僕の住む世界と、僕の趣味、そして僕の一日
BLって言う描写はないですが、BLを題材にして社会を啓発していますw
その話題ってだけで駄目な方にこそ読んでほしいww
でも、無理っすよね・・・w
僕◇◇◇◇◇◇
僕は階段を駆け上がる。
このおんぼろなマンションの非常階段は、嫌味なぐらい僕の進行を回りに教える。
あの人たちはまだ僕を追ってきているんだろうか?
何てことをしてしまったんだろう?
沸き起こる後悔の念。
もし、こんなところで捕まったら・・・。
・・・・
僕は都立高校に通う普通の高校生だ。
頭がいいわけでも、顔がいいわけでも、スポーツが得意なわけでもない。
身長も平均だし、どっちかといえば痩せているほうだけど、痩せすぎでもない。
いたって普通の男子高校生だった。
だけど、僕には困った趣味がある。
僕はいわゆるボーイズラブ漫画が好きだ。
そうそう、男と男が絡むアレ。
まぁ、あんまり自慢できる趣味じゃないのはわかってる。
一応、そっちの描写とかあるし、ほら、アレとか。
でも結局、その理由は僕が男だっていうことで、女の子だったら、ふーんといったもんなんだろうけど。
好きになったきっかけ?
う〜ん、エロ漫画だと思って古本屋で買ったのが、きっかけかな。
その後はそういったものに見事はまっちゃって、今ではどうしようもないんだ。
やっぱり、その、そういった世界に何か幻想を抱いているんだろう。
その熱にこのところずっと犯されている。
こういうのが好きな男を指して、腐男子って言葉があるのぐらい僕だって知ってる。
だけど、それを公表するイコール自分が、ホモだって認めた事にならないのかな?
周りの友達、親、兄弟、みんなは僕を普通だって思ってるだろうから、そんなこと言えばどうなるかわかったもんじゃない。
いじめられるんじゃないかとか、仲間はずれにされるんじゃないかとか、そんな風にネガティブに考えちゃうんだ。
もし、僕が普通で、そういったことを何も知らないとして、友達からそんなこといわれたら、僕だって多少引いちゃうだろう。
だって、男同士で寝てるんだよ?
女の子みたいにさ。
最後までしちゃうこともあるし・・・。
普通に考えればありえないでしょ。
そう、ありえないのは分かってる。
こういったことは隠しておくしかない。
田舎の男子校とかだと、結構そういうのオープンらしいけど、僕がいるのは東京で、平々凡々な都立なんだからそんな開放感なんかない。
友達もいるし、部活も楽しくやってるし、今更転校なんてできないよ。
たまにそういった漫画を買いに、僕の住んでいない街まで僕は買いにいく。
今はバイトしてないから、お金はあんまりないけど、お小遣いで買うんだ。
買う場所は流行っていなそう古本屋だ。
古本のチェーン店なんかじゃ、他にも客がいっぱいで二の足を踏んでしまう。
とてもじゃないけど買えやしない、なんで昼間からあんなに立ち読みしてんだか?
しかし、古本屋とは言え、品定めは重要。
大体、予算がないんだから。
とりあえず、誰にも見つからないように立ち読みをする。
みなみ先生とか好みのがあったら、そのまま買っちゃうかもしれないけど、普段は立ち読みしてからが基本。
そういった本を持ちながら、青年誌か少年誌のところまで移動しようとするけど、そこに人がいたら結構危険なので諸刃の刃。
ことは慎重に運ばなければならない。
僕の背中に殺気が漂う。
そして、僕のコレクションに加えるべき本が見つかったならば、やっと買う。
勿論、『ボーイズラブ』なんて知る由もないおっさんがレジをしているときだけだ。
バイトで高校生や大学生がレジをやっているときは、仕方がないからあきらめるっきゃない。
こう言った本を買うときは本当に緊張する。
エロ本なんかよりもずっと。
それを買う事で、『自分はホモです。同性愛者です』って公表していることになる。
僕は同性愛者を嫌ってるわけじゃない。
僕だって僕の性癖を知ってる。
だけど、おおっぴらにはまだ言えないよ。
まだ時間がほしい。
レジでは勿論、値段のついている面を差し出す。
表紙じゃない事が多いからいいけど、表紙に値段がついているときはそれだけで躊躇する。
だって、美形の男と男が抱き合ってたりすんだぜ?
あぁ、もう全ての本の表紙を統一してくれないかな?
そしたら、こんな憂鬱も払拭されるのにさ。
大体、店員が僕が何を買ったかなんて知る必要ないだろう?
プライバシーの侵害じゃないか?
あ、でも、もしも表紙が真っ白とかだったら、僕は何を基準に本を買うんだろう?
表紙の絵が気に入って本を買うことだってあるってのに・・・。
会計を無事に済ますと、後はそそくさと店内を出る。
一刻も早く読みたい。
勿論、駅まで急いでいく事になるけど怪しまれちゃいけない。
あくまでも早歩きだ。
電車に乗っている間に、それを読みたいって言う衝動に駆られることはよくある。
でも、読む事なんてできない。
あぁ、ジャンプとかマガジンとかだったら、楽でいいのに。
結構エロイ表現とかあるのにな。
家に着いてもまだまだ我慢。
というか、家こそが最大の山場。
エロ本の嗅覚だけはやたらと鋭い母親が人の部屋に勝手に入るかもしれないし。
そこで僕は自分の部屋は自分でぴかぴかになるまで掃除する事にしている。
勿論、例のものが見つからないようにだ。
どこに隠しているかというと、ベッドの収納ケースの中。
多分、絶対、見つからないはずだ。
そんで、夜、部屋に鍵をかけて僕はそれを読む。
まぁ、ご存知かもしれないけど、耽美な世界が広がっていて、僕がもがいてる世界とは違うわけで。
大体、そんな女の子並みにカワイイ男なんかなかなかいしないし、カッコイイ男は彼女持ちだし。
現実と超ちげぇよとか思っても、虚しくなるからとりあえず空想に浸る。
まぁ、勢いがあれば、そのまま一人で・・・なんてこともあるけど、別にしなくたっていい。
夢想するのが女にせよ男にせよ、男子高校生なんて頭の中はそういったことでいっぱいのはず。
インターネットとかあればそういった情報を簡単に手に入れる事ができるんだろうな。
漫画だって。小説だって。
ひょっとしたら、インターネット経由でそういった人たちとも会えるかも知れないんだ。
でも、僕は専用のパソコンなんか持ってないし、親の部屋ではできるわけないし。
携帯でもできるんだってのは知ってるけど、何か変な事件多いし。
誰かにホモだってバラされたりとか脅される事を想像するだけで血の気が引くよ。
てか、素で引くだろ。普通。
あぁ早く一人暮らしがしたいな。
そしたら、思う存分買ったりできるし、そしてそういった友達だって見つかるだろう?
そんな風にいつだって今の僕の世界に愚痴を言いながら、眠りにつく。
ここ半年ぐらい、ずっとそうだろう。
ちょっと、変わった趣味だけど、ゆっくりと過ぎさていく日常。
・・・
でも、今日は違った。
何で、僕がこんなに焦って走っているかというと・・・。
・・・
今日もいつもの古本屋に行った。
学芸大前だから自分の街からは電車を二本乗り継がないといけないし、こんなところに僕の知り合いなんかいるはずない。
そして、例のジャンルを物色する。
それにしても今日は僕しか客がいない。
立ち読みが非常に心地よくできたから、欲しい本が見つかった。
かぜまる先生の『ア・ブ・ナ・イ放課後』とみなみ先生の『いんたーなしょなるらばーず』だ。
・・・このタイトルはかなり恥ずかしい。
特にかぜまる先生のは正直、感性古いというか・・・。
あと、みなみ先生の平仮名ってのもいかがなものか。
でも、絵とかストーリーとか好きだし、それでいいんだ。
さてと、いつもの親父に差し出すとするか。
『あれ?おじさんいないじゃん・・・』
レジには誰もいない。
他にも客はいない。
親父さんは後ろで何か作業でもやってるんだろうか、人の気配すらない。
あぁ、もう早くレジに来いよ。
何で人が勇気出して会にきてんのに、いねぇんだよ。
ついつい、鼻息が荒くなってしまう。
でも、『すいませ〜ん』なんて親父をせかして、買ってみたのが『ア・ブ・ナ・イ放課後』じゃ洒落にならん。
ここは待つとするか・・・。
でも、嫌だなぁ。
こんな本持って、レジを待ってるのとか見られたら最悪だ。
とりあえず、親父が来るまでさっきまでいた場所にいよう。
その時、僕に悪魔が一言つぶやいた。
『とっちゃえば?』
・・・つまり、万引き。
万引きは犯罪。
犯罪は駄目。
当たり前、それは僕も知ってる。
小学生でも知ってる。
悪いってことは知ってる。
だけど、確かに盗っちゃえば僕はこういった思いをしなくて済むはず。
それにこの店には防犯ビデオとか鏡とかないし。
親父がいなきゃ見つからないはず。
『とっちゃえば?』
また悪魔が僕を誘う。
口の中が乾く。
どうしよ?
どうしよ?
・・・ええい、レジにいない親父が悪いんだ。
僕はその二冊を手持ちのカバンに滑り込ませる。
後はここを出るだけ、一刻も早く。
足早に物音を立てず、早く、早く、早く!
鼓動が僕の鼓膜を刺激する。
ヤバイ、万引きって困難だったのか、生まれて初めてのそれは僕の罪悪とスリルと緊張を果てしなく揺さぶった。
よし、表まで出た。
誰にも見つかってない。
行くぞ、行くぞ、行くぞ、行くぞ、行くぞ!
僕ははやる胸を押さえて、一歩踏み出そうとする。
膝ががくがく言っていて、なかなか思うようには進めないけど。
「君、ちょっと待って?
さっき・・・」
後ろから聞き覚えのある声。
間違いない。
あの親父だ。
僕はそれが起爆剤になったかのように走り出す。
やばい、こんなことしたら万引きだって白状しているようなもんじゃないか。
わかっちゃいるけど、どうしようもないだろ?
中年の親父なんかに高校生の僕が捕まるはずがないし、隠れちゃえばいいんだ。
僕の思考はまさに悪党のそれだ。
しかし、親父は『万引きだ〜』と叫びながら僕を追う。
・・・・最悪だ。
早く隠れなきゃ。
そのときに古いマンションの非常階段が目に留まる。
管理不十分なのか、非常階段の入り口の扉が開いている。
そうだ、これを上って適当なところで隠れていればいいんだ。
そして、さっきの部分に続く。
この階段はカンカンカンカンと金属の鈍い音を立てる。
ヤバイ、足がぐらついてきた。
でも、ここで捕まったら僕は終わりだ。
とりあえず、屋上まで行こう。
そしたらどうにかなるだろ?
屋上に着く。
なんだか先ほどとは打って変わって平和な雰囲気だ。
少し一息つくと同時に、後悔の念が僕を襲う。
分かってる。
僕が本当に馬鹿なことしたってことは。
店のおじさんにも悪いことしたってのも。
悪魔のささやきなんて、結局僕が普段思っている事を具現化したに過ぎない。
あぁ、こんなことしてしまうなんて。
僕は二冊の本を忌々しげに見つめる。
今となっては、今日この本を見つけたのを呪うばかりだ。
『そろそろ、いいかな?』
屋上に来て15分ぐらいたった。
あんまりここに長居してたら怪しまれるだろう。
さっさと降りて家に帰ろう。
あれだったら、途中でこの本を処分したっていい。
ここにおいて帰ろうかな?
僕はまじまじとその本を眺める。
みなみ先生のだけは持っていくか・・。
だって、主人公の男の子がかわいいんだもん。
結局、自分のエゴには勝てない。
みなみ先生のも一階読んだらすぐに処分しちゃえばいいさ。
さぁ、帰ろう。
「いました、あの子です!!」
屋上のもう一方の入り口から、さっきの店の親父と警察官が現れる。
血の気が引く。
どうしてここが分かったんだろう?
誰かに見つかってたのかな?
どこにも逃げ場がない。
そう。いろんな意味で僕には逃げ場がない。
もしも、こんなの万引きした事を親に告げられたら、僕はどうすればいいんだろうか?
多分、母さん、悲しむだろうな。
万引きしたってこと以上に、僕がホモだってことに。
勿論、僕のした愚行は取り返しのつかない過ちだって知っている。
だけど・・・。
大人二人が僕のほうに歩いてくる。
「さぁ、君、盗ったものを返しなさい」
完全にばれてるようだ。
僕は屋上のフェンスに行き当たる。
そんなに高くないそれは僕の後ずさりの終了を告げる。
こうやって追い詰められると、警察官って、本当に怖いんだな。
無表情で、機械的で、そして暴力的だ。
全然、優しくなんかないよ。
僕の甘えはコテンパンに打ちのめされる。
ほとんど僕は破れかぶれになっている。
僕はほとんど無言で、フェンスをよじ登って、向こう側に行く。
足元は幅が50cmぐらいの灰色のコンクリート。
でも、怖いとかいう感覚はなかった。
怖いのは目の前にいる大人、そして捕まったときに僕が受ける仕打ち。
二人はどんどん僕のほうに歩いてくる。
僕がフェンスを乗り越えたから、なんだか焦っているようだ。
「こっちに来なさい」とかなんとか言ってる。
行くもんか、行ったら捕まえるんだろう?
そんなの信じるわけないじゃん。
僕はフェンスをたどりながら、この二人の大人から逃げようとする。
何か計算があったわけじゃない。
「こっちに来なさい。話を聞くだけだから」
警官が今度は怒鳴る。
そんなに大きな声を出さなくったって聞こえているよ。
でも、その声に気おされたのか僕の動きが一瞬とまる。
すると、警察官が僕のほうにダッシュでやってくる。
『ヤバイ、逃げないと』
方向を変えようとした時、足がどういうわけか宙をきる。
おそらく僕が地面と思っていた場所は、何もない、ひたすら何もない虚空。
足元の灰色のコンクリートが頼りなく思える。
僕は声にならない声を上げる。
何やってんだ、こんなところで足を踏み外したら・・・。
そう、僕はそのまま地面に落ちていく。
このマンションは5階建て。
落ち行く先は黒いアスファルト。
なんて様だ。
なんでこんなことに。
色んな後悔が僕を襲う。
時間が果てしなくゆっくりと流れるように思える。
走馬灯は本当の話だって分かる。
でも、次に生まれてくるときは、女の子がいいな。
人間に生まれてくるなら、女の子になりたい。
そしたら、普通にあんな漫画読んだり、普通に男の子と恋愛したりできるんだろう?
大体、僕をここまで苦しめる『普通』って何なんだろう?
それが僕の最後の問いになるんだろうか。
僕を苦しめる世界を止めることはできない。
でも、僕が止まることはできる。
僕が壊れる事によって。
まったくもって不本意な終わり方だけど・・・。