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4話:その♀、誰がために。


「おかえりなさいませ、祐人さま」


「ああ、ただいまアリス」


 家に帰ると、庭の掃除をしていたアリスが迎えてくれた。

 その脇を通って玄関へ。


「おかえりなさいませ、祐人さま」


「ああ、ただいまアリス」


 玄関を開けると、エントランスホールの掃除をしていたアリスが迎えてくれた。

 その脇を通って階段を上り、自分の部屋へ。


「おかえりなさいませ、祐人さま」


「ああ、ただいまアリ……って、なんで行く先々にいるんだよ!?」


 分身の術でも使ってるのか!


「いいえ、影分身の術です」


「大差ねぇ! しかも心を読んだだと……!」


 そういえば以前、読心術がマイブームだとか言ってたような。ブームとかでどうにかできるもんなのだろうか……?


「冗談です祐人さま。庭と玄関を掃除していたのは別の使用人たちです。わたくしの容姿に変装してもらっていただけです」


「うん、その意味もイマイチわからんがな」


 アリスは日常的に、あの手この手でぼくにボケを仕掛けてくる。その手段は他の使用人まで及ぶこともままあるのだ。

 他の子たちも、ずば抜けた能力を持つアリスのことを尊敬しているのか、従順に悪戯に加担してくる。改めて思うとゆゆしき事態である。



 ♂ ♂ ♂



「ところで祐人さま、最近の学園生活はいかがですか?」


「え? ああ、うん……。楽しくやっているよ」


 部屋を掃除してくれつつ、ふいにアリスが問いかけてきた。普段あまりこういうことはきいてこないんだけど、珍しいな。


「問題などはございませんか?」


「う、うん……とくにはない」


「そうですか。クラスメイトでぼっちの少女のことがなぜか気になり、彼女を舐め回すように見つめていたがために勉強もろくに手につかず、気づけば放課後。まったく無意義な気分でトボトボご帰宅、という日々を過ごされていたわけですか」


「な、なんだってー!? また心を読んだとでも言うのか!?」


 一部にとんだ誤解があるけどな!


「いいえ、盗撮です」


「よけいタチ悪いわ!?」


 でもアリスならやりかねない……! 思わず全身をペタペタとチェックしてしまった。……ほ、それらしき物はついてなかった。


「冗談はさておき、ここ数ヶ月の祐人さまの様子を不審に思い、カマをかけてみたまでです」


 いつもの無表情にほんの少しだけゆるやかな笑みを浮かべるアリス。カマをかけたにしてはやけに的を得ていたけど……。


「……そんなに不審だったのか?」


「ええ、それはそれは。ところで、その少女の舐め回し具合はいかがでしたか?」


「そこ唯一外れてた箇所だからね!?」


 しっかり訂正しつつ、アリスの学園でのことを一通り話してみた。



 ♀ ♀ ♀



「ふむ、なるほど。それで祐人さまは、そのクラスメイトさまのことが気になるわけですね」


「うん、まぁ。かといって、何をできるわけでもないんだがな……」


「しかして祐人さま……彼女にホの字なのですか?」


「たしかに彼女は綺麗な子だが、そういうんでもないなぁ」


 というか、"ホの字"って死語だよね。


「ふぅ、そんな意地を張るからいつまで経ってもどーてーなのです。このサクランボーイが!」


「あれ、なんでぼく責められてるのかなっ?」


「いっそのこと教室で象さん振り回しながら叫んでごらんなさいな。パオーンと。ほら、さん、はい! パオーン!」


「叫ばないし、振り回さないから!?」


 いきなり何キレてんだこの使用人! しかも下ネタが酷すぎる!


「ごほん……、まぁ冗談はともかく」


「今日はいつになく冗談全開だなぁ……」


「まぁしかし、祐人さまのことです。大方、その少女の境遇をかつての自分と重ねでもしてしまったのでしょう」


「……」


 アリスの言うことが最も過ぎて、つい言葉に詰まってしまう。

 ほんと侮れないやつだな。


「それで、祐人さまは彼女のことをどうなされたいのですか」


「どうしたいか……」


 彼女が気になって、ぼくはいったいどうしたいのか……。

 アリスに言われて、改めて思い返してみる。

 当時、ぼくと他のクラスメイトとの間には、たしかに見えない"壁"のようなものが存在していた。その"壁"がただただ息苦しくて心地が悪かった。

 そんな時のぼくに彼女……三條さんはよく似ている。


「できれば彼女に、あの時のぼくと同じような思いはしてほしくないなぁ」


「さようですか」


 しかし、三條さんにしてみれば、今の自身の状況に不満を感じていないかもしれない。その場合、ぼくの考えや行動はただのお節介ってことになる。


 ……けど、三條さんの様子を見る限り、居心地がいい風にはとても思えないんだよなぁ。


 しばらく沈黙が続いたあと、アリスはさほど表情を変えずに口を開いた。


「事情は承知いたしました。わたくしにできる限りでですが、お手伝いさせていただきます」


「え? でも……」


「ご心配には及びません。わたくしはあくまで、祐人さまの憂いを取り除くお手伝いをさせていただくだけです」


「……」


 察しのいいアリスのことだ。ぼくの思っていたことを見越して言ってくれたのだろう。

 まったく、どこでそこまで読心術を磨いてきたのやら。


 「では本日はこれにて」と、アリスは一礼し部屋を出ていく。


 アリスにはどんな策があるのかはわからないけど、彼女のことだ。現に、今まで彼女の仕事に関して不満をもったことはほんの一度もない。


 今回の件もきっとうまくやってくれるだろうけど……。


「では、その件、早速明日から取り掛かるといたしましょう」


 ドアの先で振り返ったアリスは、それはそれは良い笑顔だった。





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