縁結び
過去作です。
ちょっと気に入っていた話だったのでリメイクしました。
私の作品の中でも3作目に当たり、かなり古い事が分かります。
時代設定ですが、ざっと江戸時代位を想像していてくだされば大丈夫です。
舞台となるのがこの話の元になる「新説桃太郎」と言うのがありまして、そこで出て来た鬼ヶ島が今回の舞台となります。
まぁざっと、ちょっと大きめの宿場町かな?と認識してもらえれば大丈夫だと思います。
登場人物に名前がありません。
名前考えてしまうとそれだけで5時間とか経ってしまう事もあるので、私の作品では主人公の名前決めない事はざらでした。
では縁結び、楽しんで下さい。
俺は20歳の男性だ。名前はまだない。
この頃書いていた小説は主人公の名前も決めずに始まる物も少なくないのである。
そんな訳で、俺は今ある悩みを抱えている。
その悩みとは…
「恋人が欲しい…」
欲しいのだがある問題があってなかなか難しいのだ。
その問題とは…
そう、俺は同性愛者、いわゆるホモである。
ホモであるが、見てくれは自分で言うのもなんだがイケメンである。
だから近寄って来る女も多いがしかし、全て断っている。
興味ないのでね。
恋人が欲しいと言うのは勿論「♂」である。
鬼ヶ島に運命の人と出逢える縁結びの祠があると噂で聞いた。
よし、試しに行ってみるか。
俺は朝、身支度して出掛けると鬼ヶ島目指して歩き始めた。
途中、ある宿場町に着くと、辺りが暗くなり始めてることに気付く。
腹も減った。そう言えば出発してから何も食べて無かったな。
「今日はここで休むか。野宿もなんだしな。」
当たりを見回すと、目に見える場所に一軒の酒処が見える。
その店の看板には「何でも作る大将屋」と書いてあった。
「ネーミングセンス凄いな。」
他には店が見当たらないため、俺はこの店に入る事にした。
店ののれんを潜るとカウンターに座る。
「大将、酒と…何か腹にたまるものを頼む。何も食べてなくてね。」
「あいよ。」
暫くして豚キムチとニラレバ炒めとビールが出てきた。
「………。」
それを見て俺は唖然とする。
「また時代設定無視の物が出てきたな。看板通りだ…」
しかしながら背に腹は代えられぬ、腹も減ってた事もあり、それらをつついていたらそれなりに腹も満たされてきた。
食べ終わり。箸を置くと俺は大将に礼を言う。
「うまかったよ、ありがとう。ここからは落ち着いて呑みたいのだが」
すっと出てきたのはヘネシーのロックであった。
ある意味期待通りだな…。
するとその時、俺の隣に見知らぬ女が座って来た。
歳は俺と似たり寄ったりだろう。背は143センチ位と小柄で髪はセミロングといった所か。
「大将、私もこのお兄さんと同じのを」
隣にいきなり座って来た女は同じのを注文すると、俺に話しかけてきた。
「お兄さんイケメンだね、一緒に飲もうよ。」
この手の女はよくある事だ。しかも取り分け興味が無い。
しかし、旅先で一人で飲むよりはと思い、ラジオがわりに一緒に飲むことにした。
…
……
………
と、思ったら女は呆気なく酔いつぶれてしまった。
「さてと…」
俺は席から立ちあがる。
「じゃ、大将、俺は行くから。御愛想よろしく。」
「おいアンタ、この娘をここに置いていくつもりかい?勘弁してくれ、連れてってくんな。」
俺は何で俺が!と思ったが、大将の言い分ももっともなので渋々担いで近くの宿に放り込むと、自分も別に部屋をとり寝た。
うん、普通ならオイシイ展開なのだが俺には全く興味が無かったからな。
何もなく朝が来た。
朝飯を食べていると、昨日の女が来た。
「昨日はごめんなさい、迷惑かけたね。」
「あんた、酒弱すぎだ。俺だから良かったものの、あんなんじゃいつかひどい目に合うぞ。」
「お兄さんにならそれでも良かったんだけどね~」
女はしれっと答えるとあははと笑った。
俺はなんか納得いかなかった。それが態度に出てしまっていたようだ。
「近頃の女はそういうもんか、生憎、俺にはあんたに興味がない、大将が言わなければ店に置き去りだったさ。じゃあな、俺は旅の途中だ。もう会うこともないだろう。」
そう言うと俺はその場を立ち去った。
宿の女将に挨拶をし、宿賃を渡そうとすると…
「財布が無い!」
俺は焦った!
部屋も風呂もありとあらゆる所を探したが無い!
どうしたものかと頭を抱えているとあの女が話し掛けてきた。
「あら、お兄さんどうしたんだい?財布無くしたって顔してるね。」
そりゃ誰がどう見たってそうだろう…。
「女将、このお兄さんの分、私が立て替えとくよ。」
と言うと女は宿賃を女将に支払った。
「そうかい!あんた、この娘さんに感謝するんだねっ!」
宿を出ると俺は女に礼を言った。
「ありがとう、助かったよ。しかし見ず知らずのあんたにここまでしてもらうのは…」
女はそれを聞くと少しムッとした。
「なに?じゃあ無賃宿泊したい訳?それに昨日の飲み代はお兄さんが出してくれたじゃない?その上酔いつぶれた私をここまで連れて来てくれた。私の方こそ勝手に近付いただけだしそこまでして貰うのは…だよ。お兄さんは善意で私を助けた。私も善意で助けた。飲み代と介抱=宿代で相殺。それでいいじゃない。」
なんか無理矢理言いくるめられた感はあるが、取り敢えず助かったのでそれで良しとした。
女に再び礼を言い別れると、俺は鬼ヶ島に向かって出発した。
…
……
………
「おい、何故俺に付いてくる!?」
見たら俺の後をトコトコと女が付いてきている。
「いいじゃないの、旅は道連れ世は情け、お兄さんがどこ行くか知らないけど一緒にいこうよ、私もこっちなんだ。」
くどいようだが普通ならおいしい展開なのだが俺はこの女に全く興味が無い。
何故ならば、以外略。
「おい、あんた、何故に俺に付きまとう?」
「お兄さんに興味があるからさ。何て言うか、普通の男にはない妖しい臭いの魅力がある。私はそれにひかれたのかもね。」
普通の男にはない妖しい臭いって…それは多分俺がホモだからだぞ。
「どうせ一人旅なんでしょう?同じ方角なら一緒に行こうじゃない。」
まぁ確かにその通りだから一緒に行く事にした。
「所であんたの旅はどこに行くんだい?」
「旅と言うか…悪いやつらに追われていてね、ちょいと逃げてるんだ。」
「そうか…」
「…なんで追われてるとか聞かないんだね。」
正直、全然興味が無く、俺に関係ないのでどうでも良かった。
二人で道を歩いている。
しばらく道を行くと二人の男が待ち構えていた。
その男というのはどう見てもゴロツキっぽかった。
一人は大柄な熊みたいな男、もう一人は顎の出た狐みたいな男である
2人は俺たちの前に立ちはだかった。
「このアマやっと見付けたぜ!」
「あんたらいい加減勘弁しておくれよ、もううんざりだよ!」
「何をふざけた事を言っている!」
男達は女を捕まえようと襲い掛かって来た。
俺にとっては半ば他人事なので事の次第を傍観していると、女が俺の手を取り走り出した。
「ほら、お兄さんこっち!逃げるよっ!」
熊男と狐男は叫びながら追って来る。
「おいコラてめぇ!その女の仲間かっ!」
「逃げるなっ!」
女の引く手は力強く、俺はただただ引っ張られていた。
それに加えて足も速かったのでいつの間にかゴロツキ達との距離が開いていったのであった。
暫く走っていると。やがて、追っ手も見えなくなり息を切らせながら立ち止まる。
「はぁっ…はぁっ…何とか逃げ通せたね~」
「ふざけるな!一体どういうつもりだ?俺まで巻き込んで!」
「悪かったとは思ってるよ。でもあそこで私を見捨てる様な人は男が廃るよね?」
…見捨てようとしてたのに、なんかイチイチポイント突いてくるな、この女。なんかやりにくいぜ。
「俺もあんたの仲間にされちまった、言っても聞くやつらじゃなさそうだしな。俺もさっさと身を隠すか。」
そう言うと、おれは荷物を正し、歩き始める。
「お兄さんどこに行くのさ?」
「鬼ヶ島だな。」
鬼ヶ島はもうここからそんなに遠くも無い、陸の孤島でなかなか栄えた宿場町だ。人も多い。身を隠すなら一番である。
「そっかー、なら私も行く」
「なーっ!付いてくる気か!?」
その時、豪快に音がした。
なんだ!?この音。
…俺の腹の音だ。
女はにやにやしながら話してきた。
「ほほぉ~、お兄さんお腹空いてるんだねぇ~。でも私の記憶が正しければ確か財布落として路銀も無いはず」
「…」
「お兄さん取り引きしない?」
「お兄さんは私を追っ手から守る、私はその対価として旅の間路銀を肩代わりする。」
「肩代わりか…払ってはくれないのだな。」
「私だってそこまで余裕ないもん。」
背に腹は変えられないと思い、女の話を渋々承諾した。
鬼ヶ島に着くと日も暮れている。
祠に行くのは明日にして今日は宿に入った。
風呂から出て部屋に戻る。
部屋には女が一人で座っていた。
「なんだ、まだ風呂入ってなかったのか。」
「あ、うん。今から行ってくるよ。」
女は支度してそそくさと出ていった。
あの女、なんだかんだで付きまとって来るなぁ。
俺に興味があると言っていたが、俺は女に興味がない。何とかして振り払いたいが…
そんな事を考えている間に女が戻ってきた。
浴衣に身を包み、風呂上がりで軽く頬を赤くしながら胸のはだけを手で押さえるようにしている。
それが妙に色っぽい。
「えっ?色っぽい?なに考えてるんだ、俺にはそんな趣味は無い。」
「…なに独り言言ってるんだい?」
「い、いや、何でも無い。それより料理が運ばれているじゃないか。食べよう。」
「ならお酌してあげるよ。」
胸元のはだけを気にしながら俺のお猪口に酒を注いでいるその姿は妙に色っぽかった。
妙にドキドキしてしまい、それを誤魔化すかの様に女に質問した。
「あんた、さっきからやたらと胸元気にしてるが、どうしてだい?そんなに警戒しなくても覗きゃしないよ。」
「そうかも知れないけどさ、でも…見えたら恥ずかしいじゃない。私…その、立派じゃないし。」
その恥じらう姿に何故かドキドキしてしまう。
どうしたんだ?俺!?俺はそんじょそこらのノーマルとは訳が違うんだ!しっかりしろよ!
自分に言い聞かせる様に確認するがドキドキが治まらない。
声がひっくり返ったまま徳利を手にすると、
「あんたにも返盃だ。」
女はそれをくいと飲み干すと、頬が少しぽっと赤くなる。それがささやかな色気をかもし出し、妙に色っぽかった。
静まれよ心臓!女ごときにドキドキしてんじゃねぇっ!旅の目的を忘れたのか!?
「あんた、何で俺に付きまとってるんだい?もうそろそろ教えてくれてもいいだろう?」
俺はわざとツンとして核心的な所をつついた。
「…お兄さんは初めて見た時から私の心を奪ったんだ。一目惚れってやつ?だから何とかして近付きたくてね。あの酒処でも酔ったふりしてたんだけど、全然手を出して来ないしさ、あの手この手で何とかしようとしたんだけど振り向いてくれなくてね。」
スッと財布を差し出す。
俺の財布だ。
「大将の店から宿屋におぶって貰ってた時にすったんだ。路銀無くせば否応なしにも私を頼らなくちゃならなくなるからね。」
女は少し悲しそうな顔をする。
「でもお兄さんは見てくれなかったね。私の運命の人はお兄さんには運命の人じゃ無かったみたいだね。付きまとってごめんね。明日宿を出たらサヨナラだよ。」
次の日の朝、女は居なかった。書き置きを残して。
私を追ってきた男二人は私が財布をすったから追って来てるんだ。
私は旅のスリ、お兄さんの財布も勝手な理由ですっただけ、
素敵な時間をありがとう。好きだったよ。私の事は忘れてね。
宿代は迷惑料がわりに払っておきました。
俺は複雑な気持ちで書き置きを見ていた。
追われている経緯はともかく、俺は少しだがあの女の事が気になっていた。
何故だろうかはわからないが…
そんなモヤモヤした気持ちのまま宿を出ると、女将が手紙を渡してきた。
女将「貴方に渡して欲しいと二人組の男から預かりました」
その手紙を見てみると、
「女は預かった。金20両を引き換えで身柄を渡す。
反故する所存なら女の命は無いと思え。
宵の口、鬼ヶ島狐の祠にて待つ。」
と書いてあった。
まぁそんなとこだろうなぁ…
と、半ば納得した感じで手紙を見ていた。
まぁ俺には関係ない話だ。
確かに少しだが気になってしまったのは認めるが、所詮女だしな。
俺には関係ない話だ。
…
……
………
夜もふけた狐の祠、熊男、狐男と女がいる。
女は縛られていて身動きが取れなくなっている。
「あの野郎、金持って来るかな?」
狐男はお伺いを立てるように熊男に聞いた。
「あの人は無関係なんだ、持ってきやしないよ。当てが外れて残念だったねっ!」
「金持ってこなかったら身体で払って貰うからな!」
熊男が女にそう怒鳴りつけると狐男はいやらしい笑みを浮かべて熊男に提案する。
「構うことはねぇ、今から頂いちまおうぜ。」
「だな。あの男が無関係なら来る事はねぇ。楽しんだ後で女郎屋に叩き売ってやる!」
熊男もそれに賛同した。
男二人は下卑た笑いを浮かべ、女の身の纏い物を剥ぎ取ろうと手を伸ばしてきた。
「嫌ぁぁぁぁっ!」
辺りに絶叫が響き渡る。
「時は宵の口だ。誰も来やしないぜ。諦めな。」
狐男は女を押さえつけながらそう女に吐きかけると、女は悔しそうに男達を睨み付け、悔し涙を流していた。
「諦めた様だな。ククク、良いぜその顔。そそるぜっ!」
「早くひん剥いちまおう!」
女の抵抗虚しく上半身があらわになる。
「おい、こいつは…!」
女はキッと男たちを睨み付けている!
「そこまでだ!」
熊男と狐男は驚いている。
来ないと思っていた相手が突然現れたのだから。
「金は持ってきた。20両だ。女を放せ。」
「金が先だ!」
「女が先だ!」
熊男と狐男はひそひそ話ている。
「粘るとこちらが弱いですぜ…」
「そうだな、奴がこの女とは他人みたいだし…奴が気づく前に金頂いてずらかるか。」
話がまとまったと見えて熊男は俺に言ってきた。
「金はそこの入口に置け。そしたら俺らは金を取りに行く。お前はこの女の所へ来い。」
「わかった。」
俺は金を置き二、三歩後退った。
男達は金の場所に移動する。
俺は女の所に走った。
「おいっ大丈夫か!」
女の縄をほどき、解放してやると乱れた衣服のまま上半身あらわのまま俺に抱きついてきた。
「怖かったんだから!」
余程怖かったのだろう…
しかし、泣きながら抱き付くその姿は…
「あんた、男だったのか!」
女♂はハッとして俺から離れると乱れた着衣を直すとうつ向いて黙ってしまった。
「謎が解けたぜ。何で俺があんたの事が気になって仕方なかったのか…」
男だったからか。
しかもそうとわかるとかなり好みな感じだ。
俺は女♂を抱き寄せ、耳元でささやいた。
「ここは運命の人と出逢える祠、それは本当だったんだな。」
「えっ?」
「あんたが俺の運命の人だったのか」
女♂は訳がわからず俺を見つめている。
「俺は今、あんたしか見れない!俺と恋人になってくれないか!」
「私でいいの?男だけど…」
「あぁ、俺はホモだからな。あんたは理想の人だ。今すぐ恋人になってくれ。」
「うん…喜んで。私もお兄さんに一目惚れだから、運命を感じた。」
女は俺の首にやさしく腕を回してきた。
「お兄さん来ないと思ってたから…来てくれて嬉しい…。」
二人は抱き合うと静寂の中キスをした。
辺りを見ると男二人はもういない。
金を持ち去って逃げたようだ。
あの金は偽物なんだがな
…
……
………
「あいつらからすった財布には二束三文しか入って…あっ…いなかったよ。」
「そうか、あんたが男とわかり、俺が他人とわかり、金を引っ張るには弱いと踏んで逃げたのか。しかし偽金掴まされて戻って来ないのは…」
「あいつら実は大した事無いんだよ…んっ…お金も取れればラッキー位の…。お兄さんも来ない話に…んっ…なってたし」
「俺の旅は狐の祠に行く事、祠は運命の人と出逢える縁結びの祠でね、恋人探しの旅だったんだ。それが本当に運命の人と出逢えたよ。あんたと出逢えて本当に良かった…」
「私もお兄さんが運命の人…本当に…いいぃぃぃぃ~っ!」
鬼ヶ島の狐の祠は更にホモでも恋人が見つかる祠として噂が広まったと言う…
ホモとオカマの縁結び
Fin