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少年は願い、少女は求める。

火の神はかく語る。

作者: 池中織奈

※少年は願い、少女は求めるの第七弾。火の神フラン目線。

 


 微かだけれども、酷く懐かしい魔力が現れた。


 

 凡そ八百年ほど前の事だ。火の神の中で最も信仰を集めていた神として、俺は存在していた。自身を信仰してくれる者に加護を与え、妻と娘と共に自由気ままに過ごしていた。

 そんな生活は変化した。たった一人の光の神の出現によって。

 ピリカと呼ばれたその光の女神は、無邪気で、美しい見目をしていた。子供のように明るい無邪気さと、まさに女神といえるほどの大人びた美しさの双方を持ち合わせていた女神だった。

 そんなピリカに多くの神々が、魅了された。

 神としてはほめられたものではない行為をしていても、その圧倒的な強さと人を引き付ける魅力からピリカは多くの神に肯定され続けた。

 俺は特にピリカに関心はなかった。どうでもいいとさえ思っていた。だけど、あいつは、俺の妻でもあった風の女神・ウィントはそうではなかった。神としてはそれではいけないと、お節介を焼いて、ピリカのためにもこの世界の人々のためにも意見をした。その結果、ウィントは封印されてしまった。

 わざわざあの女は、俺とフィートをあいつの傍から引き離して、そして何重にもなる封印を施した。ピリカに魅了されてしまった沢山の神によるその《封印》は俺がどんなに手を尽くしても解けないものだった。

 ああ、どうしてあいつが。どうして誰よりも民を思い、優しかったあいつが封印何てされなきゃならないのだろうか。

 それを思うだけで、どうしようもないほどの怒りが俺の心を支配した。ふざけるなと思った。あいつが何をしたと。ただあいつはピリカに対してお節介をやいただけで、悪い事なんて何もしていない。だというのに、封印させるなんて。



 どう足掻いても解けない《封印》に、俺とフィートは嘆き、そして―――――。














 「ねぇ、フラン」

 目の前で一般的に見て、美しい少女がほほえんでいる。

 美しい白銀の髪を腰まで伸ばし、甘えるように輝く金色の瞳がこちらを見つめている。

 彼女はピリカ。

 神々の中で最も権力を持っているといわれる女性。

 周りの男神たちが、俺に向けられたピリカの甘えるような表情に嫉妬に狂ったように顔をひそめていくのが見えた。

 「なんだ」

 ああ、何てくるってるんだろう。ピリカにあえて優しく返事を返しながらも俺が考えた事はそれだった。

 神々はピリカの支配下に置かれて、変わってしまった。

 昔は、あいつと同じ考えの神々ばかりだった。信仰する者が居てくれるからこその、神だ。信仰心に厚いものには加護を与えて、信者をいつくしんでいた。

 でも今は違う。

 ピリカは八百年前――、あいつを《封印》したその時にいった。

 「私たち神の力を人にそのように与えてあげる必要はないわ」と。

 ピリカは本当に神というものがよくわかってない神だった。確かに加護を与えたり、神が存在しているって証を見せつけなくてもピリカは信仰を集められるだけの神にはなっていた。加護を与えなくても信仰は得られるからいいじゃないか。人のために何かしなくてもいいのではないか、とそういう意見が広まり、俺たち神々は人の前に姿を現さなくなった。

 ただ、神界で「ピリカを中心に」、堕落しているだけの日常。

 「一緒に遊びましょう」

 腕に手をからめられる。やめてほしいけれど、ふり払わない。

 あまりにもピリカを敬遠しすぎると周りに反感を買って、俺まであいつのように《封印》されてしまうかもしれなかった。

 それは好ましくない状況である。

 だから敢えてピリカをすいているふりをする。本心ではそんなもの欠片も感じていないけれど。

 だって、あいつが目を覚ました時に、俺まで《封印》されてたらあいつが困るだろう?

 ピリカは八百年も経過したから、俺があいつを忘れているなんて思っているらしいが、そんなわけない。

 ピリカにバレないように、あいつが消滅しないように下界に顔を出してあいつへの信仰がとぎる事がないようにやったのも俺だ。あいつがあれだけ、いつくしんでいた信仰者たちが、八百年たったからってあいつを忘れてきた。まぁ、人の寿命なんて一瞬で消えるようなもので、当たり前といえば当たり前かもしれないが、それでもそれには複雑な気持ちになった。

 ずっと俺の思考はあいつの事ばかりだった。なのにピリカはそんなことありえないとばかりにべたべたしてきて、うざったい。

 はやく、はやく、はたく―――目を覚ませ。

 ずっとずっと祈ってた。ずっとずっと願ってた。

 中々目の覚まさないあいつをどうしようもなほど焦がれて。あいつを《封印》なんて真似したバカ共がどうしようもないほど憎くて。

 だけれども、俺は他ならないあいつの事を思って、あえてその思いに蓋をする。





 ―――そして、いつものようにピリカの相手をしていた時、懐かしい魔力を感じた。






 あいつの魔力だ。

 そう、一瞬で理解した。幸い、ピリカたちは一切それに気づいていなかった。それはそうだろう、奴らはあいつが消滅したと勘違いしている。このまま勘違いしてくれていればいい。あいつの《封印》が解けたのがわかれば、またこいつらはあいつを《封印》しようとするだろう。

 そんなの、許さない。

 「ねぇ、フラン」

 あいつの元へ行きたい。だけど、下手にピリカをふり払ってあいつの存在を悟られるわけにはいかなかった。

 こんな耳障りな女の声ではなく、あいつの声が聞きたい。

 こんな甘ったるい目ではなく、あいつの意思の強い瞳が見たい。

 こんな媚びるような笑みではなくて、あいつの柔らかい笑みがみたい。

 でも、今動くのは得策じゃない。

 それがわかっていたから、俺は別行動している娘に対し、ピリカたちに悟られないように連絡を送るのだった。

 駆けつけられるタイミングがあれば、すぐ駆けつけるから。待ってろウィント。






 ――――火の神はかく語る。

 (はやく、はやくあいつに会いたい。とそう火の神は思っている)




というわけで女神様の夫のお話でした。

一途キャラが好きなので、火の神はずっとウィントを思ってた設定。

ただ現在の状況ではすぐにかけつけたらまずいため、娘に託して、ウィントの元へ行けるタイミングをはかってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出てきましたね。諸悪の根源が。 正に「自分が悪だと気付いていない 最もドス黒い悪」 旦那さんが自分を保っていて安心しました。娘さんも無事っぽいですね。 他にも千歳や隼人を転生させた、おじい…
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