オレハ気持チヲ入レ替エタ、トイウ設定ヲ作ッタ
ハンスのいると思われる部屋の戸を俺が二回ノックすると、声変わりの訪れていない少年の声がした。
「はい」
「ローベルトだ」
俺はなるべく使用人たちを起こさないように戸に向かってささやいた。
すると勢いよく戸が開けられて慌てた様子のハンスが顔を出した。
「ろ、ローベルト様! 昼間のことは誠に申し訳ありませんでした!」
そして部屋から出てくるなり土下座せんばかりに頭を深々と下げる。
……はて、何かあっただろうか。
一刻も早くハンスの許可を得ようと考えていた俺は少し考えてから昼間に、ハンスの風魔法によって吹き飛ばされ気絶したのを思い出す。
しかし、あれは確実に俺の自業自得だ。
「いや、こちらこそすまなかった。あれは避けられなかったのは俺の実力がないからだったんだ」
家族を馬鹿にされて家族思いのハンスが怒ってしまうのも当たり前だったし、ハンスが悪くないのは明らかだ。
というか、俺が悪い。
こういうのは気まずくなる前に謝っておくのが筋だろう。
そう考えて俺はハンスに頭を下げた。
「それよりも、昼間の俺の言動を許してはもらえないだろうか」
「は……?」
頭を下げると、ハンスは驚いたように俺を見つめる。
悪いことをしたのだから、俺が謝るのは道理だと思ったのだが……。
そこまで考えたところで俺はある失敗をしてしまったことに気が付いた。
ローベルトはプライドが高く、謝ったりしない。
ハンスが驚くのも当たり前だった。
ハンスはきっと生まれて初めて俺が頭を下げたのを見たに違いない。
俺も初めてだと思う。
しかしこれは逆にチャンスなのではないだろうかと俺は考えた。
――ここで気持ちを入れ替えたということにすれば、少しくらい周りのローベルトへの印象が良くなるかもしれない……。
よし、これでいこう。
俺がそんなことを企んでいるとハンスはぶんぶんと首を横に振って否定した。
「い、いえ。ローベルト様の責任では……」
「すまなかった」
否定してくれるハンスのやさしさに少し感動しながら俺が頭を下げ続けていると、ハンスが困ったような作り笑いではあったが笑顔を浮かべて自分が先ほどまでいた部屋の中を指さした。
「あ、頭をお上げください。……もしよろしければ部屋へお入りください。今の時期、そのような薄着で廊下に居ては風邪をひいてしまいます」
ハンスの言葉で俺は今が冬であるということを思い出す。
そして急に寒いのを思い出したため急に寒くなってきたような感覚になり、俺はハンスの言葉に甘えさせてもらうことにした。
「すまない、そうさせてもらう」
ハンスの部屋の中は暖炉の火がついていたこともあり、廊下よりずっと暖かかった。
天井からはシャンデリアがぶら下がっていて外国にいる雰囲気が漂っている。
……『EOM』はドイツだったかイギリスだったか、どこかヨーロッパの国を参考にした世界らしいからそう感じるのはおかしくないのだろうけど。
医務室とは違って細かい模様の絨毯、大きく広いベッド、背が高くて立派な模様の刻まれた本棚。
そこはいかにも『貴族の屋敷の一室』といった感じだった。
……ただの客間だが。
ハンスは俺に自分の使っていたソファを譲ろうとしたが、俺はそれを断って逆にハンスに座るよう言うと、彼は再び驚いたように俺を見つめた。
そして「結局、どちらも座らずに立ち話することとなった。
ハンスは少し尋ねずらそうに口を開く。
「あの……」
「ん?」
「……額、どうなされたのですか?」
ハンスの言葉に俺は医務室の机の角に自分の額を打ち付けたことを思い出した。
出血はしていたが、今は止まっているし問題はない。
「ああ、これは俺が自分で机の角に……」
「ご、ご自分で!?」
言いかけて、実に変な奴だと思われそうな発言をしたことに気づいて慌てて首を横に振る。
「いや、医務室でベットから立ち上がったら立ち眩んじゃって、机の角に……」
「――っ!?」
サァァ……とハンスの顔が一気に真っ青になった。
――しまった。
ハンスは自分が俺を風魔法で吹き飛ばしたのが原因だと思っているのだろう。
またハンスがぺこぺこと頭を下げだす前に俺は一度咳払いをしてから本題をハンスに伝えた。
「ハンス、俺に魔法と剣を一から教えてはくれないか?」