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 梶原結太と摂明生の接点はそこで途切れて、以降一切交わらないであろうと本人達も思っていた。

 世の中というのは面白いもので、二人は約三年後、また顔を合わせることになる。


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 高校に進学してから結太は、絵に描いたような「軽い男」になった。髪を茶色に染め、見た目にもかなり気を使った。

 中学からの延長でサッカーをやり、ある程度鍛えていた体は次第に「大人の男」に近付いていく。身長も伸び、声も低くなると、面白いように女性と話す機会が増えた。

 高校二年生になる頃には、既に片手の指の数ほどの女子生徒との付き合いを重ねていた。童貞喪失も意外とあっけなかったなあと結太は思う。もう少し丁重に扱えばよかったと考えるのは、かつて持っていた「清さ」を、どこかに惜しむ気持ちがあるからなのかもしれない。

 とにかくあの頃は、特に高校生活の「遊び」の頂点たる高校二年生の頃は、たとえ特定の相手がいようと、誘われれば女子生徒――もっと年上の女性とも――と、お近付きになれる機会を逃さなかった。

 単なる付き合いでも、結太は手を抜かない。盛り上げるのも、女性にちやほやされるのも、そして言葉の上で他人を弄ぶのも、楽しかったからだ。その様は、「全身全霊で」遊んでいた、と言うのが適当と思われる。

 学校や部活動に迷惑は掛けられないと、酒と煙草だけは二十歳まで我慢したが。



 その日結太は、自身の通う共学校から少し沿線向こうにある、ギャルも美少女もより取り見取りという女子高と、三対三の合コンを予定していた。

 バイトをしていても所詮は高校生。携帯料金を支払って服や身だしなみを調えることに使ってしまえば、交際費も自然と限られてくる。そうすると、カラオケでフリードリンク、場合によってはオールという、体力勝負の健全な遊びをすることになる。

 結太は少し時間に遅れた。彼だけ委員会を休むことが出来ず、十数分ほど待ち合わせ時刻に間に合わなかったのだ。一週間前から決まっていた開始時刻を待ってもらうわけにもいかず、彼は若干焦りながら最寄り駅近くのカラオケボックスに飛び込んだ。

 店員に慌しく「グループが先に来ているので」と告げると、男側の面子から送られてきた番号の部屋にノックをして入る。女子が奥に三人と、手前に男が二人。誰かが歌っている様子はなく、どうやらまだ自己紹介をしている時間だったようだ。

「おせーよ結太」

「ごめん、遅れて」

 片手で済まなさそうに手を上げれば、「いいよー」と女子が明るく許してくれる。見た目はただただ軽いのに、一歩引いた話し方が彼の印象を良いものにしていた。

 男が席を詰めてくれたので、結太は「ありがと」と言って長いソファに腰掛ける。ふと奥を見れば、色黒で、マスカラとアイラインにがっつりと化粧を施した、金茶髪の女子生徒が目を開いて結太を見つめていた。

 見つめるのはいいが、見つめられるのは少し気恥ずかしい。笑顔で見つめてくれるならまだいいが、真顔で見つめられるというのも居心地が悪い。

 結太は視線を逸らしつつ、自己紹介を続けている男子の話を聞き流しつつ、色黒ギャルの様子を観察した。

 室内は窓があるせいで少し明るい。夏の光に照らされた白いブラウスと、健康的な小麦色の肌との対比が綺麗だった。腕の肉付きが薄くもなければ厚くもなくて、触ったらきっと気持ち良いのだろうと、結太に予感させる。

 少し目線を上げれば、探るように結太を見つめる視線と行き会った。

 化粧をくまなく施した顔は、元の顔の想像がつかないほどだ。だが、逆にここまで自分の顔に執着できるということに結太は感心した。下手に身だしなみに手を抜いている人よりも、きちんと整えることの出来る技量を持っている人の方が、人として接しやすいと結太は思っている。

 そして何より、白いブラウスがふんわりと凸凹を成して主張する胸部。上から三つほどボタンの外されたあのブラウスからは、上手くすれば谷間が覗けるだろうか――

「ほい。じゃあ次、お前」

「! おお」

 いつの間にか友人の自己紹介が終わっており、女子三人の視線が結太に集まる。一番奥に座っている例の女子生徒の眼差しは、先ほどからずっと結太から外れていない。

「――ってか、可愛い子にさっきからずっと見つめられて、ドキドキなんですが」

 場を和ませるつもりでそう言えば、ええー、誰だよ、と男がどよめき、女子二人が奥に座っている子を、えー! といった感じで囃し立てる。

 奥に座っていた黒ギャルは、結太の言葉に一瞬驚き、次いで懐かしむような明るい笑顔を浮かべた。

「えへっ、ゴメン。つい、梶原君が懐かしくって」

 その場に居た面子が、ほぼ同時に固まる。

「……っえ!? 知り合い、だっけ!?」

 結太の声も、思わずといった風に裏返る。こんな容姿の女子と、自分はいつの間に知り合ったのだろう。しかも「懐かしい」? 焦りながら記憶をさらっても、彼女に対する知識は結太の中から出てこなかった。

「いーよ。私も忘れてたし」

 あっさりと、黒ギャルは笑う。その笑顔に励まされるように、結太も苦笑いを浮かべた。

「え、で、誰?」

 改めて問いかければ、ふふ、と少しもったいぶった調子で黒ギャルは口を開いた。

「摂。摂だよ、わたし」

「――っへ!?」

 お前いつの間にこんなに可愛い子と知り合ったんだ、と隣の男に問い詰められても、結太はしばらく現実を受け入れるのに時間が掛かった。

 摂明生。

 あの地味で可愛くない黒髪の女子生徒が、今は自信溢れる笑顔で、結太の前に座っていた。




とりあえずこの話を書いている間ずっと、「グレイ・ネーム」のタグに「リア充」を入れようか入れまいかずっと悩んでいました。

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