行きのひとこま
十月の最終週の土曜日、約束の日は快晴だった。
由香の母方の実家は、隣の県の少し内陸にある田舎だ。
田舎といっても、私たちが今住んでいるこの場所も大した都会ではないのだが。
とはいっても、大学を中心に都市開発が進んでいて、便利にはなってる。
アパートからどう行くか聞くと、由香が既に用意していた。
由香はどうやら親から借りた車で行くようで、アパートの前には小型なんだろうが、立派な普通車が止まっていた。
「さあ!いざ行かん!まだ見ぬ敵地に!」
「朝からテンションマックスとか疲れない?」
朝といっても十時過ぎだが、土曜日なんて用事がない限り寝ているので十分私には早い時間だった。
それに自分の血族に会いに行くのに、敵地なんて物騒もいいところだ。
知らず白い目で見ていしまうのは仕方ないと思う。
「いや、これくらい上げとかないと二時間位かけて行く道もたない」
「二時間…サイですか。後、あまり聞きたくないんだけど…この黄色と緑のマークって」
「イエス!初心者マークです!それが何か!!」
自信満々の彼女に、私は快晴の空を仰ぎ見る。
マジで快晴バンザイ。
「……了解。ちょっと神様に祈っとくね」
「……お願いします」
それからスタートした由香の運転は、思ったほど怖い運転ではなかった。
そう下道は。
問題は高速だった。
なんと由香は、ETCカードを親に借りて来ていなくて、危うくゲートを壊す処だった。
免許を取ってからの初めての高速ということで、スピードを落としていた事がよかった。
もう一つ運が良かった事がちょうど後続車が一台もなかったことだ。
しかしゲートの前からバックしたので、驚いた係りの人が出て来て、少し怒られたのは仕方ない。
やはり出る時に神様に祈っておいてよかった。
行く前からこれでは、不安しか感じなくなった。
行くなんて言うんじゃなかったと、この時後悔した。