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黎明と踊る  作者: 野良丸
朝の章
2/23

2

 特にすることもなかったから集合時間より早く城の前に来た。それでも僕以外の殆どの人間は揃っていたみたいで、隊長と副隊長から「遅い」とでも言いたげな視線を感じた。見送りの使用人や兵士は城扉から車への道を作るように並んでいる。護衛の兵士が集まっているところへ行く。車走行時の隊列の話をしているらしかった。話し合い、というよりは雑談混じりの確認といった口調だ。姫様が乗っている車を囲むかたちで走行するらしい。山中とかの狭い道で対向車が来たらどうするんだろう。まさか道を譲るわけにもいかないだろうと思ったけど、そんなことを彼等が考えていない筈もないので口出しはしない。

 忘れていた眠気を思い出した時、アルフィンがやってきた。隊長の側へ行き、一礼。

「まもなく姫様がいらっしゃいます」

「そうか。了解した」

 隊長の返事に再び一礼して、踵を返す――前に、僕を見た。何がいいたいのか分かって、問題ないよ、と肩をすくめた。それで伝わったのか、彼女はふいと背を向けて城に向かって歩き出した。

 護衛は一足早く車に乗って待機することになっていたらしい。複数ある護衛車のうちの一台に乗り込み、窓から城扉を伺う。隣に座っているのは隊長。助手席にいるのも、運転するのも同僚の兵士だった。隊長以外の二人のことは知らないけど、護衛に選ばれるということは腕が立つのだろう。きっと、僕なんかが選ばれたことが面白くない筈だ。隊長と一緒になったのは案外ラッキーだったかもしれない。

 城扉がゆっくりと開いていく。見送りの者が、一斉に頭を下げる。

 親衛部隊の女隊長とアルフィンを両脇後方につかせ、短い階段を降りてくる。目一杯おめかしして派手なドレスでも着てくるかと思いきや、姫様の服装は普段から着用しているドレスのうちの一着だった。しかし、よくよく考えてみれば、それもそうか。隣国につくのは三日後だし、お見送りのパレードがあるわけでもない。おめかしは三日後で十分だ。

 開け放しの城扉から、国王と王子が姿を見せた。姫様は車の前で立ち止まり、振り返ると、ドレスのスカートをつまんで左足を引いて礼をした。お手本のようなお辞儀だった。国王と王子はただ見つめるだけだった。もしかしたら小さく頷いたりはしたのかもしれないけど、僕からは見えなかった。

 車に乗り込む前、姫様は一瞬だけ視線を上げた。そちらを見ると、数多くある窓のうちの一枚に人影があった。光の反射で、ここからは陰しか見えない。でも多分、あれは妃様だ。どんな表情で姫様を見ているのだろう。姫様からは、その表情が見えたのだろうか。

 小さな揺れ。車がゆっくりと発進した。姫様が乗っている車を先導するかたちになる。

 城から出て、そのまま大通りを進む。歩道を歩く通行人で、こちらを見ない人はいない。

 ふと、その通行人の中に、見知った顔を見つけた。アリスだ。丈の短いスカートを履いているのか、コートから足が伸びた格好になっている。一度帰宅したのか、ベトベトに塗り固めたような化粧は落ちていた。服装に合わない、年相応の顔立ち。

 一瞬目が合った。でもそれだけだった。手を振ったり、笑みを交わす隙はなく彼女の姿は人混みに遮られた。

 僕を探していたのだろうか。それとも、ただ単に見物に来ただけか。

「どうした」

 何か外見的な変化があったのだろうか。まるで自覚はなかったが、隊長がそう訊いてきたということはそうなのだろう。

 いえ、と短く答える。返事はなかった。

 眠気は変わらずあった。でも、街中で、国民が見ている中で眠ったところで、隊長に起こされるだけだろうと我慢した。

 王都を抜けると、人と家屋はぐっと減った。一面に田畑が広がっている。雪が残っている畑にぽつぽつと立っているのは人か案山子か。欠伸の涙でぼやけた視界では判断がつかなかった。

 そろそろ眠気も限界に近い。でも、なんとなくだけど、今朝ほど気持ち良く眠れそうはなかった。


 目が覚めた。多分、車が止まったからだろう。

 休憩らしい。トランクに入れてあった昼食を沈黙の中で食す。パンと肉とサラダとフルーツ。肉とサラダをパンに挟んだら美味しそうだな、と思いながら別々に食べた。

 運転手を交代するらしい。昼食を終えた前の席の二人が揃って車から降りて入れ替わった。

 周囲は、おそらく野原なのだろうけど、雪が積もっていて緑は殆ど見えない。僕達以外の人影も、建物も、何もなかった。

 もう眠くはなかったけど目を閉じていると、すぐ横で窓を叩く音がした。見上げてから窓を開ける。

 アルフィンが一礼する。

「姫様がお呼びです」

 一応隊長を見ると、口を噤んだまま頷いた。車から降りる。さく、と雪と草を踏む音がした。思ったより積もってはいなかった。

 姫様の車に向かう。アルフィンが付いてきていないことに気付いて振り返ると、車を覗き込んで隊長と話をしていた。

 姫様の車の傍には親衛隊長が立っていた。一応、敬礼をする。彼女は敬礼を返してから後部座席を掌で指して「中へ」と言った。

 ドアを開き、深く頭を下げる。そのまま外から尋ねた。

「お呼びでしょうか」

「どうぞ、入ってください」

 隣の席を指先で触れながら姫様は言った。言葉に従い、車内へ入る。車のサイズから分かり切っていたことだが、予想よりも広い車内だった。シートは縦向きで、二列が向かい合うかたちになっている。その間には足の短いテーブルが備え付けてある。

 姫様が口を開くのを待った。しかし、その気配はまるでない。行儀よく前を向いて、すました顔をしている。

 そのうち、アルフィンと親衛隊長が向かいの席に座った。

「では行きましょう」

 ようやく口を開いたが、それは僕に向けられたものではなかった。

「はい」という運転手の声。続いて、車が振動した。周囲の車のエンジンがかかる。

 発進すると、四方に車がついた。前方には、さっきまで乗っていた車、左はまた別の兵の車、右は親衛隊が乗っているようだった。後ろは、おそらく使用人だろう。その左右にも、更に後方にも車がついている。

 隣を盗み見た。目を閉じていて、相変わらず、すました表情。そのまま口が動いた。

「昨夜、なぜ私の部屋に来なかったのですか」

 問い。

 思わず、視線は前部座席へ。

「彼女達は事情を知っている」親衛隊長が言う。それでも、第三者に聞かれたくない類の話であることに変わりはないのだけど。

「申し訳ありません。失念していました」

「嘘」

「申し訳ありません」

「私、ずっと貴方を待っていました。おかげで少し寝不足です」

「申し訳ありません」

「昨夜はどこかへ出掛けていたそうですね。どちらへ?」

「飲み屋です。一人で酒を飲んでいました。城へ戻る途中に道端で眠ってしまい、朝になってしまいました」

 姫様は目を開き、僕に顔を向けた。碧い目。僕の目と混ぜると何色になるんだろう。しばらく見つめ合っていた。多分、彼女は忖度しようと、僕の言葉の真偽を見抜こうとしているんだと思う。出来っこないのに。

 諦めたのか、姫様はテーブルに視線を移した。話はそれだけだったようだ。軽く俯き、目を閉じる。眠くはないけど、寝たふりをしていた方がいい気がした。

 シャッシャッ、と音がした。瞼の裏の暗闇が、更に濃くなる。車のカーテンを閉めたのだろう。気を遣ってくれたらしい。

 鼻のあたりを、生温い息が撫でた。ゆっくりと目を開いた時には、唇は離れていた。そのくらい短い、指先で触れるだけのようなキスだった。

 向かいの二人は見て見ぬ振り。

 姫様は笑っている。

 ほら。

 やっぱり僕は、正しかった。



 すっかり日も暮れた頃、とりあえずの目的地になっていた町に着いた。すぐに宿へ向かい、姫様は使用人を伴って部屋へ。護衛は明日の経路などの確認があるらしいけど、僕をお呼びでないことは分かっていたから、さっさと着替えて宿を出た。

 飲み屋の場所を尋ねながら歩く。そのうち、すれ違う人が酒の匂いを漂わせるようになってきた。数分もしないうちに、飲み屋が建ち並ぶ通りを歩いていた。あちらこちらの店内から騒ぎ声が聞こえてくる。

 歩き続け、ステレオの大音声が大分遠くなった時、足を止めた。ベンチに座っている女と目があったからだった。

「なに?」

「いや。誰か待ってるの?」

「まぁそんなところ。待ってるといえば待ってる」

 女の横には小さな酒瓶が置かれている。暗くて顔色は分からないが、目は据わっているように見えた。

「この町に貧民街スラムってある?」

「おにいさん、もしかして城から来た人?」

「まぁそんなところかな」

「この町にスラムはないよ。でもまぁ、都会の人からすれば、この町全体がスラムみたいなもんじゃないの?」

 女は笑って、酒瓶を口に運んだ。なくなったらしい。顔の上で酒瓶を逆さまにして、落ちてきた一滴を舌で受け止めた。

「あーあ、なくなっちゃった。また誰かに買ってもらわなきゃ」

「君が良ければ買ってあげようか」

「うそ。ホントに? いいの? お城の兵士さんがそんなことして」

「まずいかもね。だから、お互い内緒ってことで」

 女は笑った。僕も、笑って見せた。

 酒は、彼女のリクエストと、適当に数種類買った。買い物をしている最中に、彼女の家で飲むことは決めていた。

 古いアパートの一室が彼女の家だった。未成年の一人暮らしは首都では珍しいけど、彼女が言うとおりこの町全体が貧民街ならば、さしておかしな点ではないだろう。

 部屋は、ほどよく散らかっていた。衣類、空の酒瓶がほとんど。雑誌が落ちていた。字が読めるのだろうか、と思ったが、わざわざ聞くようなことでもない。

 彼女は空の瓶を指で挟んで部屋の隅に置き、行く手を遮る衣服はベッドの上へ投げ捨ててていく。そうして現れた床は意外と綺麗だった。

「グラス持ってくるから先に座ってて」

 頷き、衣類で出来た一本道を進んで、ソファに腰を下ろした。買ってきた酒やつまみを紙袋から出してテーブルに並べていく。ちょうど並べ終わった時に、彼女が戻ってきた。

「いいね。ソーカンって感じで」

 まずコースター、その上にグラスを置いて、僕の隣に座る。

「何から飲む?」

「君は?」

「私はこれ」

「お気に入りっていってたやつだね」

「うん。最初に飲んどかないと、酔ってからじゃ味分かんなくなるし」

「なるほどね。じゃあそれを飲んでみようかな」

「男の人にはちょっと甘いかもよ」

「甘いものは好きなんだ」

「へぇ。意外かも」

 彼女はくすっと笑いながら僕のグラスに酒を注いでくれた。その後に自分のグラスに注ぎ、僕を見上げた。

「じゃあ、乾杯」

「乾杯」

 昼間の、一度目のキス程に軽くグラスを触れ合わせる。小さな音が鳴った。

 グラスを少し傾ける。イチゴのような甘い匂い。味。アルコールはほとんど感じなかった。

「どう?」

「美味しい」

「よかった。でも気をつけなよ。これ、悪酔いするタイプの酒だから。明日まで引きずるのはまずいでしょ?」

「そうかな」

「そりゃそうだよ。今だって大丈夫なの? 夜は自由ってわけじゃないでしょ? お姫様の護衛なんだし」

「大丈夫。僕より強くて頼りになる人がたくさんついてるから」

「えー。じゃあお兄さんいらないじゃん」

 彼女はくすくすと笑う。

「うん。実はそうなんだよ」

 おどけて返すと、彼女はまた笑った。

 その通りだ。この任務に僕という存在は必要ない。姫様と、使用人と、護衛がいればそれでいいのだから。更にいえば、あの城にだって、僕はもう必要ではない。不要の存在。邪魔でしかないだろう。

 前隊長の今朝の言葉を思い出す。この任務を終えた後のこと。

「そもそもなんで車なの? 陸にしたって汽車の方が早いし、空はもっと早いんじゃない?」

 思考を遮る声に、頷く。しかし、その理由までは知らなかった。他の交通手段があるということなんて、考えもしなかったから、そもそも疑問に思っていなかった。でも、それでいいと思う。疑問を感じたところで、その理由を知ったところで、するべきことは変わらないのだから。

「観光でもしながら行くのかな」彼女が言った。

「この辺りに観光するところが?」

「あ、ひどい」

「そういうつもりで言ったんじゃないよ」

「分かってる。冗談」

 彼女は笑ってから、グラスに残っていた酒を呷る。

「観光するとこ、あるよ。ひとつだけ」

 声色が柔らかくなった。今朝の前隊長の声に、どこか似ていた。

「町からちょっと離れたところに温泉があるの。知らないかな。八年くらい前に、ちょっと流行ったんだけど」

「そう言われれば、聞いたことがあるよ。でも、もう温泉は出ないとも聞いたけど」

「うん。五年前くらいかな。急に枯れちゃってそれっきり。温泉を売りにしてた旅館はあっという間に潰れちゃった。温泉がなきゃあ誰も通らないような場所だからね。今じゃあお化け屋敷だよ。旅館を経営してた夫婦が自殺したから、尚更ね」

「じゃあ止めた方がいいかな」

「まさかお姫様があんなところ行かないでしょ」

「いや、多分そこだよ。僕に温泉の話をしたのは、姫様だから」

「へえ。お化け屋敷になってることは知らなかったんだから、結構昔の話だよね?」

「六年くらい前かな」

「お姫様は今のサンジョーを知ってるのかな」

「知らないと思うよ」

「なら、やっぱり止めた方がいいかもね。ショック受けるかもしれないし、あんなところ、結婚の前に見るのは縁起が悪そうだし」

「まぁ、一応伝えてみるよ。それでも多分見に行くと思うけど」

 町から離れた人通りのない場所にある温泉旅館の廃墟。枯れた温泉。自殺した夫婦。なるほど。肝試しには最適な場所だろう。

「君は肝試しが好きなの?」

「なんで?」彼女は酒を注ぎながら問う。

「ここから離れた、誰も通らないような場所にある旅館の現状を知ってるみたいだから」

 彼女は問いに答えないまま、グラスに口をつける。喉が動き、音が鳴る。沈黙に、それだけが響いた。一気に飲み干す。長く息を吐いてから、僕を見た。

「肝試しは苦手。今の姿をしってるのは、そういうところでするのが好きな人が多いから」

「多いんだ」

「意外?」

「そうでもないかも」

「興奮するんだろうね。悲しいことが起こった場所で、そういうことをするっていう背徳感に」

「君は? その旅館の方が興奮する?」

「それ聞く?」彼女は笑ってから、

「そうだね。ゾクゾクしてフワフワする感じは、他じゃなかなか味わえないかも。背徳感って、最高の媚薬だと思わない?」

 グラスを口に運んで、わざと答えなかった。

「どうする? もうちょっと飲んだら、行ってみる?」

 首に腕を回し、身体を密着させてくる。もう酔ったのかと思ったが、そういえば彼女はもともと飲んでいたのだと気付いた。僕に付き合ってくれたらしい。

「いや、やめておくよ。今晩だけ愛し合えれば、それでいいから」

 空になったグラスを置く。

「お兄さん、意外とロマンチストなんだね」

「酔ってなきゃ、こんなことは言えないよ」

 彼女は笑って、口付けをした。

 唇を重ねる度、息が荒くなっていくほど、そこに残っていた背徳感が薄れていくような気がした。




 目が覚めたのは、翌早朝。彼女はまだ眠っていた。ベッドから出て服を着る。財布から札を五枚取り出し、グラスを重石にしてテーブルの上に置いておいた。

「そんなにくれるの?」

 その声に振り返る。彼女は横向に寝そべったまま目を開いていた。

「僕にはこれくらいの価値があったから」

「ありがと」

「こちらこそ」

 玄関に向かう。彼女は毛布にくるまった姿でついてきた。

「本当に兵士なんだね」

 玄関に立ち、別れの挨拶のために振り返ると、先んじて彼女がそう言った。

「疑ってたの?」

「だって、身体とか全然鍛えてなさそうだったし」

「実際に見た感想は?」

「予想通りひょろひょろだった」

 笑みを交わす。でも、彼女の表情はすぐに曇った。

「だけど身体中傷だらけだった。ちょっとびっくり」

「弱いから、よく怪我するんだ」

「死んだら嫌だよ」

「気をつけるよ」

「よかったら、帰りもよって」

「うん」

「次は、お金はいいから」

「うん」

 名残惜しそうな言葉は、常客をつくるためのサービストークなのかもしれない。

 でも僕の目には、そんな彼女の姿が、仕事へ行く親を見送る子供のように見えた。

 その後、宿には戻ったが、割り振られた部屋には行かず、ロビーで過ごした。朝早くから受付に立っていた若い男の従業員が、温かいスープと、新聞や雑誌を持ってきた。

 一時間ほど暇を潰したころに、兵達が集まりはじめた。そろそろ着替えようと、新聞と雑誌を受付に返してから階段を上がって部屋へ行った。昨日脱ぎ捨てたままになっていた軽鎧を着て部屋を出る。そこには親衛隊長が立っていた。反射的に敬礼をする。

「おはようございます」

「どこへ行っていた?」

 目だけ動かして周囲を見る。姫様はいないようだった。

「飲み屋に行っていました」

「朝までか?」

「そこで知り合った女性の家にいました」

 親衛隊長は睨むような視線を向けてきた。実際睨んでいるのかもしれない。僕と同じくらい背が高いから威圧感がある。

「昨夜も、姫様はお前と会いたがっていた」

「そうでしょうね。でもそれは、よくないことだ」

「就寝前に少し話す程度なら問題ない」

「本当にそれだけで終わると思っていますか?」

「後悔するぞ」

「そうかもしれません」

 親衛隊長は険しい顔のまま身を翻すと、突き当たりの階段を上っていった。

 後悔するのだろうか。僕は。この任務が終わった後に。未来のことは分からない。考えるだけ無駄。ちゃんと分かるのは、今のことだけだ。今は何も悔やんでいない。それでいい。昨日、言われるがまま姫様と会っていたら、僕は今頃後悔していたと思うから。

 朝食を終えた後、温泉旅館跡地に向かった。今日は朝から姫様と同じ車で、昨日と同じようなやりとりをした。

 姫様は、旅館の現状を知っていた。そしてやっぱり、それでもいいから見たいと言った。

 旅館に着くと、姫様は車を降りた。親衛隊長とアルフィンもそれを追っていった。僕は行かなかった。車中から、廃墟と化した旅館を眺める。傾いた建物を想像していたけど、そこまで酷くはなかった。倒壊の恐れはなさそうだ。硝子が割れて、蔦に覆われている程度。

 視界に姫様が入ってきた。僕に気がついて、笑みを浮かべた。人が二人死んだ場所で笑っている。不謹慎なのかもしれない。それでもいいと思ったから、僕も笑った。




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