オレハ約束ノ日ヲ待ッタ
次の日、俺が起きるとハンスはすでに屋敷を出発していた。
ハンスからの手紙が来るまでの間俺は暇になってしまったため、医務室から抜け出して適当に屋敷の中を徘徊することにする。
朝食の時に剣と魔法の稽古でハンスの家に滞在させてもらうことになるかもしれないということを両親に伝えたときには「あんな下級貴族の家など」とか「あなたがこの屋敷を出るなんてことは大人になってからでいいの!」とか猛反対されたが、結局俺が「父さんと母さんを自分で守れるようになりたいんだ!」と思ってもないことを言うとあっさりと許可が下りた。
今日ほど両親が親バカだったことに感謝することはない。
庭の花壇にはきれいな花が並んでいたが、前世も現在も花に興味はない。
前世の世界では匂いのする日焼け止めクリームを塗って「花の香りがする」とか喜ぶ女子がいたが、申し訳ないがあれは少しきつい匂いだとしか思えなかった。
俺が「匂いがするってことは人体に有害ってことなんだって」というと情報を彼女に教えてしまった後からその女の子は俺に近づかなくなるという結果となった。
しかし俺にとって『におい』とは、美味しそうな匂いかそれ以外かで分けられてしまうため、仕方ないと思う。
一応、美味しそうな匂いも体にいいわけではないのだが。
やはり前世の俺にはあまり女子力というものが備わっていなかったのだろう。
……とか前世の自分について思い出したり、考えている間に時間は流れていき、あっという間に一日が終わってしまった。
そのハンスが泊まりに来てから二日後の朝、ハンスから送られてきた手紙を俺は執事から渡された。
一二歳とは思えないきれいな字で綴られていた手紙の内容はアーベル家の方の片づけ等もあるので三日後にハンスの方から迎えに来てくれるということと、滞在の期間は俺が決めてくれればいいというものだった。
……片付けとか迎えとか、気を使わなくてもいいのに。
前世の記憶が戻ってからの俺にとってこの屋敷は居づらいものとなっていた。
両親は過保護すぎて嫌になるし、使用人たちはおびえたような目で俺を見る。
息が詰まりそうだった。
だから剣の稽古を頼むついでにこの屋敷から逃げ出せる。
ハンスの屋敷に行くことは俺とってメリットばかりなのだ。
つまり、ハンスには悪いがしばらくここに帰ってくるつもりはない。
俺は荷物をまとめて約束の日を待った。