えるね~」


「ほんとほんと~! これはもっと痛い目に遭いたいってことなんじゃね~?」


 たしかに、こんな立てもしないみっともない状態では説得力なんてあったもんじゃない。

 これは、もうお手上げかな。


「んじゃま、お二人仲良く屋上でオネンネしてもらおうか~!」


「やっちゃえやっちゃ――」



 ――ズドンッ!



 その刹那――。

 金髪どもの声と再び振り上げられた拳が、突然の大きな音によって停止する。


「な、なに今の音~……?」


 困惑する金髪たちが揃って目を向けた方向。

 そこにはぼくでも三條さんでもない、新たな影が……三つ。

 その一つには、大変見覚えがあった。


 黒い短髪に、華奢な体。

 今は学園の制服に身を包んでいるが、その雰囲気までは変わらないようだ。



「大変遅くなりました、祐人さま。あとはわたくしにお任せを」



 そのひどく無機質な声に、今度こそ本気で安堵のため息を吐いた。





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