オレハハンスヲ説得シテミタ
「魔法と剣を……ですか?」
「ああ。今日の試合で俺はお前が手を抜いていることに気づいたんだ。そして、自分の実力のなさを思い知らされた……。だから、俺よりも実力のあるお前に教えてもらいたいんだ」
っていうか気づくの遅ぇよ、と自分に言ってやりたい。
そもそも何故俺はゲームの中であれだけ強かったのかが不思議なのだが……。
これから強くなるのだから考える必要はないかもしれない。
俺に頭を下げられるのに抵抗があるのか、ハンスは首を何度も横に振った。
「ローベルト様、貴方のような方が私に頭を下げるなど……」
「俺も強くなりたいんだ。そこに身分など関係はないはずだ。頼む!!」
俺が本気だということが伝わったのか、ハンスは少し黙ってから小さくうなずいた。
「……わかりました。しかし、そもそもあまり私とローベルト様がお会いする機会はないかと思いますが……」
「そ、そうか……」
確かによくよく考えればそうだ。
ハンスは一ヶ月に一度のペースでしかこの屋敷に訪れない。
一瞬、ハンスに滞在を伸ばしてもらおうと思ったがフェヒナー家でハンスはあまり歓迎されていない。
まぁ主にローベルトと両親に、だが。
俺は食事の時の、俺の両親がする自慢話や自分の家を罵られながらそれを笑顔で聞き流している彼を思い出す。
そう考えるとハンスを怒らせた俺はある意味では相当すごいのでは? とローベルトの性格を褒めたくすらなる。
毎回罵られても笑顔で聞き流す彼だが、この屋敷にいるだけで精神的には参っているはずだ。
もしかしたら、HPすら減っているかもしれない。
俺が頼めば彼はここに残ってくれるとは思うが、そんなことを頼むのは申し訳なかった。
しかし稽古はしてもらいたい。
と、なると自然と答えは一つになるはずだ。
……俺の頭がもう少し良ければいい案が他にもあったのかもしれないが。
「……ハンスの屋敷に俺が滞在する、というのはどうだろうか?」
「え……」
今明らかに顔をしかめましたよね?
気持ちはわかる、わかるけど……。
「いや、俺の屋敷にハンスは長居したくはないだろうと思って……」
「め、滅相もございません!」
そうは言うものの、ハンスの顔はこわばっている……。
絶対にギクッとした奴だろう、と心の中でつぶやく。
ハンスはどうやら思っていることが顔によく出るらしい。
素直で正直な少年を目の前にした前世ショタコンの俺としては抱き着きたくなってもおかしくはないだろう。
……今の俺の性別が男じゃなかったらな。
「それに、俺もたまには屋敷の外に出てみたいんだ」
これは本当だ。
しかし、俺の記憶だとフェヒナー家の所有している領地に住んでいる人間にとって俺は好ましくないもののようだ。
何度か出たことはあるが、人と目が合うとそらされ、ひそひそと小声で俺を見てささやき……。
……今思えば俺の神経は相当図太かったのだろう。
こんなんでよく外を堂々と歩けたなと今なら思う。
「……そういうことでしたら、私が帰った後、両親の許可を得てみます」
ハンスは目を泳がせながら考えた結果、俺を屋敷へ招き入れることにしたらしい。
ハンスとしてはこの屋敷に残るよりはローベルトを自分の屋敷に招いた方がマシだという結論に陥ったのだろう。
「すまない。ありがとう」
「い、いえ。また詳しいことは手紙を送らせていただきます」
「ああ、夜遅くにすまなかったな」
話を終えると俺は行きと同様、使用人たちにバレないようにこそこそと冷え切った廊下を歩いて自分がいた医務室まで戻った。