第6話:人間たちの温かさと、使命の重さ
シークイーナは、迫りくる騎士団を一人で食い止めていた。 彼女は、魔女の力を使い、森の木々を動かし、岩を隆起させて、隊長たちの足止めを試みる。 彼女の魔力は、騎士団の誰よりも強力だった。しかし、彼女は、彼らを傷つけることはできない。
その様子を、避難している村の入り口から、アルヴィンが見ていた。 彼は、シークイーナの戦いぶりに驚きを隠せないでいた。
「これが、魔女の力…なのか?」
しかし、彼の心にあるのは、恐怖だけではなかった。 彼女が自分たちを避難させるために、たった一人で戦っている。その事実に、彼の心は動揺していた。
「お姉ちゃんは、やっぱり優しい人だ!」
アルヴィンの隣で、少女が叫んだ。 その言葉に、アルヴィンはハッとした。 少女の瞳に映るのは、恐ろしい魔女ではなく、自分たちを守ってくれる「英雄」の姿だったのだ。
アルヴィンは、剣を鞘に収め、少女に語りかける。
「魔女は、人を殺す存在ではないのか…?」
「ううん。お母さんは、そうじゃないって言ってた。お母さんが、シークイーナお姉ちゃんは、魔女だって、言ってたんだ」
アルヴィンは、少女の言葉に、衝撃を受けた。 シークイーナが、魔女…。 しかし、彼女は、この村に暮らす人々を、必死に守ろうとしている。 彼は、これまでの自分の信仰心と、目の前の現実との間で、激しく揺れ動いていた。
その頃、シークイーナは、隊長の部隊に追い詰められていた。 隊長は、彼女の戦い方が、人間を傷つけることを避けていることに気づいていた。
「シークイーナ! 何をためらっている! 魔女どもに情けをかけるな!」
「私は、あなたたちを…傷つけたくない!」 シークイーナの叫びは、虚しく響いた。
その瞬間、シークイーナの背後に、虚無の力が凝縮されたかのような、禍々しい魔力が渦巻き始めた。
「しまった…!」
シークイーナは、それに気づいたが、もう遅かった。 その魔力は、隊長に向かって、凄まじい勢いで放たれた。
「隊長!」
アルヴィンが、叫んだ。 しかし、彼の叫びもむなしく、魔力の塊は、隊長の体を貫き、隊長は、その場に崩れ落ちた。 シークイーナは、信じられない、といった表情で、自分の手を見つめる。 彼女は、隊長を殺すつもりなど、なかった。 しかし、彼女の魔力は、虚無の力によって、意図せず暴走してしまったのだ。
「…私のせいで…」
シークイーナの心が、絶望に満たされる。 彼女は、大切なものを守るために戦ったはずなのに、結果として、大切なものを傷つけてしまった。 そして、その悲劇は、まだ終わっていなかった。
アルヴィンは、隊長が倒れるのを目の当たりにし、シークイーナを、憎しみに満ちた目で睨みつけた。
「…シークイーナ殿。あなたは、やはり、魔女だったのですね」
アルヴィンの声には、かつての純粋さは、もうどこにもなかった。 そこにいるのは、愛する隊長を殺された、一人の人間としての、憎しみと絶望だった。
「違う…これは…」
シークイーナは、必死に弁明しようとした。 しかし、彼女の言葉は、アルヴィンの耳には届かなかった。 アルヴィンは、剣を抜き、シークイーナに向かって、突き進んでくる。
この日を境に、シークイーナは、本当の意味で、人間からも、そして魔女からも、孤立していくことになるのだ。