第3話:迫り来る、粛正の予兆
数日後、シークイーナは、騎士団の隊長に呼び出された。 隊長の部屋は、他の騎士の部屋とは異なり、重厚な装飾品と、神を称える古い書物が並んでいた。隊長は、敬虔な信仰心を持つ人物として知られており、シークイーナも彼に近づく際は、常に警戒を怠らなかった。
「シークイーナ殿、次の任務についてだ」
隊長は、机の上に広げられた地図を指さした。そこには、南の森林に存在する小さな村が記されている。
「この村は、魔女を匿っているという噂がある。我々の騎士団が、この村を調査する」
シークイーナは、内心でわずかに動揺を覚えた。 彼らが本当に狩るべきは、虚無に侵された魔女たちだけのはず。この村にいる魔女たちは、人間社会に危害を加えることはない。彼らは、ただ静かに、平穏に暮らしているだけだ。
「しかし、隊長。この村には、魔女が悪事を働いたという確たる証拠は…」
「証拠など必要ない。神に背く者、神の秩序を乱す者は、すべて粛正されるべきだ」
隊長の瞳は、狂信的な光を宿していた。その言葉に、シークイーナは背筋が凍るような思いがした。 これは、これまでとは異なる。 これは、計画外の出来事だ。 神と魔女の同盟によって作られた「魔女狩り部隊」は、人間を欺き、世界のバランスを保つためのものであったはず。しかし、隊長の言葉は、まるでかつての魔女狩りの時代の再来を思わせるものだった。
シークイーナは、隊長の部屋を出ると、すぐに地下の隠れ家へと向かった。 セフィロスは、彼女の顔色を見て、事態を察したようだった。
「隊長が、南の村の調査を命じた。そこにいるのは、虚無に侵されていない、ただの魔女たちだ」
「まさか…神が、計画を…」
セフィロスは、信じられない、といった表情を浮かべる。
「虚無の力が強まりすぎたか? それとも…」
シークイーナは、何も言わず、ただ深く考え込んでいた。 神と魔女が共謀して作り上げた「魔女狩り部隊」。その目的は、世界の균형を守ることだったはず。 しかし、神は今、その均衡を自ら崩そうとしているのではないか?
「このままでは、かつての悲劇が繰り返される。私たちは、どうするべきか」
セフィロスが、シークイーナに問いかける。 彼女は、静かに瞳を閉じた。そして、ゆっくりと、しかし確固とした決意を秘めた声で答えた。
「計画は変更する。私たちは、南の村の魔女たちを、必ず守る」
その言葉に、セフィロスは驚きと同時に、安堵の表情を浮かべた。 シークイーナは、偽りの騎士団としてではなく、一人の魔女として、自らの意志で行動することを決意したのだ。
しかし、その決意は、神と魔女の同盟に反旗を翻すことを意味する。 そして、それは、彼女が背負う罪を、さらに重いものにすることに他ならなかった。
静かな夜の闇の中、シークイーナの心に、新たな戦いの火が灯された。