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季節は冬に変わり、街路樹はみな葉を落とした。
しばらくぶりに摂から連絡があり、結太は心持ち緊張しながら、例の地下にあるバーに向かった。
彼女は既に来ていて、明るい笑顔で結太に手を振って寄越す。
「……久しぶり」
「ひさしぶりー」
意外に元気な様子に、逆に結太の方が身構えてしまった。
「仕事、続けるね」
明るい声で、摂は言う。表情はまるで憑き物が落ちたかのように、軽やかで淀みがない。何故そんな表情で笑えるのか、結太は不思議でならなかった。
何かあったのか、と聞きたい。けれどそう尋ねることは、前回彼女の傷をほじくりかえした己を、鮮明に彼に思い返させた。
「……そっか」
最終的に彼の口から出たのは、非常に素っ気ない諒解の言葉だけだった。
「ええ~、それだけえ?」
「いや……。飲もう?」
話題を意図して逸らせば、
「うんっ」
摂は弾けるように頷いて、こぼれんばかりの笑顔を咲かせる。
何だか妙に落ち着かない感覚を、結太は味わっていた。
「……明生」
「なあに?」
試しに呼びかけてみると、何の引っ掛かりもなく、摂は――「明生」は応えた。
息を呑む。明生を見ていられなくなって、今度は結太が俯く。
「さて、何に致しますか?」
店主のからかいを含んだ楽しそうな声に、元気よく反抗する気力も、今の結太にはない。
ただ、どうしてか彼女の笑顔をもう一度見たいと、曇りなく彼は思っていた。
この物語を、どこだかどあさんに捧げます。
リクエストというわけでもありませんが、指定してもらった条件は、
20後半~30代男性×同年代女性
恋愛のカホリは微かに
灰色っぽい感じ
ファンタジー要素は軽めでもおk
視点は男
といった感じのものでした。
当初はR指定を入れるつもりもあったのですが、恋愛の「かほり」かあ、と思って思いとどまりました。
非常に不親切な話で申し訳ありませんでした。
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。
御感想等いただけたら、幸いに存じます。






