9話:なぎさのもとへ
20年前、首都警察とSOCIOLOGIの抗争に参加していた一人、園田雄康だ。現在は兆栄高校の教師として働いている。剣道部では顧問をやっており、早明浦たちの師範となっている。
「噂は聞いてるぜ。相当暴れてるらしいな。」
「…」
雄康は笑っている。
「安心しろ。親父には言ってない。それよりも、善永。さっきの戦い見せてもらったぞ。」
「えーと、あはは。」
善永はその場を誤魔化すかのような笑いをする。早くなぎさのもとに行きたいのだ。
「早明浦め…止めていたのに、勝手な行動を。まだまだ実力は甘いんだよ。それに対して善永、お前はやはり善俊の息子だな。実戦の中でレベル2になるとはな。お前は、ちょっと前まで抱っこできるぐらいの大きさで…」
「あの、急いでいるので、これで。」
善永は逃げるように走りだした。
「あっ!親父によろしくなー!…ったく、もう少し俺の話を聞いてもいいじゃないか。」
雄康はため息をついている。
(一度話し出すと止まらないんだよ…雄康のおっちゃんはな。)
善永はとにかく走り、体育館近くにまで来た。
(なぎさはおそらく…)
善永は迷うことなくある場所に向かった。それは、体育館裏にある扉近くの、小さい階段である。
(なぎさは、昔から嫌なことがあれば、この場所に来る。学校が変わっても、それは変わらないだろう。)
階段に一人の女子生徒がうずくまっている。なぎさだ。善永が話しかける。
「そんなところで女子が一人…変な輩に絡まれるよ。」
「…ここは名門私立だよ。腐っても。それに、僕なら返り討ちにできるし。」
「そうだな。」
「何?説得しに来たの?」
善永は少し間を置いた。
「違うよ。謝りに来た。」
「謝る?」
善永はなぎさの隣に座った。
「俺は自分勝手で、人の話をろくに聞いてこなかった。なぎさの気持ちも無視して…こんなことになって…本当にごめん。」
「…その性格は子どもの頃からだよ。」
なぎさは冷淡に言った。
「ああ。でもそれを直そうとは思わなかったし、そもそも気づかなかった。」
「…それでごめん?」
「もうちょっと待ってくれ。」
立ち上がろうとするなぎさを、善永は止める。
「なぎさは、なぜあんな部室にこだわるか、が気になっているんだよな?」
「まあね。僕はえいちゃんと一緒ならどこでもいいもん。」
「俺はあそこでなぎさといたいんだ。あそこじゃなきゃ嫌だ。」
「なぜ?」
善永は遠くの空を見つめる。その視線を追って、なぎさも遠くを見つめる。
「閉じ込め部屋を覚えているか?」
「僕の家にある、あの押し入れのこと?」
「そうだ。」
川路邸近辺に、川路のそれに劣らない大きさの屋敷がある。洋風が多い中、和を感じさせる屋敷こそ、なぎさの家である。その屋敷に、それなりに広い押し入れがある。善永はそこを閉じ込め部屋と呼んでいた。
「えいちゃんはよくあそこに入れられてたよね。高い花瓶を割ったり、僕のお母さんを年増呼ばわりしたりして…」
なぎさは思いだし笑いをしながら話している。
「俺のクソガキエピソードをほじくり返さないでくれよ。」
善永は苦笑する。
「…最初は大嫌いだったさ。四角い空間だけが広がって…でも、あるときからあそこに入るのが好きになった。」
「…」
「それは、なぎさ、お前も一緒に入るようになった頃からさ。」
「!」
「お前の母が、かなり厳しかったときあったよな?喋り方を少し間違えるだけで、俺たちはあそこに入れられてさ。」
なぎさは少し笑っていた。
「そうだね。あのときはお母さんのことが嫌いだったな…もちろん、今は大好きだけど。」
「お前とあそこにいると、ずっと楽しい気分になれた。」
「…」
「あの部室に入る度に思いだす。お前と閉じ込め部屋にいた、楽しかったときのことを。」
善永は下を向く。
「でも、その思いだけが先行して、結局なぎさを置いてきぼりにしてしまったんだ…本当にごめん。」
「えいちゃん…」
善永はなぎさの方を向いて、優しく言った。
「俺が悪かった。俺にはなぎさが必要だ。ずっと側にいてくれ。」
善永の挑戦状:西南戦争では抜刀隊で活躍した、第8代・10代の警視総監を務めた人は誰?
前回の『善永の挑戦状』答え:静電気放電




