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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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あふれる

作者: シバザキアツシ
掲載日:2025/07/23

何気ない日常に潜むもの。

それは突然現れる。

少しでも何かを感じたら、深く関わってはいけない。

「だって言ったじゃんか、”喰ったって“さ」


洪水警報が出る程の大雨の夜、警察官の二人は大家と共に、マンションの一室を訪れていた。

急な雨のせいで、傘の用意をしてなかった二人は、びしょ濡れになっていた。

「こいつは…ひでぇな」

「えぇ…余程…いかれた奴ですね」

このなりでは中に入れないので、玄関から中を見る二人。


外の雨の音と、自身の放つ声が混ざり合い、耳がそれを判別する事を諦めようとしている。


浴室のドアが開け放たれていて、そこから中の様子が伺えた。

「鑑識の手配を」

ベテランの方の刑事は、若手に指示を出す。

「かしこまりました…」

浴槽へと水が流れ続けているが、表面張力が最早役に立たなくなって、溢れ続けている。

浴槽の中に遺体があり、その外側には更に遺体が三体あった。


「お前はよく食うなぁ」

大学の学食で食事を楽しむ男二人。

「むぁ?ほ〜かぁ?」

「お前見てるだけで腹がふくれるわ!」

彼の口から溢れたソースが、テーブルに落ちた。

プレイボーイ、それが私が彼に抱いた最初の印象。

「嫌な奴」だった。

見る度に、隣りに居る女性が違う。

乗ってくる車も違う。

恐らく、ボンボンなのだろう。

入学してから暫くして、何気に彼と同じグループになってしまった。

まぁ、深く関わる気はないから、どうでもいいのだが。


夏休み明けの大学。

男性二人、女性二人で、昼休みを過ごしていた。

「な、なんだと!」

「俺は大人の男になったぜ!」

女性陣は興味なさげに、スマホをいじっている。

「…それは、自慢か?」

「そりゃそーだろ」

「大学に入るまでチェリーだった奴が自慢とか、恥ずかしくないのか?」

「む…」

「まぁいい、それでどんな人なんだ?」

「それは…」

「どこでヤッたんだ?」

「だから…」

「ちゃんと喰ったんだろうな?」

「喋らせろ!!」

くだらない会話、くだらない日常。


数日後、記録的短時間大雨情報が発令されている中の下校。

「最悪…」

カバンを探るが、折り畳み傘はない。

「…嘘でしょ?」

更に不幸な事に、定期券がないのだ。

「…ここに来るまではあったのに、何処で落としたんだろう」


………。


上から水滴が落ちてきて、手のそばで跳ねた。

それが指に当たる。

「え?」

水の感触ではない、何か生暖かい。

粘り気がある。

「まさか!?」

彼女の全身から、血の気が引いた。

絶対に上を見てはいけない、そう本能が警告している。


いつの間にか、マンションの一室に連れ込まれていた。

彼女は自分が何故、浴槽にいるのか、理解出来ずにいた。

(たしか…定期券がなくなって…その時声を掛けられて…)


浴室では、勢い良くシャワーが出続けている。

彼女は全身ずぶ濡れで、ひどく身体が冷えている。

「全く、外の雨の音がやかましいなぁ」

ボソリと呟く彼。

「なんで?」

「いやぁ、ただただ好みだったんだよ」

そう言えば、彼が連れている女性は、皆黒髪のロングヘアだった。

「…わたしだって」

「何か言ったかい?」

「………それだけで、わたしを?」

「それだけじゃないよ、ブサイクに用はないからね」

「…そう、クズでよかったわ」

「何か言ったかい?」

「いいえ」


「だって言ったじゃんか、喰ったってさ」

浴室に電気は点いているが、部屋の方には点いない為、彼の顔は見えない。

「なんなの…」

「美味しく頂いたんだよ」

「まさか…嘘でしょ?本当に…?」

暗がりから彼が出て来た。

その姿は、彼女が一瞬想像したものと変わらなかった。

彼の手が何かを掴んでいる。

小玉スイカ程のものを、片手でぶら下げている。

「頭は硬くて、かじれなかったよ」

悪びれずに言う彼。

彼は連続猟奇殺人者だった。

浴室には、今までの犠牲者が放置されている。

私の側まで来た、彼の口の周りは、紅く染まっていた。

シャーっと、シャワーが出続けている。

「いただきます」

そう言った彼女の声は、彼に届いただろうか。

「よかったわ、獲物の方から来てくれて」

妖艶に嗤う彼女は立ち上がり、左腕を真横に振るった。

ガチャッと、玄関のドアが開く音がした。

「何故、結束バンドが解けている?」

彼は驚愕の表情のまま、持っていたモノと一緒に地面に落ちた。

シャワーとは別の水音が、浴室に響いた。

「わたしだって、食べちゃいたい位、好みだったのよ」

狩る側が、突如として狩られる対象になるのは、良くあること。

ある一定条件で、人格が変わる人間も存在するという事。

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