第8話:虚無の影と、蠢く陰謀
隊長を殺害し、逃亡者となったシークイーナとセフィロスは、人里離れた森の奥深くで身を潜めていた。 セフィロスは、通信魔術を使い、神の騎士団内部にいる魔女の同胞たちと連絡を取っていた。
「…やはり、神の命令ではない。騎士団の内部に、虚無に心を蝕まれた者がいる」
セフィロスからの報告に、シークイーナは眉をひそめた。 神と魔女の同盟は、本来、世界の균형を保つためのもの。隊長の突然の行動は、神の命令ではなく、虚無の存在が、騎士団の内部に潜入し、彼らを操っていた結果だったのだ。
「隊長を操っていたのは、誰だ?」
シークイーナが、冷たい声で尋ねる。
「まだ、そこまでは…しかし、奴らは、我々の正体にも気づき始めている」
「私たちの目的は、あくまで人間を滅ぼすこと。しかし、虚無は、人間を絶望と憎しみで満たすことで、その力を増大させようとしている。それは、私たちの計画とは全く異なる」
セフィロスは、焦燥感をにじませた声で語る。 神と魔女が人間を滅ぼす目的は、世界の均衡を取り戻すため。しかし、虚無の目的は、世界そのものを無に帰すことだった。
「このままでは、人間が絶望に陥り、虚無の力が強まる。そうなれば、私たちの計画は破綻し、世界全体が危険にさらされる」
シークイーナは、再び重い決意を固めた。 彼女は、人間を救うつもりはない。しかし、世界を虚無の力から守るためには、虚無に操られた者たちを粛正し、人間社会の混乱を鎮めなければならない。
その時、通信魔術を通じて、騎士団の内部にいる同胞から、緊急の連絡が入った。
「シークイーナ様! 騎士団の動きが、おかしい…!」
「何があった?」
「アルヴィンが、あなたを討つための部隊を組織しています。そして、その背後には、虚無の影が…」
シークイーナは、息をのんだ。 アルヴィンは、隊長を殺した彼女を憎んでいる。その憎しみが、虚無の力によって、さらに増幅されているのだ。
「…アルヴィンは、私のせいで、憎しみに囚われてしまった」
シークイーナは、唇を噛みしめた。 彼女の罪は、単に人間を欺いていたことだけではない。彼女の行動が、結果として、アルヴィンという純粋な心を持つ人間を、憎しみに満ちた存在へと変えてしまったのだ。
「シークイーナ様。私たちは、アルヴィンを…粛正するべきです」
セフィロスの言葉に、シークイーナは首を横に振った。
「いや…私は、アルヴィンを救いたい」
「しかし…」
「彼の心は、まだ、完全に虚無に侵食されてはいない。彼の中には、まだ、人間としての温かさが残っているはずだ」
シークイーナは、孤独な戦いを決意する。 彼女は、神と魔女、そして人間をも巻き込んだ、壮大な陰謀の渦中に、たった一人で飛び込んでいこうとしていた。 彼女の目的は、虚無を打ち倒し、世界の均衡を守ること。そして、その過程で、彼女が傷つけてしまったアルヴィンの心を、もう一度取り戻すことだった。
「…私は、もう、誰のせいにもしない。自分の手で、この悲劇を終わらせる」
シークイーナの瞳に、強い光が宿った。 物語は、いよいよ、彼女の個人的な戦いへと、深く切り込んでいく。