5
婚約者が誘拐未遂に遭ったという知らせは王子にも届いたらしい。まず待機命令が下り、昼には護衛部隊が村へやってきた。王子も一緒だった。
僕は姫様を救った功労者とのことで、直接お褒めの言葉をもらったけど、何を言われたかは覚えていない。
翌日に出発した。何事もなく、夕刻に到着。今晩くらいは城に泊まっていってはどうかと王子は提案したが、親衛隊長が丁重に辞退した。
別れの間際、姫様は労いと感謝の言葉を口にしてから小さく頭を下げた。顔を上げると、微かに微笑んでいた。それでいい。そう思った。
帰りは、隊長と副隊長と同じ車だった。姫様がいない以上、わざわざ宿に泊まる必要もない。数時間おきに運転を交代しながら、昼夜問わず車を走らせた。
「ノイエス隊長に感謝するんだな」
そろそろ首都が見えてくるという頃に、隊長が言った。僕はハンドルを握ったままバックミラーに目を向ける。
「ノイエス隊長がお前の面倒を見ると言わなければ、俺達がお前を殺すことになっていた」
「隊長」慌てた声。副隊長のものだ。隊長は気にも止めない様子。僕も、驚きはなかった。ただ、やっぱり未来について考えたことは無駄だったなと思った。僕が考えなくても、選択しなくても、端から道は一本しかなかった。踏み外せば、谷底に真っ逆様だ。
でも、
「それも、悪くはなかったかもしれません」
もちろん、良くもないけど。死ぬなら、もっと早くに死ぬべきだった。
隊長は不機嫌そうに鼻を鳴らした。副隊長は、このことを口外しないようにとしつこく言ってきた。
遠くに、首都が見えた。