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短編集

普通

作者: 豆苗4

 普通のことを普通にしたいと願うなら、ほんのちょっぴり宗教的であった方が望ましいのではないだろうか? 少しだけ異常であらねばならない。狂気を孕んでいなければならない。ばらつきの中央で小躍りし、見えない的を百発百中で仕留め、焦土で何事もなかったかのように遊び惚けるには。ここで言う宗教的とは、ベクトルであり、スタイルであり、リズムのことである。それらは総じて基本的な型のことを指している。型なしでカオスを渡り歩くのは不可能と言えるだろう。母国語を覚えていない赤ちゃんに「痛み」の言葉の意味を教えるようなものだ。過ぎたるはなお及ばざるが如し。逆もまた然り。不足は過剰に比肩するのだ。


 宗教的であれとは、宗教に精通しろとだとか、傾倒しろだとか、盲信しろだとかを言いたいのではない。あくまでも教祖たれ。教祖である、あるいは教祖の生まれ変わりだったのだと気づかねばなるまい。教義を我が物とし、信仰を我が血肉とするのだ。あの雨は私の涙。あの地響きは私の嘶き。あの大地は私の血なのだ。何もここまで極端に掌握する必要はないが、それでも少しの免疫をつけておくに越したことはない。宗教とは光なのだ。何よりも眩しい。途方もなく明るい道。しかし……。光はあればあるだけ良い。明るければ明るいだけ良い。これが真ならどんなに良かったことか。影。影に隠れた落ち葉。涙も枯れることはなかっただろうし、大地も真っ二つには裂けなかったであろう。良いところだけを引っ張ってくることなど出来やしない。ましてや……。そっくりそのまま取り込むのだ。良いことも悪いことも。普通なことも狂ったことも。宗教とはすげかえられた眠りなのだから。交換された外套。宗教に関して一定の見聞を持つことは、今までどれほど宗教的であったかを我々に知らしめる唯一の機会である。通常のプロセスでは自覚することはない。普通であることも異常であることも。宗教的であるかどうかすらも。改めて仰々しく問うまでもなく答えは決まっているからだ。痛い。痛い。イタイ! 私の血が流れ出て行く。かき集めてもかき集めてもこの両の手からポタポタと。溢れ出る。滴り落ちる。零れ落ちる。失ったものが一体何だと言うのだ!


 でもやっぱり慄くのだ。盲信なしには何もなし得ないのではないかと。そこら辺に落ちているガソリンの空箱は使い物にならないのではないかと。一度でもこのしみったれたエンジンが点火しなかったのならば、もう二度と点火することはないのではないかと。……なんて筋の悪い企みだ。草花も歌うことを忘れ眠ったようにじっとしている。上塗りの上塗り。残ったのは厚さ0mmの無色透明なコーティングだけ。普通でありたいなら普通ではあり得ないなどと。皮肉めいた言説。クリームパン。半分こ。半分の半分こ。半分の半分の半分こ。やれスイカの種が黒いだの、やれバナナの皮で足を滑らせただの、やれペンギンは空を飛ばないだの。そんなことは百も承知だ。ならばこそ。「普通」であり続けようではないか。団扇の仰ぎはやがて天をも穿つのだから。

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