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兆兆発止 第2部  作者: ぱんろう
部活狩り編
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1話:廃部の危機

ある町はずれの山麓に位置する閑静な住宅街。いわゆる高所得層向けの住宅街だ。その中でも、一際存在感を放つ豪邸があった。まるでアメリカの高級住宅を思わせるような、プールつきの豪邸だ。

そんな豪邸の朝は早い。夫婦とその間に生まれた青年の3人に加えて、数人の使用人が仕えている。そのうち、父親は首都警察、息子の方は学生であるため、朝が早いのだ。であるが、青年は朝に弱く、しょっちゅう親や使用人に叩き起こされる。


「善永!起きなさい!」


名を川路善永(よしなが)という。善永は目をこすりながら体を起き上がらせる。

「うるせーな…起きてますよ…って、もうこんな時間か!」

善永は慌てた様子でベッドから降り、身支度をする。洗面所に向かい歯磨きを済ませ、リビングに向かう。

「相変わらずお寝坊さんだね。善永。」

善永の父親・善俊が茶化すように言った。

「なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」

善永はテーブルにあったトーストを手に持ちながら言う。それを聞いた母の敦子が叱りつけた。

「あなたが起きなかったんでしょう!?それに、その口の悪さ、やめなさい!」

善永は耳をほじくる。

「あー、うるせー。時間がないから行ってきまーす。」

「こら!善永!」

敦子の声も聞かず、善永は家を後にする。敦子が呆れていた。

「全く…いくら反抗期でも限度があるわ…」

「まあ、いいじゃないか。まだ、これといった悪さだけはしていない。それに、あの口の悪さは、お兄様を思い出すよ…」

善俊は、玄関の靴箱上に立ててあった、故・善治の写真を見ながら言った。


善永は走りながら、通っている高校を目指す。そこに、一人の女性が駆け寄ってきた。

「やっぱり、今日も寝坊した!おはよう!えいちゃん!」

「おはよう!なぎさ!」

ショートカットがよく似合う女子生徒であった。善永のことを、「永」の字を音読みして、「えいちゃん」と呼んでいる。

「今日の放課後っも部室に来る?」

「ああ、もちろんだ。」


2人は高校の校門をくぐる。そのときには予鈴が鳴っていた。

この高校は私立兆栄高校。都内でも有数の名門私立高校である。通っている生徒のほとんどに、箔がついた親を持っている。この年から入学した善永もまさしくそうである。

首都警察によるSOCIOLOGIとの最終決戦から20年、世界中における兆能力犯罪の件数は減少傾向にある。日本に関しては、摘発件数0件の年さえあった。多くの人間にとって、ある程度平和な世界となった現在、善永は幼馴染の雪代なぎさとともに穏やかな学生生活を送っていたのであった。

放課後になり、2人はクイズ研究会というプレートが引っさげられた部室に入った。そこは部室と呼んでよいのか怪しいほど、物であふれている。物置と呼んだ方が、納得する人も多いほどに。そんな部室に、先客がいた。

「おっ!2人とも来たか!遅いぞ!」

「荘介!すまねえな、HRが長引いてよ。」

「そう君!」

「これで全員揃ったな。さあ、活動を始めよう。」

クイズ研究会には、善永となぎさ、そして三田荘介(みたそうすけ)の3人しか活動に来ていなかった。それでも、3人は楽しそうに活動している。

「都留文科大学の初代学長も務めた、『大漢和辞典』を編纂した人は?」

諸橋轍次(もろはしてつじ)。」

「エストニアの物理学者から名前がつけられた、物体の温度差が直接電圧に変換される効果のことを何という?」

「ゼーベック効果。」

「世界三大兆能力者に数えられた3人とは、ミスター・リード、ハンフリー・デイヴィッドと、あと一人は?」

「フランツ・アウステルリッツ・フェルナンド伯爵。」

「さすがだ、善永。全問正解!」

善永は自慢げな顔をする。

「まあな。」

そのとき、部室の扉をノックする音が聞こえた。返事をする間もなく、一人の生徒が入室してきた。その生徒は眼鏡をかけており、「生徒会」と書かれた腕章をしている。

「生徒会役員、斎藤一太です。廃部の件で用があり、入室させていただきました。」

「なんだって!?」

荘介が驚いた顔をする。一太は手元にあった資料に目を通しながら口を開く。

「クイズ研究会は、幽霊部員を含めても、所属人数は3名。さらには、部費の支給に対してこれといった実績がありません。よって、生徒会総会において、廃部処分を行うことになりました。」

なぎさが口を開く。

「あんまりだよ!突然すぎるし…」

一太は資料を脇に挟む。

「決まったことですので。拒否権はありません。どうしてもと言うのなら…」

一太は赤色のオーラを発した。荘介が声を荒げた。

「兆能力の使用は禁止されているはずだ!それに、オーラ感知機があるはずなのに…!」

「生徒会ならばよいのですよ。それに、部室のあるクラブ棟には、オーラ感知機が設置されていない。」


この世界に存在する全ての人間は、兆能力という特殊な能力を持っている。誰もが特殊能力を持っているため、「兆」という漢字が使用される。兆能力を発動する際、そのエネルギー源であるオーラが必然的に発生し、その色によってレベル1(赤)、レベル2(青)、レベル3(紫)と格付けされる。オーラ感知機はそのようなオーラを感知する機械だ。これによって、不必要な兆能力使用を防ぐことができうる。兆能力は危険ゆえ、スポーツや、社会に利益をもたらす仕事以外などで使用することは原則禁じられているのだ。


「これが生徒会のやり方か。汚いな。」

善永は、指の骨をポキポキ鳴らしながら、一太を睨んだ。

「ダメだよ!手荒な真似だけは!」

なぎさが善永を制止しようとするが、善永はそれを振り払う。

「なあ、取引きをしないか?」

「ほう、なんでしょうか?一年生君?」

「善永!この人のネクタイを見ろ!青色だ!二年生だぞ!」

この高校では、ネクタイの色によって学年を判別することができる。その判別は兆能力における格付けと同じである。つまり、赤が一年生、青が二年生、紫が三年生となる。

「敬語については、後で。まずは、取引きとやらを聞きましょうか?」

一太は、善永の方を見ながら尋ねる。

「生徒会のやり方はおおよそわかった。兆能力で相手をねじ伏せる、そのやり方をな。」

「…」

「そこでだ。兆能力バトルで俺が勝てば、廃部の件はなかったことにしないか?」

一太は即座に返答した。

「無理です。二重の意味で。」

「なんだと?」

「まず、あなたが私に勝つなど、思い上がりも甚だしい。第二に、あなたが私に勝ったとしても、廃部の現実からは逃れられない。」

善永はしばらく考え込んだ。

「ならば、あんたが負けたら、クイズ研究会に所属するってのはどうだ?」

「は?」

一太は呆気にとられていた。

「名前だけでもいい。どうだ?」

「私は生徒会だけでなく、写真部にも所属しています。文化部の兼部は難しいのですが…」

「ならば、写真部をやめてでもだ。」

「横暴な!」

一太の発言を聞いて、善永が怒鳴る。

「あんたらだって横暴だろう!こっちに十分なチャンスも与えないで!」

部室の中に沈黙が流れる。一太がその沈黙を破った。

「いいでしょう。どうせ、あなたは私に勝てません。」

一太が善永に手をかざす。

泥撃(でいげき)

一太の手から泥が放出された。

「ああ!部室が!」

善永はそれをかわしながら、スマートフォンを取り出した。

「aibo!起動しろ!」

『はい。善永さん。こんにちは。』

善永はスマートフォンに話しかけた。すると、機械音声が善永の呼びかけに返事する。

「aibo…今流行りのAIですか。戦いの最中に大層な余裕ですね。」

「ふっ。AIってのは使いどきが重要なのさ!aibo!泥を使う兆能力といえばなんだ!」

善永は、一太の泥撃をかわしながらもスマートフォンに話しかけ続ける。

『おそらく、『マッドユーザー』でしょう。自由自在に泥を操る兆能力です。』

aiboは淡々と答える。

「そうか!どう戦えばいい!」

『マッドユーザーは、近距離に弱いです。懐に潜りましょう。』

「OK!ありがとな!aibo!」

『お役に立てて、幸いです。』

善永はスマートフォンをズボンのポッケに突っ込みながら、一太のもとに向かっていく。

「AIに戦い方を聞くとは…それに、私にも聞かれてしまっては、意味がないでしょう。」

一太は呆れながら、泥撃を放ち続ける。

「ちっとも当たらないじゃないか。写真部なんだろう?パンフォーカスでもしてみろ。」

「強いて言うなら、アウトフォーカスですかね。」

「!」

善永は辺りを見回す。床は泥塗れになっており、移動しにくくなっていた。

「泥がぬかるみ、動きを遅くさせる。そこを突くのが、あんたの戦い方か。」

「なるほど、AIに頼っているとはいえ、ある程度頭は働くそうですね。」

善永は一瞬立ち止まる。

(さて、それじゃあ、兆能力を発動しようか。)

善永は目をつむる。善永の体から赤色のオーラが発せられた。

「えいちゃん、兆能力を発動した!」


(この状態なら、あそこが一番眺めがいいだろうな。)

善永は目をつむりながら思索していた。その様子を見ていた一太は、善永の兆能力を推察している。

「目をつむった…視覚系の兆能力ですね。今すぐに思いつくのは、相手の視界をジャックする『ビジョンジャック』ですが。」

「そいつは俺の親父が使う兆能力だ。」

善永はまき散らされた泥を避けながら、一太の方に近づく。

(なんて機動力ですか!それに、確実に泥を避けてる!どんな兆能力なんだ!)

一太は動揺していて、善永が近づいてくるというのに対応しない。いや、できなかった。

「戦い方が決まっている奴ってのは、思わぬ事態に対応できないものだ。」

善永は、いつの間にか一太の背後に回っていた。そして、手刀を一太の首にぶつけようとした。

「えいちゃん!」

なぎさが叫んだのと同時に、善永の手が止まった。

「本当に当てるわけないだろう。だが、当たっていれば、あんたは気絶していたぜ。」

「!」

一太は首を押さえ、その場でしゃがみ込む。

「私の負けだ…潔く、クイズ研究会に入部しよう。」

「聞き分けがいいな!歓迎するよ!」

「あ、あの、本当にいいんですか?」

荘介が申し訳なさそうに尋ねる。

「男に二言はありません。それに、私は負けてしまった。受け入れなければならない。」

荘介は納得していなかったが、とりあえず喜んではいた。

「ですが、私が入ったところで根本的な解決にはならない。部員の数は10人必要なのですから。それに実績も…」

善永は一太の話を遮る。

「実績については、俺が大会に出て作る。問題は部員だな。あと6人も必要ってわけだ。」

一太が再び口を開く。

「それについて、言わないとならないことがあります。本日、生徒会がクイズ研究会への入部を禁止するお触書を出されました。」

「本当か!それ!」


なぎさが口を挟んだ。

「えいちゃん、たった今、斎藤さんは正真正銘の先輩になったんだよ。敬語使わなきゃ。」

「いいんです。それよりも、お触書の方が重要です。多くの生徒は生徒会のお触書を絶対視しますから。」

「…」

「どうするよ、善永。これじゃあ、斎藤さんを入部させても意味がないだろう。」

善永はしばらく考え込んでいた。しばらく経つと、何かを閃いたようだ。

「こうなったら、斎藤さんをそうさせたように、片っ端から戦いを挑んで引き入れるか。」

「えいちゃん!流石に野蛮すぎる考え方だよ!」

「いえ、生徒会の人間だからこそ、言わせていただきます。それが最善でしょう。ただそれは、できればの話です。」

「斎藤さんまで…」

「よし!決まりだな。明日から、部活狩りといこうか。狙うは文化部との兼部ができる体育会系…とりわけ、廃部の危機にあるボクシング部からだな。」

善永は皆の方を見た。

「俺にとっての青春は、お前たちと、この汚い部室で駄弁りながらクイズをすることなんだ!簡単には終わらせない!」

「!」

荘介はそれに同意する。

「ああ、そうだな!俺も廃部だけは御免だぜ!」

一太もいつの間にか協力的だった。

「いいでしょう。その心意気、気に入りました。何かあれば連絡してください。力になります。」

しかし、なぎさだけは乗り気でなかった。

(別にここにこだわらなくても…僕はえいちゃんと一緒だったら、どこでもいいのに…)

こうして、クイズ研究会の廃部を防ぐための、善永たちによる部活狩りが始まるのであった。


善永の挑戦状:エストニアの物理学者から名前がつけられた、物体の温度差が直接電圧に変換される効果のことを何という?


答えは次回にて。

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