オレハ前世ノ記憶ヲ思イ出シタ
「ふっ、まだまだの様だな。下級貴族めが」
「……さすがはローベルト様です」
俺の水魔法を受けた銀髪の少年はいつもと変わらぬ笑顔を俺に浮かべた。
顔から勢いよく水をかぶったため、髪からはしずくが垂れている。
それでも、こいつの表情は変わることがない。
それが俺は気に食わなかった。
何故こんな風にへらへらと笑えるのか。
こいつの頭がおかしくなっている様な錯覚にさえ陥りそうだ。
「お前は魔法が使えないのか? やはり汚らしい下級貴族などでは何もできないのか」
俺は鼻で笑う。
するとそいつの表情が一瞬曇った。
少しした後、極小さな声ながらではあったが珍しく言い返してくる。
「……私の実力のなさは、身分には関係はありません」
笑顔を作りつつもこいつが苛立っていることがよく分かった。
俺はこいつが一番言われたくない言葉を知っている。
だからあえてそれをこいつに言い放った。
「本当にそうか? 例えばお前の両親などはどうなのだ? いつも父さんと母さんにぺこぺこと頭を下げているだけではないか。身分が低いからこそそうやって生きていくしかできないのだろう?」
上級貴族である俺の家に逆らえないこいつら。
言っていることはあながち間違っていない。
家族を罵倒すること。
そしてそれがこいつにとって一番嫌なことだ。
案の定、そいつから笑みが消えて完全に怒りがあらわになる。
ここまでは予想通りだった。
「――両親を馬鹿にするな!!」
こいつが怒鳴りだしたのにも驚きこそしたが、別に気にならない程度の反応だ。
だがこの後のこいつの行動は全くの予想外。
今までに俺はこいつから攻撃を受けたことなどなかった。
それが今のような剣と魔法の練習試合であったとしても。
しかしこいつは次の瞬間、俺に風魔法を行使した。
そして突然背後を襲う強い突風により、俺の体は一瞬で吹き飛ばされる。
ふわっという浮く感覚がしたと思うと地面に頭から落下し、鈍い音が近くで聞こえた。
頭を強く打ったことによって視界がチカチカと光っている。
「な……んだ…………?」
それと同時に思い出した。
――俺の、前世の記憶を。
*****
私は退屈な授業を終えて、帰り道、ゲーム好きの幼馴染とファーストフード店でおしゃべりをしていた。
話の内容は、一週間前に発売された新作RPGゲームについて。
私も幼馴染の武井祐介はもちろん、クラスメートの半分はそのゲームを持っている。
そのゲームをやるためにゲーム機本体を買った子もいるくらい、そのゲームの知名度、人気度は高かった。
最近、教室でもよくそのゲームの話は話題になる。
「なぁ。『EOM』、どこまで進んだ?」
そんな話題になるゲームの名前は『The end of the magic world』、略して『EOM』。
魔法の存在する世界で主人公たちが世界を壊そうと動いている組織を倒そうぜ!! みたいなやつ。
私も祐介も、それなりにいい感じのペースでゲームを進めている。
祐介の質問に私は少し考えた。
徹夜でゲームを進めていたために眠気で頭が働かず、記憶が曖昧だったのだ。
「私は……あれだ。炎使いのボスに苦戦中。おかげで最近寝不足だよ……。祐介は?」
私が赤い鎧に身を包んだおっさんを頭に思い浮かべて答えると、祐介は胸を張って得意げに笑い出す。
「ふっふっふ。俺はそいつクリアして別の町に移動してやったぜ!」
「うっそぉ!! ちょっと、どうやって倒したの!?」
「んー……。確かに強かったけどさぁ、倒せないほどではなかったと思うぜ」
私の質問に祐介は少し首をひねってから答える。
しかし、やがて指を鳴らして私に指をさした。
「わかったぞ。お前、レベル上げサボりでもしたんじゃねぇの?」
「うっ……」
ギクリ、として私は祐介から目をそらす。
そう、確かに私はレベル上げをサボりがちだ。
だって、そこそこレベルアップするとなかなか上がってくんないし……。
「そのツケが回ってきたんだろー」
「先週まで私のが早かったのにぃ……」
得意げに笑う祐介の言葉でがっくしと肩を私は落とす。
「まぁ、地道に頑張りな。痛い目見る前にさ」
「……もう、痛い目みてるし、かっこいいこと言ってるけど、ゲームの話ってだけでかっこよさ半減だよね」
私と仲のいいオタク友達はどういう手を使ったのかわからないがすでにクリアしていて、クリア後に解放されるおまけのストーリーを進めているらしい。
なんでも、悪役キャラ目線でストーリーがどのように進んでいたのかが分かってくる仕組みだとか。
まあ、そのキャラは結果的に死んでしまうから結果は見えているらしいのだが。
そんな感じでネタバレが好きなその子は散々私がまだ進んでいないところのストーリーの話をしてくる。
ストーリーも楽しみたい私としてはその子のそういうところに最近は困らされているというわけだ。
せめて、オタク友達兼幼馴染の祐介だけには追い越されまいとしていたのだが、次の町ということはまだ祐介との差はあまり開いていないということだろう。
――急いで帰って追い越さねば。
そう考えるとどんどんやる気がわいてきて私は席を立ちあがった。
「……よっしゃあ! んじゃ、いっちょ祐介様のお告げ通り、地道にやってみますか!」
私は立ち上がり、ジュースの入っていたからっぽの紙コップをゴミ箱に捨てて、祐介と外へ出た。
すでに冬だったため、時間は5時すぎだったけどすでに日は沈んできていた。
そこでふと現実に戻されたかのように私は白い息を出しながら呟く。
「あと少しで進級かぁ」
進級と同時にもう祐介とは会えないんだな、と思う。
噂で祐介が引っ越してしまうこととその理由を聞いていたが、本人はそんな大事なことを私には告げないで言ってしまうのだろうということも感じていた。
「あのさ、奈津美……」
私がそこで黙って俯いてしまったことに違和感をもったのか、祐介は私に声をかける。
私は笑顔を作りながら祐介の方に視線を動かした。
――その時だった。
私の目はすごい勢いで祐介の方に突っ込んでくるバイクを視界にとらえたのだ。
「祐介!!」
気が付いた時には、私はほぼ反射的に叫んで祐介の体を力いっぱい押していた。
バイクが正面から当たったと思った時には体が吹き飛ばされ、地面に落ちてタイヤにひきずられていた。
やっと止まった時には体中が痛くて涙があふれた。
「奈津美――!!」
遠くから祐介の声が聞こえる。
声が小さく聞こえるほどひきずられたのか、それとも意識がもうろうとしているせいかはわからなかった。
ただ、少しして意識がある間に誰かに抱き上げられたことはわかった。
そしてそれが祐介だということも。
涙で歪んでいたと思っていた視界も意識がはっきりしていないせいだとなんとなく気づいてきていた時には、私の視界は舞台のスポットライトのようにゆっくりと暗くなっていく。
それでも祐介の泣きじゃくる顔は最後の方まで見えていて。「泣かないで」と言いたいのに苦しくて言えなかった。
祐介が何度も私の名前を呼んだあと、何かを言いかける。
「奈津美……俺、お前にまだ伝えてないことがっ――」
祐介が言いたいことを多分私は知っている。
――知ってるから……そんな辛そうな顔…………。
結局最後には祐介の声も聞こえなくなって、姿も見えなくなってしまった。
涼野奈津美は高校一年生、一五歳にして命を失った。
*****
……という夢を見て、前世の自分の記憶を思い出したところで俺は目を覚ました。
状況がつかめない。一体どうなっているというのだ。
この先、間違いと間違えの使い方がわけわからんことになってます。
作者がアホなせいです。
ただいま修正中ですのでまだ読みづらいかとは思いますが、よろしくお願いいたします。