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5.恋人を拉致する決意


 彼の幸せの為に身を引こうと思っていたが、相手があの女なら私の可愛いラグナをやるわけにはいかない。

 例え対面することによって相思相愛の運命の恋に落ちるとしても、あの女が私以上にラグナを幸せに出来るのとはとても思えないもの。


「よし、ラグナも連れて行こう。抵抗したら簀巻きにして誘拐すればいいね」


 決めて、サッと席を立った。

 そこでみたび、部屋の扉が開かれる。今度は誰よ!

 しかし中に入ってきたのは嫌味小娘でも『運命の番』ちゃんでもなく、私の愛しい婚約者だった。真面目な彼が、仕事の時間中にこの部屋に帰ってくるなんて珍しい。


「エマ! ……ああ、やはり荷造りしていたんだな」


 ベッドの上に放り出された口の開いたままの鞄を見て、ラグナは顔を顰める。


「あら、ラグナ。ちょうどいい……んっ」


 何やら悲しんでいるがちょうどいいタイミングでの登場だったので、カジュアルに駆け落ちに誘おうとしたところ、彼に抱きしめられて情熱的なキスをされた。


「んん……ちょっ、ぁ……」


 こんなことしている場合じゃないのに、と思うけれど大好きなラグナからのキスなのでつい受け入れてしまう。頭がぼぅ、としてきた頃にようやく唇が離れ、こちらも頬を紅潮させたラグナに見つめられる。

 彼はふふ、と僅かに笑った。笑顔、キュートだな。


「なに……?」

「私のエマは、本当に可愛くて綺麗だと思って」

「あら奇遇ね。私も、私のラグナは相変わらずカッコよくて可愛いなって思ってたところよ」

「本当に? 君はまだ、私を愛してくれているだろうか」


 鋭く整ったラグナの瞳が、潤んでいる。


「あんたが私を嫌いになっても、私はあんたのことがずっと好きだけど?」

「……なのに、私を『運命の番』に渡して、捨てようとしている」

「好きだからこそ、身を引こうと思ってたのよ。でももう止めたわ」


 今度はラグナの瞳が丸くなった。

 外ヅラは無表情なことが多いのに、私の前ではすぐに瞳が感情を表してしまうところ、本当に可愛くていとおしい。泣くなよ、ちゃんと連れてってあげるから。

 私の言いたいことが分かったらしく、ラグナの顔に笑みが広がっていく。


「それはよかった。エマのいるところが、私の居場所だ。ダメだと言われても無理矢理ついて行こうと思って、ここに来たんだ」

「時々ぶっ飛んだ思考するところ、大好きよ」

「エマはいつもぶっ飛んでいる」

「あー褒められてる褒められてる」


 ラグナは黙って笑顔を深めただけなので、褒めてはいないらしい。私のことが大好きな割に嘘がつけないのだ。そういうところも可愛いくて、愛してる。

 よくこんな可愛い子を置いていこうとしたわね、私。やっぱり半年のイジメ生活が、悪影響を及ぼしてるわ。許すまじ。


「そうと決まれば、すぐに出発しよう。私が執務室から姿を消したことが知られてしまえば、国を出るのを妨害される」

「まあまあ、慌てないで」


 ぽん、とラグナの肩を叩くと、彼の凛々しい瞳が不思議そうに瞬く。困惑に眉尻が下がった。


「私、負けっぱなしは性に合わないのよね」

「……何をするつもりなんだ?」

「私のこと愛してる?」

「当然だ。エマのいるところが、私の生きる場所。エマが望むなら、死であろうと喜んで賜ろう」

「いや、それは重いな……」

「人の決意を一蹴するとは、ひどい恋人だ」


 穏やかな表情に戻ったラグナは、私の髪を撫でてこちらの顔を覗き込んでくる。きゅるんとした瞳が『何をするの?』と聞いている。

 私のダーリンってば、私にぞっこんで、なんでも聞いてくれて、激重感情抱いていて、最高の男だわ。


「死なんて与えてあげない、生きて一緒に幸せになるのよ」

「それが最良だな」

「じゃあまず、『運命の番』なんて恐るるに足らずってことを証明して。ジジイどもの思惑全部、蹴散らしてから出て行くわよ」


 そう告げると、ラグナは幸福そうに溜息をついてもう一度私を抱き寄せた。


「共にいてくれるのなら、なんにでも付き合おう」

「そうこなくっちゃ」

「……だから、愛していると言ってくれ」

「まぁ。私の赤ちゃんドラゴンは、甘えん坊ね」


 そっと彼の耳元に唇を寄せて、他の誰にも聞き取れないように甘く囁く。すると自分で望んだくせに、可愛い若様は顔を赤くしてはにかんだ。



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